『第九十一章 復活』
大地の奥底からシャンデリアのような咆哮と地響きが鳴り響く。
「何だ⁉」
タクマ達も揺れる大穴にしがみ付く。
それは別の場所にいるネクトたちもそうだった。
「うぉっ⁉」
「きゃー(棒)」
体勢を崩し地に手をつく。
「何⁉この揺れ⁉」
ネクトたちと交戦していた美神エルエナも何が起きているのか分かっていなかった。
「ついに目覚めたか。」
従神ジエトが笑みを浮かべる。
口笛を吹きニーズヘッグを呼び寄せた。
ジエトはニーズヘッグの背に飛び乗りタクマ達を見下ろす。
「早くここから離れた方がいいぜ?巻き込まれて死にたくなければな。」
そう言い残し大穴の上へと飛んで行った。
「巻き込まれて?」
すると地面から次第に地響きが近づいてきていることに気が付いた。
「何か来る⁉」
「タクマ‼」
バハムートが飛翔してきてほぼ同時にウィンロスとリヴも合流する。
「お前等!大丈夫なのか⁉」
「平気や。俺の回復魔法である程度はな。」
「でもちょっとキツイ。しばらく身を任せてもいい?」
「なら我の背に乗っておけ。」
「ありがとおじ様。」
リヴは人化しバハムートの背に乗った。
そこにリーシャ達も合流してきた。
「リーシャ!無事だったん・・・。」
「早く逃げてーーー‼」
背負わされたリーシャの耳元で大声で叫ぶメルティナ。
「え、え⁉」
メルティナの勢いに乗せられ合流した一同はバハムートの『空間移動』で洞窟の外へと脱出した。
そして先ほどまでいた大穴の地面が地響きで砕け、暗闇の奥から黄金の鱗粉をまき散らす純白の龍が這い上がってきた。
轟音と共に大穴を登っていく。
「あぁもう!砂ぼこりが髪に着いちゃう!もうこんな所絶対に来ないわ!」
文句を言いながらエルエナは天界へと帰って行った。
「アイツ何しに来たんだ?」
残されたネクトとリルアナ。
地響きは思いのほか大きく今いる空間も崩れる寸前だ。
「ここにいたら俺達も危ない。クロス!戻れ!」
「グル!」
クロスは指輪に変化しネクトの手元に戻る。
そして入れ替えるようにもう一つの指輪を投げる。
「来い!ロキ!」
投げた指輪から魔械竜ロキが現れる。
二人はロキの背に飛び乗る。
「脱出する!リルアナ、しっかり捕まってろ!」
「うん。」
ぎゅっと背中に抱き着く。
「頼むぞ、ロキ!」
「グオォォォ‼」
二人を体内に収納し、勢いよく天井に突っ込んで脱出した。
巨神山岳の上空に転移してきたタクマ達一同。
「ホント便利やな。旦那のスキル・・・。」
そこに山から土煙を上げてロキがロケットのように飛び出してきた。
「あぶね⁉」
勢いあまってウィンロスに衝突しそうになった。
そしてロキの背中からネクトとリルアナが出てきた。
「ネクトさん!リルアナさん!」
「二人とも無事だったか。」
「まぁな。あの女神は文句言いながら消えていったぜ?」
「・・・確かに神の気配が一つ消えた。天界へ帰ったようだな。」
「一先ず脅威は一つ消えたってことか。」
教会の老人もリーシャ達が倒し、残すは従神ジエトのみ。
そんなことを話していると突然山岳の一つが崩れ落ち、広い土煙の中から巨大な龍が現れた。
「~~~~~~~っ‼」
シャンデリアの咆哮がタクマ達に襲い掛かる。
「ぬあぁぁ!ガラスがこすれるような声しとる‼」
「まさかアレが・・・!」
「あぁ・・・、神龍だ!」
とうとう復活してしまった神龍。
純白の身体に黄金の鱗粉が舞う。
とても神秘的な龍だ。
しかし、どこか様子が変だ。
「何か、混乱しているように見えます。」
「そりゃそうやろ。誰でも熟睡してる時に無理やりたたき起こされたら不機嫌にもなるで。」
「そんな生やさしいレベルじゃない気がするけど?」
にゅっと顔を出して言うリヴ。
神龍はしばらくその場に佇んでいる。
無理やり封印を解かれた事でまだボケているようだ。
「・・・なぁ、神龍は言葉を交わせるか?」
「ネクト?」
「もし言葉が通じるなら今のうちに手を打てば戦わずに済むんじゃ・・・?」
その言葉に全員がハッと気づく。
確かに戦わずに済むならそれに越したことはない。
そうと決まれば決行するのみ。
「ネクトの言う通りだ。神龍自身に罪はない。今のうちに・・・!」
しかし、そんな希望もいとも容易く打ち砕かれてしまう。
ボケる神龍の前に漆黒のドラゴンが現れた。
ジエトだ。
「待ちわびたぞ、神龍よ。さぁ、今こそ我ら七天神、新生創造神様の望む新世界のため、俺の手となり足となれ‼」
ジエトは手をかざし神龍をテイムしようとしていた。
