第5話 魔王幹部
・・・・・・・・・別に、ヒントがなく言ったわけじゃない。
人生が人質---------平穏に過ごせない自身の現実を知っているから。
なら、僕に力がない事も知っていたはず。
好きにしろ---------力のない僕に?
したいことがあっても、出来ることはなかったはずだ。
アイラを頼れ---------殺しに来た。
殺されるほどの恨みを持たれていると知っていたのに?即ゲームオーバーの可能性。それに、来たのがアイラでなければ選択肢すらなかっただろう。
世界を救う---------僕がどうやって?
魔王が100レべなら、僕は1以下だ。自分でやった方が遥かに良いはずのことを、しかも死んでいないらしいのに僕に託す?
死んだふりまでして、やり残したことを僕に託した。アイラの話を聞いた感じじゃ、拘束から逃げるくらい僕なしでもどうにかできただろうに。不自然だ。
そもそも、御し切れていない魔王幹部を作った意図は?目的があったとしても、全員から命を狙われている?不自然だし、立ち回りが悪すぎる。
で、アイラは言った。殺したいほど嫌いなはずの魔王なのに、信用している、と。意味が分からないけど、分かることが1つ。
・・・・・・・・・その点のみ、僕に有利な状況だ。
「どうして、そんな決断を?」
「・・・・・・・・・僕に今、力がないことは?」
「知っています。魔力量は肉体に依存しますが、魔術の才は意識、すなわち魂によるもの。あなたが異世界人で、来た直後というのなら、まともに魔力を出せもしないはずです」
・・・・・・・・・まじか。
さらっと言われたその事実、僕には重い。
魔王との差は、レベルでは測れないほどに遠かったらしい。魔王の身体があっても才能が伴わなければ意味がない。
結局ここでも運頼りとは。情けない。
だが、現状で生き残るには、他人を頼るしかないということでもある。
「なら、僕だけじゃ何も成せない。2位である君の実力頼りだし、君が僕に従う道理もない。それでも聞く?」
「はい。あなたが戦えないうえで、その結論を出した理由が聞きたいです」
「・・・・・・・・・それは多分、それ以外にしようがないからだ」
「と、言うと?」
「魔王幹部、そして人間達に狙われる僕の立場で、出来ることは限られる。しかも自分じゃ自衛すら出来ない状況。なら、狙われて戦うくらいなら、ついでに仲間にしたほうがいいと思っただけ」
そもそも、情報が少ない今、何をするにも選択肢なんて対してない。逃げるか追うか、その程度の違いしかない。結局ほぼ、受けることになるっぽいし。
「倒す以上に面倒な、懐柔することを選んだ理由は?」
「して聞くが、魔王幹部が全員集まったことは過去にあった?」
「いえ、過去最大で4人。私らに定型的な仕事はなく、招集時に戦う、その程度の過剰戦力です」
やはり、魔王幹部の実力がどの程度かは知らないけど、過剰戦力だ。一見無意味かつ保険的な意味合いかもしれないが、だが。
魔王がそれは、あまりにもらしくなくのでは。
「だとするなら、魔王幹部を失うのはまずい」
「・・・・・・・・・魔王様が、このときのために作ったと。そうお思いですか?」
「分からない。けど、僕のためではなく、これから起こる何かのための適正戦力だとしたら?」
「魔王様に、未来予知能力はないはず・・・・・・・・・いや」
理解した様子のアイラ。その理解を肯定するように。
「ああ。魔王が言わなきゃ真偽は分からない」
「・・・・・・・・・」
肯定する沈黙のアイラ。
言っていることはバカみたいな、それこそ雲を掴むような話。可能性の話で、それを後押しする根拠なんて大してない。
それでもそれを言い、アイラが可能性としてそれを肯定するのは、そうであるなら、拙い現状の意味と、魔王の行動の意図が少し見えてくるからだ。
魔王単体では勝てない相手が出て来るがゆえに、魔王幹部を作り、搦手を打った、と。
恨みを作ったのは、魔王幹部に狙われ、効率よく魔王と魔王幹部の接触を成すため。
それはつまり時間があまりないことを差すが、それは置いておいて。
だとするなら。
「一人だって魔王幹部を失えば、適正量を下回る可能性がある」
「・・・・・・・・・あなたがそう思うのなら、先に2つ、言わなければならないことがあります」
「・・・・・・・・・」
空気が真剣になる。それはきっと、その難しさ故であるだろうことを、すぐに察する。
「魔王幹部は全部で11。全員、順位に関わらず私に匹敵するほどの強敵です。そして、ほぼ全員があなたの正体に関わらず、殺しにかかってくるでしょう」
「・・・・・・・・・うん」
このとき初めて『殺す』という言葉に真実がこもる。その言葉だけに気圧される僕に、さらに追い打ちをかけるアイラ。
「その意味、分かってますよね。その危険を、背負う覚悟はありますか?」
「分かってる」
