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「お〜ほっほ!貴方達!やっておしまいなさ〜い!」ザコ悪役令嬢のおもしろお嬢様はお供に見捨てられたが何故かヒロインの激重執着キャラに付きまとわれています。【連載版始めました】

作者: スズイチ



「あなたたち、やっておしまいなさーい!」

「「はい、アルメリア様!」」


 ――アルメリア・スピネル。常にお供の二人を連れて、主人公ヒロインに勝負を挑んでは負けて捨て台詞を吐いて去って行く、人気乙女ゲームに登場する三流おもしろ悪役令嬢。

 私は、そんな三流おもしろ悪役令嬢に転生した元社畜会社員だ。 


 ちなみに今日は、主人公ヒロインに料理対決を申し込んで秒で負けた。

 これまでも、早食い対決、水泳対決、虫取り対決、なぞなぞ対決など小学生でもやらないような対決を申し込んでは、叩きのめされている。 

 

「これで勝ったと思わないことね!」

「「思わないことだ!」」


 この謎の対決だが、ゲームの中ではこれで主人公ヒロインのステータスが上がっていたので決して無駄なことではない。

 

 最初の頃は主人公ヒロインではなく、悪役令嬢に転生したことに落ち込んだりもしたが、今となっては、こういう役回りなのだと悪役ムーブをそれなりに楽しんでいた。


 ――いたの、だが……。 


「……ふぅ。今日もいい勝負でしたわね! 明日は何の勝負を挑みましょうか? お二人とも、何か案は……」

「――いや。もうやめませんか、こんなこと」

「……え?」


 思いも寄らない返事に、瞬きを忘れる。


「いい歳して、恥ずかしくないんですか? 俺たちもう十七歳ですよ」

「あと今日もいい勝負だったって言いますけど、毎回ボロ負けですからね」

「アルメリア様も、いい加減ご自分のヤバさに気付いた方がいいですよ」

 

「え? え?」

 

「じゃあ、俺たちもう行くんで」

「今まで、お疲れ様でした」

「えっ、ま、待って! アレン君、オリバー君!?」


 なんで急に!?

 今まで仲良く三流悪役をやっていたじゃない!

 そこで、ふと思いつく。


「……もしかして、主人公セレステちゃんのパラメータがマックスになっちゃった?」


 ゲーム内でも各パラメーターがマックス状態になると、私たちはお役御免やくごめんとなる。


「……そっか、私はもう用なしなんだ……」

  

 この現実世界におけるセレステちゃんの能力値は、これ以上は上がらないということなのだろう。

 それによって、私はあっさりとお供の二人に見捨てられて、おもしろ三人組は解散。


 もともとゲーム内でも、あの二人は主人公ヒロインに惹かれていて、いつも見た目や性格を褒めていた。

 確かに、セレステちゃんは可愛い。おもしろキャラでもないし、常にニコニコしていて心優しい健気な美少女。でも、少し負けん気の強い努力家さん。みんなに愛されるために生まれてきたような子だ。


 それに比べて、私は……。

 見た目は悪役令嬢らしく美人かもしれないが、きつめの顔つきだし、口元のホクロも好きな要素だったのに、自分に付いていると悪役要素な気がしてきた……。


「……今更、こんなことを考えても仕方ないですよね……帰りましょう……」

 

 私は虚しさを抱えながら、一人で帰宅した。


 ◇


 翌日から、お供の二人は私ではなくセレステちゃんの側に居るようになったし、私も彼女を見かけても絡みに行くことはなくなった。


「アルメリアさん、最近ずっとお一人ですわね。どうなさったのかしら?」

「なんでも、いつも側にいたお二人に見限られたそうですわよ」

「まあ……それで近頃あのお二人は、アルメリアさんではなくセレステさんのお側にいらっしゃるのね」

「いつもセレステさんに負けてばかりでしたし、嫌になられたのでは?」

「意味の分からない勝負ばかり挑んでいらっしゃったものね」

「いい加減、飽きられもしますわよね」

「「クスクス」」


 もしかしたら、本人たちは私に聞こえないように喋っているのかもしれないが……残念ながら丸聞こえですよ、お嬢さん方。

 

