『第九十四章 集結』
大穴を覆いかぶさるように張り巡らされたドーム状の光の壁。
虹色に濁っており中は見えないでいた。
「どうしよう・・・。」
上空でグレイス・ド・ラルに乗るリーシャが途方に暮れていた。
「きっとタクマさんはあの中だ。でもこのドームが邪魔で中に入れない・・・。魔法も何発か打ったけどビクともしない。どうにかあのドームに隙間を入れないと・・・!」
中に入る手段を模索しているとウィンロス達が遅れて合流した。
「リーシャ!主様はあの中?」
「はい。でもあのドームが行く手を阻んでいるんです。小さな隙間でも作れればなんとか・・・。」
「クロスも中にいる。早いとこ合流したいとこだが・・・。」
「とにかく攻撃を続けましょう!皆さんの技を一点にして打てば穴を開けられるかも!」
全員は技の構えを取り、そして、
「お願いします!」
「ウィング・サイクロン‼」
「ストリーム・ブラスト‼」
ネクトは魔槍オメガ。
ロキは背中のミサイルを放ち、同時にドームに直撃する。
「どうや?」
煙が晴れると虹のドームには傷一つ付いていなかった。
「無傷⁉」
「全員の技をぶつけてもダメか・・・。」
一番の力を持つバハムートは今ニーズヘッグの相手をしている。
この場にいる者達だけで突破するしかなかった。
「神か神龍のどちらかがこの魔法を使ったんだと思うが・・・。」
「・・・神?」
リーシャはふと何かが頭の中を過った。
(何か引っかかる・・・。何だっけ?)
う~んと唸りながら考え込んでいるとピーンと思い出した。
「思い出した!」
「え、何が?」
「前にバハムートさんに言われた事があったんですが、私の魔力は神に対しての特攻があるんですよ!」
「神特攻?どういうことだ?」
「私の魔力を全力で乗せた技ならもしかしたらあのドームを壊せるかもしれません!」
「いやいや、私達全員で傷一つ付かないのよ⁉神特攻がどれほどか知らないけどリーシャ一人なんて流石に無理じゃ・・・!」
「ラル!お願い!」
(分かった!)
有無を言わせる間もなくリーシャはドームに突撃した。
「リーシャ!」
勢いよく急降下していくラルの背中でリーシャは杖に自身の魔力を溜める。
「この速度を上乗せすれば!」
魔力が最高潮に達し、杖から膨大な魔力が溢れ出る。
「『死滅の光神』‼」
猛スピードから放たれる『死滅の光神』は加速が増しドームにぶつかる。
火花を散らすがやはりドームに傷一つ付かない。
「やっぱり無理なんじゃ・・・。」
そう思った時、ラルが『死滅の光神』目掛けて突っ込む。
(まだまだぁぁぁぁ‼)
強烈な蹴りを繰り出し『死滅の光神』を押し込んでいく。
「技の量増しだと⁉」
「・・・なるほど、その手なら!」
「そういうことか!」
リヴとウィンロスは急降下し『死滅の光神』の威力重ねに助太刀する。
「リヴさん!ウィンロス!」
「アンタ達だけじゃ負担が重そうだからね。力貸すわ!」
「早いとこタクマと合流してあのムカつく神と神龍をぶん殴ってやろうや!」
「~!ありがとうございます!」
四人の技が一つになりドームにダメージを与えていく。
その様子を遥か上空で見下ろすネクトとロキ。ロキの背中からリルアナが顔を出す。
「ネクトは加勢しないの?クロスも中にいるんでしょ?」
「・・・あの輪の中に入るには、俺には少し眩しすぎなだけだ・・・。」
一方、ドームの中に広がる神龍の『フィールド魔法』。
愚かにも神龍を暴走させてしまったジエトは悔しそうに歯を食いしばっていた。
「俺が、この俺が神龍をギリギリ従えていただと?俺は神なんだぞ?神龍くらい余裕で配下に出来るはずなのに、なのに何故だ!何故なんだ‼」
相当自信があったのか神龍を手中に収められなかった事実を受け入れられない様子。
