第2話 プロローグ2
---------アポロン王国、大広間。
探索から帰還して。
今回の探索で、19階層まで進むことができた。成果としては素晴らしいだとかなんとか。
だが一つ、問題ができた。
20階層を覗いたところ、今までとは全く違う作りになっていたのだ。今までは洞窟が分岐して、そこを確認しながら進んできたけど、今回は相当開けている空間に出た。
前より囲まれやすく探索が困難、かつ魔力の流れとかもどうにも不穏らしい。
今はこれからの探索について話し合っている、らしい。何もかも、真偽半分程度にしか把握してないけど。
正直、私はそういうことにはあまり首を出さない。作戦だとか方針だとかは勝手に騎士様が決めてくれればいいし。
いつもそんな会議はそっちのけだけど。
でも、今回は。探索で本当に怖い思いをしたから、いつも以上に精神が浮ついているような感じがする。
「那奈?大丈夫?」
「ああ、うん。ボーとしてた」
心配してくれたのは美里だ。隣の席で顔を覗き込んでくる。
やっぱちょっと疲れた顔をしているらしい。笑って返答したのに、心配が拭えない。
「今回の那奈はすごかったよ。一人で決断して、みんなを助けてくれた」
「16階層のこと?まあ、私が初めて役に立てたって感じかな」
ずっと亮一人でなんとかなっていたから、私が大事な場面で剣を奮うのは今回が初めてだった。成し遂げたのはそのはずなのに、あまり達成感がないのは、私の性格ゆえだろうか。
「でも、ね」
「え?」
いきなり里美が抱き着いてくる。驚いたけど、その後すぐに、里美の震えを感じて分かった。
「・・・・・・・・・ごめん、ね」
「そうだよっ、あんな危険なこと、もうやめてね」
「うん、ごめん。心配かけて」
背中をさすってなだめ続ける。自分のことばっかで、周りのことまで考えが回らなかった。
そりゃ心配になるよ。魔物の群れに飛び出していったんだから、怪我しちゃうんじゃないかって。
「耕平がいなくなってから、那奈少し不安定に見えてたから。本当に帰ってこないんじゃないかって」
「え?・・・・・・・・・うん、ごめん」
そう言われて、少しハッとする。自分では耕平がいなくなったこと、あまり意識していないような気がしたから。
・・・・・・・・・違う。意識できなかったんだ。
深く考えると、蹲ってしまいたくなるから。だから意識しないようにしてた。意識しないことを、意識してた。
耕平は昔からの幼馴染で、毎日顔を合わせるような友達だった。そんな身近な人がいなくなって、何にも思わないなんて無理だったから。
「・・・・・・・・・耕平」
里美をなだめながら、耕平を想う。
・・・・・・・・・なんで、死んじゃったの。
考えても仕方のないことを考えていたら、いつの間にか会議は終わっていた。
夕食も終えて、部屋に戻るまでのお城の廊下。
月明かりの見える廊下を歩いていると、近づいてくる影が1つ。
「那奈」
「亮。どうしたの?いつもの自主練?」
「ああ。日課だからな」
ダンジョンから帰還してすぐっていうのに、律儀だなぁ。人一倍疲れているはずなのに。
廊下で立ち止まる。けど、なぜか何も言わない亮。
「・・・・・・・・・どうしたの?」
「・・・・・・・・・今回は助かった。ありがとう」
「ううん、いつも亮には助けられてるから」
「それと、ごめん!」
「え?」
頭を下げる亮。その意味が分からなくて困惑してしまう。
亮が謝ることなんて何もないと思うけど。
「僕があのとき、撤退を受け入れなかったから、危険な目に合わせた。僕がもっと、大人になれてたなら」
「いやいや、いずれあそこを突破しなきゃならなかったし」
「僕はっ!耕平が死んで、焦っていたんだ。何かしなきゃ、耕平の死が無駄になるからって」
「・・・・・・・・・うん」
「それで危険な目を合わせてたら本末転倒だ。何があっても、自分を制御しなければいけなかった。本当に、ごめん!」
大人にならなきゃ、か。私だって、自分を制御なんてできてなかった。把握できてなかった。
亮だけじゃない。私だって同じだ。多分突撃したときだって、どうなってもいいっていう自暴自棄も少しあったんだと思う。
「私も同じだよ。だから、頭を上げて」
「・・・・・・・・・ああ」
「耕平のこと、やっぱまだ受け入れられてなかった。私、やっぱ・・・・・・・・・」
「那奈。今回のような危ないことはもうやめてくれ。もう誰も、失うわけにはいかない」
「・・・・・・・・・亮。ごめん」
「え?」
里美に分からせてもらって、少し考えて。決めたことが1つある。
「次の長期探索、休ませてほしい」
「・・・・・・・・・そうか」
「ああいや、怖いとかそういうのじゃなくて」
暗い顔をした亮を見て、慌てて訂正する。
「美里に言われて少し考えてさ。考える時間が欲しいって思ったの。耕平のこととか、自分のこととか、これからのこととか、いろいろ」
「・・・・・・・・・そっか。戦力的には痛いけど、仕方ないな」
「ごめん」
「いや、そこは僕が埋めてみせるよ。ハザールさんも説得してみせる」
これからハザールさんの許可を取るつもりだったけど、亮が手伝ってくれれば大丈夫そうだ。
自分だけ休むのは気が引けるけど、自分がこんなんじゃ、一緒に行っても足を引っ張っちゃいそうだから、これが一番いいんだと思う。
これからどうするか、なんて自分だけじゃ決められることじゃないけど、それでもどうしたいかくらいは、見つけたい。
長期探索はおおよそ二週間ほどに及ぶらしくて、その間友達とは会えなくなって寂しいけど、もう決めたことだ。
・・・・・・・・・でも。
「私だって同じだから」
「ん?」
「もう誰も、失うなんて嫌だから。絶対に無事で帰ってきてね」
「ああ、絶対だ!安心して、待っててくれ」
「うん!」
こうして私は、10日後の長期探索に同行しないことが決まった。みんな私のわがままに嫌な顔をする人はいなくて、本当にいい仲間だと思う。ハザールさんたち騎士も含めて。
この期間で私は、きっと見つけてみせる。耕平への気持ちとか全部整理して。これからすべきことを。
きっと想いを受け止めたその先に、答えはあるはずだから。