 教室に一人で居ると、嫌でもこんな言葉が聞こえてくる。私は溜め息を吐くと、人気の少ない中庭の隅っこで昼食を食べることにした。


 ベンチに座って、サンドイッチを頬張りながら空をぼんやりと眺める。


「一年半近く一緒にいたのに、呆気ないものですねぇ……」

 

 元より私は、世間の有能で優秀な悪役令嬢ではなく三流悪役キャラでしかない。

 そのお陰で、よくある断罪や追放なんて恐ろしい展開など一切なかったし、いつも勝負を挑んでは負けて悔しがって捨て台詞を吐くだけの雑魚ざこキャラだ。

 攻略キャラたちにも、呆れられたりまれに叱られたりする程度の残念な存在でしかない。

 

 ……セレステちゃんやお供の二人にとって、悪役令嬢わたしが必要ないのなら、前世のような平凡で無害な地味キャラに戻るのがいいのかもしれない。静かに大人しく生きて行くべきなのだろう……そろそろ、ちゃんと将来のことも考えなくてはいけないし……うん、それがいい。そうしよう。


 ――そんなことを考えていた時。 


「やあ。こんにちは」


 突然、背後から声を掛けられて驚く。

 振り返ると、攻略キャラの一人であるクライス様がいた。


「(……あ……いろいろと、ヤバい人だ……)」


 琥珀色の髪をなびかせながら、爽やかな笑顔で私の隣に座ってくる。

 座ってもいいとか聞かないんだ……別に、いいけど……。

 

「ねぇ君、いつもの二人とアレはもうやらないの? あの〝やっておしまい〟ってやつ」

「……え? ええ、まあ……」

「ふーん、そうなんだ。ところで君は、あの二人のどちらかと付き合ってるのかと思ってたんだけど、違うの? もしくは三人で、そういう関係だとか」


 なにそれ。私たち、そんなふうに思われていたの? 嫌だなぁ……。

 

「あの二人とは、そういった関係ではございません。それに、もともと二人はセレステさんに惹かれていたようですし……」

「へぇ。それで彼ら、最近はセレステ嬢と一緒にいるんだ」


 急に現れて何なのだろう、この人……。

 クライス・アンバー……一見、爽やかで社交的な人気者。実際は誰よりも冷めていてドライなキャラなのだが、主人公ヒロインにはドロドロねちょねちょ執着系男子で激重感情を抱えている。

 他の攻略キャラたちは、悪役令嬢が主人公ヒロインに勝負を挑んでは、負けて逃げる様を主に呆れて見ているだけだったが、このキャラだけは悪役令嬢とお供たちの所に、わざわざ牽制しに行くようなキャラクターだった。

 

『君たちが、害のない雑魚キャラのうちは許してあげるけど……もし、セレステに何かしたら殺すよ?』

 

「……ひぇ」


 その時のスチルを思い出して、震え上がる。

 この世界の悪役令嬢としては、最も関わりたくない人物だ。


「(早く昼食を食べ終えて、この場から離れましょう……)」

 

 とはいえ、私も悪役令嬢の端くれです。所作は優雅に美しく……なんてことを、考えていた時――。


 元お供の二人とセレステちゃんが、仲良くこちらに向かって来るのが見える。

 え、な、なんで、こんな人気のない場所に!?


「この前、ここに可愛い猫ちゃんが居るのを見かけたんです。今日もいるかしら?」

「そうなんですね、楽しみです」

「僕たち、猫ちゃんが大好きなんです」


 誰、あの二人……? 私の時と態度が違いすぎる……セレステちゃんの前だからって、かわい子ぶりすぎじゃない?


 ――いや。それよりも、ぼっち飯を食べている所を彼らには見られたくない!


