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第9話 変化

 何なんだほんと。動き出し開始15分で、氷の攻撃に捕まった。

「ッ、いってえ」

 一瞬で反応して前に腕出したけど、腕の皮膚が痛い。

 ゆっくりと顔を上げる。

 その紫に光る氷を出した張本人が、カフェの席に座っている。子ども?小学1年生くらいにしか見えないけど。

 とにかくあれがっ。魔王幹部!

「何よ、あっさり受けたわね。あれ本当に、っ!」

 氷で剣を防ぐ子ども。同時に、風で席が吹っ飛ばされる。もちろんその攻撃の主は、不意を打たれて気が立ったアイラ。

「あなたでしたか、レン」

「運が悪い、とか思ってないわよね、アイラ。結構待ったのよ」

「街中で大胆に。あなたがこういうことするとは」

「魔王が相手だもの、周りに気遣ってられないわよ。でも、あれほんとに魔王?復活するのに力全部使っちゃった系、」

 で、振り向いたら、魔王はその氷から抜け出していた、と。

 タイミング完璧で、発動もできた。『空識眼』を使って、ガキの背後を取る。空間の転移なら、捕まっていようが関係ない。

 そして。

 ―――――――――ルナ=モード・ラージソード。

 こちらもまた成功!ただ重いだけのサイコロが、金色の大剣に変形する。

 危険な状況こそ、力は開花する、か。初めての成功が本番になるなんて、ありきたりな話だ。

 だがこれで戦える。

 完全に不意をついた攻撃。子どもだからって遠慮できない。思いっきりだ、本気で刺しに、

「遅いわね」

「は、」

 自由落下の速度くらいじゃ全然足りないらしい、普通に認識され、普通に避けられてしまう。速すぎ。

「死になさい」

 そして飛んでくる氷の槍。速っ、避けられ、

「させない」

 しかしアイラが中に割って防いでくれる。

 だがそれを、僕が見ることはなく。

 ・・・・・・・・・そこから先の顛末は、僕には認識できないことだった。




 ※




(進展がない?空間転移を3日で修得するなんて。しかもルナだって使えてる)

 3日で何かが変わるなんて、アイラは元々期待なんてしていなかった。というか、普通はその程度じゃ成長なんてしない。

 大してちゃんと教えてもいないのに、ノアはどんどん魔力の核心に近づいていく。もしかして彼は、相当才能があるのでは。

 だがノアは・・・・・・・・・地に蹲っている。

「何してんの、そいつ」

「・・・・・・・・・」

(魔力の受容限界。空間転移を無理やり発動すれば、一度に使用できる魔力の限界量を優に超える)

 しばらく動けないし、意識も朦朧、もうすぐ落ちるだろう。しかしそれは、現状で見れば悪くない。

 光る金色の足まで伸びる長い髪に、小柄過ぎる身体。魔力光で光らせる黄色い瞳。周囲から浮くあの容姿と、結晶の魔術。

 ---------魔王幹部11位、レン。彼女は最下位であり、『最弱の英霊』という二つ名を持ちながら、魔王幹部に、ノアに選ばれた驚異の子。子どもの容姿を持ち、強力な地の魔術を扱う『人間と同等の存在強度を持った()()』。

 術式であるが故に、物理攻撃の一切が効かず、存在が魔力で成り立つが故に、その偽装は常軌を逸し、唯一私が感知できない相手。

 広範囲の結晶攻撃を繰り出しながら、姿を消して虚をついてくる。やりずらい相手。

 でも、話の通じない相手じゃない。もう既に違和感に気づいてるし、ノアはレンが攻撃を当てずとも、勝手に倒れた。

 ノアの攻撃に魔王ほどの覇気はなく、命中はせず、またそれを意図的に外す意味もない。魔力の乱れを見ても、これが策略でないのは明らか。

 だからこそ、面倒事を避けられる。

「・・・・・・・・・どうやら、訳ありみたいね」

「ええ。とりあえず落ち着いて話しませんか?」

「分かったわ、移動しましょ」

 レンが結晶を手の甲で叩いて鳴らし、一瞬で消滅させる。全く攻撃の痕跡を残さない、便利な術式だ。

 話し合いの同意も得たので、ノアを抱えて、とりあえず来た道を引き返すように、森の中へ入ることにした。




 ※




 ひとまず事の顛末を全て話し、様子を見る。

 正直、魔王幹部の中で、レンは期待出来ると思っていた。彼女は魔王に対して恨みはない。

 それに、常に中立、勢力に属さないスタンスで生きている。趣味は術式制作と食、それと魔石で付け入る隙がほとんどなく、売られる可能性も低い。仲間にするなら、彼女が最も安心できる。

