『第九十二章 従神VS竜』
巨神山岳から遠く離れた森の中。
ウィークス率いるワールド騎士団の団体が進行していた。
「先ほどの地鳴りと魔獣の叫びのような音は何だ?山岳の方から聞こえてきたような気もするが・・・。」
ウィークスは持ち前の察知能力で神龍の復活を薄っすら感じ取っていた。
「俺は何も感じませんでしたけど、団長の察知は人間離れしてますからね。」
副団長のネオンが言う。
「もしかしたらタクマ達の身に何かあったのかもしれない。急ぐぞ!」
ウィークスが号令をかけ馬を走らせていくのだった。
剣と魔法陣の激しい衝突が火花を散らす。
互いにドラゴンに乗り空中を駆け回っていた。
「海竜・リヴァイアサン。海の帝王を手懐けるとは案外やるな。」
「言ってろ!」
鋭い一撃がドラゴンごと弾き飛ばす。
「リーシャ!メルティナは大丈夫か?」
激しく動き回っているため非戦闘員のメルティナの容態が気に掛かっていた。
「ちょっと厳しいかもしれません。」
案の定メルティナは酔いを起こしており、顔が青くなっていた。
「やめてね?私の上で絶対やめてね?」
顔面蒼白のメルティナにタクマは、
「仕方ねぇ。リーシャ、異空庫に縄とか紐ないか?」
「ありますけど?」
「ならメルティナを俺の背中にグルグル巻きにしてくれ。」
よくわからないが言われた通りメルティナをおんぶさせ紐でグルグルに固定した。
「後はローブで羽織って・・・よし。」
タクマの背中にメルティナがすっぽり格納された。
「メルティナを背負って、戦いづらくない?」
「軽い軽い。むしろ軽すぎて心配になるくらいだ。俺のローブは旅に出る前にバハムートが反射の術式を組んでくれたんだ。これに包まれてる方がむしろ安全だ。」
「なるほど。」
とにかくこれでメルティナの安全は確保できた。
「・・・で?準備は済んだか?」
律義に待っててくれたジエトが声を掛ける。
「行くぞリヴ!」
「えぇ!皆もしっかり捕まっててね!」
リヴが勢いよくニーズヘッグに迫る。
「受け止めろ!」
リヴの突進を力任せに止めるニーズヘッグ。
そのまま角を掴み投げ飛ばした。
「きゃぁぁぁ⁉」
「リーシャ!」
リーシャが足を滑らせリヴから落ちてしまった。
「クゥーーー‼」
ラルがリーシャに飛び移る。
「ラル!」
リーシャの従魔結石が青く発光、ラルが球体に包まれた。
『覇王進化!グレイス・ド・ラル!』
半透明の翼膜を有した純白の翼竜へと進化しリーシャを助けた。
「何あれ⁉知らない進化なんだけどぉ⁉」
「新しい力を手に入れたのか。」
当然二人は驚いた。
ラルはリーシャを乗せたまま飛翔してきた。
(氷属性の進化だと思う。お姉ちゃんとおそろいだね。)
無垢の笑顔で言うラルにリヴは心を打たれた。
そこにジエトとニーズヘッグが奇襲を仕掛けてきた。
「『デスクロー』!」
闇を纏う爪がリヴに襲い掛かる。
だがその一撃をタクマが受け止めた。
「まだまだ!」
そのままリヴからニーズヘッグに飛び移りジエトに剣を向ける。
ジエトも魔法陣で剣を受け止めるが、
「少し場所を移そうぜ!」
タクマは水の竜化となり水の尻尾でジエトを掴みニーズヘッグから共に飛び降りた。
「ぬお⁉」
二人はそのまま落下し山岳の岩石地帯に落ちた。
「タクマさん⁉」
「大丈夫よリーシャ。主様を信じて。」
「・・・はい!」
残ったニーズヘッグに再び攻めるリヴ達だった。
地上に落ちたタクマとジエト。
「いつつ・・・人間が神を道連れに堕とすとは・・・。だがニーズヘッグと離しただけで何の支障もない。すぐ戻ればいいだけのこと。」
「それをさせないために俺も落ちたんだよ。」
ジエトが声の方を振り向くと土煙の中から水の竜化姿のタクマが現れた。
「人間があの高さから落ちたら普通死ぬぞ?」
「竜化は耐久力も上がるからな。さぁ、あの黒竜はいない。タイマン勝負だ!」
タクマは炎の剣を構えた。
しかしジエトは俯き静かに笑い始める。
「・・・フフフッ、タイマン?お前、俺が何なのか忘れたのか?」
そう言い指を鳴らすと複数の魔法陣から狼、オーク、昆虫種、様々な魔獣が同時に召喚された。
「俺はテイマーの神だ。使い捨ての駒など腐るほどいる。お前のようなただの人間に勝ち目などない!」
「やってみないと分からないだろ!」
両者は睨み合い風が吹き荒れる。
「行け!」
ジエトの号令で魔獣が一斉にタクマに襲い掛かる。
「『居合・波紋の太刀』‼」
まるで波紋が広がるような水の刃が魔獣を一掃する。
魔獣をかき分けジエトに直進するタクマ。
「居合・鬼炎!』
炎の一閃が決まろうとするが、
「『完全の防壁』。」
七色に輝く見えない壁に弾かれしまった。
「っ⁉」
「全属性対応の防壁だ。どんな属性魔法も全て無効化し、俺に攻撃は永遠に届かない。」
そして指を軽く動かし防壁でタクマを押し飛ばした。
受け身を取りダメージは逃れるがジエトの絶対防御魔法に手の打ちようがなかった。
(レーネのバリアを思い出すな。)
それでも炎、風、水、無の技を繰り出す。
だがジエトの言った通りどの属性も七色の防壁の前では無意味だった。
「無駄だと言ってんのにな。」
「似たようなことをレーネにも言われたからな。それでも俺はアイツに勝った!」
剣を弾き距離を取る。
「この世に完璧はねぇ!必ず穴がある!」
鞘を取り出し頭上で剣をしまう。
そして、
(?普段と違う構え?)
