『第八十八章 美神と従神』
「え?創造神様・・・?」
「・・・え?」
全員が耳を疑いメルティナを見る。
メルティナは訳が分かっておらずオドオドしていた。
「創造、神・・・?」
「メルティナさんが・・・?」
タクマ達が驚愕していると神の女性は静かに笑い出した。
「ふふふっ!水晶越しじゃ気づかなかったけど、相当魔力を抑え込まれてるのね。通りで分からなかった訳だわ。」
メルティナの事も気に掛かるが今は目の前の女神に警戒しなくては。
「ここで会ったのも何かの縁。せっかくだし、貴方達の力量を測っとこうかしら?」
不吉な笑みを浮かべる女神。
タクマ達は警戒態勢に入る。
「まずは・・・。」
その瞬間、女性が突然消えたと思ったらリヴの背後に突然現れたのだ。
「え⁉」
息もつかせる間もなく女性はリヴを抱き上げた。
「リヴ!」
「ちょっと!離して!」
暴れるリヴだが女性の抱き着く力が強いのか逃げられる様子がなかった。
「貴女、ドラゴンなんでしょ?ちょっと相手が悪いから大人しくしててね。」
六枚の翼が開くと強く発光し始める。
すると途端にリヴの様子がみるみる大人しくなっていく。
「あぁ、ぁぁぁ・・・。」
「居合・裂波‼」
風の斬撃を放ちリヴから女性を引き剥がす。
「もう、危ないわね。髪が乱れるじゃない。」
そんな女性に目もくれずリヴに駆け寄る。
「リヴ!しっかりしろ!」
倒れるリヴを起こすもリヴはぐったりとしていた。
と言うかむしろ、
「何で腑抜けた顔になってるの?」
リヴは快楽にあったかのような表情をしていた。
「何か・・・分からないけど、身体に力が入らなくて・・・。」
一体どういうことなのか?
「ふふふっ、そう言えばまだ自己紹介してなかったわね。私は七天神の一人、美神エルエナ。全ての美を司る女神よ。」
エルエナは翼を広げて神々しく言う。
「七天神・・・?」
「神の中で特に最高位に位置する神々の総称よ。私も教会で何度か耳にしてた。」
元聖女のリルアナはある程度知っていたみたいだ。
そしてエルエナは説明を続ける。
「服装を見て分かる通り、私は人間がまぐわうアレにも精通しているのよ。だからその快楽をドラゴンの子に与えてみたんだけど、その子も大分溜まっていたみたいね♡」
舌なめずりをするエルエナ。
確かにリヴを見ると息を荒くし少し顔を赤くしていた。
「主様・・・。」
「やめろやめろ。マジで理性保ってくれよ?」
若干引き気味のタクマ。
その様子を見ていたリーシャは途端に慌てふためく。
「てことは・・・リヴさん、タクマさんとセッー!」
「言わせないわ。」
何かを言いかけたリーシャの口をリルアナが塞いだ。
「下ネタのオンパレードじゃねぇか。」
(下品・・・。)
ネクトとラルがツッコむ。
ともかくリヴは戦闘不能なため、メルティナと共にラルに預けた。
「奴に捕まったらいろんな意味で終わりだ。気を付けろ!」
「はい!」
四人は戦闘態勢に入る。
「ウフフ、いいわ。た~っぷり遊んであ・げ・る♡」
エルエナの表情にタクマ達は背筋がぞわっとした。
するとネクトとリルアナが二人の前に出た。
「こいつは俺達が相手する。お前らは神龍の元に急げ。」
「ネクト?」
「神龍の復活はヤバいんでしょ?だったらこんな所で足止めを受けてる場合じゃない。元教会の人間として、絶対に教会の企みを阻止してほしいの。お願い。」
「リルアナさん・・・。」
確かに最優先事項は神龍の復活阻止。
タクマは剣を鞘に納める。
「分かった。だが相手は神だ。ヤバそうになったら逃げてくれ。」
「誰に言ってるんだ?こっちは理に干渉しないチートドラゴンを連れてるんだぞ?」
「逃げろ。絶対に。」
タクマは真剣な声色で言った。
「・・・分かったよ。」
ネクトも真面目に受け取る。
「行くぞリーシャ。」
「は、はい!ではお二人とも、お願いします!ラル!」
(うん!)
