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第1話 フレンドリーな神

「ああ、退屈だ」


 僕、星見瑠璃はニートで引きこもりである。今見ているアニメも、もう何周したか分からない。さすがに飽きてきた。何か面白いものを探さなければ。床に転がっていたスマホを拾い上げて検索する。


「う〜ん。久しぶりにゲームでもやってみるか」


 できれば、ソシャゲは避けたい。課金できるほどの余裕もないし、ガチャを引くことを我慢できる忍耐力もないからだ。時間が溶けるような安い買い切りゲーム、ないかな。


「お、これは……!」


 新作のファンタジーMMO。課金要素も見た目アイテムだけのようだ。レビューも好評だ。好みにもあっている。


「でもなぁ〜。MMOか。チャットするの苦手なんだよなぁ〜」

「これぞ剣と魔法の異世界って感じで良さそうなんだけどな〜」

「いっそのこと、異世界転生みたいなこと起きないかな」


 まあ、現実では起きるはずがない。物は試しだ。ここは素直にダウンロードしてみようか。重たい腰を上げ、デスクトップに向かう。pcの電源を入れて公式サイトからダウンロードを――


 足りない。容量が。


 忘れていた。よう分からん無料ゲームでストレージが圧迫されている。削除するのも億劫なので、また今度にしよう。


 もう他にすることもないから、テレビを消して敷きっぱなしの布団に潜った。あ〜、また大富豪になった夢でも見たいな。いや、この前は起きた後に、すごく虚しくなったからやめだ。夢なんて見ないでぐっすり眠れたらそれでいい。薄暗い部屋の中で、瞼を閉じ眠りにつく。



 

「……おい。おーい! 起きて! 起きてって! いつまで寝てるんだよ!」


 誰かが僕に話しかけてくる。声から察するに男だろうか。起こしてもらうなら可愛い女の子がいいな。そろそろ何か言ったほうがいいだろうか?

 

「あと、あと5分だけ……」

「も〜。それが許されるのは美少女だけなんだよ」


 お? 意外と話が合いそうだ。仕方ない。一旦起きよう。

 

「分かったって……って! お前誰? ってここどこ? 家で寝てたはずだよね?」

「やっと起きたか。安心して欲しい。怪しいものではない」

「いや、それは絶対に怪しい奴のセリフ! というか質問に答えてよ」


 なんで気づかなかったんだ。一人暮らしなんだから、誰かに起こされるはずもないのに。一面真っ白なこの部屋はなんなんだ? 誘拐されたのか?


「ここは、えーっと…… 世界の狭間的なところかな? それでボクは上位存在α。」


 何言ってんだ、こいつ? 一応話は通じそうだから聞いてみる。


「上位存在αってどう言うこと? 神的な存在?」

「そう! それそれ! ボクのことは神みたいなもんだと思っていいよ」


 自称神の怪しい男なんて信じられるだろうか。僕はとてもじゃないけど信じられないね。


「君さ、さっき異世界に転生したいって願ったでしょ? ボクはそれを叶えられるよ」


 ああ、やっと分かったぞ。これは悪い夢だ。悪夢。悪夢。さっさと覚めてくれ。あれ、でも夢を見ているときに、それが夢だと分かったことなんてあったか?


「ちょ、ちゃんと聞いてる? 夢じゃないって。あ、まあ、厳密に言うと現実じゃないというか…… 意識だけ存在する空間というか…… まっ、細かい事は気にしないでくれ」


 どうやらそう単純でもないらしい。とりあえず、こいつを信じるとして話を進めよう。


「で、お前は僕に何の用なんだ? 『頑張ってたから祝福を授けましょう』的なことをしてくれるのか?」

「やっぱり聞いてなかったじゃん! もう一回言うよ。ボクは君を剣と魔法の異世界に転生させてあげられるよって話。君さっき願ってたでしょ?」


 ……悪くない話である。転生すれば人生をやり直せる。今の生活に満足していると言うと嘘になる。大きなチャンスだ。ネットやラノベが楽しめなくなるのは大きな難点だが、それ以外の未練は殆ど無い。だがそれは全て、こいつの言ってることが正しいと仮定した場合だ。普通なら信じるほうが馬鹿らしいが、なぜか信頼できると感じてしまう。なんかフレンドリーだし。


「あ、嫌だったら断ってもいいよ。後戻りはできないし。君の望み通りにするからさ」


 強制する気もないようだ。思えば、チャンスを棒に振りまくった人生だった。また後悔を増やすよりも、ここで思い切った行動をした方がいいだろうか? これを逃せばもうこんなチャンスには巡り会えないだろう。


「一つ、聞いてもいいか?」

「もちろん!」

「なんでお前は俺を転生させてくれるんだ?」

「ふふ、それはね、楽しいから! 君だって退屈なのは嫌だろ? それはボクも同じ。だからお互いにwin-winってわけ。」


 ここは一つ、賭けに出るか――


「僕を異世界に転生させて欲しい」

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