第19話 再会
「きっついなあ!!」
上空の空気圧に滅多打ちにされながら、必死に出す大声が風にかき消される。
紐なしバンジー満喫中だが、すぐに冷静に、頭を回す。
まず、どこから攻めるかだ。
・・・・・・・・・少し、おかしいな。
見える限り、魔獣の分布が真ん中に片寄っている。不自然なほどに。
よく見れば。中央大通りだけ明らかに護りが手薄だ。真ん中が、手薄?
中央を捨てた?にしては、魔獣の進みが遅いし・・・・・・・・・なるほど。
深いところで足止めしてる強者がいるってことか。でも、抑えきれていない。
・・・・・・・・・王都、護り薄すぎでは?
まあともかく、初めに行くところは決まった。で。
着地するスペース、ある?
まあ、作るまでだが。
「ルナ=モード・双刀」
二本の刀。それに加えて、斬撃、範囲拡大の術式!
アイラのような遠距離攻撃とはいかなくとも、1、2メートルほどは飛ばせる。これでっ!
「回転斬り、だぁ!」
群がる魔獣を円形にぶった切る。そして上手く着地を決めた。
「うん、行けるな」
魔術、体調ともに問題はなさそうだ。実際動くまで不安だったけど、むしろ魔術は調子がいい。
太刀を造形したけど、これも結構具合がいい。でも、一本でいいかも。
「ん?」
後ろから迫る魔獣の腕の攻撃。難なく腕を切り落とし、顔面に一本太刀を投げ刺す。
さて、こちらも、
―――――――――――ッ!!
・・・・・・・・・行けるな。
術式付与『爆炎』
爆破の術式をルナに付与。ルナの魔力消費はあるものの、これで遠距離の高火力攻撃が可能になった。
もう『八口径』いらないな。
さて、じゃあまずは、ん?
「・・・・・・・・・」
目の前の地面に、兵士の死体。
そりゃあまあ、仕方ない。これだけの魔獣の群れが攻めてきて、被害ゼロとはいかない。
気にしたのは、その兵士の傍の剣。
「・・・・・・・・・ちょうどいい。お前の形見、貰うぞ」
足で拾い上げ、剣を握る。
遠距離攻撃も積極的に使いたいし、魔力消費を出来るだけ抑えておきたい。自分が手に持って使う分は、これで充分。
まずは大通りの魔獣の掃討。その後全体の駆逐ってことで。
身体強化全開で、大通りの方向へ進み始めた。
出来るだけ魔獣を避けて、当たる魔獣は止まらず斬り捨て。この通りの魔獣の最前へと向かう。
まずは殲滅よりも、到着することを優先する。ここを護っている人の安全も気になるし、どうせ壁側へ戻るなら、こっちのが効率がいい。
それに。なんか幼女拾ったし。
左手に少女、右手に剣で進んでいく。
直接の剣戟、それと。ルナの爆撃。
ルナで刀の刀身のみを生成し、指で挟み、敵に投げる。一度に二本までなら精度も中々、かなり効率のいい攻撃だ。
消耗は気になるが、とりあえずは速攻で行く。子どももいるし。
魔獣を倒しまくって。そしてすぐに、魔獣最前列に到達する。
「っ!」
壁に少女。魔獣が二匹。この距離なら間に合う、届く!
魔獣の攻撃を全て回避し、射程ギリギリで刀を投げ飛ばし。ギリギリ、魔獣の足にヒット、起爆!
