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2『葵草の憂鬱』

なんか憂鬱って感じじゃないですね、後編。

感想に日常ぽいモノがいいとあり、なおかつこちらの方がいいとも知り合い……他のページで知り合った方にも言われたりしたので、こちらを上げます。

ヨツバは多分お蔵入りかな。

また感想やなんかで要望があれば考えてみます。

やっぱり本編で出してないウチにヨツバを出したのは失敗かな、とかも考えてみたり。



今現在は、次のSSについてまだ考えていません。

気分転換作品に近いので、またネタが出たら──あるいはこちらは本編と違って感想や要望を取り入れて書いていこうかな、と思ってますので、何か要望がありましたら書いていきます。

本編は最後までプロット練ってますから要望が入る余地はないんですけど。


何が言いたいかを要約しますと『不定期更新』です、という事です。




 ……最強の黒鉄は誰だ?と聞いたとしよう。

 黒鉄第三班の者ならば、まず間違いなく『シャクナゲ』だと答えるだろう。なんの迷いもなく、それ以外の答えがあるのか?と言わんばかりに。

 1人たりとも別の名前を挙げる者はいまい。


 ……彼は目の前の光景を見ながらもそんな事を思う。


 では他の班の者に聞いたらどうだろうか?やはり『スズカ』を挙げる者が多いだろうか?

 もちろんナナシを挙げる者もいるだろう。カーリアンを挙げる者もかなりの数だと思う。

 あるいは五班の者なら、アゲハを従えるカブトを挙げるかもしれない。強者を従える事もまた力には違いないだろうから。

 それでもやはり『スズカ』を挙げる者が多いだろうか?


