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プラボット

作者: エンピツ✍

 外す、はめる、組み立てる。そうやってプラモデルが出来上がっていく。

 神月作陽(こうづきさくよう)は小さなころから単純かつ複雑な組み立てに魅了された少年だ。

 今までに作ってきた種類は数百種類以上。それでも小学生の作陽にとってもっともっと作りたいという欲望は止まらない。人型兵器、ロボット、戦車、戦艦、戦闘機、城とジャンルは様々。

 特に好んで作っていたのがロボットだった。物心ついたときから変形、合体を繰り返し戦う小さな画面に映った戦士は少年たちの瞳に大きく映り魅了した。番組終わりに大々的にCMを打ったその商品を両親におねだりして誕生日に買ってもらった人生初めてのプラモデル。その記憶はまだ少年の脳裏に深く刻まれている。

 部屋の中は自身が作ったプラモデルで埋め尽くされ、博物館でも作るのかと思わずツッコミを入れたくなるような光景だ。


「なあ作陽。今日の放課後みんなでドッジボールやらない?」

「わりぃ俺パス。今日中に作りたいプラモがあるんだ」

「またプラモかよ。ホント好きだなお前。なに作ってんの?」

「ロボット!めちゃくちゃかっこいいやつ」

「おぉー完成したら俺たちにも見せてくれよな」

「おう!」


 そのまま友達と別れ、家に向かう。こんなプラモ好きの作陽にも優しく接してくれる数少ない友達だ。

 そんな友達の誘いを断ってまで家に帰ったのには理由がある。

 それは未完成のプラモデル。しかもこれはただのプラモデルではない。数日前突然宅配便から送られてきた差出人不明のプラモデル。名前も住所も郵便番号も書かれていない怪しげな郵便物。メッセージには『健闘を祈る』という一文だけ。普通ならば警察に通報など警戒して当然なことなのだが作陽のプラモデルへの情熱がそんなことを感じさせず、気づけばプラモデルを作り始めていた。

 箱の中のパーツは複雑で組み立て説明書も入っていなかった。メーカーも記載されていない。試しに組み立ててみたが、何をどうすればいいのかわからず苦戦を強いられていた。

 だが、難しくあればあるほど作陽の情熱はだんだん熱くなっていく。

 試行錯誤を重ねていくうちにだいぶパーツの組み立て方が理解できるようになっていく。足、腕、胴体と少しづつではあるが、確実に進んできている。

 そして今は顔のパーツを胴体へと繋げる作業をしている。これがまた難しく顔のパーツから伸びている銅線を体に一つづつ繋げていかなければならない。首から無数に伸びるそれはまるで人間の神経のようだ。

 だが、こんなところで諦める作陽ではない。ゆっくりと確実に作業を進めていく。そしてついに……


「完成ー!!」


 それは出来上がった。人の形を模したロボット。肩、胸、膝などに装甲がついていてロボットをかっこよく見せている。だが、武器らしいものはなかった。

 新しいプラモデルの完成に喜んでいると一階にいる母親に夕食の呼び出しを受けたため一階に下りた。

 夕食、風呂に一時間費やし再び自分の部屋に戻ってきた。明日、学校に行ったら完成を待っていた友達に自慢しようかななどと妄想にふけっていると突然家が揺れだした。


「なんだ、なんだ!地震!?」


 学校で習った防災訓練を思い出し、まず頭を守れる場所、学習机の下に身を隠す。揺れは約一分ほど続いた。作陽の住んでいる岡山県は過去の統計データを見ても全国的に地震が少ない。そんな場所で長く強い揺れが起これば誰だってパニックになる。強い揺れが収まった部屋は棚が倒れたり、作っていたプラモデルが床にばらまかれ破損したりと足の踏み場がない悲惨な状況であった。

 そして作陽は見てはいけないものを見つけてしまった。


「あぁー!!?俺のバルドクロスⅩ(エックス)が~!!!」


 バルドクロスⅹとは作陽が大好きなアニメに登場する主人公機体である。多彩な装備を有し、そのデザインは製作にも苦労したという秘話が残っている。

 お気に入りの機体を失い嘆き悲しむこと数十秒。下の階から慌てた様子で駆け上がり部屋の扉を開けた父と母が息を切らしながら入ってきた。


「作陽無事?」

「あっ、母さん」

「よかった~大丈夫?どこも打ってない?」

「お前の身に何かあったらと思うと父さん……うわあぁぁぁぁぁ!!!」


 父はその場に泣き崩れてしまう。二人とも過保護すぎると作陽は思った。


「大丈夫。どこも怪我してないしこの通りピンピンしてる」


 ほっと胸をなでおろす二人。リビングに下りるとテレビから地震速報の中継が繰り返し行われていた。震源地は瀬戸内海沖合だ。マグニチュード9.8深さ10.8キロとかなり大きい。だが、不思議なことに津波警報は出ていなかった。明らかに自然界のものではない常軌を逸したもの。その正体はすぐにわかることになる。

 ニュース速報で流れてきた情報。突然瀬戸内海から怪獣が出現したというのである。町は大混乱。

 作陽もすぐには信じられずアニメか映画の世界の話だと思っていた。その実物を見るまでは。赤い鱗に鋭い牙。背中の尾びれには岩のようなものが上から下へと並んでいる。まるでティラノサウルスが二足歩行で近づいてきているかのようだ。そして咆哮。耳を劈く爆音が脳をビリビリと揺らしこれが夢ではないということを教えてくれる。

 逃げ惑う人々。車は長い渋滞を作り、乗り捨てて逃げる人もいる。

 作陽の両親が一緒に逃げるため車に乗るよう促す。しかし作陽はすぐには乗らなかった。この町には思い出の場所、そして大好きな友人たちがいる場所。

 作陽は海岸に向かって走り出した。後ろで叫ぶ両親には振り返りもせず発射されたミサイルのように一直線へ駆けていく。目指すのはもちろん海岸。何度見ても信じることができない光景。だが、それは現実で目の前で起こっている。

