第22話 友人、対仇敵
ようやっと、一息つく。
敵の内側で爆発したルナは、敵を爆散させ、核も難なく吹き飛ばしただろう。これで戦闘終了だ。
相当な怪我喰らったけど、代償は小さい。今までで一番まともな戦いだった。
「耕平。おろ、していいよ?」
「あ、ああうん」
肩に抱えていた那奈を下ろす。
そう言えばだが。那奈のこと随分と軽々持てるようになったな、僕。以前那奈を抱えたことなんてないけど。
「・・・・・・・・・ありがと、助けてくれて」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
「何、感謝なんてらしくないって?」
「い、いやだって。そこは怒るとこでしょ」
危ない場面を半ば押し付けたのだ。読みが甘くて僕の攻撃が通じなければ、那奈は死んでいた。
「それは、少し怖かったけど。でも、耕平が来てくれなかったら、とっくに終わってた」
「そう、だな。ま、お互い運がよかったってことで」
那奈がいなければ、僕の任務はもっと大変になっていた。住民の保護に、魔獣の殲滅、正直言って荷が重い。
お互い様だ。
那奈にとっても、僕があのタイミングで助けに入れたのも完全に偶然だ。別にとりわけ感謝されるようなことでもないからな。
「左腕、大丈夫?」
「ま、どうにか」
左腕の回復はレンに頼むしかない。僕のヒールじゃ、痛みを引かせるので精いっぱいだ。
いや、そんなことより。
「そういや、他のみんなはいないの?」
「え・・・・・・・・・いないよ。今は王都の真ん中の方」
「そっか。顔合わせたかったんだけどな」
久しぶりにみんなの顔見たかったし、自分の死について色々謝りたいこともあったけど、いないのなら仕方ない。
まあ、真実は那奈から伝わるだろうし・・・・・・・・・あ。
僕、魔王だと思われているの、では?
「な、那奈さ」
「耕平、なの?」
「っ!」
「神田耕平、だよね。これが耕平じゃないわけ、ないよね」
「うん、って・・・・・・・・・・っ!」
「生きてて、良かったぁ」
那奈は身を寄せ、涙を流し始める。何かが決壊したかのように、子どもみたいな声を出して。
照れる。けど、そっか。
・・・・・・・・・心配、というよりも、怖い思いさせた。
身近にいる人が死んだら、そりゃ泣くか。こんな世界で、いきなり誰かが死んじゃったら怖いよな。悲しくて、苦しくなって、普通だよな。
那奈とは距離が近かったし。
でも、自分の無事に泣いてくれるなんて、嬉しいものだ。
「ごめん、すぐに来れなくて。迷惑かけた」
「本当に、そうだよっ・・・・・・・・・悲しかった。怖かったの。信じたくなくて、何より忘れちゃいたくなる自分が、怖かったの」
「うん。ありがとう、そう思ってくれて。泣いてくれて」
頭を撫でて、なだめる。戦場でも綺麗な黒髪のハネを、直しながら泣き止むのを待つ。
そして少しして。
落ち着いた那奈が、顔を赤くしながらゆっくり離れる。
「・・・・・・・・・ごめん、取り乱して」
「うん」
「疑って、ごめん」
「うん」
「おかえり、耕平」
「・・・・・・・・・うん」
涙目の笑顔を見せる那奈に、笑顔で応じる。
懐かしい、この感じ。なんか以前に戻ったような錯覚がある。
でも・・・・・・・・・今ここは戦場だった。
「さて、じゃあ残りをどうにかするか」
「え、まだ動けるの?」
「まあ僕も変わったからな、まだ結構動ける」
「眼の色も変わってるしね」
別に視界が黄色いとかないので、自分じゃその変化は実感しにくいけど。
「那奈は?動けるよな」
「もちろん!残りの魔獣、倒しきろう!」
魔獣どもはさっきの黒い魔獣の覇気で、後ろに下がっている。見た感じ、まあまだ結構な数が生き残っている。
いや、それよりゾマとかいう奴は?
・・・・・・・・・見失った。油断しすぎたな。
まあ恐らく。奴が出した黒い魔獣は奴自身にも操作できなかったのだろう。故に必死に距離を取った。
その程度なら相手にならない。
消耗は酷いが、ルナは使える。ルナを太刀に変え、戦闘モードに入る。
さて、じゃあ任務再開、
「ッ!」
・・・・・・・・・後ろ!
本当に今日は調子がいい。魔獣の反対側、背後からの攻撃を間一髪で弾き飛ばす。
なぜ背後から・・・・・・・・・いや、そんなの1つしかない。
・・・・・・・・・敵襲、だ。
「ちっ、弾かれたか」
今の、一瞬見えたものは、矢か。剣との接触で火花を散らし、地面を抉るほどの火力。
そして遠方に見える、華美な防具を着る人間。
・・・・・・・・・王国騎士だ。
このタイミングで来るか。てっきり王都中心部にいると思ってて、魔獣の襲撃の報告を受けてからじゃ、数時間はこっちに来ないと踏んでいたが。
なのに、このタイミングでの到着だと?いくら何でも間が悪すぎる!