 ……目の前の光景から逃避するかのように──いや、逃避したくて彼はそんな事をひたすら考える。



 それでも数を見れば『シャクナゲ』を挙げる者が一番なのは間違いない。これだけは確信を持って言える。

 最初からこの街、廃都・カリギュラで戦ってきた者達……いわば黒鉄の原点たる者達が集う部隊『黒鉄第三班』の長であり、一癖も二癖もある班員全てを掌握する変種。

 彼を最強最高の黒鉄として慕う者は多い。


 ……そう内心で思い、それを誇りつつも彼は頭を抱えていた。


 『紅』のカーリアンの力は圧倒的だ。

 『銀鈴』のスズカは反則的とも言える。

 『不死身』のナナシの生命力は文字通り不死身に近いし、『幻影』のアゲハに至っては何故強いのかすら分からない。

 そんな変種達……中でもコードフェンサーと呼ばれる『人々』を抑え、最強と呼ばれるのは間違いなく誉れだ。

 三班のメンバー全てが、その事実──最高の黒鉄が指揮する部隊にいる事を矜持としている。

 副官である彼自身は、比較的彼我の差を冷静に見てしまう性質なので、『最強』はシャクナゲではないと思っている。

 『最強』ではなく『最高の黒鉄』を挙げるなら、間違いなくシャクナゲだというのは自信があるが。



 ……それでもその存在が大き過ぎるのは問題かな、と自嘲的に彼は嗤い──




「なんでカーリアンまで揉め事に首を突っ込んでいるんですかっ!?」


 ──思わずそう叫ばずにはいられなかった。










「あん?もう一回言ってみな、このチビッコっ!!」


「何度でも言ってあげますっ!カーリアンなんかナナシとでも仲良くしてればいいんです!シャクナゲに迷惑ですからあんまりウチに顔を出さないで下さいっ!」


「……もう知んない」


 目の前では彼の頼み(懇願)通りにナナシを追い返してくれたカーリアンと、彼女にべったりとくっ付いているカクリ……

 そして、何故かそんな彼女達に対し意気盛んに啖呵を切るヒナギクと、面倒そうに肩をすくめ、明後日の方向を向いて知らんぷりをしているスイレンがいた。


 さっきまでヒナギクと向かい合っていたナナシは、ここを立ち去る直前までぶつぶつ言ってはいたが


『こんな子供相手にムキになるなんて、ダサいを通り越してキモい……というよりもしかして変態?』


 とカーリアンに言われ


『……しつこい男は嫌われるのよ?……器の大きい所を見せてみなさいな』


 とカクリにまで言われて、ほうほうの体で班員を引き連れ帰っていったのだ。



 ……そこまでは良かった。そう彼は思う。

 いまさら思っても後の祭りなのを同時に自覚しながら。

『子供って……私の事ですかっ!?』


 そうヒナギクがその矛先をいなくなったナナシから、目の前でふんぞり返っているカーリアンに変えた時点で、こうなる事は決定していたのだろう。


『カーリアンなんて救急班班長のクセに、いつもぶらぶらしてるだけじゃないですかっ!?そっちの方がよっぽどお子様ですっ!!』


『……なっ!?』


『……カーリアンはぶらぶらしてていいの。……いるだけで癒やしの空間が広がるから』


 ヒナギクの啖呵に絶句するカーリアン。そして自分本位の反論をするカクリ。


 この時点で──カクリが入った時点で収集がつかないのも決定していた、と言えるかもしれない。

 なにせカーリアンを止められるのは、彼女か今はいない……早く帰ってきて欲しいと祈り続けている三班班長だけなのだから。


『ぶらぶらしてるだけならそこらを勝手にウロウロしてて下さいっ!話し相手がいないなら壁にでもブツブツ言ってればいいんですっ!みんながみんなカーリアンみたいに暇じゃないんですからっ!!』


『……こんのクソガキ!』


『シャクナゲも暇じゃないんですっ!カーリアンは暇人同士ナナシとでも遊んでればいいんですっ!!両方迷惑なんですからっ!』


「あん?もう一回言ってみな、このチビッコ!!」


 この経緯を思い返して頭を抱えるな、という方が無理な注文だ。もしそう言われたら、抱える頭をなくす為に切り落とすくらいしか道はない……そんな愚にもつかない考えを浮かべながらも、アオイは一縷の望みを託して1人の女性の方向を見やった。


 ここにいる三班のメンバーの中では、唯一カーリアンに匹敵しうる力を持つ女性。

 そして怒り狂う彼女を抑えられる……かもしれない理性を持つ人物であり、なおかつヒナギクをたしなめられるコードフェンサー『水鏡』を。

 たおやかな和服──浴衣を纏った彼女は、アオイからの熱い視線を感じたのかチラッと視線を向け


「……プイッ」


 そんな擬音付きで露骨に目を逸らした。

 つまり『もう知んない』と言った言葉を、本当に貫くつもりなのだろう。


「もう容赦しないかんね!?シャクの部隊のヤツでも、こんがり焼いてやるっ!!」


「……やり過ぎちゃダメよ、カーリアン。……消し炭にしちゃったら……さすがにシャクナゲでも怒るだろうから」


「むっ、じゃあ生焼け具合のレアでっ!」


 一応抑えてくれた……のかどうかは怪しいカクリの言葉に、カーリアンは少し弱気になりつつもその指先から紅蓮の炎を溢れさせていく。

 彼女に『紅』のコードを与えた凶悪無比な火力を秘めた炎を。


 『紅のカーリアン』は、数いるパイロキネシスト(発火能力者)の変種の中でも、最凶のパイロキネシストだと言えよう。


 後方支援部隊である黒鉄第二班唯一のコードフェンサーの名は、決して伊達でも飾りでもない。

 今までも前衛部隊が突破されたり、伏兵に奇襲された場合は、彼女がその力で敵を薙払い炎で焼き払って、戦闘能力の低い黒鉄第二班の仲間達を守ってきたのだ。

 その赤い髪や瞳だけで『紅』のコードを持つに至ったわけではない。


「ふん!いつも遊んでるだけのカーリアンなんかちっとも怖くないですっ!!決戦班たる三班のコードフェンサーが力、見るがいいですっ!!」


 だがその紅蓮の炎に怯むどころか逆に真っ向から睨みすえながら、ヒナギクはぐっと小さな体に力を込めていく。


 彼女もまた最年少で最精鋭部隊と言われる黒鉄第三班のコードフェンサーになったのは伊達ではない。その潜在能力は『水鏡』のスイレンにして『自分を上回る』と言わしめた程の逸材でもある。

