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社会問題と俺


 異世界転生。

 それはここ最近の日本の大ブームである。日常に疲れた一般の人々は異世界にこそ幸せがあると信じ、そのフィクションに夢中になったのだ。


「あ、『異世界転生』ってね、実在するの」


 はじめて面接に来た日。あれはそう、建築業界のブラックさに疲れ、もう建築じゃなければどこでもいいやと適当に運送業の面接を受けた時だ。


「でもさ、あれって欠陥システムだと思わない?」

「あーうまく行きすぎってことっすか」

「違うよ、それはまあ、そういう風に出来てるって言うかさ。上がちゃんと決めてるから」

「上?」


 その面接官は確かサトウと言った。佐藤さんのさとうじゃなくて、砂糖とかのイントネーションのなんか変な人だった。


「ほら、ああいうのってだいたい車に轢かれて物語がスタートするでしょ。電車とか、だいたいトラック」

「はあ」

「どうもねえ、昔はランダムにやってたんだけどそれで病んじゃう人多かったの。病んだ人をまたつじつま合わせに転生させたら、その人を轢いたトラック運転手も病んじゃってその地域だけ人が減りすぎたりねえ」


 俺はその時思った。なんか雑談してくれるし、この面接受かったんじゃねと。その時の毎日2時間睡眠の頭では冷静な判断なんて出来なかったのである。


「んで、トラックの運転手は選ぼうってことになったのよ。ほら、人って仕事って割り切ると何でもできるじゃない」

「はあ」


 そこで受けた説明はあまり覚えていない。正直眠くて何でもよかった。


「君、トラックで人を仕留めたことは?」

「あったら今頃刑務所っすね」

「出来る?」

「うーん」

「うち基本定時上がり、基本給50万+転生者1人につき10万出るけど」

「御社でぜひ採用お願いします」


 まあこんな感じで俺は「転生屋」になった。




____________________________________________



 やってきた警察官がこちらを確認すると、あからさまに笑顔になった。嬉しい。笑ってくれた。たとえおっさんでも。この仕事、人の笑顔を見ることがまずないのである。


「コケちゃんのとこかぁ。てことは『転生者』で決まり?」

「あ、はい。今、書類も回してるんで今日中にそっち行くと思います。メール送るって言ってました」

「今、ペーパーレスハンコレスの時代だからねえ」


 鑑識さんが「いつもおつかれさまです」と声をかけてくる。頭を下げると手を振ってくれた。あの鑑識さんかわいいんだよなあ。癒し。


「私は納得できません!」


 キンキンとした声がして、俺はげんなりとその声の方を見た。


「例えそれが『転生』するとしても、ご遺族の方の悲しみはどうなるんですか! この行き場のない怒りは誰にぶつければいいんですか!」


 長い黒髪。それを高い位置に一つにまとめたきっつい美人。彼女の名は永作巡査。うら若き警察官である。


「そんなこと言ってもさ、こうやってコケちゃんみたいに頑張ってくれる人がいるから、社会はうまく回ってるのよ」

「そんなはずありません!」


 ちなみにコケちゃんとは俺、水苔のことである。この仕事をしていると後処理をする警察官と必然的に仲良くなるので何もおかしいことじゃない。


「だいたいその転生? って理不尽過ぎませんか? ある日人生が取り上げられるようなものです」

「あのねえ、前も言ったけど永作ちゃんね」


 なじみの刑事さんが諭すような声を出すが、彼女のボルテージは上がる一方だ。


「永作巡査と呼んでください。職場でそのような呼び方をされるのは不愉快です」

「転生ってね、我々では決められないの。上が決めてることだからさ」

「だからその上ってなんなんですか!」

「それはその、神様とか?」

「神なんていません!」

「もーー」


 2人のやり取りを横目に、携帯を確認する。丁度、サトウから連絡が来ていた。


「次のターゲットはハセガワカナ31歳。調理師。料理系無双か?」


 おしゃべりをする2人を置いて、俺は歩いていく。トラックは廃車になったから、電車で帰らないとな。そんなことを思いながら。


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