「アイツ!神龍をテイムしようとしてるわ!」
「それアカンくね⁉あんなのが神の手に落ちたらとんでもない脅威になるで⁉」
「阻止するぞ!」
一同は急いでジエトに向かうが、あと一歩届かなかった。
凄まじい衝撃波が放たれバハムート達を押し止めた。
そしてジエトの隣に立つように神龍がこちらに牙を向けていた。
「これで、俺の目的は達した。」
「そんな・・・。」
リーシャとメルティナは完全に顔が青くなっている。
「さぁ腕試しだ。まずはそこにいる奴らを消し炭にしろ!」
「~~~~~~っ‼」
ジエトの命令でこちらに迫ってくる神龍。
「避けろ‼」
神龍の突進を避けるがその風圧で吹き飛ばされてしまう。
「うぉぉぉ⁉」
なんとか体勢を立て直すバハムート。
だがその巨体に反し素早く、気づいた時には既に至近距離からブレスを放つ寸前だった。
「くっ‼」
咄嗟に魔法壁を展開し神龍のブレスを受け止める。
だが威力が強く、バハムートはタクマ達を乗せたまま落下してしまった。
「うわぁぁぁ!」
「きゃぁぁぁ!」
そこにリヴが竜化しその長い巨体で全員を受け止めた。
「すまねぇリヴ。お前も負傷してるのに・・・。」
「これくらいならどうってことないわ。主様。」
バハムートも立て直し飛翔する。
「すまぬリヴ。しばしタクマ達を頼めるか?」
「任せて!おじ様!」
バハムートはそのまま飛んでいきウィンロスと合流する。
「ありゃヤバいで。旦那。」
「あぁ・・・。」
神龍は二頭を睨む。
完全に操れてしまっているようだ。
「せめて奴のテイムを引き剥がすぞ!」
「あいよ!」
二頭はそのまま神龍に攻めていった。
一方タクマ達はリヴの頭上に乗って状況を把握していた。
「神龍はバハムート達に任せよう。その間に俺はジエトを倒す!」
「それなら私達も!」
「えぇ!」
「・・・ありがとな。」
タクマ達はジエトの元へと向かっていった。
「・・・あ?」
遠くからリヴが迫ってきていることに気付くジエト。
「懲りない連中だ。だが丁度いい。神龍の扱いに慣れるため、実験台になってもらおうか。」
ニヤリと笑みを浮かべる従神ジエトだった。
バハムート達よりも遥かに巨体な神龍。
その上動きも素早いためどんなに攻撃を仕掛けても狙った位置に届かないでいた。
そこに吹き飛ばされていたネクトたちが戻ってきた。
「状況は?」
「タクマ等は従神ジエトと衝突、神龍は現状手を焼いている。」
「なら加勢はこっちだな!」
ネクトたちも神龍に向く。
「~~~~~~っ‼」
「くっ!咆哮だけでこの威力・・・!」
「リルアナ。お前はロキの中に隠れてろ。」
「・・・分かった。」
ネクトは指輪を放り投げクロスを呼び出す。
呼び出されたクロスは翼を持たないため、ウィンロスの背に着地した。
「重‼なしてオレの上⁉」
精鋭は揃ったが相手は神の力を持つ神話級の龍。
果たしてどう立ち向かうか。
「考えても何も得ない!なら、行動あるのみ!」
そう言いネクトはロキと共に神龍に突っ込んでいった。
クロスもウィンロスを踏み台にして後に次ぐ。
「あげしっ⁉」
蹴られたウィンロスが落下していく。
「我らも続くぞ!」
「あ、ちょい待って~!」
クロスの腕を掴み飛行するロキ。
「クロスなら一人で何とか出来る。ロキ、狙って落とせ!」
指示通りロキが掴んだ足を離し、クロスを神龍の胴体に着地させる。
「クロス!ダメ元でいい!暴れまくれ!」
「グオォォォ‼」
長い神龍の胴体を縦横無尽に駆け回り攻撃を仕掛ける。
神龍には大して効いていないようだが何もしないよりはマシだ。
その間にロキが神龍の頭部に攻め入る。
「我流・突貫‼」
強力な突きが脳天に炸裂するが神龍には傷一つない。
「なんて硬さだ・・・!」
そして強力な覇気がロキ諸共弾き飛ばした。
「うぉっ!」
「馬鹿者!手当たり次第に突っ込むな!」
バハムートが飛んできてロキを受け止めた。
そこに反撃のように神龍が口部に魔力を収束させていた。
「いかん!避けろ!」
散開する一同に強力な光のブレスが放たれる。
放たれたブレスは空を切り、直線状に空が黒く変色。
宇宙が見えたのだ。
「マジかよ・・・。」
ブレス一発で空を割るほどの威力。
やはり神龍はとんでもなく強力な力を持っているようだ。
「あんなんに立ちはだかれたら命が幾つあっても足りへんで!」
「テイムされて間もない今が好機。なんとしても神龍を神の手に堕とさせるな!」
ネクトも危険性を理解し槍を構えた。
「神は頼むぞ、タクマ!」