 その『力量変換能力』の一種と思われる力も非常に珍しいモノで、あの紅のカーリアンを相手に回しても簡単にヒケは取らないだろう。


 それはつまるところ『この2人がぶつかった場合、決着がつくまで長引き、なおかつ周りには甚大な被害を与える』と言う事に他ならない。


 もう収集がつかない、とはこの事だろう。いや、最初から収集なんてつく要素はなかったのかもしれない。

 スイレンは手出しをしないようだが、この2人──『音速』と『紅』が争うだけでも相当の被害が出るのは間違いない。

 なにしろヒナギクはともかく、カーリアンの能力は本気になれば範囲がかなり広い。しかも二次災害……火事や煙害の被害までありうる。


 もっとも、周囲の施設などよりむしろ三班に──しかも班長はいないから、副官である彼に回ってくる『始末書』の類の被害が甚大なのも間違いない事だろうが。


 そんな絶望感を感じうなだれるアオイだが、それ以外のメンバーもまた戸惑っていた。

 やはり救急班にお世話になった者も多いのだろう。その点で気が引けるのかもしれない。


 それに自分達が信頼する班長、シャクナゲに懐いている──カーリアンは断固否定するだろうが──二班班長と争うのもさすがにいい気分はしまい。


 そんな周囲の状況など全く気にせず、コードフェンサー2(とカクリ)は気炎を上げ、今にもぶつかろうとしていた時だった。





「……これはまた派手な出迎えだね?一体どんな趣向だよ?」


 全員が全員、色んな意味で今一番聞きたいと思っていた男の声が響いたのは。

 その声に一斉にその方向──車両が置かれている駐車場区画を振り返ると、大げさに肩をすくめたまだ若い男がこれ見よがしに溜め息を吐いていた。


「しゃ、しゃく、シャク──」


「ただいま。予定がちょっと早く終わってさ。まぁタイミングが良かったのか悪かったのかは微妙な感じだけど」


 帰還予定日よりもかなり早く、いまいちその存在が信じられずに固まっていたアオイに、黒鉄第三班の班長はそう皮肉げに笑いかけ、その両手に山と抱えた手荷物を掲げてみせる。