 付け入る隙がない、ということはこちらの交渉材料もないということだが。

 少し考えこんで、しばらくし。レンが口を開く。

「異なことになってるわね」

「ですね。協力してくださいますか?」

「待って。その話はそいつが起きてからよ」

 修復の術式をレンが起動、数秒でノアが目覚める。幹部の中でこの術式が一番上手いのもレンだ。

 だが恐らく、ノアの痛みは引いていない。

 受容魔力量超過の負傷なんて、理論上はあったものの、本来普通はありえないこと。魂の成長による受容魔力量上昇と、肉体の成長による貯蔵魔力量上昇が双方呼応して同時に伸びていくから。そこに差異なんて普通ない。

 そのイレギュラーな負傷は、何が起こるか分からない。恐らく魂のすり減りで、通常の術式では治せない。

 でも彼は。思った以上にけろっとした感じで、上体を起こす。

「あれ?ここは・・・・・・・・・・治ってる?」

 腕の怪我が治ってることを確認するノア。でも、分かる。

 右目への力の入りよう、それと魔力の流れ。今ノアは、右目が焼けるように痛いはずだ。

 私に気づかれないように、心配させないように隠して。すぐにそういう機転を利かせられるところ。凄いと思うし、私は好きだ。

 私にはそういうこと、してほしくないとは思うけど。

「起きたわね、ノア」

「・・・・・・・・・もう、全部説明してるんだ」

 状況から、話の段階を察するノア。そして、彼女の立ち位置まで。

「僕の傷を治したのも君だね。でも、まだ仲間ではないって雰囲気」

「察しがいいわね。じゃあ早速」

 その一言で、術式を発動させるレン。自身の手と周囲の空間に結晶のかけらを発生させ、それはレンの戦闘のスタイル。

「魔王幹部11位がレン、ここに。ノアに決闘を申し込むわ」

「っ、レンそれは、」

 私を腕で止めるノア。どうして止める?

 レンには全部話した。ノアが戦えないことも知っているはず。それでもなお、戦いにもならない戦いを挑むなんて、予想してなかった。

 私の制止を、ノアが止めることも。

 正直、ノアに勝ち目なんてない。レンが子どもだから油断してるってこともないはずなのに、決闘を承諾してしまうなんて。なんでノアは。

賭け金(ベット)は?」

「そちらは私を仲間に。隷属でもいいわ。こちらは何も。死者には何も望まない」

 やはり、殺すための決闘。どうしてレンはそんなことをするのか、レンもノアも意図が読めない。

 でも確かなこと。絶対に止めないと、

「ッ!」

 動こうとして、また止められる。振り向いて、琥珀の瞳で何かを求めて。

 ノアの瞳。吸い込まれるようなその瞳に、強い意志を感じる。その意志は、考えずとも分かる。

(戦えるように、してほしい)

 ・・・・・・・・・・・。

 止めなきゃいけない。でも、止められない。

 なら、私は。不安でも、それに応えるしかない。

「条件を。レン」

「なに」

「あなたの『同調(チューニング)』で、ノアに増強の最大出力を学習させてください」

 レンの存在が術式であるが故に出来る芸当。レンがノアの肉体に入り、増強の最大出力を使わせ、感覚を覚えさせる。それが出来れば、戦いにはなるはず。

 しかし問題は、レンにメリットがないとこ。

「は?私がそれをする必要が、」

「分かってる。レンにとっちゃ、リスクが上がるだけ。だから足し引き」

「何を引くのよ」

「リスク。レンが負けたとき、仲間でも隷属でもなく、僕との協力関係を()()してもらう」

 それを聞いたとき、この男の底が知れないと思った。

「・・・・・・・・・何言ってるのか、分かってる?」

「もち」

 彼に契約のことは話していない。にもかかわらずその存在を予想し、ここで怖じけることなくそれを利用するなんて。

 決闘には通常契約を用いる。『契約呪操』。決闘で勝敗が着いても、その決まり事に縛りがなくては意味がない。そのために用いる呪術で、それが契約。

 知る由もないこと。ノア、彼は想像以上に・・・・・・・・・・・。

 これを課さないということは、決闘の勝利自体が無意味になる。だが、レン相手にはかなり有効。曲がったことは嫌いだから。

「で、どうする?怖気ついたか?」

「は、ないわよそんなの。望み通り、殺してあげる」

 予想通り、レンは乗った。相手の思惑を察せないレンじゃないけど、それを差し引いてもノアに勝ち目はないと判断した。

 私もそう思う。ノアの性能じゃ、勝ち目はない。

 でも。

 ・・・・・・・・・何かを期待する自分がいる。

 私は手出しをしない。いや、いよいよ危なくなったら出すかもしれないけど、戦いに手出しはしない。

 私は傍観者として、この顛末を見届けると決めた。

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