第20話 ボス
---------アポロン王国、壁外
二人の戦士が戦う戦場。掃いて捨てても無限に湧き出す魔獣の群れと対している少女二人。
結晶を生成し、魔獣を割るのが魔王幹部11位の少女。
超速で魔獣一体一体の首を刎ねるのが魔王幹部2位の少女。
目にも映らない神速の少女が一度足を止め、もう一人に疑問を呈する。
「おかしくありませんか?」
「何が?」
攻撃を続けながら、その先を問うレン。
「弱すぎる。魔獣どもを統率出来ていない」
「・・・・・・・・・確かに。ここまで攻撃を見せても、対処の1つもされない」
想定していた相手---------魔王幹部9位、『魔獣使』フェルカー。
魔獣を意のままに操る固有魔術。その性能は伊達じゃない。
魔獣全ての視界を自身と共有させ、魔獣に作戦行動を取らせ、魔獣の軍隊を作り出す。レンの攻撃も、何度も見せれば対処される。
だが、今回はそうじゃない。ただ闇雲に攻めているだけの魔獣たち。
・・・・・・・・・フェルカーじゃない?
「考えられる可能性は?こう思わせる作戦の可能性もあるんじゃない?」
「いや。だったら実力差を見た時点で、囮を使い退避させているはず。攻めを続行するなら、尚更上手く使って私らを拘束させる必要があるし」
数を持ってしても私らに勝てるとは思っていないはず。目的を優先するにせよ、撤退させるにせよ、対処はないも同然。
だったら、考えられる可能性は。
「そもそも術師がフェルカーでない、か。それでもないとすれば」
「・・・・・・・・・フェルカーの術式を、他のものが借り受けてる可能性ね」
そう、おそらくそっちだ。
まず、他の術式で、これほどの量の魔獣を扱うのは厳しい。魔王幹部になれるほどの才の者がいるとは思えない。
だったら、フェルカーの術式を借り。それを上手く扱えていないが故のこの魔物の実力だとすれば?
その取引をフェルカーに持ちかけられる者、すら限られるが、それならこの異常な状況にも説明がつく。
「そもそも、そんなこと軽々出来るわけないじゃない」
「フェルカーに接触すること事態が超難易度。その二つを為せる者」
「・・・・・・・・・面倒なことになってるわね」
「ええ・・・・・・・・・人間側に、魔王幹部がいます」
そうとしか考え得ない。
となると、今の状況も相当悪いかもしれない。
「レン、敵の質が悪いのなら、レンの言ったタイムです。急ぎましょう」
「分かってるわ。あんたも、サボるんじゃないわよ」
「はい!」
殲滅を速攻で終わらせ、ノアの元へ急ぐ。
良くないことが起こる気がする。こと、魔王幹部が裏で絡む事案に関しては、その勘は当たる。
早めにフォローへ行った方がいい。
その一心で、速度を加速させるアイラ。
その一方。壁の中では、首魁との戦闘が始まろうとしていた。
※
1人の男と対峙する。裏切りの人、名はゾマ。
その長髪な男に、問いを飛ばす。
「ただの興味本意だが。なぜ人間を裏切る」
「っ!た、ただ、私の才能を生かせる陣営についたまでだ!それよりこっちの質問だ!お前は人間を虐げる側だろう。なぜ魔物を殺し、人如きを助ける!」
なるほど、これが存在自体の威圧。
まあ言われてみれば、だ。魔王に話しかけられれば、大体は萎縮し、恐怖する。普通に話しているだけだが。
なら、高圧的に行こう。
「・・・・・・・・・魔王幹部、フェルカー=モース。いるはずだ。どこにいる」
「し、知らない、知るはずがないだろう!」
「お前如きにこれほどの魔獣を操れるものか」
「くっ!フェルカーは・・・・・・・・・いない」
「・・・・・・・・・ふむ」
分からん。どういう状況だ?
こいつの様子、観念して話したという印象。嘘ではない。
フェルカーはいないと言った。つまりはいないことを知っている。知らされていない、隠れているとかではなく、いないんだ。
超遠隔での操作か。でもそしたら、こいつを出向かせる必要があるか?
・・・・・・・・・いや。そこは僕が考えることじゃ、ない。
そもそも、情報も基礎知識も足りないのだから、僕は当初の目的を果たすことだけ、考えればいい。
「まあよい。聞いたな?なぜ人を助けるのか、と」
なぜ、か。言葉にすると難しいものだ、行動の動機とは。
でも、今回はすんなりと。
「そっちのが、寝覚めがいいからだ」
「な、なん、」
「んな事はどうでもいい!」
反論なんて許さない。というか、それされると言えることがないから。
それより、今言える事実の方が優先だ。
「構えろ。ぶつからずして、避けられないだろ?」
「くっ、まあいい。お前弱くなってるだろ。じゃなきゃこの程度の魔獣群が、こんなに耐えられるわけないからな」
・・・・・・・・・こいつ、思ったより雑魚じゃないな。
冷静な判断力と、観察力。魔獣使いで後方専門故かもしれないが。
ゾマが、動く。
「行け、ウルフ=グレード!」
軽く投げられた、ビー玉ほどの赤い玉。それは鈍く光ながら膨張、変形し、魔獣の形を作り上げる。
---------!!