「シャク!どっか行くなら一声かけてけっての!おかげでアンタんトコのチビッコに絡まれて大変だったんだからねっ!?」


「シャクナゲ!お疲れ様です!いない間『暇人達』がウチに押し寄せてきましたけど、大丈夫です!シャクナゲの留守はこのヒナが守ってみせますからっ!!」


 それになんとか笑い返そうとしたアオイを、当の2人──さっきまで争っていた『紅』と『音速』が仲良く押しのける。



「こら!他班とも仲良くしなきゃダメだって言ってるだろ?」


「で、でも──」


 じゃれ付いてくるヒナギクのおでこを軽く弾きながらそう言うシャクナゲに、ヒナギクは軽く不満げに頬を膨らませ──


「でもじゃない。ほら、お土産だ。ムクレてたらあげないよ?」


「わぁ~!いるですいるです!ごめんなさぁい!!」


 手渡された小さな包みにパァーッと笑みを溢れさせる。

 さっきまでの殺気と威勢の良さはどこにいった?そんな事を理不尽に思いつつも、アオイは小さな苦笑を漏らした。

 別に高価な土産物で機嫌をとっているワケでもいないのに、あっさりとヒナギクを抑えてみせる彼と、その様子にホッとしたように笑う三班のメンバーを見ながら。


「ほら、カーリアンにもある。向こうの露天に綺麗な貝殻を加工したペンダントがあったんだ。耐火性はないけど、カーリアンの色──少し赤みがかってて綺麗だろ?」


「わ、わた……あたしにも……くれんの?」


「ま、安物で悪いけどさ」


 あのカーリアンですら一瞬で手懐けられている辺りがさすが──というべきか、罪作りというべきか。そんないつも通りの考えすらもアオイには微笑ましい。


「…………」



「そんなにジッと見つめなくてもカクリにもあるよ。革命前の文庫本が纏めて市にあったから後で送ってもらう事にしてる。何冊かはカクリにあげて、残りはヨツバ用だ」


「……私が先に選ぶ。……いい?」


 キラキラと目を輝かせるカクリなんてそうはお目にかかれまい。そんな失礼な事を思うアオイの前で、彼は人波に囲まれながら次々と土産物の目録を上げていく。


 三班メンバーには何種類もの菓子詰めと昔の映画のフィルムをもらって帰ってきたらしい。

 埃が被ったシアターセットを引き出す算段と、今夜宴会でも開こうと俄然盛り上がるメンバーに、班長である彼も肩をすくめながらも笑っていた。


「スイレンには……」



 そう言って彼女に渡していたのは、園芸用の花の種とガーデニング用のハサミ。


「新しいのが欲しいって言ってた気がしたけど、これで良かったか?」


「ありがとうございます。しかしこれらの資金はどうされたので?」


「俺は給金なんか使わないからね。それは気にしなくてもいいよ。次はもう土産とか買えないから期待はするなよ?」


 深々と頭を下げながら受け取るスイレンと、そんな彼女に貰ったばかりの手土産──精緻な細工のされた髪飾りを見せながら笑うヒナギク。

 今夜の映画鑑賞と帰還祝いの話題で盛り上がるメンバーと、もらった土産を付けるべき否かで悩むカーリアン。

 その横では『あなたは怒ったら無意識で力を使うから、普段はしまってなさい』とカクリがたしなめている。


 そこにはすでに、先ほどまでのギスギスした空間はカケラもない。

 空を舐める紅の力の断片も、音速の戦意の余韻もない。

 それを一瞬で吹き飛ばした男を中心に、人の輪が出来ている。


 ──これこそが……この人を惹きつける魅力こそが、彼を『最高』たらしめている。そうアオイは理解していた。

 普通の日常を感じさせてくれる。殺伐としがちな空気を入れ換えてくれる。

 そして強大な変種であり、強力な力を持ち、絶大な発言力を持っていながらも仲間達を気遣ってくれる。


 いわば『家族』のような空間を班内に作ってくれる。

 それが黒鉄第三班の結束と戦意にどれだけ貢献しているか──恐らくシャクナゲ自身もその事に気付いているだろう。

 『大義名分』や『正義』なんてモノを大事にし続けられる者は決して多くない。だがそこに『居場所』や『信頼出来る仲間』が加われば、簡単に人は諦める事が出来なくなる。

 また大事なモノが増えれば、ヴァンプの力に魅了される抵抗力にもなるだろう。

 その全てを理解して第三班の在り方を作っているのだとしたら、彼は文字通り最高のリーダーであり、恐るべき黒鉄だと言えると思う。


 それこそがアオイに彼を最高の黒鉄だ、思わせる所以だ。

 そんな事を改めて考え、安堵と共に喜びを感じていたアオイの前には、当の彼が手を差し出していた。

 その手の平にはゼンマイ仕掛けの懐中時計が1つ。


「中古で悪いな。いい形の未使用品は市になかったんだ」


「気を使って頂かなくても──」


「ほら、時計のシンボル……ロゴかな?」


 アオイの言葉を気にもせず、差し出された時計。その懐中時計には一片の薄い青の花が象られ──差し出した手の主は小さく笑う。


「アオイが名前の由来に使った葵草ってのは分からないけど、きっとこんなんだろうな、と思ってさ。違ってても許してくれ」


「……大事に使わせて頂きます」


「いつも色々代わりにやってくれてる礼だよ。気にしなくてもいいさ」


 恭しく受け取るアオイに小さく頷き返すと、またも取り囲んでいる人混みに飲まれていく。

 そんな彼をアオイは小さく笑って見送った。


 ──やっぱりあなたにはかなわないですね。

 ──葵草は石楠花の代わりにはなれませんよ。あなたを引き立てる事だけが私の役割なんです。


 そんな意味を込めて。



「アオイも一緒に準備しましょう?今日はパァーッといくです!」


「はいはい……」


 声をかけてくる妹分に穏やかに笑い返し、その小さな手に引かれ歩き出す。


 ……今日ぐらいは休んでもいいだろう。また明日も書類の量と面倒事に唸る事になる。

 明日にはまた葵草として立たねばならないのだ。仲間達に料理を作って、映画を見て、そして笑い合う。

 今のような時代の中でもそんな日があっていいハズだ。

 そんな事を思いながら、彼もまた人の輪へと入っていく。

 自分の居場所はここにしかない、この場所でしかない、そんな事を嬉しく感じながら。







 ……葵草、小さな花を付ける植物にも意味はある。そう彼は思っていた。

 それは石楠花にはない色で……睡蓮や雛菊とも違う形で居場所を彩る事だ。

 自分なりに咲いてみせる事だ。

 そう信じられるからこそ、『アオイ』の名前に彼は誇りを持つ。

 コードのないその身を誇りとするのだ。

あとがき



アオイさんの目立たせ方に悩みましたが、空気感がいなめなかったらごめんなさい。

アオイさんもいい人ですごく好きなんですが、今の段階(14辺り)では目立たせるのが難しいです。

いい人だし、設定も凄く好きな人物なんですけどね。

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