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第十二章:風の沈黙、鼓動の喪失

風が、完全に沈黙した。 この第十二巻では、風見塾が“走ることの喪失”という危機に直面します。風は語らず、走者たちは意味を見失い、塾は静かに止まります。 それでも、誰かが走らなければならない。風が戻るその日まで。 そして今回も、少しだけ笑える場面を添えて。風に「いる?」と話しかけて「……」と返される少女、それでも「じゃあ、走るね」と言える強さ――人間って、やっぱりすごい。 風の沈黙に耐える走り――その静けさを、どうぞ感じてください。

風が、完全に沈黙した。 それは、走る者の鼓動さえも奪うほどの静けさだった。風見塾は活動を停止していた。K-ZERO ECHOは完成していたが、風は応えなかった。音羽は耳を塞ぎ、蒼士は匂いを感じなくなり、遥人は記憶の断片を見失った。結翔でさえ、風の声を聞けなくなっていた。


「風が、いない。」


翔太は技術的な異常を疑った。だが、すべてのセンサーは正常だった。風は物理的には吹いていた。だが、感情がなかった。まるで、風が“存在を拒んだ”ような状態だった。


悠人は静かに言った。「風は、誰かの鼓動を映す鏡。誰も走っていないなら、風も消える。」


走者たちは走ることをやめていた。理由がわからない。風が語らない。走っても、何も返ってこない。レースは中止され、塾は沈黙に包まれた。誰もが、風の不在に戸惑っていた。


そんな中、一人の少女が塾を訪れる。名はあかり。13歳。走ったことはない。だが、彼女は“風の沈黙”を感じ取ることができた。


「風は、泣いてる。誰にも気づいてもらえなくて、黙ってる。」


灯は、走ることを望んだ。誰も走らないなら、自分が走ると。翔太は、風に向かって“語りかける”ためのマシン「K-ZERO SILENT」を設計した。風が語らなくても、走者の鼓動を記録し、風に“届ける”マシン。それは、風に向かって手紙を書くような走りだった。


灯は走った。第一コーナー、風は無音。第二コーナー、風は無感情。だが、第三コーナーで――灯の鼓動が、風に届いた。


「風が……震えた。」


結翔は涙を流した。「君は、まだここにいたんだね。」


灯の走りは速くはなかった。だが、風はわずかに“返事”をした。それは、風が“存在を思い出した”瞬間だった。


悠人は灯に言った。「お前の走りが、風を呼び戻した。それだけで、十分だ。」


風見塾は再び動き始めた。翔太は「K-ZERO RETURN」の設計に着手。美月は“沈黙峠”の走行理論を構築し、リナは風の喪失と再生を環境教育に組み込むプロジェクトを始めた。


だが、風はまだ完全には戻っていなかった。灯の走りは“きっかけ”に過ぎなかった。風は、まだ迷っていた。語るべきか、黙るべきか。走者たちは、風の沈黙に耐えながら、走ることを続けた。


「風がいなくても、走る。それが、風への祈りだ。」


灯はその後も走り続けた。毎朝、誰もいないサーキットに立ち、風に語りかけるように走った。彼女の走りは、まるで風に「ここにいるよ」と伝える手紙のようだった。やがて、蒼士が再び匂いを感じ始め、音羽が微かな旋律を聞き取るようになった。


「風が、少しずつ戻ってきてる。」


遥人は、過去の風の記憶を再構築し始めた。灯の走りが、風の“記憶の断片”を刺激しているのだ。翔太はK-ZERO RETURNに“記憶共鳴モード”を追加し、走者の鼓動と風の履歴を同期させる実験を始めた。


そしてある日、灯が走るサーキットに、風が吹いた。それは、誰かの記憶を乗せた風だった。音羽は泣きながら言った。


「この風、悠人さんが初めて走ったときの音がする。」


風は、完全な沈黙から、わずかな囁きへと変わり始めていた。


悠人は、灯の走りを見守りながら言った。


「風は、誰かが走ることで、思い出す。だから、走ることは、風に語りかけることなんだ。」


赤いスポーツカーは、今も走っている。風が沈黙していても、鼓動は響く。走ることは、風の喪失に耐えること。そして、再び語りかけること。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。 この巻では、風の“喪失”というテーマに挑みました。風は、誰かの鼓動を映す鏡。誰も走らなければ、風は消える。 書きながら何度も思いました。風って、誰かに気づいてほしいだけなのかもしれない。だから、走ることは、風に「ここにいるよ」と伝えることなのかもしれません。 灯の走りは、風にとっての“再会の手紙”だったのかもしれません。 もしあなたの心にも、少しでも風が吹いたなら、それがこの物語のゴールです。 次巻では、風が再び語り始めます――“再生”の章が始まります。風は、まだ止まりません。

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