普段は鞘を腰につけたままだったが今は鞘を手に取り、背中で垂直に立てるように構えていた。
次第にタクマの回りの空気が震えていく。
そこに魔獣がタクマを囲うように襲い掛かる。
「『居合・大壊殴巖』‼」
背後から振り下ろすように居合抜刀、地面に叩きつけ地割れから光が放出。
そして凄まじい爆風と衝撃が魔獣を全て吹き飛ばしたのだ。
「ぬぉっ!」
爆風で体勢が崩れかけるジエト。
これまでのタクマの技の中で一番破壊力が高い。
(咄嗟に編み出した技。威力がデカい分負担もデカい。あまり連発は出来ない。)
素早く通常の構えに直し力を溜める。
「居合・月神速!」
神速の一撃が防壁ごとジエトを押して行く。
「グウゥゥゥ!」
「ウオォォォォ!」
次第にタクマの髪が赤髪化、背中に炎の翼が現れ竜化していく。
そして二人はそのまま神龍の現れた大穴へと到達し落ちていった。
瓦礫で崩れ穴底は浅くなっており地面に激突する。
瓦礫をかき分け立ち上がるタクマとジエトは息をつかせる間もなく激しくぶつかり合うのだった。
上空ではリヴとニーズヘッグが空中戦を繰り広げている。
「ストリーム・ブラスト!」
「エア・ショット!」
リヴのブレスにリーシャの風魔法が加わり水の弾丸となってニーズヘッグに直撃する。
しかしニーズヘッグの固い鱗には傷一つ付かない。
「グオォォォ‼」
「やっぱりおじ様じゃないと攻撃が通らない!リーシャ、おじ様を呼んできて!」
「え、でもリヴさん一人じゃ・・・!」
「時間稼ぎくらいは出来るわ!でもなるべく早くね。行って!」
リーシャは言う通りにラルに乗って戦線を離脱した。
そんな彼女をニーズヘッグは追いかけようとしたがリヴのブレスで阻まれた。
「アンタの相手は私よ!」
グレイス・ド・ラルに乗ってバハムート元に急ぐリーシャ。
(あの黒竜はレベルが違う。急がないとリヴさんが・・・!)
すると前方に巨大な龍が見えてきた。
神龍だ。
「バハムートさーーーん‼」
「娘か?」
神龍と戦うバハムート達と合流するリーシャ。
「嬢ちゃん無事やったか・・・誰やお前⁉」
ウィンロスは初見のグレイス・ド・ラルに驚く。
(ボクだよお兄ちゃん。ラル。)
「ラル⁉また知らん姿になっとるやん!前にもあったわこのデジャヴ!」
そんなことをわめいているとロキに乗ったネクトが飛ばされてきた。
「あべし!」
不運にもウィンロスに衝突してしまう。
「ネクトさん!」
「お前か。ここは危ねぇぞ。離れてろ。」
そう言われるがリーシャは理由を説明した。
「・・・そうか。リヴがニーズヘッグと・・・。」
「あの黒竜に太刀打ちできるのはバハムートさんしかいません。お願いします!」
リーシャは深々と頭を下げる。
「無論だ。奴は我が相手する。いや、相手しなければならん!」
バハムートは黄金の翼を羽ばたかせ猛スピードで飛行していった。
「向こうは旦那がいれば十分やろ。」
神龍は未だに敵対意志を向けている。
「目が赤い・・・。あれは、神龍の意志ではない気がします。」
「その考えは大体当たりだと思う。エルフの話じゃ神龍は自ら封印を選んで眠っていた。それを神が無理やりたたき起こし、操ってる。神龍自身に戦いの意志はない。命令で意に反しながらも戦わされてる可哀そうな龍。」
ロキの中からリルアナがひょこっと顔を出す。
「従魔を無理やり、か。相手の意志を押し殺して従わせる。それが神がやる事かいな?オレは嫌いやで。テイマーと従魔は互いに命を預ける一蓮托生の関係や。一方的な関係は長続きせんで。」
ウィンロスの言葉にリーシャはあることを思いついた。
「長続きしない・・・?それです!」
ビシッとウィンロスを指し、ウィンロスはビクッと驚く。
「倒す必要はないんです!神龍を操っている大元、従神を倒せば神龍も解放されます!」
「なるほど。タクマが従神を倒すまで俺達で引きつけておけばいいって事だな?」
「時間稼ぎか。でも急いだほうがありがたいわ。アイツ技の威力デカすぎて余波だけで周りが少しエグレとんねん。早よ決着つけてとタクマに伝えてや。」
「分かりました!ラル、お願い!」
(任せて!)
ラルとリーシャはバハムートに続くように離れていった。
そしてウィンロス達は神龍に向き直る。
「さぁて、サンドバックになるつもりはねぇが相手してもらうで神龍!」
ウィンロスは足の指をポキポキ鳴らして言った。
「お前の足は手か。」