「っ!クソ」
屋根からの刺客、騎士が突撃してくる。
剣で対応しながら、後方へ大きく下がる。まずい、相当強い。
距離を取って、様子を窺う。そうしているうち、ゆっくり絶望が迫ってきていた。
「・・・・・・・・・こ、れは、無理だろ」
どんどん顔を見せる騎士。一対一でも怪しい騎士、それがまさかの、数十人。
なんて対応の速さ!もちろん、正体もバレてるわな。
「まさか魔王がのこのこ来るとはな」
「なんの意図があるかは知らんが、ここで殺す!」
こちらとしては時間を稼ぐしかない。みっともないが、アイラとレンを待つ。
その思惑を巡らす最中、さらに、援軍が来る。
「那奈ぁ!!」
「っ!!この声、は」
知った声が、ゆっくり近づく。
この声は。あの綺麗な直毛は。見えたあの顔は・・・・・・・・・。
「亮」
「那奈、無事か!」
「りょ、亮!なんで地上に!?」
通りの屋根に着地して、那奈と話す亮。その亮は、以前と違う。不思議な重みを纏っている。
「地下から出て、すぐにこっちに向かったんだ。魔王が来るって報せを受けて!」
「ま、待って、あれは!」
「あれが魔王!本当に、耕平にそっくり、だな」
やっぱり、そうなるかよ。
「あれは違うの!!」
「那奈、傷を・・・・・・・・・魔王にっ!」
ああ、本当に。
・・・・・・・・・悪趣味な運命だ。
―――――――――キンッ!!
瞬間で目の前に来た亮の剣を止める。
競り合う剣。しかし亮の方が、上手だ。押し、きられるっ。
バックして、吹き飛ばされるもどうにか着地する。片手じゃ受けきれない。
このままじゃまずい。魔獣に紛れてやり過ごすか。いやでも魔獣も僕の敵だ、現実的じゃない。
攻め続けられれば、やがて。
「待って亮!」
「那奈!?那奈は下がっていてくれ」
割って入る奈那。だが、この先に展開は見える。
「待ってって!私の傷は魔獣相手のもの!あれは耕平だよ!」
「那奈には言ってなかったんだ。魔王と耕平は同じ顔で、」
「知ってる!知ってる上で、あれは耕平なの!!」
「那奈・・・・・・・・・現実を見てくれ」
もう一度、突進を仕掛けてくる亮。咄嗟にルナをダガーへ変える。
「待、ってよ」
亮の縦一閃を、ダガーで弾いて右へ回避。その後の閃光のような速度で繰り出される追撃も、回避でいなす。
が、しかし。
「うし、ろっ」
反応してそれも回避!
背後から騎士が二人、逃げ場が1つしかない。
そして、囲まれてしまう。
詰み、か。
・・・・・・・・・僕が一人だけならな。
「レンっ!!」
―――――――――――ッ!!
突如、地面から結晶の波状攻撃が、騎士たちを引かせていく。
「よく気付いたわね、ノア!」
「遠隔で出せるとか、チートか」
「チー?私の地属性魔術は、大地の魔力を使用して行使するもの。地面からなら離れていても起動可能よ」
なるほど、遠隔で空中からは厳しいってことか。
いや、それって自身の魔力消費が少ないってことにならない?それであの出力はおかしくないか?
まあそれだけ規格外ってことだ、魔王幹部は。
「アイラは?」
「外のがまだ残ってるの。こっちに動きがあったから、私だけでも来た。あと数分かかるわ」
「数分?」
後数分で、終わるの?
「敵はフェルカーじゃない。統率されていない魔獣なら、言った通り6分よ少しオーバーしてるけど」
「まじか」
統率の取れていない魔獣と言えど、1万越えの魔獣群を10分経たずに相手にするとか、正気じゃないな。
ただ、今はそんなことに驚く暇はない。チート性能を持つレンの攻撃も、騎士たちは上手く躱している。
「流石に捕まらないわね。ノア、私は騎士どもの相手をするわ」
「了解!」
「左側の。あの感じ、あんたの知り合いでしょ」
「・・・・・・・・・ああ」
「・・・・・・・・・任せるわよ」
「任された」
レンはよく分かってる。
恐らくだけど、いつものレンなら一人、一瞬でこの数の騎士を相手にするだろう。しかし今はそれが出来ない。
・・・・・・・・・僕が、殺すなと言ったからだ。
だから、レンは拘束という手段しか取れない。僕に片側を頼んだのはそういうこと。
っと、左腕いつの間にか治ってるっ!?さっすがレン!
「・・・・・・・・・僕が、抑える」
使える魔力の残量は少ない。肉体強化も出力が出ない。そして亮は相当強い。
それでも。
魔獣を残した僕の失態は、ここで取り戻して見せる!
亮に、剣を向ける。
「亮、強くなったなお前」
「知ったような口聞くな、魔王!」
「・・・・・・・・・他のみんなも、来たんだ」
屋根の上、他のクラスメイトも数人来ていた。
でも、どうやら説得するのは無理らしい。
・・・・・・・・・もう、以前のようには、戻れないかもしれない。
「耕平の記憶を取り込んだんだろ!耕平の、仇だ!」
「そうなるかよ。まあ、そうか。そうだな」
僕は、死んだんだ。肉体が死んだのは確かなんだ。生き返った、とは考えにくいわな。
結局は、ぶつかるほかないわけだ。
「覚悟しろよ、魔王!」
「お前と喧嘩したことなんて、なかったなあ!」
そして、最後の戦いが始まった。




