表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/25

第21話 攻略戦

 ---------八口径爆炎弾、連弾。

 爆炎弾の装填し、即座に()()()()()()する応用術式。いや、応用とも言い難い、消費と代償の大きい火力重視攻撃だ。

 その6発分の弾は、まっすぐ黒い敵を捉え、奈那の目の前で爆発する。

 これをゼロ距離で浴びせるつもりだった。けど、仕方ないっ!

「痛ってえなあ!」

 左手は確実に死んで、反動で戻されるも、すぐ踏ん張って敵に近づく。

 ルナを速攻で変形させ、太刀へ。

 あの距離の攻撃、恐らくダメージは望めない。早く僕が追撃に入らなければ、奈那が危ない。

 だが、その想定は大きく外れ。

 奴の動きが止まった。

「っ」

 それを確認した瞬間、太刀を消し、奈那を抱え、大きく後退する。

 その間も、敵は動かず。

 なぜ?意味が分からない。注意深く観察するも、ダメージが入っているようにしか見えない。

 僕の攻撃が思った以上に高火力だった?いや、あの距離での攻撃で、多少のダメージこそあるかもしれないが、ここまで有効打ではないはずだ。

 ・・・・・・・・・駄目だ、理解出来ない。

 ---------ここにいる者、ゾマを除いて、知る由もないが。

 この魔獣は改造魔獣。遺跡の守護者、クロカゲ。その幼体。

 特性は、『適応』。無い目で見た、または攻撃を食らわせた者の魔力を解析し、その魔力の耐性を獲得する。成体でタイマンなら、魔王幹部すら手こずらせる超抜魔獣。

 幼体故に解析に時間がかかり、幼体故に解析に動作不全が起こり、幼体故に適応出来る魔力が1種類のみになっている。

 今のは、奈那がタゲを取っていたためのラッキーパンチだった。その瞬間、適応がノアから奈那に切り替わり、ノアの攻撃は有効になった。

 ---------二人がそれを知るのは、まだ先のことだが。

 そんな事実、知りようもない異世界人2人は、警戒を解かぬまま、会話を始める。

「奈那、焼けてないか?」

「なんとか、大丈夫」

「もっと下がれ!狙われるぞ」

「私も、戦うよ!」

「・・・・・・・・・」

 少し、迷う。

 本当なら確実に却下するところだ。単純な力不足。いても攻撃がダメージになるとも思えないし、何より攻撃を受ければ致命傷になる可能性が高い。

 そんなのが近くにいては気が散るし、足でまといだ。

 ・・・・・・・・・でも。壊れた左手に目を向ける。

「私だって、回避くらいは出来るよ!すばしっこさには自信あるし!」

「・・・・・・・・・はぁ、分かったよ。無理はするなよ?かえって迷惑だし」

「もちろん!」

「んじゃ、僕は受けずに回避し続ける。那奈はいけるときに代わって注意を引きつけて欲しい」

「分かった!任せて」

 右手の太刀に魔力を込め、回転させる。

 魔力には、『魔力を留める』技術と、『魔力を回転させる』技術、その双方とも存在する。

 留める技術は、術式行使に大きな影響を与え、回転させる技術は火力を底上げすることができる、どちらも高等技法。魔力をそのまま利用する技術は、一朝一夕で行く技術じゃない。

 でも。なんでだろうか。

 僕には出来る。

 魔王の肉体故か知らないけど、アルルとの戦い以降、決定的に自身が変わったような気がする。

 僕が用意していた奥の手。しかし、時間がかかる。

 元々、左手で溜め、敵の攻撃を右手で受け続けるつもりだった。しかし、左手は壊れてしまった。

 右手の剣に魔力を溜めながら、回避だけで奴の攻撃をいなし続けるには無理がある。

 だから、那奈を頼るしかなかった。

 那奈を頼るのは心苦しい。頼れないのではなく、頼ることのリスクが大きい。僕と違い、那奈は耐久力がないだろうから。そして僕のヒールじゃ、大して回復はさせてあげられないから。

 でも、それは杞憂かもしれない。

「那奈!」

「はい!」

 敵の背後から、魔力強化した足で蹴りを入れる。同時に那奈は後退。

 ・・・・・・・・・やっぱおかしい。

 ダメージが入りすぎている。さっきは首への渾身の一撃すら意に介さなかった奴が、ただの蹴りで動かせるものか?

