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『第八十九章 報われぬ努力』

「ニーズヘッグ‼」

バハムートが相手の黒竜の名前を叫ぶ。

「知り合い、なのか?」

タクマが問うもバハムートには同様のあまり聞こえていない。

「やっぱりそうか。バハムート。その名前に聞き覚えがあると思ってたが、お前、千年前にコイツと共に主を失ったドラゴンか。」

従神ジエトはバハムートの過去を知っている様子だ。

「貴様、もしやあの時の悪魔の主か‼」

「悪魔?あぁ、そういやそんな道具も持ってたっけ。あれは弱すぎて期待外れだったぜ。」

「貴様、貴様があの悪魔をけしかけたせいでシーナが‼」

今にも掴みかかりそうな勢いのバハムート。

これ程感情的になった彼は初めて見る。

「落ち着けバハムート!こっちはいろいろと理解が追い付いてない!」

タクマの言葉にようやく冷静さを取り戻す。

「フーッ・・・すまん。取り乱した。だがタクマ。あの黒竜、ニーズヘッグは我に相手をさせてくれ。頼む。」

何やら因縁があるような感じだ。

ここは深く追求するよりそのまま身を任せる方が得策だろう。

「・・・分かった。俺は従神の方を相手する。」

居合の構えを取るタクマ。

ジエトはずっと側にいた老人に話しかける。

「おい。神龍の復活はあとどれくらいだ?」

「生贄にしたエルフは全て使いました。後は時間の問題でしょう。」

「ならお前は神龍の復活を急げ。恐らく直に新手が来る可能性もある。その前に神龍を俺の手中に収めろ。」

「かしこまりました。」

老人は一礼をすると後ろの通路へと消えていった。

「恐らく神龍はあの奥か。リーシャ!ラル!メルティナ!お前らは神龍を頼む!神と黒竜は俺達が引き受ける!」

「わ、分かりました!行こうラル!メルティナさん!」

「は、はい!」

(うん!お兄ちゃんもお姉ちゃんも気を付けてね!)

「任せて!」

「・・・ん?お兄ちゃんてオレの事?」

返事をする間もなく二人は老人を追いかけていった。

そして広間に残ったドラゴンとその主が互いに睨み合う。

「さぁ、楽しもうぜ?ドラゴン同士の戦いを!」


 魔法で強化し猛スピードで螺旋階段を疾走する老人。

その更に後をリーシャ達が追いかける。

「老体にしてはかなり早いですね。」

「クゥ~。」

流石に階段の狭さではラルは入れなかったため元の小竜に戻ってもらっていた。

息が上がるほど長い螺旋階段を降りると先ほどの大穴の更に奥深くの広い洞窟にやってきた。

地脈が近いのか辺りには溶岩が流れ、まるで地獄のような地下空洞だった。

「あ!見つけました!」

空洞の奥に追っていた老人を捉えた。

彼の前には大きな球体の結晶が浮いている。

「まさかアレが?」

恐らく神龍が封印されてる宝玉だろう。

リーシャ達も宝玉のある広い台座の上にたどり着く。

前には老人が立っていた。

「貴女は運がいいですね。伝説の存在、神龍の復活を目の当たりになるのですから!」

高らかに言う老人にリーシャは杖で槍の構えを取った。

「復活はさせません。贄にされたエルフの人達のために、絶対に阻止します!」


 上の階ではバハムート達三頭と黒竜のニーズヘッグ一頭が激しい戦闘を繰り返していた。

三対一にも関わらずニーズヘッグは同時に迫る三頭を難なく相手にしていた。

「ちょっと何なのコイツ⁉全然隙がないんだけど⁉」

「三対一なのに全然押しきれへん!」

果敢に攻めるがニーズヘッグのありえない戦闘能力で成す術なくウィンロスは足を、リヴは尻尾を掴まれ大きく振り回される。

「うおぉぉぉぉ⁉」

「きゃぁぁぁぁ⁉」

そしてそのまま壁に叩きつけられた。

一方タクマはジエトと直接戦っていた。

ジエトはテイマー職一筋で戦闘力はタクマ程ではないが魔法レベルがかなり高い。

斬撃を連続で繰り出すもそれぞれの対抗属性で全て防がれる。

(魔法の切り替えも早い。コイツ、かなり強い!)

