『第九十七章 終息』
神龍が倒された事で『フィールド』が解除され、タクマ達は大穴の外に頬り出された。
異空間のフィールドから出たことですぐネクトたちと合流できた。
そして遅れてバハムートもやってきて全員に無事に揃う事が出来たのだった。
戦いの疲れでぐったりしているとウィークス率いるワールド騎士団とも合流した。
ウィークスには全てを説明し、この山岳に巣くっていた聖天新教会の残党の捜索、後始末はワールド騎士団が行うとの事だった。
大事な戦いに間に合わなかった事を重く受け止めたのか、かなり責任を感じていた。
なのでここは彼等の行為に甘えることにした。
そして夜、ワールド騎士団野営テントにて。
「めっちゃ疲れた・・・。」
布団にうつぶせで倒れるタクマ、リーシャ、リヴの三人。
傍で武器の手入れをするネクトが呆れる。
「脱力しすぎだろ。」
「だって~、オリヴェイラを助けた時から始まったこの騒動もやっと落ち着いたのよ~?そりゃこうなるって~。」
ダラダラと寝そべるリヴが言った。
「確かにな。ずっと気を張りっぱなしの数日間だったもんな。」
「心身共にクタクタです・・・。」
同じ体勢でタクマとリーシャも口添えをする。
「そういやメルティナはどこ行った?」
「目が覚めた後リルアナと外の空気吸って来るってその辺を散歩してるぞ?」
メルティナはすっかりリルアナになついたようだ。
「・・・ねぇ主様。あの痴女女神が言ってたこと・・・。」
「・・・あぁ。」
途中で出くわした美神エルエナという女神がメルティナを見て『創造神』という単語を発した。
リーシャ達も気にしていたようだ。
タクマは一瞬記憶が戻った本人から直接明かされてはいるが、皆にはまだ話さないでほしいと本人に釘を刺されている。
だからタクマは何も知らないという事で話を進めた。
「メルティナさんが創造神て、一体どういう事なんでしょう?記憶が無いのと関係があるんでしょうか?」
「百パーあるでしょ!」
二人があらゆる考察を話し合う中、タクマは一言も発さず布団に倒れるだけだった。
それを見たネクトは何かを悟った。
深夜。
皆が寝静まる中、タクマがテントから出てきた。
「どうも寝付けねぇ。ちっと散歩するか。」
途中、外で眠るウィンロスの尻尾を踏んだ気がするがまぁ気のせいだろう。
タクマは少し見晴らしのいい草原にやってきた。
月明かりが綺麗に草木を照らしている。
「ん?あそこにいるのは・・・?」
草原の真ん中で立っていたのはネクトだった。
月明かりに照らされてか、彼の紺色の髪も美しくなびいていた。
「ん?何だ。タクマか。」
「どうしたんだ?こんな所一人で?」
「お前もだろ。」
二人は石の上に腰を降ろす。
「お前、メルティナが創造神だってこと確信してるだろ?」
「っ⁉」
タクマはビクッと驚く。
「どうしてそれを⁉」
「やっぱ図星か。何となく行ってみたが予感的中だな。」
「カマかけたなこの野郎・・・。」
ネクトはフッと笑みを浮かべ、更にムカついた。
「何で他の奴らに言わないんだ?」
「・・・本人に口止めされてるんだよ。」
「本人が?」
ネクトは理解が出来ていなかったがタクマの表情を見てそれ以上は何も聞かなかった。
「まぁ追及するつもりはない。言わない理由が解ればそれでいい。」
「助かる。」
タクマは石から立ち上がり夜空を見上げる。
「後はアイツの事だな。」
「・・・バハムートか。」
バハムートは従神ジエトの連れていたドラゴン、ニーズヘッグと何やら深い関わりがあるように思えた。
「これまでのアイツより明らかに動揺が激しかった。あの黒竜とバハムートは、過去に何かあったのかもしれない。」
「そう考えるのが妥当だな。だがかなりセンシティブな話かもしれないぞ?」
「あぁ、深堀をするつもりはない。本人から明かしてくれるその時まで待つ。相棒だからな。とりあえずこの事は伏せておくさ。皆にも言っておく。」
「・・・そういうところがあのドラゴン共に好かれるところなのかもな。」
「何か言ったか?」
「なんでもねぇ。」
ネクトも立ち上がりタクマの隣に立つ。
「それでネクト、とりあえず事件は終わったが、俺との決着はどうする?」
「・・・そうだな。」
その瞬間、ネクトは背中の長刀を取り下から薙ぎ払うように切り上げる。
タクマもほぼ同時に剣を抜きお互いの刃が首元スレスレでピタリと止まった。
「・・・ヘヘッ。」
