第21話 攻略戦
---------八口径爆炎弾、連弾。
爆炎弾の装填し、即座に全弾同時発射する応用術式。いや、応用とも言い難い、消費と代償の大きい火力重視攻撃だ。
その6発分の弾は、まっすぐ黒い敵を捉え、奈那の目の前で爆発する。
これをゼロ距離で浴びせるつもりだった。けど、仕方ないっ!
「痛ってえなあ!」
左手は確実に死んで、反動で戻されるも、すぐ踏ん張って敵に近づく。
ルナを速攻で変形させ、太刀へ。
あの距離の攻撃、恐らくダメージは望めない。早く僕が追撃に入らなければ、奈那が危ない。
だが、その想定は大きく外れ。
奴の動きが止まった。
「っ」
それを確認した瞬間、太刀を消し、奈那を抱え、大きく後退する。
その間も、敵は動かず。
なぜ?意味が分からない。注意深く観察するも、ダメージが入っているようにしか見えない。
僕の攻撃が思った以上に高火力だった?いや、あの距離での攻撃で、多少のダメージこそあるかもしれないが、ここまで有効打ではないはずだ。
・・・・・・・・・駄目だ、理解出来ない。
---------ここにいる者、ゾマを除いて、知る由もないが。
この魔獣は改造魔獣。遺跡の守護者、クロカゲ。その幼体。
特性は、『適応』。無い目で見た、または攻撃を食らわせた者の魔力を解析し、その魔力の耐性を獲得する。成体でタイマンなら、魔王幹部すら手こずらせる超抜魔獣。
幼体故に解析に時間がかかり、幼体故に解析に動作不全が起こり、幼体故に適応出来る魔力が1種類のみになっている。
今のは、奈那がタゲを取っていたためのラッキーパンチだった。その瞬間、適応がノアから奈那に切り替わり、ノアの攻撃は有効になった。
---------二人がそれを知るのは、まだ先のことだが。
そんな事実、知りようもない異世界人2人は、警戒を解かぬまま、会話を始める。
「奈那、焼けてないか?」
「なんとか、大丈夫」
「もっと下がれ!狙われるぞ」
「私も、戦うよ!」
「・・・・・・・・・」
少し、迷う。
本当なら確実に却下するところだ。単純な力不足。いても攻撃がダメージになるとも思えないし、何より攻撃を受ければ致命傷になる可能性が高い。
そんなのが近くにいては気が散るし、足でまといだ。
・・・・・・・・・でも。壊れた左手に目を向ける。
「私だって、回避くらいは出来るよ!すばしっこさには自信あるし!」
「・・・・・・・・・はぁ、分かったよ。無理はするなよ?かえって迷惑だし」
「もちろん!」
「んじゃ、僕は受けずに回避し続ける。那奈はいけるときに代わって注意を引きつけて欲しい」
「分かった!任せて」
右手の太刀に魔力を込め、回転させる。
魔力には、『魔力を留める』技術と、『魔力を回転させる』技術、その双方とも存在する。
留める技術は、術式行使に大きな影響を与え、回転させる技術は火力を底上げすることができる、どちらも高等技法。魔力をそのまま利用する技術は、一朝一夕で行く技術じゃない。
でも。なんでだろうか。
僕には出来る。
魔王の肉体故か知らないけど、アルルとの戦い以降、決定的に自身が変わったような気がする。
僕が用意していた奥の手。しかし、時間がかかる。
元々、左手で溜め、敵の攻撃を右手で受け続けるつもりだった。しかし、左手は壊れてしまった。
右手の剣に魔力を溜めながら、回避だけで奴の攻撃をいなし続けるには無理がある。
だから、那奈を頼るしかなかった。
那奈を頼るのは心苦しい。頼れないのではなく、頼ることのリスクが大きい。僕と違い、那奈は耐久力がないだろうから。そして僕のヒールじゃ、大して回復はさせてあげられないから。
でも、それは杞憂かもしれない。
「那奈!」
「はい!」
敵の背後から、魔力強化した足で蹴りを入れる。同時に那奈は後退。
・・・・・・・・・やっぱおかしい。
ダメージが入りすぎている。さっきは首への渾身の一撃すら意に介さなかった奴が、ただの蹴りで動かせるものか?
