誰も私を見たことがない。
肉体は確かな重さを持ちそこに存在していた。
しかし、誰一人として私を見たものはいなかった。
人々は肉体から情報を造ることに長けていた。
ゆえに人々にとって私は肉体だった。
人々は肉体から私なるものを造った。
それぞれの人々はそれぞれが造り上げた私なるものに接した。
それぞれの人々は肉体の情報から自身が願望し、自身に都合の良い私なるものを造り上げていた。
私はそれぞれの人々が造り上げた私なるものを演じた。
私なるものの姿は人々のぶんだけ多種多様だった。
そこに私はなかった。
つまり人々が私を見ることはなかった。
つまり人々は人々自身のことをずっと見ていた。
そしてもし私を見ようとしたものはこんな筈ではなかったと、自身の造り上げた私なるものと私との差異に落胆し視力を失い、死んでいった。
ゆえに誰一人として私を見たものはいなかった。
私が演じてしまうからいけないのだろうかね…人々が造り上げてしまうのがいけないのだろうかね…どっちが先行して発生した事象なのだろうかね…私ももうよくわからん笑