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第23話 怒り、そして

剣を交え、火花が散る。頭に響く金属音と、結晶が成る独特な高音。魔獣の断末魔に、人間の怒号。

その混沌とした戦場に、光る正義の剣と、抗う不浄の瞳。

・・・・・・・・・誰が不浄だ、誰が。

亮の攻撃を護りに徹して防ぎ続ける。まともに喰らえば終い、反撃は不可、これはそういうゲーム。

不満はない、耐久戦だ。

まっすぐな攻撃で動きは読みやすい、けど速く鋭く。受けきれない攻撃力。

だが、左腕を治してもらって。こちらも強気で身を前に。

「亮、少しは落ち着いたらどうだ?」

「耕平の顔で喋るなッ!!」

「っ!」

いっそう力が増した剣で、後ろに押される。

瞬間的に火力を上げる。恐らくそれが亮の術式の本質。

・・・・・・・・・厄介だな。

やはり、多少の傷は覚悟してもらうしかない!

そう思い立ち、前に出た瞬間だった。

「なっ、」

ステルス!?お前は、康介!

不意打ちで、見事に剣を弾かれる。

「亮!今だ」

「ああ!」

しまった、完全に空けてしまった。体のバランスは崩れ、防御はもう間に合わない。

仕方ない、痛手覚悟しかない。位置を出来る限りずらして、致命傷を避けるしかっ、

「っ!!」

覚悟の瞬間。左から重力のような重みに押される。

一瞬反応が送れ、身体が斜めったところ、慌てて足で地面を踏む。

自分に傷はない。そこで唐突に理解する。

「那奈、なん、で」

那奈に、助けられた。

横から割って入って、僕を避けさせた。

そのことにも驚きだが、何よりも、何故間に合ったのか、だ。あのタイミングで庇うには、相当の速さを出さなければ不可能で、それは。

・・・・・・・・・アイラに迫る速度だ。

「那奈!なんでそいつを・・・・・・・・・っ!」

「ごめん、亮」

「そいつは耕平じゃ、」

「私はっ!もう誰も失わないって、決めたから」

そう言う那奈の眼には、覚悟があった。

でも、良くない。

「僕に構うな、那奈」

「耕平が、亮に攻撃するつもりがないこと、分かったから」

僕を助ければ、恐らく那奈もお尋ね者になってしまう。

僕は多分、元のようには戻れない。那奈まで、こっちに来る必要はない。

「・・・・・・・・・なんで、そこまで」

「愚問じゃない?それ。命救われたから、救ったの。借りは早めに返したい質なの、知ってるでしょ」

「ッ、僕は、そんなの・・・・・・・・・」

愚問、か。そうだな、確かに。

いつも通りじゃなかったのは僕の方だ。那奈が僕を助けるのなんて、理由があることの方が少なかった。

自分に返ってくるから助ける。力を貸す。理由なんてそんだけ。

全く、なんでこいつはこんなに変わらないんだ。

でもそれが、僕の心境を穏やかにしてくれた。

「・・・・・・・・・今のは死ぬ攻撃じゃなかったけどな」

「強がり。もう説得するしかないね、私も手伝うよ」

「それは厳しそうだけ、」

パンッ―――――――――

・・・・・・・・・・・。

そのとき、生きてきて一番、時間がスローになる瞬間が訪れた。

狙撃、いや射撃だ。発砲音からして、僕たち異世界人の、魔力攻撃。

痛みはない。当たったのは僕じゃない。十中八九僕を狙ったものだろうけど、警戒されないための距離を取って。動く標的を狙った。

狙いが逸れて、着弾したのは、近くにいた那奈だ。恐らく、この奈那の()()()。亮が崩れる可能性があったから、焦って撃った。

那奈がゆっくり傾いていく。着弾は、お腹。いやこれはどう見ても。

・・・・・・・・・致命傷。

自分の手の中に那奈が倒れた瞬間。時間が再び速さを取り戻す。

「レンッ!!」

「っ!」

咄嗟にレンの名を叫んだのは、それしかなかったから。自分の冷静さに驚かされる。

いきなり呼ばれたレンにも。一瞬で状況を把握したレンは、騎士どもに範囲拡大した結晶攻撃を浴びせ。一瞬でこちらへ。

周りの音は聞こえない。焦って味方に怒鳴る亮の声も、騎士どもの悲鳴も、魔獣の咆哮も、だ。

聞こえるのは、必要なものだけ。

「ヒールを!!早く、」

「もうやってるわよ!安心して、致命傷よ。出来立ての致命傷くらい問題ないわ」

「頼む」

パン―――――――――

二発目。

迷わず空識眼を使用、空間を斬り、弾を消す。

その後一瞬で地面を操作し即席の壁を作り、射線をも消した。

(使ったことのない魔術を一瞬で)