神としてのプライドが許せないでいた。
苛立ちと怒りがこみ上げるジエトは神龍と戦うタクマ達に目が移る。
「アイツだ・・・!アイツが邪魔をしたから・・・!」
余りの苛立ちに逆恨みするジエトは翼を開き、タクマの方へ飛翔していった。
「ブレスが来る!クロス!」
「グルゥ!」
神龍の巨大なブレスを何とか避けるが徐々に足場が失われ、クロスの移動手段が狭まれていた。
「近づこうにも相手に死角がない。俺だけならまだしもクロスが・・・。」
苦戦していると側方からジエトが迫ってきてタクマに掴みかかった。
「うわっ⁉」
二人はそのまま後方へと飛んでいく。
クロスも慌てて後を追うとするが神龍が行く手を阻む。
「ジエト!」
「お前が、お前さえいなければ!」
タクマは掴みかかるジエトを振り払い炎の竜化となり飛翔する。
それをジエトは落とそうと魔法を連発する。
タクマも負けじと放たれた魔法を切り裂いたりと凌ぐがジエトの勢いが凄まじかった。
「タクマァァァァ‼」
「ちっ!」
激しくぶつかる二人。
剣と魔法陣が火花を散らす。
「俺はテイマーの神だ!神の俺は神龍を手中に収めることが出来るんだ!それがどうだ!今の神龍は俺の言う事を聞かず暴走?ふざけるな!俺のテイムは完璧なんだ!奴が暴走したのはお前が俺の計画を妨害したからだ!お前さえいなければ完璧だったんだ‼」
「逆恨みもいいところだ!狂言も大概にしろ!」
剣で振り払い距離を取る。
「居合・一閃!」
一瞬の一閃がジエトに直撃する。
今までは避けたり魔法で防がれたりしていたが今のジエトは軽い狂乱状態。思考も鈍っておりその一撃が入ったのだった。
「ぐふっ⁉」
その時、ジエトの頭の上に光の輪が現れた。
どうやら存在の要である天使の輪を魔術で隠していたらしく、そこにタクマに一撃が決まったことで魔法が解除されたようだ。
「天使の輪!あそこを砕けば!」
だがそう簡単に輪を切らせてはくれない。
「俺はレーネのように油断はしねぇ!やれるもんならやってみやがれ!」
二人の戦いを遠くから伺うクロスも神龍に向き直る。
神龍は未だに暴走状態。
「~~~~~~っ‼」
咆哮を上げクロスに迫る。
クロスは神龍の突進をかわし背中に張り付いた。
神龍は振り払おうと縦横無尽に暴れまわる。
クロスも負けじとしがみ付き耐える。
「グゥ!」
しかし何度も岩にぶつかり破片がクロスを襲い、クロスは手を離してしまい雲海へと落下してしまった。
「クロス!」
「ドラゴンの心配してる場合か?」
よそ見をした隙にジエトがタクマの腹に手をかざす。
「まずは自分の心配をするんだったな!」
かざされた手から高熱が発せられる。
「『ロスト・エクスプロージョン』‼」
至近距離から起爆され大爆発を起こす。
大ダメージを受けたタクマが落ちていく。
「神に楯突いた罰だ。奈落の雲海を永遠に落ち続けるがいい!」
勝利を確信し高らかに笑うジエト。
その時だった。
頭上の空間にヒビが入ったのだ。
「ん?」
徐々にヒビが広がり、空間の一部が激しく砕け散る。
「うぉっ⁉」
破片がジエトに降りかかる。
「おっしゃぁぁぁ‼入れたでぇ‼」
「急いで主様を探さないと!」
「タクマさーーーん‼」
神龍のフィールドを打ち破ってリーシャ達が入ってきた。
「いた!タクマさん!」
落下するタクマを見つけ急降下するラルがタクマを助けた。
「タクマさん!」
「ありがとうリーシャ。助かった。」
そして遅れてネクトたちもリーシャ達が明けた隙間から現れ、猛スピードでクロスを救出する。
「待たせたな、クロス。」
上空でジエトがギリッと歯を食いしばる。
「死にぞこないの下等生物が・・・!」
翼を翻し急降下する。