 あの怪獣が上陸すれば大好きなこの町が破壊されることは火を見るより明らかだ。後ろから追いついてきた両親に引き戻される。無力のままこの街を捨てて逃げる。それがこの街で生きてきた市民に出来る唯一の道だ。

 ついに怪獣は上陸し、町を破壊し始める。故郷が何十年、何百年とかけて築いてきた歴史が文化が生活が破壊されていく。

 そして怪獣の足元付近から悲鳴が聞こえてきた。声の主は作陽の友達だった。作陽は両親の手を振り払い真っ先に彼の元へ駆けだしていた。なぜ飛び出したのか自分でもわからない。とにかく動かなければと思ったら体が動いていた。自分に何ができる?より犠牲者を出すだけではないか。足が震えている。声がでない。怪獣と目が合う。完全に恐怖に心を支配される。その時、いつの間にか手に握られていた夕方の作ったばかりのプラモデルが光り輝き始めた。


「な、なんだこれ?」


 光は強さを増し、やがて作陽すらも飲み込んでいった。

 友達は恐怖で足がすくみただその怪獣を見上げることしかできない。怪獣が足を上げ踏みつぶそうとしているにも関わらず体は言うことを聞いてくれない。少年たちはぎゅっと目を瞑り死を覚悟した。

 しかし、怪獣の足が少年たちを踏みつぶすことはなかった。少年たちは恐る恐る目を開ける。そこには奇跡ともいえる驚くべき光景があった。

 なんと巨大なロボットが目の前で怪獣の足を受け止めていた。ロボットは足を押し返す。怪獣はバランスを崩し、後方へ転倒する。怪獣の巨体が海へのまれ波を起こす。

 夢でも見ているのだろうか?こんなシーンアニメでしか見たことがない。


「みんな、大丈夫か!?」


 拡声器交じりに響く声。どうやらロボットから聞こえるらしい。少年たちはこの声に聞き覚えがあった。


「お前作陽か?」

「あぁ正直俺も何が起こってるのか全然わからないんだけど」

「すげぇ!そのロボット放課後お前が言ってたやつか!」

「えっ?まぁそうだけど……」

「すげぇ、すげぇ、すげぇ!!!超かっこいいじゃん」

「えっ?そ、そうかな」


 その時、起き上がった怪獣が作陽を攻撃しようと尻尾を振り回すがそれを作陽は両手で受け止めお返しと言わんばかりに尻尾を振り回し怪獣を海に投げ飛ばす。海に放り投げられた怪獣は無抵抗のまま海に沈んだ。沈んだところに穴が開き、飛び散った海が雨を降らせる。波は荒れ、開いた穴に新たな海水が入り込み修復する。

 波は街にいる友達にも向かってきたが作陽が手のひらに友達を乗せ退避させた。怪獣が起き上がる前に友達を安全な場所まで運び降ろした。


「じゃあ行ってくる」


 そう言って作陽は再び海岸のほうへ戻る。後ろから子供たちの名前を呼ぶ声が聞こえる。


「あっパパ、ママ」


 両親だった。


「よかった。無事?」

「うん」

「あのロボットは?」

「あれは……自慢の友達だよ」


 少年は笑った。

 作陽は起き上がった怪獣にパンチやキックを繰り出す。効いているかはわからない。とりあえず思いつく攻撃手段を試してみる。怪獣は攻撃を受ける度ひるみ、後ろに下がっていく。とりあえず効力はあるみたいだ。このまま攻めていけば勝機はあるように見えた。

 その時だった。怪獣が尻尾を振り回す。これは後ろに飛んで回避することができた。だが、次の攻撃、相手と距離をとったことがあだとなったのか怪獣は口から灼熱の光線を放った。これは作陽を直撃してしまった。大きな体が後方へと吹き飛ばされてしまった。とてつもない衝撃波。怪獣がいかに手ごわい相手か一目瞭然だろう。


「が……ぐっ」


 いまだ経験しえぬ痛みに作陽は立ち上がれずにいた。怪獣が一歩ずつ距離を詰めてくる。立ち上がらなきゃと頭では理解しているが体が言うことを聞いてくれない。やがて距離が縮まる。怪獣の大きな足が作陽を踏みつけた。まるで全身の骨を砕かれたかのような悲痛。

 もうここまでかもしれない、そう諦めたとき遥か遠方の港に子供の姿を見た。子供たちは不安そうにこちらを見つめている。

 そうだ、ここで自分が諦めたらあの子たちは、家族は街の人々はどうなるんだと作陽の体から力が湧いてくる。

 怪獣の足を持ち上げ同時に立ち上がる。バランスを崩した怪獣は後方へ倒れる。その隙を作陽は見逃さなかった。

 突如作陽の右手に光り輝く剣が出現した。それを怪獣に向かって一筋振る。怪獣は悲鳴を上げながら後方へ倒れる。まるで海に溶けていくかのように消滅した。

 戦いが終わると作陽の体も光り輝き人間の姿に戻っていった。

 街に平和が戻り、町の人たちは歓喜する。

 作陽もすぐに父と母と合流することができた。被害を最小限に抑えることができ、家へ帰ることになった。

 その道中、友人たちと出会った。両親に断りを入れ友人たちと話する。話題は当然あのロボットのこと。だが、作陽もよく分かっていなかったためあまり詳しいことは話せなかった。

 友人の一人があのロボットの名前について尋ねてくる。作陽は少し考え、ロボットの名は『プラボっト』と呼ぶことを友人に教えた。



                              ~FIN~

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