『幕間の外伝 小さな料理人?』
タクマ達が東街セクレトに向かう道中、その野営場所にて。
「さぁ飯だ。食え。」
訳あって同行しているネクトとその従魔二匹。
今夜の食事当番はネクトだった。
しかし彼が出した料理は・・・。
「黒っ!」
ウィンロスがツッコむのも無理はない。
出された鍋には得体の知れない液体が油のように混在しており、具材も食材なのかと疑う酷いレベルだった。
「普通の食材を渡したのに何で魔女の鍋が出来てるの・・・?」
「誰が魔女の鍋だ。」
「「「オメェだ‼」」」
男性陣がツッコんだ。
しばらくすると見回りからリーシャとラルが戻ってきた。
「ただいま戻・・・ふぎゅ⁉何ですかこの臭い⁉」
帰って早々鼻をつまむリーシャ。
タクマが鍋を指す。
「これは、何です?」
「ネクトの作った料理だってよ・・・。」
「料理⁉これが⁉」
ネクトの壊滅的な料理に驚愕のリーシャ。
「魔女の鍋ですか?」
「お前まで言うか。ロキは全然食ってくれるぞ?」
「いやアイツは機械やから味せんやろ。」
だが何故か燃料にはなるらしいのでネクトの禍々しい料理はロキが平らげた。
「アンタが機械で良かったわ・・・。」
流石のリヴもドン引きだった。
「しかし参ったな。食材はほとんどネクトに渡しちまったし、余り物で全員分の食事作れるか?」
タクマ達は頭を悩ませる。
するとしばらく考え込んでいたリーシャが口を開いた。
「・・・余ってる食材を見せてくれますか?」
言われた通り食材を全てテーブルに並べる。
「ごぼう、ジャガイモ、人参、そしてお肉は鴨肉、豚肉、この豚肉は先ほどバハムートさんが狩ってきた魔獣のお肉ですよね?」
「そうだ。」
「なるほど・・・あ!山菜もありますね。それに、藻?」
「近くの川にあったわ。狭い岩の隙間に生えてる希少種なんだけど、我ながらよく見つけたもんだわ。」
リヴがふぅッと息をつく。
「あんさん海の魔獣やろ?なして陸の植物知っとんねん?」
「二百年くらい昔に一人の人間の女の子と知り合ってね。その時陸の事をいろいろ教えてもらったのよ。」
「なるへそ。」
リーシャは並べられた食材を見てしばらく考え込んでいると、
「・・・アレが使えるかも!」
そう言い異空庫から取り出したのは白い魚と根っこのような食材を取り出した。
「その魚、ホワイト・サーモンか!」
「はい。以前頂いた残りを異空庫に仕舞ってました。異空庫の中は時間が止まってるので新鮮なままです。」
「ホント便利なスキルだよな・・・。」
更に異空庫から調理台と器具を揃え、髪を後ろに束ねる。
「もう主婦やん・・・。」
作業に取り掛かると鮮やかな手腕で次々と調理されていき、あっという間に完成した。
「出来ました!」
「「「おぉ!」」」
知ってはいたがやはり十二歳とは思えない程のクオリティ。
「あんさんホンマに十二か?」
「中身は二十代です。」
そうだった。
彼女は転生者だった。
「・・・お腹空いた・・・。」
メルティナが可愛い空腹の音を鳴らしているので一同はありがたく頂くことにした。
全員が料理を口に運ぶと、
「・・・うめぇ!」
「美味しい~!」
よほど空腹だったのか料理にがっつくドラゴンたち。
「船で食ったホワイト・サーモンも美味かったけど、山の幸とも相性抜群やで!何よりこの山菜、なんかニンニクの香りがするで?」
「それは行者ニンニクって言うんです。私の前世の世界でもあった山菜で灰汁抜きなしでも調理できるアウトドアの味方です。」
隣のリヴは丸いフライをサクサク食べながらリーシャに質問する。
「この揚げ物は何?外はサクサクしてるのに中身がもちもちしてる。」
「それは自然薯と言うお芋の一種です。前世ではすりおろしてお米にかけて食べるのが一般ですが、油でコーティングしてもちもちの食感に仕立て上げてみました。それとこれを振りかけて食べてみてください。」
リーシャが差し出したのは緑掛かった粉だった。
言われるがままリヴは粉を振りかけ自然薯フライを一口食べた。
「⁉ナニコレ⁉味のインパクトが強くなった⁉それにこれ、塩⁉」
「藻塩です。岩の隙間にあるとの事でしたので恐らく岩塩を含んでいるのではと思いやってみたら見事塩が出ました。」
料理に関して知識が凄いリーシャに頭が上がらない。
タクマもリーシャの食事を静かに楽しむ。
「あの、どうですか?タクマさん?」
モジモジするリーシャにタクマが親指を立てて言う。
「最高。」
リーシャはパァッと喜びの笑顔を見せた。
「ほらネクト。お前も食え。」
ネクトにも料理を差し出す。
ネクトは黙って皿を受け取ると、
「・・・誰かの手料理を貰ったのはいつぶりだろうな・・・。」
「ん?何か言ったか?」
「なんでもねぇ。」
その晩、ネクトの料理下手から始まった夕食もリーシャの機転でとても有意義な時間となったのだった。