もう一体は、直接。最速で突っ込み、剣を熊の脳天に突き刺し、押し飛ばした。
「ふぅ、間に合ったな」
安堵も込めて、小さく呟く。
でも、無茶に動いてしまって。速度を上げ過ぎて、この子に申し訳ないことしたな。
見た感じでは怪我はなし、怖がってはいるけど問題なさそうだ。
「ほら、さっさと行け。今見たことは、忘れろ。グロいしな」
「・・・・・・・・・うん、ありがと!お兄ちゃん」
安全を確認して、少女を送り出す。明るい声だったし、あのまま行けば大人に保護されるだろう。
そしてもう一人の少女、同年代くらいの少女に目を向ける。
あの子も送り出して、本番の開始だ。
「お前も危なかったな。すぐに・・・・・・・・・あれ、那奈じゃん」
「・・・・・・・・・耕、平?」
その少女は、見覚えのある少女だった。
黒い髪、肩にかかる長さのショートヘアで、ピンクのシュシュで束ねられたポニーテール。忘れない。
三輪奈那。クラスメイトで、幼馴染で、腐れ縁。
これもその縁ってやつだろうか、こんなところで再開するとは。
「久しぶりだな。ようやく会えたって感じだ。いや、すぐに会いに行きたいとは思ってたんだけど」
「え・・・・・・・・・」
なんたって、僕は死んでいるらしいからな、心配かけていると思って、どうやって真実を伝えるか悩みどころだった。
王都って話で少し関連付けたけど、会えるとはな。
「なんでこんなとこに?聞いた話だと、異世界人って地下探索に行ってるんじゃ、」
「待って!!」
「っ!?何?」
「あんた、魔王なんでしょ?」
「っ!いや、それはそうなんだけど、」
「耕平はっ!・・・・・・・・・死んだの。耕平、なわけないじゃん」
「いや、だからそれは、っ!」
どうにか勘違いを弁明しようとしたそのとき、中断して咄嗟に動く。
奈那との距離を詰め、奈那に攻撃する魔獣を一振りで斬り殺す。
「ッ!!」
「・・・・・・・・・今、んな話してる余裕あるか?」
現在戦地の最終防衛ラインだった。再開に喜ぶ暇も余裕もなく、無論魔獣がたんまを待ってくれるわけがない。
「・・・・・・・・・確か、に」
そのとき。
―――――――――――ッ!!!
轟音、というよりかは結晶がぶつかり合うような音が爆音で響く。
「うへー、まじか」
壁の方、そこにとてつもないほどの結晶の壁。門を塞げとは言ったけど、あれほど派手にとは。
これは、負けていられない。
「さて。聞くまでもないと思うけど、奈那。お前戦えるタイプの人間だよな?」
「何よ、その好戦的な性格みたいな言い方・・・・・・・・・でも、今は、」
「安心しろ、怪我は治した。拙いけど。魔力は絞り出せ。武器はこれ使え」
兵士から借り受けた剣を、奈那に投げ渡す。王国兵士の形見だ、僕よりよっぽど報われる使用者だ。
僕のヒールも大体なら回復出来る。
必要事項をササッと伝える。今は時間が惜しいとはいえ雑な説明。けど、奈那ならこの一言で分かってくれる。
「助けてくれ」
「・・・・・・・・・こっちの、セリフなんだけど」
「ああ、じゃあ、背中は任せる。しっかりついて来いよ」
「うん!」
そして、戦いは本番に入る。
―――――――――ルナ=モード・ダガー
扱いやすいよう短い短刀へ変形、戦闘を開始する。
敵は魔獣の大群。こっちは二人で、一人は消耗していて。
・・・・・・・・・残念ながら、余裕だ。
走りながら、敵を一斬りで処していく。目的は通過でなく殲滅なので、さっきよりも走行速度は遅いけど、確実に残さず殺していく。
首を落とし、顔面を刺し、臓器を壊し。敵の攻撃は回避し、ときには腕ごと切り落としながら、討伐数を秒で増やしていく。
「ふぅ、ったく、お節介な」
あと警戒すべきはワイバーンの遠距離攻撃だが、そのワイバーンが次々と落ちていく。
レンだ。レンの遠距離狙撃。結晶を生やしたワイバーンは、成すすべなく地を這う。
でも助かった。僕が狙われる分には問題ないけど、那奈をカバーするのは結構骨が折れる。
で、その那奈に目をやる。
消耗している割に、僕についてこれている。攻撃も的確で、回避の動きも早い。流石異世界人の才能。
多少のサポートは必要だろうけど、頼りに出来る。
「那奈、少しペース上げるぞ」
「ま、ってよ、私あまり余裕ないんだけど!?」