タクマ達は奥の扉へと走って行った。
「降臨で弱体化しているとはいえナメられたものね。」
「折角神と渡り合えるんだ。経験しといて損はねぇ!」
洞窟拠点の奥へ奥へと進むに連れ立ち塞がる信教者の数が増える。
彼らを蹴散らし突き進んだ。
「・・・・・。」
タクマは先ほどの女神エルエナの言っていた言葉が気に掛かっていた。
(メルティナが創造神?本人の記憶喪失を関係があるのか?)
そんな疑問を抱きながら進んでいると巨大な大穴の底へとたどり着いた。
しかし、空間に出た途端に強烈な異臭を感じた。
「むぎゅっ⁉何この臭い⁉」
嗅覚の鋭いリヴが涙目で鼻をつまむ。
確かに何かが腐ったような、そんな異臭だった。
「あそこの穴から漂ってるみたいだ。」
タクマ達は穴の中を確認しようとした時、頭上から声が聞こえた。
「七天神様の降臨なされるタイミングを見計らって罠に落としたはずがここまで来られるとは。」
「!」
声のする方を見上げると出っ張った岩の上にローブを深くかぶり顔を隠した老人が立っていた。
「大方、お仲間が残り七天神様のお相手を成されてると見ました。」
「お前が落とし穴の犯人か。」
老人は飛び降りタクマ達の前に立つ。
「あの高さから降りらなんて!」
「あのおじいさんも魔術師のようね。」
「ご名答。これでも昔は名のある魔術師として結構活躍してたのですよ?」
そういいローブを取った。
「で?何の用だ?」
タクマが警戒の目で問う。
「それはこちらのセリフなんですがね。何故貴方達のような一介の冒険者がこのアジトへ?」
「国の依頼で行方不明となったエルフを探しに来ただけだ。ここにもエルフが沢山連れ込まれたはずだが見つけた牢屋は空だった。エルフをどこへやった?」
更に鋭い目つきで老人を睨むタクマ。
「それは、あの御方に直接お聞きいただければと思います。」
老人が頭上へ視線を移す。
すると大穴の上から眩い光が放たれる。
「うわっ!」
「眩しい!」
この光には見覚えがあった。
かつて双子の神が現れたのと同じ光。
という事は・・・。
(神が来る!)
光から一人の男性が腕を組みながらゆっくりと降りてくる。
先ほどの女神と同じ、六枚の翼を有している。
「別荘が騒がしいと思ったら、お前らが原因か?」
地面に降り立ちその神々しい佇まいでタクマ達を見る神。
(神レベルが二人も現れやがった。リヴはある程度回復したとはいえ万全じゃない。バハムートとウィンロスを呼ぶか・・・。)
「図が高いぞ若輩共!この御方は天界を統べる七人の神、七天神のお一人、従神ジエト様でおられる!」
老人が高らかと叫ぶ。
「従神?」
「その通り、俺は天界で唯一『テイマー』の力を持った神だ。魔獣を従わせ創造神様のお役に立つことが俺の仕事さ。」
その割には付近に従魔らしき生物はいないようだが。
「お前がエルフ誘拐の主犯か?」
「誘拐?あー、世間じゃそう言う事になってるのか。まぁあながち間違いじゃねぇな。」
どうやらその騒動の元凶はジエトで間違いないようだ。
「牢屋にいたエルフはどうした?どこへ連れて行った?」
「どこも何も、すぐそこにあるだろ?」
「は?」
ジエトが指すのは異臭が漂う大穴だった。
まさかと思いリーシャが穴の中を覗く。
「―っ⁉」
口元を押さえ青ざめるリーシャ。
リヴも穴を覗くと、
「これは・・・⁉」
そこには穴底を埋め尽くす程のエルフの亡骸が捨てられていたのだ。
漂う異臭はその腐敗の臭いだった。
「そんな・・・。」
リーシャがガクッと膝から崩れ落ちる。
「主様・・・。」
首を横に振るリヴを見て全てを察した。
助けられなかったのだ・・・。
老人が口を開く。
「神龍の復活には膨大な魔力を必要としました。エルフは森の精霊と呼ばれる種族。人間よりも遥かな魔力量を有しており、生贄として申し分ない。こちらで有効活用させていただきました。」
不吉な笑顔で言う老人。
タクマは剣を強く握りしめる。
「ふざけるな!」
剣を抜き斬撃を放つもジエトの防壁で防がれる。
