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第5話 吹き荒れる嵐

 (ひま)()ロウ、26歳、173cm――元通りとなった数字を眺めつつ、俺はまた何もできぬまま自動ログアウトする。


(もっと安全な使い方は…………ダメだ! 思いつかん!)


 折しも今日は悪天候。俺は午前中から部屋に()もりきりでアプリの活用法を探していた。


 視力を良くするとか、知能指数を上げるとか思い付きはするが、問題は予測不可能な副作用である。


(何かいじると、また別のところに影響出そうなんだよな……)


 身長を伸ばそうと体中がバラバラになりかけてからまだ数日。ひどい前例を味わった分、どうしたって尻込みする。


 それでも、被害が自分一人にとどまるならまだマシだ。


 初手、有給300日を手にした時点で、俺は会社を巻き込んでしまっている。この上、仮に預金額などに手を付けたとして、影響がどの程度の規模になるかは予想もつかない。


(こいつは……神アプリどころか、悪魔のアプリなのかもしれない)


 (よる)(ふか)し。俺の不安を(あお)るかのように、窓の外では強風が激しく吹き荒れていた。



  *



 一夜明け、天気は嘘のように回復していた。


(引き()もってると気が滅入るしな……ちょっくら散歩でもして来るか)


 世間は週末。昼間出歩いても不審がられることはないだろう。

 気の向くまま、足の向くまま、いつも通勤に使っていた線路沿いに差し掛かった時だ。


(あれは……誰だっけ?)


 見憶えのある女性が、おぼつかない足取りでこちらへ駆け寄って来る。確か、道のすぐ先には公園が――


(……思い出した! 俺をニート呼ばわりした子の母親だ!)


 女性は俺の前まで来ると、取り乱した様子で何事かを口走る。


「レイ君、レイ君が! 秘密基地、つ、潰れて……あの、木、木!」

「木? 木なら公園に…………まさか!?」


 俺の脳裏をよぎったのは、昨日の強風だった。




 女性とともに駆け付けると、公園の片隅で倒木が小屋を押し潰そうとしていた。

 中からは男の子が身を低くしてこちらを(うかが)っている。


「レイ君! もうちょっと、もうちょっと待っててね!」

「うん……だいじょぶ」


 気丈に返事をするも、男の子の声は心細げだ。出入り口を塞ぐ木の枝はそれ自体が支えになっていて、()(かつ)に触れられない。


(これは……下手に動かすとかえって大惨事になるぞ)


 消防には連絡済みらしい。到着を待つのが最善だと、俺は母親に言い聞かせる。


 とはいえ、いつまで()つかは分からない。人手さえあれば無理にでも倒木を持ち上げたいところだが――


「ああ……っ!」


 みしみしと音を立て、地面に接した枝が折れかかる。かろうじて小屋の形を保っていたベニヤ板が、ついに悲鳴を上げた。


(クソッ! 誰かいないのか……!?)


 周りを見渡すも、犬を散歩中の老婦人、ジョギング中の中年女性、近所の野良猫が一匹だけ。


(俺だけじゃとても無理……――!)


 その時、俺のポケットの中でスマホが振動した。

 俺は今になって思い出す。スマホを特定の時刻にアラーム設定してあったことを。

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