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『第九章 転生者』

生まれる前から、私の人生は大きく変わった。


 雨が滴る東京。

その都内にある、とある会社にて。

「平田さん!この資料もお願いできるかな?」

「あ、はい、わかりました!」

平田美織。

この会社で働く二十六歳。

残業は当たり前、休みも月一あるかないか。

いわゆるブラック企業に私は就職していた。

やっと仕事が終わっても帰るのはもう日にちが変わっている。

いつもと変わらない仕事、いつもと変わらない日常、こんな生活いつまで続くのか。

雨の中傘をさして帰るたびにそう思った。

「・・・?あれは?」

道路の反対側に雨の中でも元気に遊んでいる二人の子供。

側のお母さんが買い物をしているようだ。

(そういえば家族は元気にしているのだろうか。)

すると遊んでいた子供が雨で足を滑らせ道路に倒れてしまった。

すると道路からは大型トラックが容赦なく迫ってきている。

(あのトラック、何で止まろうとしないの⁉)

私は不穏に思いながらも慌てて子供に駆け寄った。

「危ない‼」

ガシャーンと大きな音が鳴り響く。

(・・・あれ?私・・・。)

意識がもうろうとする中、子供の泣いている声と周りから呼び掛けられる声がした。

でも何を言われているのかはもうわからなかった。

意識も徐々に薄れていく。

もうすぐ死ぬみたいだ。

でも不思議と怖くはない。

もうあの会社に行かなくていい事と最後に小さな命を守れたんだから悔いはなかった。

唯一心残りがあるとすれば家族にお別れを言えなかったことかな・・・。


(・・・あれ?)

目を開けるとそこには知らない夫婦。

私を見て何か言っているが言葉がわからない?自分の手を見るとそれは赤ん坊の手。

(え?私・・・赤ちゃんになってる⁉)

状況が飲みこめずパニックになって手足をバタバタさせる。

しばらくしたら何とか落ち着き状況を整理する。

(たしか子供を助けてトラックに轢かれて死んで・・・はっ‼もしやこれって世で言う異世界転生ってやつ⁉)