 そして、少しの間のフリーズ。

 何が条件でそういう動作になっているのか、

「っ!」

 いきなり距離を詰めて来る黒い人型。間一髪で回避する。

 受けられないのはやっぱり厳しい。攻撃をまともに喰らえば、右手の剣の溜めも消える。

「耕平!」

「っ!ああ!」

 コールに合わせ、距離を取る。

 反対側から、那奈の攻撃。それが奴の背に当たる。

 ・・・・・・・・・やっぱり、効いている。そしてフリーズ。

 やはりもろくなっている。これなら、この攻撃で終わらせられる!

 それに、那奈の動きだ。

 速い。回避を主体とした那奈の動きは、恐らく僕よりも。

 甘く見ていた。僕よりも早くこっちの世界に順応して、訓練だってしてる。低く見すぎた、というよりかは、過保護が過ぎたな。

 ともかくこれなら、行ける。あともう少し、

「?那奈、下がれ!」

「え、うん!」

 那奈を下がらせる。しかし奴は那奈を追わない。

 魔力のパターンが変わった?これまで機械的に動いていた魔獣。それに変化が訪れた。

 ・・・・・・・・・進化、してる?

 恐らく攻撃が有効打になっている理由は、不意を打っていたから。最後の一撃も、それで仕留めたい。

 那奈に抑えてもらい、最後を決めるつもりだった。でももし、あいつが進化し、見たことのない強さを見せたなら。

 ・・・・・・・・・那奈は死ぬ。

「・・・・・・・・・」

 移動して、那奈の方へ。

「那奈」

「耕平。あいつ、なんかおかしいよ」

「多分、進化だな」

 形態の変化はない。でも、さっきまで時折見せていたフリーズとは、雰囲気が違う。

「・・・・・・・・・那奈、これ」

「え?これ、耕平の剣」

 正確には。ルナで作ったもう一本の剣だ。チャージ中の太刀は、まだ右腕に。

「おそらく、さっきよりも数段強くなってる。その剣じゃ耐えられない」

「でも、いいの?」

 良い悪いを那奈から言われる筋合いは、全くない。むしろこっちが聞かねばならないこと。

 だけどあえて、それを飛ばして。

「・・・・・・・・・いや。死ぬかもしれないけど、頼んだ」

 決定済みのお願いを、強要した。

「・・・・・・・・・え?」

「んじゃ、もう来るぞ。頑張れ」

 それだけ言い残して跳躍する。

 まあ、申し訳なくは思う。できれば戦わせたくないとも思ってたくらいだし。

 でも、思い出した。

 那奈とは、気遣う関係性じゃなかったことに。

「え?ちょま、マジで!?」

 喚く那奈は置いていく。無責任な信頼とともに。

 屋根に移動し、溜める剣を見つめる。

 後、10数秒。

 それくらいなら、手放したルナも造形を保てる。

 離れてすぐ、黒い者が動き出す。

「来た!」

 そいつの爪の攻撃で、奈那は派手に後方へ。

 威力は倍増、動きは俊敏で、飛ばされる奈那に並行して追っている。

 まずいか・・・・・・・・・いや。

「くっ、速い、速いって!」

 そう言いながら、上手く回避といなしを続け。

 ・・・・・・・・・なるほど。やっぱあいつ、強いんだな。

 なぜって。奈那を見てると、アイラを重ねるから。

「ま、待って耕へ、こうへーい!!ヘルプ、死ぬ!ちょ、っ」

(あ、死んだ)

 とはいえ、速く、強くなった攻撃を受け続けられるわけもなく。防御を崩され、黒い腕が、奈那の胸へと・・・・・・・・・。

 ---------空識眼、空間跳躍

 術式展開、『剣術』。

 これは、以前。アルルと戦う前、アイラから教わった剣術術式。まあ今使ってるのは太刀だが。

 習得には程遠い。戦闘には使うまいと思っていたが、すごく魔力の具合がいい今なら!

 ---------対魔剣術式、『落突(おとしづき)

 空間跳躍で奴の上へ。そこから、剣を刺し落とす。

 魔力を縦方向に意識させることで、火力を底上げする術式。それに加え、魔力回転のバフ。

 今僕が持てる限りの最高火力。その刃は。

 ・・・・・・・・・敵の首を、貫いた。

 うなじの下辺りから刺し入れ、その太刀は地面に突き刺される。

「ようやく、刺さった」

「こうへいっ」

 再び那奈を抱え、後ろに下がる。

 魔獣ならば。那奈の言った通り、核を破壊しなければ死なないかもしれない。ただでさえ、謎の多い不思議な魔獣なわけだし。

 故に、だ。そもそも、剣を刺したかったのは、この次があるからだ。

 ―――――――――――!!

 地面に突き刺さった刀は、派手に爆破し、暴風と黒煙を巻き上げる。

 黒い魔獣は、断末魔一つ上げずに、消滅した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