物語の終焉
その後の話をしよう。
永須斎の門人は高遠頼実をはじめとする下手人たちを捕らえた。
そして奉行所に身柄を明け渡した。
高遠は全てを白状した。結果として老中は失脚してしまった。
「というわけで私の弱みも無くなりました。お礼を差し上げます」
事件が終わってから万屋に訪れた畑山竜二郎は多額の謝礼を桐野に渡した。
しかし邪気眼侍の顔は暗かった。
「かの者を取り逃した……それは失態だ」
「だとしてもです。あなたはよくやりましたよ」
そうは言われたものの嬉しさなど感じられなかった。
弥助は大城との大立ち回りを演じたが、結局は逃げられてしまった。
「あっしもまだまだですね。道場で鍛え直します」
そう語る弥助の表情は明るかった。
長年の罪の意識が無くなりすっきりしたのだろう。
さくらは桜桃神社の後継ぎとして本格的に修業を始めるそうだ。
二人とも忙しくなったなと桐野は思った。
しかし――
「貴様ら。いろいろとやるべきことがあるのではないか?」
桐野は人魚の木乃伊を眺めつつ弥助とさくらがいつも通りやってきたことに苦言を呈した。
すると弥助が「何を言っているんですかい」と肩をすくめる。
「あっしがいないとやっていけないでしょ」
「そうよ。白衣の僧侶との決着もついてないし」
「我は……」
万屋と畳むつもりだと言いかけて、桐野はやめた。
いつも通りの日常が続くと分かったのだ。
「ククク……フハハハ……しょうがないな」
「なによ不気味に笑って」
「う! 邪気眼が疼く!」
また発作の始まったと弥助とさくらは顔を見合わせて笑った。
そこへ女がやってきた。
商家の女中のような恰好で少々太っている。
愛嬌のある顔をしている女は「あのう。万屋さんですか?」と不安そうに言う。
「ええそうですよ。何かご依頼で?」
弥助が応対すると女はますます怯えてしまう。
さくらは「大丈夫よ」と安心させようと笑いかけた。
「邪気眼侍の万屋だけど必ず解決するわ」
「はあ……」
「それで、どんな依頼なの?」
女中は意を決したように依頼内容を話し始めた。
発作が収まった桐野はそれを聞きつつ独り思う。
この世界は退屈しないな。
「分かりやした。そんじゃ旦那、行きますか!」
「ええ、行くわよ、邪気眼侍!」
桐野は立ち上がり黒い着流しをはためかせた。
そして見得を切るように宣言する。
「我が邪気眼は全てを見通す! ククク……フハハハ……!」