「つっても、時間かけてもられない。僕の担当増やすから、ついてきてくれないと穴が増える」
時間をかければ、いずれ兵士の戦線も崩れる。そうなると殲滅は面倒になる。
それに。なんの介入もない、とは言い切れない。
「・・・・・・・・・強いね、こうへ、っ!」
「ま、魔王に変わりないからな。行くぞ」
名前を呼びかけた那奈の事情も反応も無視して、速度を上げる。
ここからは遠慮はなしだ。遠距離攻撃が恐らく魔獣のウルフのみに限られた。爆発付与も積極的に使う。
ダガーとともに、生成した刀身を投げ。爆発を引き起こす。無論一撃の攻撃。遠距離でも当たりさえすれば有効で、爆破の付近にいる敵にも、ダメージを与えられる。
敵が集団なら、やはり有効だ。
「爆発、すごい」
「那奈!」
那奈の目の前の魔獣に剣を投げ、頭部を潰す。
「よそ見すんな、馬鹿」
「う、うん。ごめん」
「いや。にしても、頭部狙うのは骨が折れる」
「え、知らないの?魔物核」
「核?」
「心臓の部分、というより、胸部の真ん中かな?に、肉体を形成する核があるの」
なるほど。魔獣というのは、魔力で肉体が構成された存在。普通にその『炉』も存在するはずだ。
分かりやすく、胸部ね。那奈の手際がいいと感じたのは、それを狙う技術を持っているが故か。
まあけど。
「爆破なら関係ないかな」
「それチートじゃない?」
「ま、そこは出自の大変さでトントンだな」
魔王の業を背負ってノーマル性能なんて、悲惨すぎるからな。
でも、チートなのは実力ではなく、魔力量だ。そうでもなければ、こんな惜しげもなく連発は出来ない。
その恩恵、最大限に使わないと、今の僕は戦えない。
「さて、結構押し戻したな」
「広場までもうすぐ。本当に、殲滅するの?」
「安心しろ。結晶の壁で追加は入ってこないし、外は僕の仲間がどうにかする。中なんて全体の1パーにも満たない数だぞ?」
「残り99パーを相手にしてるあんたの仲間って・・・・・・・・・」
言いたいことは分かるけど。言葉じゃ伝わりはしないことだ。
のんびりできないのは確かだけど。それでも悠長に話している理由は。
(・・・・・・・・・やはり、強い奴がいるな)
・・・・・・・・・上空の、目線。
「・・・・・・・・・那奈。一歩下がれ」
「え?」
―――――――――――ッ!!
・・・・・・・・・爆発。これは返されたな。
だが。レンがついでの攻撃で上空戦力を殲滅してくれて。残りはいないはず、なのに。
上空に飛ぶ影を、警戒しないわけがないだろう?
(これで、問題は、)
―――――――――――ッ!!
悪いが、返し返しだ。
上空に飛行する一機のワイバーンを、煙の中から狙撃し、堕とす。
敵の魔弾攻撃はバリアで防ぎ、その煙に乗じて、反撃の『八口径爆炎弾』。
ワイバーンの騎手が落下してくる。
・・・・・・・・・違うな。
一瞬、目が合う。この程度の攻撃に対応しないのと、威圧のなさ。魔王幹部ではない。その刺客か?
そいつは、上手く膝で着地する。
「・・・・・・・・・何者だ」
顔を伏せるその男が、声を荒げる。
「なんで。なんでお前がここにいる!?」
「え?」
「・・・・・・・・・この感じは」
人間だ。魔物を率いていたのとは別物か。アイラと話した通り、この魔獣の軍を率いるには、相当の実力、固有魔術が絶対にいる。
人間であり、魔術を見ても強者と取れないこいつが、そうであるわけ、ないのだが。
「なんで魔王であるお前が、ここで魔獣と戦っている!?」
「待って。あなたは・・・・・・・・・ゾマさん?」
「・・・・・・・・・奈那、下がれ」
奈那は、驚きを隠せない様子で、相手の名を口にする。それだけで、だいたい状況は分かった。
・・・・・・・・・・少し、面倒なことになっているらしい。
「ゾマさんですよね、1か月前に行方不明になった、」
「奈那、気づけ」
「え?」
「この状況でこちらを攻撃し。おそらく護りの手薄な今日の状況を把握し、密告した。どう見ても・・・・・・・・・裏切りだろ」
泣き出しそうな顔で、その事実を受け入れるしかない奈那。
人間の裏切り。まあ王政への恨みか、それとも他人への嫉妬か。動機は予想すれば尽きないが、僕にそれは関係ない。
とりあえずこいつは情報源。奈那には心苦しいかもしれないが、制圧し、情報を引き出してやる。