ウルフの咆哮。それは自分の力を誇示し、他の魔獣を下がらせるほどの。
準二足歩行の体躯。爪はやばそうだな。
「行け!引き裂け!!」
合図に合わせ、飛びかかってくるウルフ。ん、速いな。
まあでも。
「・・・・・・・・・これでいいんだっけか?」
ギリギリまで引き付け、片足軸回転で華麗に回避し、横から剣を差し入れ、終わらせた。
文字通り、に。
「・・・・・・・・・奈那」
「あ、え、私?」
「そっち向いてんじゃん」
でも、聞くまでもなく。魔獣は倒れ、消滅を開始する。
「え、今の一瞬で核壊したの!?」
そう、まるで魚を捌くように、剣を入れ、核をぶった切った。
魔獣の身体を形成する中心だ。正確な位置は魔力濃度で大体分かる。ルナほどの切れ味の剣があれば難しいことじゃない。
で、後ろの切り札をあっさり破られた敵さんは、うろたえているようで。
「は。まさか、死んだのか?一瞬で、か?」
「さて、終わりだ」
「ひっ、くっそがァァ!!」
ゾマは下がりながら、もう1つ球を取り出し、こちらに投げる。
無駄だ。これほど接近すれば、保管された魔獣が実態を成す前に、攻撃が届く。
そのはずだった。だが。
「ッ!?」
反射的に、踏み込んで後ろへ。
なんだこの玉。色は同じ、なのに、覇気が全く違う。
この、中にいるのは・・・・・・・・・っ!!
「那奈!下がれ、もっ、」
・・・・・・・・・・・。
那奈の方を向いたまま、止まる忠告。動かない那奈。
・・・・・・・・・背後に、化け物がいる。
恐る恐る、ゆっくりと体制を戻して、
(あ、来る)
―――――――――――。
それは、予期もしない脅威だった。
音が遠くなる。状況が一転して、少し遅れてそれに気づく。
吹き飛ばされ、家に叩きつけられた。瓦礫が散乱している。
痛みはある。でもそれほどじゃない。どうやら、防御が間に合ったらしい。
それほど曖昧な認識で、危ないところだった。
落ち着いたところで、敵に目を向ける。
人型の魔獣。黒く、光る肉体。長い三本の爪。牙しかない顔に、一本のツノ。
・・・・・・・・・本当に、魔物か?
いや、重要なのは。
僕は魔力に疎い。それでも分かるほどの禍々しい『強さ』だ。
「那奈、近づくなよ。巻き込まれる」
―――――――――ルナ=モード・ラージソード
光る剣を振り回し、戦闘モードに入る。
勝てるだろうか。アルルとは違う、捕食者の獣性を持つ敵。純粋で、単純な強さ。
・・・・・・・・・ま、どうにかなる。
大剣に魔力を込め、受けの姿勢。速かったが、対面すれば反応できる。
初撃で仕留められると思うな。覚えていること全てを出して、それでも無理なら。
進化で行く。
---------キンッ!!
突っ込んでくるそいつに、カウンターを決める。が、完璧なタイミングの剣はあっさり弾かれる。
「チッ、痛ってえ」
手がヒリヒリする。が、攻撃はやめない。
敵の背後にカウンターの動きで流れ、ルナの爆破剣を投げる。
---------キンッ!
それも入らず、弾ける。刺さらなければ、爆発の意味はない。
「無敵か!」
見たところ、全身に隙がない。騎士の鎧とは違い、関節部すら露出のようなものが見当たらない。そもそも攻撃を弾いているのが外殻という概念なのかすらも分からない。
どういう構造体だ、こいつは。
1度止まってしまった。奴のラッシュが来る!
「チッ」
爪の攻撃を、大剣の平で防ぐ。重く、鋭い攻撃。まともに受ければ引き裂かれる。
とりあえず、起点を。攻撃に転じる起点を作らねば。
大きく下がって、体勢を立て直したい。が、間髪入れずに追ってくる。引き離せない。
じゃあこれは、どうだ!
「爆破剣!」
2本を、地面に刺して爆破させる。目眩しの攻撃。
これまでで、目はなくとも視界を持っていることはわかっている。
おそらくそれでも構わず追ってくるが。それでいい。
剣を引いて、魔力を溜める。反撃の構え。
「っ!」
来た。
---------キンっ!!
少しの重心移動で爪を避け、溜めを作った大剣で正確に首を刎ねる。
はず、なのに。
1ミリも、刃が通らない・・・・・・・・・っ!
「なっ!?」
この状態から!?裏返した手での、敵の爪攻撃。咄嗟に魔力強化した左手で掴む。
一瞬だけ、手の勢いを殺し、どうにか背後に退避して。事なきを得た。が。
「痛って」
受け止めた左手をやられた。これで済んで助かったと言うべきだが。
・・・・・・・・・左手の負傷はキツイな。
でも、今分かった。生半可な攻撃じゃ、傷1つつけられない。
今回も、結局いつもと同じ。ゼロ距離で、最強の一撃を浴びせるしか・・・・・・・・・。
「?なぜ、止まってる?」
敵の動きが止まっている。傷はないはずなのに。
・・・・・・・・・何故だ。奴が動きを止めるタイミングは、一体いつ?
消費の問題か?いや、奴が魔獣であることを考えれば。
それ自体に、目的がない?
いや。だがどうせすぐに追ってくる。近づいたタイミングで一瞬、奴の死角を取り、ゼロ距離での攻撃を、
「ッ!!」
半ば反射で飛び出す。
その不自然を見逃さなかった。こっちを向いていた奴が。
・・・・・・・・・横に首を向けた。
と、同時に動き出す。その標的は!
「奈那っ!」
しまった、下がりすぎた。
恐らく奴は最も近い敵を迎撃する。僕との距離より、奈那との距離が近くなった。
間に合わない。致命的に遠い。くそっ。
あの攻撃、奈那は一撃受け切れるか?
・・・・・・・・・恐らく、無理だ。死ぬ。
迷う余地はなく、負傷した左手を前に差し出して。
---------!!!
爆発を引き起こした。