「双子神もそうだった。お前等神は命を軽んじている。俺はそんな命の重さを知らず、自分勝手な奴らが一番嫌いなんだよ!」
怒りに満ちた眼差しで睨むタクマ。
とてつもない気迫だ。
「・・・あぁそうか。お前が、セレンティアナの息子だな?」
「‼」
かつて神に殺された育ての母親の名前を出され動揺する。
「神は長生きだからな。お前の母親が殺された事は聞いていた。その過去があるからお前は命に関してはかなり敏感になってる。そう言う事だろ?」
「タクマさんのお母さんが・・・。」
「神に、殺された・・・?」
「・・・・・。」
彼の苦しい過去を知ったリーシャ達は心配そうにタクマの背中を見る。
「そもそも、下界に住む奴らの生命など我ら神からしたらほんの一時の生物でしかない。滅ぼそうとすれば滅ぼせるし、生み出そうとすればいつでも生み出せる。今の生命に執着する必要もない。」
確かに神からしたら今の生命など小さな歯車に過ぎないかもしれない。
だが・・・。
「だが、それでも、この世界の生命は今を必死に生きている!そんな命を見守るのが神の本質じゃないのか?こうも直接下界に手を出し、命を脅かすのが神か?俺は違うと思ってる!下界は下界の奴等で生き抜く!身勝手な神の干渉など受けずにな!」
剣を地面に突き立て二つの魔法陣を展開する。
そしてバハムートとウィンロスを召喚した。
咆哮と共に現れた二頭はジエトに気付く。
「レーネと同格の神か。我らを呼び出した理由は明白だな。」
「さぁて、暴れてやりまっか。油断さえしなけりゃ対処できるで!」
「主様!私も!」
リヴも竜化し、三体の竜がタクマの背後に並ぶ。
「ドラゴンを三体か。人間にしちゃ中々やるな。だが一体一体の質量がデカすぎて三体までしかテイム出来ないみたいだな。」
「・・・そうなのか?」
「うむ。今のタクマの実力では我ら三体までが限界だ。」
「つっても容量の六割は旦那が強すぎるせいだかんな?」
どうやらバハムートの力が強すぎるせいでこれ以上魔獣を従えることが出来ないみたいだ。
十分すぎるメンバーだが。
「俺みたいに小物を幾つも従えれば効率は良くなるのに。」
「お前の価値観と一緒にするな。俺は生涯を掛けてこいつ等を大事にするさ。」
「わぉ、嬉しい事言ってくれるじゃねぇか。」
「主様カッコいい~♡」
そんな彼らを見てジエトは静かに笑い始めた。
「フフフッ・・・、従魔を大事に、ね。フフフフ、ハハハハ!」
「何がおかしい?」
イラつくタクマにジエトは、
「おかしいに決まってるだろう!従魔は道具じゃねぇか!」
その言葉にタクマとリーシャは耳を動かす。
「道具、だと・・・?」
「これほど使い勝手のいい道具そうそうない。お前もそう思うだろ?」
「はいジエト様。魔獣は人間より格下。それを証明なされたのもジエト様です。」
老人がゴマをする。
バハムート達三頭、そしてラルも怒りの目をしている。
だが彼等よりも怒りに満ちているのは、主人のタクマとリーシャだった。
「ふざけないでください・・・!従魔は道具でも、ペットでもありません。大切な家族です!」
「あぁ、こっちの価値観を押し付けるわけじゃないが、お前の価値観は間違ってる!そんな考えのお前にテイマーを名乗る資格はない!」
姿勢を低くし居合の構えを取る。
「居合・竜炎斬‼」
炎の太刀がジエトに直撃しようとした瞬間、黒い何かに攻撃を受け止められてしまった。
「何だ⁉」
咄嗟に後退するタクマ。
ジエトの目の前には漆黒の鱗に身を包んだ黒竜が佇んでいた。
「ドラゴン⁉」
「どっから出て来よったこいつ⁉」
黒竜の目は赤く光を放っており様子がおかしかった。
(あの人、操られてる!)
「ラルもそう見えますか。」
その黒竜はジエトに道具とされたドラゴンのようだ。
「どこが小物だ。ガッツリ強い従魔じゃねぇか・・・。バハムート、気を付けろよ?」
突然現れた黒竜に警戒しバハムートを見ると、彼の様子がおかしかった。
黒竜をジッと見てとても動揺した表情をしていた。
「バハムート?」
「何故・・・何故お主がそっちにいる⁉ニーズヘッグ‼」