「あれ? あそこに居るのって、君の……」


 クライス様が何か言うよりも早く、私は後ろの木に登ろうとしたが、足を滑らせ枝にぶら下がってしまう。


「くっ……なんたる失態……!」


「――あら、アルメリアさん?」


 やばい、気付かれた!? 私は、何とか誤魔化すために懸垂を始める。


「……あの、そんな所で何を……?」

「何をって、見て分かりませんかしら? 懸垂でしてよ!」

「……そ、そこで……ですか?」

「そうですわ! ちょうどいい枝がありましたので、食後の運動をしておりますの!」

「そ、そうだったのですね。ですが、淑女がその様な場所で懸垂など……下着が見えてしまうかもしれませんよ?」


 くっ……! もの凄い正論をくらってしまった。いや、それよりもこの場を何とか切り抜けないと。

 

「ご安心くださいませ! 私のスカートは鉄壁ですので決して中が見えたりしませんのよ! というが、邪魔をしないでいただけますかしら!?」

「で、ですが……」

「もう行きましょう、セレステ嬢」

「アルメリア様は、昔からちょっと残念な人なので気に掛けるだけ無駄ですよ」

「は、はあ……」


 何たる言われよう……最悪だ……けど、お陰で三人は何処かへと行ってくれた。

 ほっと息を吐くと、下でクライス様が爆笑している姿が目に入る。


「あっはははは! 君、なにそれ……あっはは!」

「あ、貴方には関係ないでしょう!? ていうか、貴方も彼らと一緒にセレステちゃんの側に行けばいいじゃないですか! 私のことは放っておいてください!」


 私の言葉に、クライス様が不思議そうに首を傾ける。


「セレステ嬢の側に? なぜ?」

「なぜって……だって、貴方は……」


 攻略キャラの一人だから……なんてこと言えるわけがない。


「まあ、何でもいいけど。それよりも君、一人でそこから降りられるの?」

「ご心配ありがとうございます。問題ありません」


 私は、枝からゆっくりと手を離すと地面に着地する。もう少し高さがあったのなら色々と心配したが、この程度なら何てことはない。

 とはいえ、令嬢のすることではないが……そもそも令嬢は木に登ろうとしたり、枝で懸垂をしたりなどしないか。


「ふぅん。せっかく抱き留めてあげようと思ったのに、残念」


 目を三日月に細めてクライス様が笑う。……この男の真意が掴めない。

 

「……あなた、そんなキャラじゃないでしょうに」

「え?」

「何でもありませんわ。では、私はこれで失礼いたしますわね」


 食べかけの昼食を手に取ると、私は足早にこの場を去ることにした。


 ◇


 それから、妙にクライス様に絡まれる日々が続いた、ある日――。


 その日は校外学習があり、学年全員で近くの森へと来ていた。魔獣や特殊な生き物のいる薄気味悪い場所だが、特に気にすることなく、辺りを見回していた時。


「きゃあああああああ!!」


 一人の女子生徒の悲鳴が響き渡る。


「――っ、あ、アルメリアさん、そ、そ、その腕……っ、ど、どうなさ……っ」


 女子生徒は言葉の途中で気を失ってしまう。


 ――私の腕……?

 自分の腕に視線を移すと、左腕が異形化していた。


「ひっ!!」


 どろりとした赤黒い剥き出しの肉塊……そこに、ギザギザの歯のようなものが刺さっている……もしかして、これは口……なのだろうか? 指先辺りが口のような形状で、肘の辺りは鎌のような鋭い形になっていた。……グロい……グロすぎる……。