一方でタクマはこれまでの状況を説明し終える。
「・・・なるほど、無理な極限状態で神の手から外れ暴走、自分の力量を過信しすぎた結果ってことね。」
「アホやな~。」
二頭は呆れていた。
「それで逆恨みしてタクマさんに掴みかかってたんですね。あの神様もどうにかしなきゃですけど、一番の問題は神龍。神龍の相手は皆さんにお願いしても良いですか?」
ネクトたちもその場に飛んできて合流する。
「お前はどうするんだ?」
「私はタクマさんと共に神を倒します!」
「リーシャ⁉」
タクマは思わず声を上げる。
「私の神殺しの力なら太刀打ちできると思うんです。お願いしますタクマさん!二人でこの事件を終わらせましょう!」
決意の眼差しでタクマを見るリーシャ。
「・・・あぁ、この戦いに決着をつける。一緒に戦ってくれ!リーシャ!」
そこにジエトが迫ってきた。
「来たぞ!」
「バハムート、お前の技、借りるぞ!」
剣を抜き、バハムートの『魔法壁』をコピーし発動させた。
ジエトの目の前に円形状の半透明な魔法壁が平行に展開される。
「何だ?」
魔法壁の足場に立つジエト。そこにタクマとリーシャも降り立つ。
「ケリつけようぜ・・・!」
暴走状態で辺りを飛び回る神龍の相手はネクト組とウィンロス、リヴ、ラル。
飛び回る神龍を追うようにネクトたちも後に続く。
「早ぇなアイツ!」
「極限解放でスピードも上がってるのね。」
「クロス、行けるか?」
ロキにぶら下がるクロスが頷く。
「よし!行くぞ!」
ネクトの槍が開き従魔結石が姿を現す。
結石が輝くとロキが各パーツに分解する。
それと同時にロキの中にいたリルアナがポーンと投げ出され、ウィンロスの背に落ちる。
パーツはクロスの各部位に装着、背中のジェットの翼が火を噴きクロスは飛翔する。
「武装竜・ネガクロス‼」
ロキと合体したネガクロスとなり飛行を可能にした。
「リルアナの嬢ちゃんはリヴに乗っとき。コイツあんま揺れへんから。」
「分かりました。」
「ちょおい。」
「グオォォォ‼」
ネガクロスの力強い咆哮に神龍が気づいた。
方向転換し真っ直ぐこちらに迫ってくる。
「来るぞ!気合入れろ!」
「言われなくてもやったるわ!」
神龍の風圧で一同は散開、各方向から攻撃を仕掛ける。
「ウィング・サイクロン‼」
ウィンロスの暴風が神龍の頭部に命中。
「こっちやこっち!」
注意を自身に引かせ神龍は逃げるウィンロスを追い始める。
ウィンロスは漂う岩の間を自慢のスピードで駆け回っていく。
神龍は小さな岩なら砕きながら直進してくる。
そこに岩の陰からリヴが現れ、頭部に乗っているリルアナが鏡の幻影を出す。
「『亡霊の鏡』‼」
鏡でフィールドの太陽を反射させ神龍の目に直撃させる。
神龍は目をくらまし隙が生まれる。
「今だ!」
その隙をつき頭上からネガクロスが急接近。
脳天に鋭い蹴りを食らわせた。
下へ切り飛ばされた神龍は一際大きな岩に叩きつけられる。
だが神龍はゆっくりと頭を上げた。
「チッ、流石極限状態とやらは固いな。」
「アレは力が爆発的に上がるけど長く続かないし、何よりものっ凄い疲れるわ。」
「せやねん。身体中バキバキやねん!」
極限状態経験者が語る。
その言葉を聞いたリルアナがふとある提案を出した。
「だったらそのタイムリミットを狙えばいいんじゃない?」
「・・・なるほど!主様は従魔結石を埋め込まれたからああなったって言ってたわ!じゃぁその結石を外しちゃえば極限状態は解除される!」
「なるほど。いけるかもな。」
三頭は岩から飛び上がる神龍に向き直る。
「タクマ達も戦ってるんや!ここでやらな男が廃るで!」
「私女なんだけど?」
「神龍を黙らせる!行くぜ‼」
いよいよ、この事件に終止符が打たれる!




