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第11話 第11位との決着

 全ては、この一撃のための茶番だった。

 敵わないことも、何一つ攻撃が通用しないことも、相手にその気にさせればまともに戦闘すらできないことも、分かっていた。だから、勝利を確信したときの、最も隙のある瞬間に辿り着けることに、賭けた。

 そして、成した。

 ―――――――――パリッ―――――――――ッ!

 そしてすぐ、理解した。

 ・・・・・・・・・ミスった、と。

 砂煙が上がる。でもそれはすぐに空気に散って、事の顛末が見えてくる。

 ルナは、地面を刺していた。

 手応えがなかった。外れているのはなんとなく分かってはいたけど、今使えるもの、策略、魔力の全てを注ぎ込んだ一撃が、ただ少し動いただけで、外れるなんて。

 すぐに第二撃に入る。が、タイミングも動作も何もかもが、遅すぎた。

 何かする間もないまま、足元からの結晶で、手足を固定されてしまった。

「くっ・・・・・・・・・っ!!」

 もう使えるものは残っていない。魔力もなくなり、策も。もう戦闘を続けられない。

 ・・・・・・・・・完敗だ。

「今のは。いやそれより・・・・・・・・・ううん、今は。ノア、終わりね」

 残る動揺を振り切って、ゆっくりと、レンが近づいて来る。子どもの歩幅で、ゆっくりと。

「魔王の『空識眼』で、逃げだしてみる?」

「・・・・・・・・・そんな余力、残ってないよ」

「でしょうね。渾身の一撃、私が少し動くだけで無駄になった」

 考えなかったわけじゃない。でも、そんなこと考えたら何も出来なかった。

 今出来る最善の手を打ってなお、何一つ通用しなかった。

「それでもあなたはみっともなく、迫って」

「・・・・・・・・・」

「私始まる前言ったこと、覚えてる?」

「?」

 私の前で立ち止まるレン。今から、僕は殺される。

 でも、案外恐怖ってないものなんだな。いや、そうじゃない。

 ・・・・・・・・・なんとなく、レンから威圧が感じられない。

「『ダメージなんて喰らわない』。私は、『魔力吸収』の術式を持ってる」

「魔力吸収」

「魔力攻撃を吸収する。物理攻撃は無効。魔力攻撃は受けるけど、たとえ当たっても、あの程度の攻撃じゃ1ダメージも喰らわない」

 物理攻撃無効で、魔力攻撃まで無効なんて、この子最強なのでは?

 じゃあ結局、何しても無駄だったわけだ。

「無駄じゃない」

「え?」

「喰らわない、と言ったの。でも私の、『魔力吸収』は反応した。切り傷でも、かすり傷でも、蚊に刺された程度でも、喰らったのは確かよ。だから」

 そう言って僕を捕える結晶に手をかざしたレンは、ため息を1つついて。

「今回は私の負けよ」

 結晶が砕けて、同時に身体も楽になる。そして地面に、ヘタってしまう。

 一瞬、何が起こったのか、分からなかった。でも、数秒で頭の回転が復活する。

 ・・・・・・・・・勝った、のか。

「ルールに従い、このレンはあなたに協力することを約束するわ」

「いい、のか?」

「やっぱダメ」

「は?」

「嘘よ。そう言われたくなければ、自分の耳を疑うのはやめなさい」

 からかうのは今、ほんとやめて。

 死ぬ前の幻想とかじゃないよな?大丈夫か、本当に合ってるよな?