「・・・フッ。」
二人は笑いながら武器を納めた。
「また引き分けだな。」
「あぁ、これで決着はお預けだ。」
だが二人の表情はどこか嬉しそうだった。
翌日、タクマ達はオリヴェイラの待つエリエント王国に戻ってきていた。
「タクマ様―――‼」
今度は華麗に避け王女の包囲をかわした。
気を取り直してオリヴェイラは彼らから報告を受けお礼を言った。
「この度、私の依頼を承っていただき本当にありがとうございます。」
「でも全員は助けられなかった。すまない・・・。」
神龍復活の贄とされたエルフ達の事を思うとやはり心残りがあった。
それでもオリヴェイラは優しく微笑んだ。
「いえ、皆さまがいてくださらなければもっと多くのエルフが命を落としていたかもしれません。皆さまには本当に感謝しかありません。」
そう言い再び頭を下げた。
「そちらのイフルも貴方がたを責めたりはしませんよ?」
バッと振り向くと柱の陰からイフルが顔をだした。
「お前いたのかよ・・・。」
「えへへ、ごめんね?」
イフルからも同胞を救ってくれた事を感謝された。
「タクマ達を見てると、あの人の事を思い出しちゃうな・・・。」
「あの人?」
「ううん、何でもない。」
その時のイフルはどこか寂しそうな顔をしていた。
城を出ると外では赤毛のネオンが待っていた。
「よっ!」
「ネオン!あれ?ウィークスたちはどうした?」
「ワールド騎士団は放浪の騎士団。もう出立の準備が出来ててな。今すぐ出発なんだよ。」
「え!もう行っちゃうんですか⁉」
「何?俺に会えないのが名残惜しい?」
「あ、そういう訳ではないです。」
ズバッと言い切られたネオン。
「だよね~・・・。」
「でもワールド騎士団、お前やウィークスには世話になった。教会の残党も残らず捕らえてくれたし、ウィークスにありがとうって伝えてくれ。」
「あいよ。じゃあまたどこかでな!」
そう言い残し手を振りながらネオンと別れたのだった。
それから数日。
戦いの疲れを癒すため、エルフの大森林のイフル宅で数日を過ごした。
その間、村のエルフ達も同胞救出の宴会が開催され、静かな森はとても賑やかとなった。
そして騒ぎすぎて更に疲れたのは言うまでもない。
そして、旅立ちの時が来た。
「行くのか?」
「あぁ、生きる目的も出来て仲間も増えた。こいつを絶望させるため旅を続けるさ。」
「改めて聞いてもなんちゅう理由やねん・・・。」
ウィンロスがツッコみを入れる。
「そういえば二人の決着はいいの?」
リヴが問うと、
「いいんだよ。結局引き分けだ。だから次に会う時までもっと強くなってから決着を付けようと思ってな。」
ネクトも頷く。
「なるほどね。」
「今後の楽しみが増えたな。」
リヴもバハムートも納得してくれた。
(特に再戦を楽しみにしていた二頭だったからな。)
傍でメルティナがリルアナとの別れを惜しんでいた。
メルティナは涙目になって今にも泣きそうな顔だ。
「大丈夫よ。いつかまた会えるから。」
二人は強く抱きしめ合った。
そしてエルフの大森林からネクトとリルアナは旅立っていく。
割と長い間共に居たためか、少し名残惜しい気持ちになった。
だがネクトと言うとんでもないライバルが出来た事はタクマにとって嬉しいものだった。
二人が見えなくなり、タクマはバハムート達の方を振り返る。
「さあ皆!旅を続けようぜ!」
「「「おーーー‼」」」
タクマとリーシャはバハムートの背に、リヴ、メルティナはウィンロスの背に飛び乗る。
二頭は力強く羽ばたきエルフの大森林を出発した。
村のエルフ達に見送られ空を飛ぶ。
途中巨木の上からイフルがタクマ達を遠くから見ていた。
「私も、また旅に出ようかな。」
イフルはとある青年と七人の影を思い出す。
「・・・君は死んでいないと、何故かそう思う。だからそれを賭けて、また皆に会いたい!きっと見つけるよ、レイガ!」
空を切るバハムート達はエリエント王国の上空にまでやってきた。
城の方では王女のオリヴェイラ、侍女、暗殺者のアサシンが手を振っていた。
タクマはまた会おうという意味を込めてサインをする。
王国を通り過ぎると街道でワールド騎士団が進行しているのが見えた。
ウィークスたちもこちらに気付き手を挙げた。
タクマ達も手を振り団体を追い越していく。
「さぁ、行くぜ!」
バハムートは咆哮を上げ空の彼方へと飛翔していったのだった。




