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合同競技会・二回戦1

またまたえらく間が開いたとです。もし楽しみにされている方が一人でもおられたなら、申し訳ないです。

マークとアンクロ書くのが楽しくってですね、ほとんど書けていたのを1ヶ月近く放置しておりました。

次は『合同競技会・二回戦2応援合戦編』となります。

変わらず語りはカクリさんです。

彼女が一番書きやすいんですよね。ちなみに一番書きにくいのはアオイさんです。


では、7月中に次をアップ出来る事を……まぁ誓えたらいいなぁ、とか思いつつ前書きは終了です。






「お腹痛くなった。だから私は棄権する」


 そう堂々と──全くもっていつも通りの様子で語った銀鈴は、そのまま判決を待つ事なくテクテクとリングを降りていく。

 最後に苦笑と共に肩をすくめているシャクナゲと、『どうせそんな事だろうと思った』と言わんばかりに笑うカブトに、ヒラヒラとその白い手を振りながら。


「だから言ったでしょ、あのコは棄権するって」


「……」


 淡々と語るカーリアンの言葉に、何も返す言葉が出てこない。


「というかね、今までも対戦相手が先に棄権したから勝ち残ったってだけで、相手が棄権しなかったらあのコが棄権してたと思うよ?無駄に誰かと争うのとか嫌いなコだし」


 なるほど、確かに彼女は対戦相手の棄権でここまで勝ち上がってきた。

 多分『銀鈴』というコードに勝手に名前負けしたのだろう。


「スズカってば何にでも寄りたがるからさ、今回参加したのも多分『自分一人だけ不参加はイヤ』って思っただけなんじゃない?まともに参加してたらあのコが優勝してたんだろうけどさ」


「……そう」


 なんとかそう返すも、それ以上何も出てこない。

 私もかの銀鈴が優勝候補筆頭だと思っていたし、その為に雑草野郎とぶつけて、互いに消耗させてやろうと考えていたのだ。


「それにしても、あのコの言い訳って毎回『お腹痛い』なんだよね。やりたくない事とか、面倒な事とかあったらさ」


「……カーリアンもよく使う」


「あ、あはは……あ、あたしはホントだよ?ホントにお腹痛くなるの。で、でもスズカってば、その後パクパク食べてたりするもんだから、説得力なんかカケラもないと思わない?」


 目をそらしながら露骨に矛先を変えてみせるが、今回だけは彼女に誤魔化されてあげる事にする。

 カーリアンが腹痛という名前の仮病で逃げる時は、面倒な班長会議とか書類整理が溜まっている時なのだ。

 それに対して下手にやる気を出されては逆に困る事になる。

 カーリアンに書類整理を任せては、気になってこっちの仕事に手がつかなくなるし、班長会議に一人で出せば、何をしでかすか心配で胃がキリキリと痛くなってくる。

 医者の不養生なんて間抜けをさらす羽目になる事が目に見えている。


「ミヤビもよく腹痛で仕事なんか出来ないとか言ってたけど……これって古参黒鉄連中の伝統かな?」


 したり顔で語り続けるカーリアンに、私はこれ以上何も返せなかった。

 いや、カーリアンとスズカの仮病の使い方は、完璧『錬血』の影響だろうとは思っているけど。

 それにも何も返さなかった。


 ただ無言でリング脇……先ほどまで座っていた、三班の連中が集まった辺りに戻り、ペタンと可愛く座り込んだスズカを見やっていただけだ。


 ──結局他のコードフェンサーの能力については収穫ナシか。


 そう思えばガックリと体の力が抜けてしまう。

 その視線の先では今大会で唯一興味の対象となりえた銀鈴が、収穫を終えたばかりのミカン──カリギュラ印無農薬──の皮を剥き、パクパクと口へと運んでいる。

 おそらく、周りの連中の誰もがそれにツッコミを入れたかった事だろう。


 ──あんたはお腹が痛かったんじゃないのか、と。


 まぁ、さすがにかの銀鈴にツッコミを入れる勇気がある人物はそういないようだが。

 唯一ツッコミを入れられそうなスイレンは、雑草野郎と同じように苦笑いをしているだけだし、スズカにも突っかかるヒナギクは、二回戦第一戦で『碧兵』に負けていまだに凹んでいる。