「どうした?レーネを倒した奴はその程度か?」

至近距離で爆破魔法を撃たれ吹き飛ばされるタクマ。

剣を地面に突き刺して爆風に耐える。

「くっ!」

「向こうもそろそろ一体ぐらい脱落かな?」

壁に叩きつけられダメージで動けないウィンロスにニーズヘッグの鋭い爪が構えられる。

「アカン!マジでヤベェ!」

爪が振り下ろされそうとなった時、

「ニーズヘッグーーー‼」

横からバハムートが猛スピードで突進、ニーズヘッグを弾き飛ばした。

「お主の相手は我だ‼」

「グルル・・・!」

二頭は凄まじい気迫を放つ。

特にバハムートが尋常じゃない。

先ほどから感情的に攻撃を仕掛けており、普段の彼からは想像が出来ない程荒々しかった。

互いに飛翔し凄まじい衝撃波を放ちながらぶつかる二頭。

「やはり竜王の名は伊達じゃねぇな。」

「よそ見をするな!」

タクマが切りかかろうとした時、ジエトは魔法陣を展開し複数の狼型の魔獣を召喚した。

「よそ見出来るほどの余裕があるもんでね。」

群れでタクマに襲い掛かる狼。

タクマは姿勢を低くし居合の構えを取る。

「居合・流倫華翔(りゅうりんかしょう)‼」

炎の花びらが群れを一掃、狼は全て灰となった。

「おいおい酷いことするな。一応俺の大事なペットだったんだけどな?」

だがその表情からは煽りが見える。

「嘘つけ。さっき従魔は道具だと言っていたくせによ。」

燃える狼の残骸をバックに立つタクマ。

そして二人の戦いは更にヒートアップしていったのだった。


 「おいリヴ!大丈夫か?」

ウィンロスが倒れるリヴに回復魔法をかける。

「何とかね・・・。それにしても、おじ様の勢いが・・・ちょっと怖いわ。」

空中ではバハムートとニーズヘッグの激しい戦闘が繰り広げられている。

傍から見ても少し恐ろしい程に。

「しかも旦那、アレは()()で戦ってるで。いつもは力を押さえているのにあの戦いだけは違う。馬力も魔力も別格や。」

それほどニーズヘッグの強さが異常。

つまり、ウィンロスとリヴのレベルではニーズヘッグには敵わないという事だ。

(前にアルセラの嬢ちゃんが抱いた気持ちと同じか・・・。力になれないっていうのは、これ程悔しいんやな・・・。)

ウィンロスは歯を噛みしめる。

それはリヴも同じだった。

「・・・悔しいけど、私達じゃあの黒竜には勝てないわ。アイツの相手はおじ様に任せて私達は主様の加勢に行きましょ。」

「・・・せやな。」

今の自分に出来ることを全力でやる。

二頭はそう強く思った。


 一方、地脈の最深部ではリーシャと老人がぶつかり合っていた。

杖を槍のように扱うリーシャに対し、老人は以外にも戦い慣れしていた。

剣を二本持つ二刀流スタイルでリーシャを翻弄する。

進化したガンズ・ド・ラルもメルティナを背に乗せ援護をする。

(マグナ!)

両肩のキャノン砲から魔弾を発射し、直撃する。

しかし煙が晴れると老人は無傷だった。

(何で⁉狙いは完璧だったのに!)

だがメルティナだけは老人の動きが見えていた。

「当たる直前に魔弾を切り裂いたんだよ。暴発するよりも早く細かく切り刻んで。」

とても人間業じゃない。

達人業だ。

「それほどの技術を持ちながら、何故このような悪行に手を染めてしまったんですか?」

「愚門ですね。まぁ話だけなら良いでしょう。若いころ、私は世間に認めてもらいたく修業を重ねました。来る日も来る日も努力して。しかし周りの者たちはそんな私を嘲笑い、愚弄し、私を貶めました。自分たちは何の努力もせず只々他人を見下し、自分がより優れていると錯覚する。私はそれが我慢ならなかったんです。人の努力を笑い何もしてこなかった者が上で胡坐をかく。それが心底嫌いでした。」

老人の過去から世界の在り方に不満を抱いていたようだ。

「しかしこの教会に入り、従神ジエト様と出会い希望が見えました。現在の創造神様はこの世界を作り変え実力が物を言う世界を作ろうとしております!これはチャンスと私は見ました。この腐りきった醜い世界をゼロに戻す。共感しました!感動しました!だから私は世界リブートのためこの命を投げ出す覚悟で神に仕えてきた!このチャンス、絶対に逃す手はありません!」

長々と語る老人にリーシャは黙って俯く。

「・・・確かに酷い人間はいます。でも、いい人達だっています!貴方は環境に恵まれなかっただけです。もっと広い視野を持てば自ずといい人達が見つかるはずです。自分から変わろうとせず神の世迷言を真に受け、ただ付き従う。それが貴方の在りたかった生き方なんですか?」

リーシャの言葉に老人は静かに笑う。

「貴女のような幼子にそこまで言われるとは思いませんでした。しかし一つ訂正しときます。私は既に自分で変わろうと努力しました。しかし、その努力は実りませんでした。どんなに這い上がっても全て無駄だったんですよ。やっても無意味、もうこんな世界に未練はありませんので。」

剣を構える老人。

リーシャも覚悟を決める。

「そうですか。ならせめて、私が貴方を止めます!まだ希望のあるこの世界を神の好きにはさせません!」


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