「レンは、治療に集中してくれ」

「待ちなさい、ノ、ア」

「・・・・・・・・・レン。僕が、やる」

レンの治療の間、僕が時間を稼ぐ。いや、僕しかいない。

騎士どもはきついけど、レンの攻撃でしばらく追撃はないと願いたい。とりあえず僕の出来ること。

亮を、抑える。

・・・・・・・・・いや。もういっそ・・・・・・・・・。

(魔王の、気配っ!なるほどね、あの圧。魔力への順応性。運命的な、魔王の資質!)

「・・・・・・・・・致命傷だ」

ゆっくり歩く。那奈をかばうように、背にしながら。

「・・・・・・・・・レンがいなければ、死んでいた」

自分で、何を言っているのか分からない。上手く把握できないし、咀嚼できない。

自分の内に秘めるは・・・・・・・・・どうしようもない、嫌悪感。

それは、自分の感情と、敵に向けられている。

「・・・・・・・・・お前ら。那奈を、人を殺したんだぞ」

静かな、感情のない声。もっと怒ってもいいだろうに、僕は声を荒げない。

ああ、そうか。

・・・・・・・・・色々、覚悟したからか。

ルナはダガーに変形し。前方の亮の眼には、恐怖が見える。

・・・・・・・・・そうか。那奈の状態と、僕に、恐怖しているのか。

「殺されても、文句言えねえよなあ!!」

―――――――――――。

・・・・・・・・・・・。

「ぁ」

目前に、地面があった。

僕は。恐怖で警戒の遅れた亮に、ダガーを投げ飛ばしたはずだ。

決して怒り狂ったわけじゃない。恐怖を与えて、戦闘の意思を削ぐための攻撃。

・・・・・・・・・怪我は、させるつもりだった。

狭まった視野で。致命傷を避けた肩を狙って投げた、はず。

・・・・・・・・・僕は、倒れたのか。

しりもちをつくように、地面に倒れて。手にダガーはなくて。

「ノア!」

顔をあげる。そこには、アイラが。

・・・・・・・・・ダガーは、アイラの肩に浅く、刺さっていた。

「あ、いら・・・・・・・・・ぼ、僕、」

「ノアの覚悟は、こんなところで折れていいものですか」

「僕は・・・・・・・・・」

別に、殺そうとしたわけじゃない。それは、そんな簡単に出来ることじゃないから。

・・・・・・・・・でも、そういうことじゃない。

僕は、僕を見失うところだった。

「決めたのなら、貫き通すのが貴方ではないのですか」

ありがとう、アイラ。

「・・・・・・・・・後は、頼む。アイラ」

「ええ、お任せを」

風が荒れる。唐突に、アイラの魔力だと理解する。

アイラは剣を鞘に納め、魔力を練り始める。周囲に渦巻き、それがどんどん範囲を広げ。

「風魔術・『暴風域(テンペスト)』」

あっという間に、何もかもを巻き荒らす竜巻が周囲を包んだ。

「はや」

「・・・・・・・・・」

集中するアイラ。なるほど、それほど難しい魔術。いや、展開の速さで少し無理をしたのか。

さらには恐るべき繊細な操作。亮たちにダメージのないよう、上手く下がらせる低出力の風。

そんでもって、侵入者を許さない強固な風の壁を生成している。

複数の風を使い分け、その出力も個々に設定して。なんて精密な魔力操作だ。

しばらくして。術式の維持を確立したアイラが、振り返る。

「レン、治療は?」

「後数秒で完了よ」

「では、終わり次第移動しま、っ!!」

「アイラ?」

「ノア、レンの方へ!早く!!」

焦ったアイラの声に、慌てて従う。レンの傍へ。

その直後。

・・・・・・・・・暴風域が、解れ(ほつれ)、崩れる。

どうにか感知できたのは、アイラの『暴風域』以上に強力な魔力攻撃で、風魔術の調和を吹き飛ばしたこと。

その攻撃を放ったものこそ、今アイラに恐怖を感じさせている存在。

・・・・・・・・・それは、僕の魂をも削っていた。

「どうにか間に合ったな、魔王ノア」

「・・・・・・・・・剣王、グランっ!」

見たことはない。ただ、聞いたことのある存在を目の前にした実感だけで、その名前を出した。

それは、終着に不足ない強敵だった。

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