「なっなに……なんでっ!?」


 私の叫びに周囲がざわつき始める。


「きゃあああ!!」

「寄生生物だ!!」

「だ、誰か先生を! 早く!!」


 〝寄生生物〟の言葉で思い出す。これは本来、主人公ヒロインに起こるイベントだ。

 寄生された主人公ヒロインが攻略キャラに助けられる美味しいイベント……それに、見た目も妖精の羽が背中に生えるという、とても美しいものだったのに……。


 ――なのに、私は……。


「な、なんですの……アレは……口?」

「……鎌のような物も、ありますわ……おぞましい……」

「……恐い……気持ち悪い……」

「……なんて、醜いのかしら……」


 私の左腕の醜さに生徒たちが、絶句し奇異の目を向けてくる。

 先生方も、他の生徒の混乱を収めるのに精一杯のようだ。


 ――このように謎の生物に寄生されたら最後、死ぬまで寄生され続ける。腕を切り落とすか、綺麗に剥がしきらない限り無理だ。

 私は何とか剥がそうと試みるが、どうにもならない。

 思わず周囲を見渡すと、元お供の二人と目が合うが、すぐに逸らされてしまう。


「(……そうだよね……助けてくれるわけがないよね……)」


 もし私が、セレステちゃんだったら助けもらえたのだろうか……そんなことを考えそうになって、大きく頭を振る。

 すると、クライス様と視線がかち合う。彼は私を見ると、にんまりと楽しそうに笑うだけだった。


「(――ああ、こんなものか)」


 当然だ。私は主人公ヒロインじゃない……悪役令嬢だ。それも三流の雑魚だ。私には助けてくれるような人は誰一人いないんだ。

 

 ――もういい。

 

 誰も助けてくれない……自分でも、どうすることもできない……それならば、いっそ……いっそ……

 

「どうにもならないのでしたら、このまま生きて行ってやりますわ!!」

 

 私は声高に叫ぶ。


「寄生生物も慣れれば可愛いものですわよ! いっそ、名前でも付けます? 左手なのでヒダリーなんてどうかしら、お気に召しまして!?」


 返事なんてあるわけないのに、私は左腕に問いかける。


「指先の形状は口っぽいので、こちらからも食事を摂ることが出来れば何かと便利ですし、肘には鎌もあって防犯にもなりますわね! お手紙も楽に切れてしまいますわ! おーほほほほ!!」


 こうなったら、三流悪役令嬢キャラとして面白おかしく生きてやる。

 とはいえ、腐っても悪役令嬢。どんなに無様でも美しくあれですわ!


「……ふっ、はは……あははっ!」


 突然、笑い声が聞こえたのでそちらに視線を向けるとクライス様だった。

 

「――クライス……君、なんて顔をしているんだい」


 彼の隣にいた攻略キャラの一人が、呆れたようにクライス様に問いかける。 

 

「あっは、やばっ、やっぱりあの子すっごく面白い♡」


 恍惚だといわんばかりの表情を見せると、こちらに向かって来た。

 目の前でピタリと止まると、私の左腕を取ってまじまじと見つめる。……気持ち悪くないのだろうか?

 学年中の生徒どころか、先生たちでさえこの腕のグロさにドン引いて近寄って来ないのに。

 

「アルメリア嬢、そのまま大人しくしててね」


 そう言うと、制服の内ポケットからナイフを取り出し寄生生物を剥がしてゆく。

 私を傷つけないように、とても丁寧な手つきだ。剥がしきると、右手でぐちゃりと寄生生物を握りつぶした。怖っ……。

 

「はい、これで終わり。大丈夫だった?」

「……え、ええ。ありがとうございます……」

「こちらこそ、楽しいものを見せてくれてありがとう」


 寄生された私を見て、楽しかったということだろうか?


「……悪趣味ですわね」

「あははっ! すっごい褒め言葉♡」


 私は呆れて溜め息を吐くと、この場を去ろうしたが腕を掴まれてしまう。


「俺、本気で君のこと気に入っちゃったみたい。――だから、これからも宜しくね?」


 首をこてんと傾けるクライス様の目が、とろりと歪むのを見て、私は頬を引き攣らせることしかできなかった。

  


 ――この先、クライス様にしつこく追いかけ回されるのは、また別のお話。




 

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