そして、少しの間のフリーズ。
何が条件でそういう動作になっているのか、
「っ!」
いきなり距離を詰めて来る黒い人型。間一髪で回避する。
受けられないのはやっぱり厳しい。攻撃をまともに喰らえば、右手の剣の溜めも消える。
「耕平!」
「っ!ああ!」
コールに合わせ、距離を取る。
反対側から、那奈の攻撃。それが奴の背に当たる。
・・・・・・・・・やっぱり、効いている。そしてフリーズ。
やはりもろくなっている。これなら、この攻撃で終わらせられる!
それに、那奈の動きだ。
速い。回避を主体とした那奈の動きは、恐らく僕よりも。
甘く見ていた。僕よりも早くこっちの世界に順応して、訓練だってしてる。低く見すぎた、というよりかは、過保護が過ぎたな。
ともかくこれなら、行ける。あともう少し、
「?那奈、下がれ!」
「え、うん!」
那奈を下がらせる。しかし奴は那奈を追わない。
魔力のパターンが変わった?これまで機械的に動いていた魔獣。それに変化が訪れた。
・・・・・・・・・進化、してる?
恐らく攻撃が有効打になっている理由は、不意を打っていたから。最後の一撃も、それで仕留めたい。
那奈に抑えてもらい、最後を決めるつもりだった。でももし、あいつが進化し、見たことのない強さを見せたなら。
・・・・・・・・・那奈は死ぬ。
「・・・・・・・・・」
移動して、那奈の方へ。
「那奈」
「耕平。あいつ、なんかおかしいよ」
「多分、進化だな」
形態の変化はない。でも、さっきまで時折見せていたフリーズとは、雰囲気が違う。
「・・・・・・・・・那奈、これ」
「え?これ、耕平の剣」
正確には。ルナで作ったもう一本の剣だ。チャージ中の太刀は、まだ右腕に。
「おそらく、さっきよりも数段強くなってる。その剣じゃ耐えられない」
「でも、いいの?」
良い悪いを那奈から言われる筋合いは、全くない。むしろこっちが聞かねばならないこと。
だけどあえて、それを飛ばして。
「・・・・・・・・・いや。死ぬかもしれないけど、頼んだ」
決定済みのお願いを、強要した。
「・・・・・・・・・え?」
「んじゃ、もう来るぞ。頑張れ」
それだけ言い残して跳躍する。
まあ、申し訳なくは思う。できれば戦わせたくないとも思ってたくらいだし。
でも、思い出した。
那奈とは、気遣う関係性じゃなかったことに。
「え?ちょま、マジで!?」
喚く那奈は置いていく。無責任な信頼とともに。
屋根に移動し、溜める剣を見つめる。
後、10数秒。
それくらいなら、手放したルナも造形を保てる。
離れてすぐ、黒い者が動き出す。
「来た!」
そいつの爪の攻撃で、奈那は派手に後方へ。
威力は倍増、動きは俊敏で、飛ばされる奈那に並行して追っている。
まずいか・・・・・・・・・いや。
「くっ、速い、速いって!」
そう言いながら、上手く回避といなしを続け。
・・・・・・・・・なるほど。やっぱあいつ、強いんだな。
なぜって。奈那を見てると、アイラを重ねるから。
「ま、待って耕へ、こうへーい!!ヘルプ、死ぬ!ちょ、っ」
(あ、死んだ)
とはいえ、速く、強くなった攻撃を受け続けられるわけもなく。防御を崩され、黒い腕が、奈那の胸へと・・・・・・・・・。
---------空識眼、空間跳躍
術式展開、『剣術』。
これは、以前。アルルと戦う前、アイラから教わった剣術術式。まあ今使ってるのは太刀だが。
習得には程遠い。戦闘には使うまいと思っていたが、すごく魔力の具合がいい今なら!
---------対魔剣術式、『落突』
空間跳躍で奴の上へ。そこから、剣を刺し落とす。
魔力を縦方向に意識させることで、火力を底上げする術式。それに加え、魔力回転のバフ。
今僕が持てる限りの最高火力。その刃は。
・・・・・・・・・敵の首を、貫いた。
うなじの下辺りから刺し入れ、その太刀は地面に突き刺される。
「ようやく、刺さった」
「こうへいっ」
再び那奈を抱え、後ろに下がる。
魔獣ならば。那奈の言った通り、核を破壊しなければ死なないかもしれない。ただでさえ、謎の多い不思議な魔獣なわけだし。
故に、だ。そもそも、剣を刺したかったのは、この次があるからだ。
―――――――――――!!
地面に突き刺さった刀は、派手に爆破し、暴風と黒煙を巻き上げる。
黒い魔獣は、断末魔一つ上げずに、消滅した。