 「あうぅぅ!」

「見てあなた。こんなに元気よ。」

赤ん坊を抱きかかえた女性が言う。

「あぁとてもかわいい!この子の名前はどうする?」

側にいる男性が言うと女性は優しく笑う。

「フフッ、もう決めてるの。」

女性が赤ん坊をそっと撫でた。

「リーシャ・・・。私たちの娘。」

こうして私は子供を守って異世界へ転生。

まさかの出来事だがここから私の新しい人生の始まりだった。


 「・・・ん?」

リーシャは一人森の中で目が覚める。

「懐かしい夢を見た気がする・・・。」

目をこすりながら起き上がると懐から一つの腕輪が転がり落ちる。

リーシャは咄嗟に拾い直した。

「そうだ。この従魔結石があればあの子が!」

リーシャはフードをかぶり直し再び走り出した。

「待ってて!必ず助けるから!」

 しばらく時がたち森の中ですごい地響きが鳴る。

「ウォォォォ‼」

「邪魔だ‼」

タクマは飛び上がり鞘の付いた剣で魔獣の頭部に殴りつけた。

魔獣は目を回し倒れる。

二人は足跡を追ってドワーフの里を飛び出し辺境の森にいた。

「こんなに魔獣のいる森を突っ切ったのか、リーシャは?」

少々息が荒いタクマの後ろでバハムートが魔獣の腹にグーパンを決めた。

「だが足跡がこの森を突っ切っている。見ろ。まだ足跡が続いているぞ。」

『追跡』と『鑑定』で見えるようにしたリーシャの足跡。

まだまだ森の奥へと続いている。

「魔獣の活動時間外に移動しているのか?」

「おそらくそうだろう。この森で戦った魔獣は皆昼行性だ。夜や朝方は活動しない。その隙に移動しているのだろう。」

「とにかく追うぞ!大切な従魔結石を返してもらわねぇと!」

森の中をどんどん駆け抜ける二人。

すると突然足元から魔法陣が現れ全身に電流が流れた。

「痛って‼何だこれ⁉」

「雷の魔法陣?これはトラップだ!」

身動きが取れない二人に周りからがさがさと人が数人出てきた。

「何だぁ?見ねぇ奴がかかったな。」

ぞろぞろと現れる男たち。

身なりからして盗賊だ。

「おい見ろよ!ドラゴンがかかってるぞ⁉」

「何⁉例のドラゴンか⁉」

例のドラゴン。

タクマはこの単語が引っかかった。

「愚かな・・・野蛮な人間風情がこの程度の罠で我を捕えるなど・・・、」

バハムートは翼に力を入れ勢いよく広げた。

その風圧で雷魔法と魔法陣はかき消され周りの盗賊もろとも森の木々をなぎ倒した。

そして周りには小さな広場が出来上がった。

「・・・お前が羽ばたくだけで自然環境崩壊するな・・・。」

風圧で髪がボンバーになったタクマが呆然としながら言った。

「・・・。」

「ん?どうしたバハムート。黙りこくって。」

髪を戻しながら黙るバハムートに話しかけるが返答がない。

再び足跡を辿ろうとしたが、

「あれ?足跡がない・・・。」

ハッと気づいたタクマはバハムートに目を向ける。

と同時にバハムートもそっぽを向く。

「・・・おいバハムート?」

「・・・・・・。」

だらだらと汗を垂らす竜王・・・。

「何か言ったらどうだ・・・?」

「・・・・・すまん・・・。」

先ほどの風圧で辺りが吹き飛んだため追っていた足跡も吹き飛ばしてしまったのだ。

これは完全にバハムートの落ち度。

「まず転がっている盗賊を拘束しろ。」

バハムートはそそくさと手際よく盗賊たちを縄で縛りあげる。

「罰として街に着くまで盗賊の荷物持ち!」

「・・・甘んじて受け入れよう・・・。」

さて、リーシャの痕跡はバハムートが消してしまったので森の中をさまよう訳にもいかず一旦森を出ることにした。

二人は森を抜けると、

「お?街道だ!これなら近くに街があるかもしれない。」

街道に沿って歩いていると前方から大所帯の影が向かってくる。

「何だ?」

よく見るとそれは馬に乗った兵士の軍勢だった。

「バハムート、『認識阻害』は?」

「安心しろ。すでにかけてある。」

「む?全軍止まれ!」

先頭を走っていた一人の兵士が号令をだし軍勢は一斉に止まった。

号令を出した兵士は馬を降りタクマの下に近づく。

「そこの者、旅の者か?」

「えぇそうです。近くの街まで行くつもりなんで。」

兵士はバハムートの方を見る。

認識疎外をかけているから正体までバレる心配はないが。

「このドラゴンは君の従魔か?」

「そうですが。」

「いやはや、ドラゴンの従魔なんて初めて見たものでね。つい見入ってしまった。」

どうやら竜王ということまでは気づいていないようだ。

「紹介が遅れた。俺はアンクセラム近衛騎士団二番隊隊長、ロイル・デガントだ。」

アンクセラム近衛騎士団?確かアルセラさんが所属している騎士団の名前だ。

(第二番隊隊長、アルセラさんは四番隊隊長だったっけ?)