正直に言えば、怖い。痛いのなんて無理だし、怖いのも苦しいのも、全部ごめんだ。
それに、僕には戦う力なんてない。完全にアイラ頼りで、とてもじゃないけど『覚悟出来てる』なんて言えるはずもない。
それでも、何かしないと行けない。動かないと、多分何も出来なくなる。
だから僕は。
「それでも、頼む」
「・・・・・・・・・分かりました」
そして、その覚悟はいずれ必要になる。
「既に各地で、魔王復活は幹部に知られています」
※
-----------とある街にて。
「おいっ!!なーに慌ただしくしてんだよ馬鹿ども!」
独房に入る男が、独りでに騒ぐ。それに応える人間はいない。
「けっ、殺してくれんじゃねえのかよ。ったく、嫌なタイミングで目覚めたもんだな王様」
死を望む屈強な肉体の男は、不満を垂らしたと思えば、次は不敵に笑って見せる。
「ま、どうせすぐに死ぬ。王様の思惑は、成させねえ」
『星使い』と呼ばれた、魔王の不利益のために死を選ぶ男---------第7位を冠す。
-----------とある山岳にて。
「おっ、ははっ♪今、目覚めたよ、魔王様っ」
「・・・・・・・・・ちっ、また生き延びたか」
嬉々として魔王の復活を伝える女と、その知らせに眉間にしわを寄せる男がいた。
「おーこわっ。さっすが、魔王嫌いのフェイさんだねぇ。順位が低いのがご不満かな?」
「・・・・・・・・・あれは世界の邪悪だ。生きていい存在などではない」
そう断ずるは、『断罪者』と呼ばれた男---------第10位を冠す。
「今私たちも、その邪悪の一派だけどねー。もしかして、自分は正義だーとか言っちゃう感じ?」
「・・・・・・・・・」
沈黙の肯定。その反応に、へらへら笑う女の笑みが消える。
「ま、私も魔王様殺すのは賛成だけどさ」
楽しみながら生きるその女---------第6位を冠す。
「・・・・・・・・・この世に正義なんてないよ」
-----------とある街にて。
異臭のする地下にて、黒服の男が動かすメスが止まる。
「・・・・・・・・・起きたか、ノア」
魔王の復活を感じ、その男に笑みが浮かぶ。
「奴を利用し、我の糧にしてやる・・・・・・・・・っ!」
その、血塗れた女---------第5位を冠す。
---------とある街にて。
「ふーん。起きたんだ、あいつ」
賑やかな街のカフェテリアで、小さな子がアフタヌーンティーを楽しみながら、遠くに思いを馳せる。
「じゃ、せっかくだし手合わせでもしようかしらね」
その無邪気な子どもは、見た目通り『最弱な英霊』と呼ばれる者---------第11位を冠す。
---------とある洞窟の最奥にて。
「魔王が目覚めた。君はどう見る?」
「どうも見ない。どうでもいい。金が絡まないものはどうでも」
この洞窟の主、自身で長年貯めた宝石の1つを片手に、退屈そうな半目で応じる。
魔王に恨みはなく、殺意もない。ただ、価値のみに執着し、収集する男---------第9位を冠す。
「いや、そういえば貸しがあったな。金の貸しが」
「君はあまり魔王へ恨みはなかったね」
「お前はどう動く」
そう投げられた問いに、もう一人の男は口を噤み、次の言葉で笑みを零す。
「魔王を封印した男は、どう動く」
赤い雷を纏う男---------第3位を冠す。
---------とある×××にて。
薄暗い室内。研究室らしき場所で、小さな子が零す。
「ノア、出てきましたね、博士」
「ええ、そうね」
作業する手を止めることなく、博士と呼ばれた女は相槌を打つ。興味無いように見えるが、その実言葉に歓喜の感情が見える。
「これから、何かが動く予感がします」
「あら、勘が良くなったじゃない、ヘビ」
ヘビと呼ばれた小さき者---------第4位を冠す。
「ええ、盛大に動くわよ、あれは。私の駒であり、ジョーカーだもの」
いまや『恐怖』と呼ばれる感情を失ったはずのヘビさえ顔を逸らさせるほどの邪悪な声で、魔王は、いや全ては自身の駒であると豪語する女---------第8位を冠す。
---------とある森、にて。
燃える。金髪の男を中心にして、森がすごい速度で燃え広がっていく。
彼は憤怒の化身。あらゆることに怒り、燃える『狂者』の炎。
そして、いち早く魔王の復活に気づいた男---------第1位を冠す。
「殺す・・・・・・・・・っ!!」
※
---------そして、魔王が目覚めた森に戻る。
「それと、もう1つ・・・・・・・・・」
「ん?」
さらに空気が深刻になったように感じる。いや、顔色も曇ってる。
さっきの真剣な空気ともまた違うような?
その深刻な様子のアイラが、重い口が開く。
「・・・・・・・・・今日一人、幹部が処刑されます」
「・・・・・・・・・えぇ」
・・・・・・・・・今日。本日。
このとき僕も、魔王を殺したくなった。




