第1話「カノジョができた」
作者序
昔、夏目漱石が、志賀直哉の文章を評して、こう言ったんだそうな。
「あれは文章を書こうと思わずに、思うまま書くからああいう風に書けるんだろう。俺もああいうのは書けない」
これを読んだ作者が、ついうっかり「よし、自分も思うまま書いてみよう」などと思った結果、こんな作品が生まれちゃったのである。
「思うまま」なのだから、世評や数字などには惑わされず、地道にコツコツ、マイペースに書いていきたいと思ってはいるが、さあ、どこまで気持ちが続くかな?(笑)
他ならぬ、作者自身が、一番自分を信じていない(爆)。
今日!!
人生が変わる!
変えてみせよう。
ずっと大好きな、
幼なじみの、
葵アズミに、
告白するんだ、
勇気を出して。
ついにできるんだ、
僕の人生、
初めての『カノジョ』が。
いち、
にぃ、
さん、
しぃ……
「優くーん! お待たせー!!」
やって来た。
満面の笑顔で、手を振りながら、葵アズミが、僕、赤井優のもとへと駆けて来た。
かっこつけてカタカナで表記しているのではない、本名が『葵アズミ』なのだ。
ショートカットとセーラー服がよく似合う、マイ・スペシャル・エンジェル(僕の特別な天使)、葵アズミ。
そんなアズミを呼び出したのはベタ中のベタ、体育館裏。
今日は中学校の卒業式の日。
伝えたいことがあるから、卒業式が終わったあと、ここへ来るよう、アズミに言っておいた。
正直、僕が何をしようとしてここに呼び出したのか、アズミにはバレバレなんだろうなと思う。
バレバレなのに笑顔……ということはつまり、これは『勝ち確』
「フッ……」
僕は思わず、ほくそ笑む。
「それで優くん、アズミに伝えたいことってなーに?」
アズミは笑顔のままだ。
イケる!
大丈夫!!
告白したらOKもらえる!!!
さあ、勇気を出して告白するんだ、赤井優!!!!
「え……えーと……」
「あ、そうだ。その前にね、アズミもね、優くんに伝えておきたいことがあるんだ。先に言っていい?」
「え? う、うん。いいけど、何?」
出鼻をくじかれてしまったが、急いては事を仕損じる。
ここは素直にアズミの話に耳を傾けようじゃないか、焦る必要はないのさ。
「あのね、いきなりこんなこと言ったら優くん、驚くかもしれないけど、アズミね……」
一人称が『アズミ』なのもかわいい。
「うん」
「あのね……うーんと……」
なぜかアズミはもじもじして、なかなか続きを話さない。
なぜだ?
はっ!!
まさかこれは……
わざわざ僕が告白するまでもなく、アズミの方から告白してくるパターンなのでは?
「あのね……」
あり得ることだ、だって『勝ち確』なんだから。
「どうしたの? 話って何?」
アズミの告白を夢に見て、僕はついつい話を促してしまう。
「うん、あのね……アズミね……」
「うん」
「今日……」
「今日?」
「カノジョが……できたんだ」
アズミが恥ずかしそうに言った言葉を、僕はすぐには理解することができなかった。