 でも、例えツッコんだとしても、返ってくる答えが私には分かった。

 なんというか、私にさえ読めてしまったのだ。

 悪びれる事もなく『もう治った』とか言うんだろうな、と。




「ま、今んとこはスッゴい順当に来てるよね。三班のガキんコはコガネに泣かされてたしさ。二回戦第二第三試合は順当なのかどうかわかんないけどさ」


「……え、えぇ、そうね。……すごく順当に来てるわね」


 ──私の予定じゃ、今頃シャクナゲはスズカ相手に苦戦しまくってる中、こっちはスズカのデータ取りながら、高みの見物……のハズだったんだけどね。

 まぁ、それでもなんだかんだ言って、あの雑草野郎が雑草らしいしぶとさを発揮して、ひょっとしたら粘り勝つかも……とは考えていた。

 なにしろ、あの銀鈴のスズカに勝てる可能性があるとしたら、シャクナゲかカーリアンだけだろうと私は考えているから。

 彼女を──銀鈴を恐れず、萎縮せず、向き合える二人だけだろう、そう思っているからだ。

 だからこの試合だけは、デキレースだらけのトーナメントの中で、唯一価値あるモノになる……そう思っていたのだ。


 その試合すらも『向こう』が仕組んだデキレースだと知れば、ガックリと肩から力も抜けよう。

 どうりでスズカをこの枠に入れる事に反論も何もしなかったワケだ。


 こうなってしまえば意趣返しは、準決勝で当たる予定の……もはや確定に近いけど……コガネに期待するしかない。


 『碧兵』コガネ。

 またの名を『雷人コガネ』。

 二人しかコード持ちがいない五班を、三班に次ぐ戦力を持つ班へと持ち上げている一翼が、『碧兵』と呼ばれるエレキネシストであるのは間違いない。

 ネームバリューはかの『幻影』に及ばないにしても、五班最大級の戦力となっているコガネならば、皮肉屋で小生意気な雑草野郎をギャフンと言わせてくれる可能性は相当高い。

 なにせ、このコガネ。普通に班長クラスの能力を持っているのだ。

 カーリアンやオリヒメと真っ向からやり合っても、普通に勝つ可能性はかなり高い。

 先ほども三班の『音速』を相手に、何かをさせる暇も与えずに昏倒させていたし。

 まぁ、さっきのは経験不足の音速が、ガチガチに緊張していたからというのもあるだろうが。


 ともかく黒鉄最強のパイロキネシストがカーリアンならば、最強のエレキネシストがあの碧兵なのは間違いない。

 あの雑草野郎と当たるのは準決勝だが、今からコガネを煽りに──


「んじゃ、行ってくるね?ちゃちゃっと陰険関西弁を捻ってくるからさ、ちゃんと応援しててよ?」


「……分かった。……応援はばっちり任せて。……四班なんか目じゃないくらいの……ド派手な応援をしてあげる」


 ──いく暇はないようだ。

 私にはそれよりも重要なミッションがあったのだ。

 危うく雑草野郎にノセられて、本来の目的を忘れるところだった。今はまだ『あの陰険黒ずくめ』を敵に回すのは得策じゃない。


 まずはカーリアンの応援をしてくれる仲間達──紅薔薇会の同士達への指示と根回し。

 これを忘れるワケにはいかない。

 なにしろカーリアンへの応援は、班単位で応援してくれる四班よりも圧倒的に少ない。

 日常業務である警備に立っている者も多いから、ここに来ている四班班員の数は大分少ないであろうが、カーリアンにはその半分も応援者がいないのだ。


 カーリアンはちょっと班内でも浮いているし、黒鉄内ではかつての噂から怖がられている面がある。

 だから仕方ないと言えば仕方ないのだが、それを甘んじて受け入れて応援合戦に負けたとあっては、『紅薔薇会主席』の名前と『二班副官』の肩書き廃るというモノだ。

 こういう時にこそ、普段から医療班のトップとして培ってきた、貸しやら恩やらの債権を回収すべきだ。

 貸しっばなし、ツケっぱなしは私の趣味じゃない。

 義務感から面倒くさい二班副官になったワケでもなければ、神杜総合病院の責任者を慈善事業でやっているワケでもないのだ。

 そこまで考えると、意気揚々とリングへと向かうカーリアンを見ながら、私はスクッと立ち上がった。


 ……まずは同士達に応援の指示。アチコチに散らばって応援する事で、人々をカーリアン寄りにする工作はしてあるから、そろそろ行動開始伝えましょうか。

 そう思考をめぐらしながらも、私はまっすぐにある場所へと視線を向ける。

 カーリアンを怖がっていない第三者達が集まっている場所であり、応援されたらカーリアン自身も喜びそうなメンツが集まる場所。つまり雑草野郎が仕切る『黒鉄第三班』+αが集まっている場所に向けて。


 ──さて、あの連中が集まっているなら、ここは私自身が行くしかないわね。

 たっぷり貸しつけた借りを、きっかり耳を揃えて返してもらう事にしましょうか。


 そんな事を考えほくそ笑みながら。


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