とりあえず兵団の話を聞くと近くの街で魔獣に関する噂が流行しているらしい。

ロイル率いる騎士団はその噂の情報を求め出向き先ほど帰還する途中だったとのこと。

「魔獣が目撃されたわけではないので確証が持てず王都に戻ってあの土地を詳しく調べるつもりだ。」

「その魔獣そんなに危険なんですか?」

「あぁ、噂の魔獣なんだが・・・。」

ロイルの言葉がのどにつっかかる。

「実はその魔獣は・・・ドラゴンだと言っていた。」

「⁉」


 捕まえた盗賊団を騎士団に明け渡しロイルたち二番隊は王都へ向けて再出発した。

それを見送るタクマとバハムート。

「・・・やはり気になるか?」

「ドラゴンと聞いちゃぁねぇ・・・。」

もともと街を目指していたが目的がより明白になり尚のこと行かなければならなくなった。

「けどまずは従魔結石をどうにかしないと。」

しばらく歩くと道の真ん中に点々と土塊が目に止まった。

すかさず『追跡』と『鑑定』を発動させるとリーシャの足跡だとわかった。

「運よく見つけたぜ。どうやらリーシャはこの先の街に向かったみたいだな。」

「早いとこ行くぞ。従魔結石もそうだが噂のドラゴンも気になる。」

「あぁ、それにバハムートがドラゴンだと知られるのも危ない気がする。認識阻害を強められるか?」

「無論だ。」

そういうとバハムートは強い光に包まれる。

光が治まると特に変わった様子は無いがタクマ以外の人間はバハムートが人に見えているはずだ。

「よし、行くぞ!」

 街道を進みようやく街が見えてきた。

途中で足跡の痕跡は薄れて消えてしまったがリーシャがこの街にいることは確かだ。

門をくぐり街に入ると清んだ空気が漂いとても心地が良くなった。

「何だこの街?めちゃくちゃ空気が清んでるぞ?」

「タクマ、門でもらった地図を見せろ。」

地図を開くと土地の面積の六割が森で埋まっていた。

街自体もかなり大きく自然との共存がコンセプトの街のようだ。

「こんなに自然があるのに魔獣は湧かないのか?」

「あぁ、この街の森には魔獣は湧かないぞ?」

突然通りがかりのおっちゃんに話しかけられた。

「びっくりした‼」

「魔獣が湧かないとはどういうことだ?」

バハムートがおっちゃんに質問すると、この土地の森は外の森よりもマナが清らかだという。

根本的に魔獣はマナから生み出され生態系が築かれている。

たとえ魔獣が死んでも生態系が崩れぬようマナから新しく生み出される。

だが清らかなマナからは魔獣は生まれず一般的な動物のみで生態系が築かれるのだ。

「この特別な生態系を守るため初代領主様が自然との共存という道を選んだんだ。」

なるほど。

それで街に入ったとき空気が清んでいたのか。

自然の理系を意識した街。

その初代領主様はさぞ立派だっただろう。

おっちゃんと別れ街の由来も理解したところでまずリーシャの行方と噂について街の人に聞きまわった。


 数時間後、空はすっかり夕暮れだ。

二人は情報をまとめるため広場に合流した。

「そっちはどうだ?」

「娘の居場所までは掴めなかったがあの娘については少し分かった。噂の方はまずまずだ。」

「こっちも似た感じだ。噂はそこまで進展はないがリーシャの事は俺も少し理解した。」

互いの情報を共有しながらリーシャのことについて話し合う。

街の人たちから見ればリーシャはごく普通の少女だ。

だが彼女の生い立ちは一般と少々異なるようだ。

赤ん坊のころから行動に信憑性があり理解力もすでに成人並みにあったという。

言葉も早々に覚え最終的には三歳で魔法を学びだしたとのこと。

天才かと疑われたがあまりにも違和感が漂ったそう。

「早くに両親を病で亡くし、知り合いの酒場に居候しているんだとよ。」

「確かに人間の赤子にしては違和感が拭えんな。まぁあの娘を見つけ本人から聞けばよいか。噂の方は相変わらずドラゴンかもしれんというばかりだ。我は以上だ。お主は?」

「噂のドラゴンはお前と変わらないが別でよくないことを聞いた。」

タクマの顔が真剣になる。

「嫌な予感がする・・・!」


 すっかり日が沈み暗い森の中、リーシャが息を切らしながら走っていく。

「ハァ・・・ハァ・・・。!ライトマッシュ、もうすぐだ!」

森の中にひっそりと輝くキノコとヒカリゴケ。

暗い森の中では貴重な目印だ。

木々の間を駆け抜け平けた場所に出た。

「よかった・・・間に合った・・・。」

広場の中心には大きな魔獣。

その魔獣は白銀に輝く体毛に覆われ腕に羽毛の翼が生えた姿。

月の明かりで美しく照らされたドラゴンであった。

「ルルル・・・。」

ドラゴンはゆっくりと頭を起こしリーシャに顔を近づける。

「ラシェル、生きててくれてよかった。」

リーシャもドラゴンの顔に触れ額を寄せた。

「見てラシェル!見つけたよ!従魔結石!これでラシェルの魔力も回復させられるよね!」

懐から従魔結石が埋め込まれた腕輪を取り出す。

ラシェルはしばらく従魔結石を見つめると首を横に振った。これではないと。

「どう・・・して?従魔結石があれば魔力が回復するって言ったのラシェルでしょ⁉私、やっと見つけてきたのに‼」

どれだけリーシャが説得してもラシェルは結石を拒否し続ける。

しびれを切らしリーシャはラシェルの口に従魔結石を入れようとするもやはりラシェルは頑なに受け入れようとしない。

「お願いラシェル‼結石を取り込んで‼魔力が無くなったら死んじゃうんでしょ⁉お願い、お願いだから‼」

どんなに足掻いてもラシェルは結石を取り込もうとはせずリーシャは膝から崩れ落ちた。

「・・・どうしてなのラシェル・・・。私はただ、あなたに死んでほしくないの・・・。もう家族と呼べるの、ラシェルだけなんだよ?・・・どうすればいいの・・・?」

ボロボロと泣き崩れるリーシャ。

するとあることを思い出す。

「人から、奪ったから・・・?」

ラシェルはコクっと頷いた。

ラシェルには最初からわかっていたのだ。

この従魔結石は他人の物だと。

結石を取り込んでしまっては持ち主に返すことが出来なくなり己のためとはいえリーシャには間違った道へ進ませてしまうと。

「ラシェル・・・。私は、どうすればよかったの?」

リーシャはラシェルの胸に顔をうずくめ静かに泣いた。


 木の陰に隠れ、その一部始終を見ていた何者かがいたことに、リーシャは気づいていなかった。

「へぇ、あれがドラゴンねぇ・・・。」

隠れていた人物は不吉な顔で笑っていた。


同時制作作品はこちら。

『無人鉄機の進撃車 次元を駆ける復讐者』

https://ncode.syosetu.com/n2496hp/


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