「私の眼を開かせた。それにアイラのも。それがあなたの勝因よ」

「はぁー、ほんと、通用してよかったよ」

 本当の意味でほっとして、地面に寝転がる。

 唯一可能性のある攻撃で、それを成功させることができた。魔王幹部はその数段上の実力を持つことを知らされたけど、認めさせることは出来た。

 文字通り、全力でぶつかった。その代償は小さくない。

 中身まで疲弊しきった身体は、ゆっくりと休息に入っていった。




「何寝てんのよ」

「うえっ!」

 寝に入る前に、蹴られて起こされた。どうやら寝させてはくれないらしい。

「休ませないわよ、傷は治した」

「い、いやそうだけど。そうだけども」

 結晶から解放してくれたとき、恐らく同時にヒールもかけてくれたのだろう。細かな外傷や、筋肉の傷は治っている。

 治ってはいる、けど。

「魂の疲弊、いや酷使は自業自得でしょ。出力オーバーに、『空識眼』の負荷も、自分で覚悟したこと。我慢しなさい」

「そう、だけどさ」

 無理して勝ち行った代償、思った以上に大きい。内側が出血しているみたいな感覚で、動くたびにきゅっとする。

 でもレンの言うことはもっともだ。その代償を、二人に甘えて休ませろ、なんて軽々しく考えたくない。

 そもそも時間は無限にあるわけじゃない。ゆっくりしてる時間があるかどうかも分からないのだから。

「はぁ。で、次の一手、どうするか」

「とりあえず戻るわ」

「戻る?街に?」

「だってまだ3日しか寄ってないの。色々買いたいものあるの」

「あまり荷物増えても、」

「『保存の術式(ストア)』があるから問題ないわ」

「何それ凄い」

 黒いゲートのようなものを出すアイラ。ストア、と言ったし、恐らく物を保存する術式。それ単純に強すぎないか?体積の制限、あと質量の扱いはどうなるんだろうか。

 いやそんなことより、まだ街に居残るのはちょっと。

「あまりのんびりするわけにも」

「急いだっていいことないわ。行くわよ」

 すごく強引に話を打ち切って、先に歩いて行ってしまった。行っちゃったよ。

 どうやら、従う以外の選択肢はないようで。ついていくことを心に決める。

 と、前に。

「アイラ」

「はい?」

「戦闘の余波、的なやつは大丈夫なの?」

「そうですね、この程度の戦闘なら、余程近くにいない限りは問題ないです」

 この程度、か。あんな壮絶な思いした戦闘でも、やっぱ『この程度』で片づけられる実力らしい。魔王幹部はデタラメだ。

「追いつけんなぁ、これ」

「まあ、急ぐ気持ちは分かりますけど、今はレンについていきましょう。ノアの状態も、かなり悪いですし」

「分かるの?」

「まあ大体は。『眼』と魂の消耗がかなり。魔力消費は問題なさそうですが」

「あれ、魔力は大丈夫なんだ?」

 最後、魔力が底を尽きた感あったけど。

「魔力には使用制限があります。一度に使える魔力量が、魂の練度で決まっているんです。ノアが限界を感じたなら、そういうこと。総魔力量は化け物ですので、恐らく20パーも減っていません」

「まじですか」

 ああ、なるほど。大いに納得。

 魂は初心者の雑魚だけど、器だけは超一流の状態の僕だ、魔力で困ることはほとんどないと思ってよさそう。

 そして問題は魂の消耗。言葉だけでまずいことが分かる。『空識眼』のことも、悪い状態であることを自覚できるくらいには、痛みがある。多分、時間経過で安静にしなければ治らないやつだ。

 ならなおさら安静に休みたいけど、レンが行くっていうのなら、そのままにしておくわけにもいかない。レンをいきなり一人には出来ないし、逆に僕が一人になる選択肢もない。結局、団体行動しかないわけだ。

 まあでも。

「休日の観光と思って、楽しむとするか」

 考え方を切り替えれば、面白い一日になる。

 そもそもアイラがいれば、周囲の危機なんてすぐに察知できる。危険はない。さっきのは例外。

 じゃあもう、安全地帯で休暇を楽しむ形にシフトチェンジしていいだろう。

「さ、行こう、アイラ」

「ええ」

 アイラと一緒にレンの背を追う。

 かくして、パーティーメンバーが一人増え。魔王幹部を探す旅は、一度休暇に入るのだった。

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