『第八十六章 暗躍の従神』
天界。
王宮の一室にてクリスタルの中に入れられている男と女の二人。
手前の機械を操作している一人の神に誰かが訪ねてきた。
「・・・セレス。」
「おや?ジームルエですか。」
中性な見た目の神に話しかけたのは長い黒髪で片目が隠れ、襟で口元が隠れた幼い少女だった。
彼女の名はジームルエ。
戦いを司る七天神の一人だ。
「引っ込み思案の貴女がここに来るのは珍しいですね。」
「ん。待機が暇になったから来た。何か面白いことない?」
顔の四割しか見せていないジームルエから問われるセレス。
「そんな事言われましても、僕はアムルとガミウの治療に専念してますから・・・。あ、そうだ。ではエルエナの代わりに例のドラゴンテイマーの監視をお願いできますか?」
「監視?エルエナは?」
「彼女はジエトの様子を見てくると下界へ行きました。最初はレストに監視をお願いしてたのですが彼も急用で席を外しており、エルエナに引継ぎをさせてたみたいですが・・・。」
「エルエナは気まぐれだからね。そもそも監視なんて、ジッとできないエルエナじゃ無理だよ。」
「それもそうですね。だから手の空いた監視を君に任せたいのですが良いですか?」
「ん。分かった。」
そう返事をし、ジームルエは退室していった。
途中一人の天使の少女とバッタリ会った。
「あ!ジームルエ!」
ハイテンションな天使がジームルエに抱き着く。
「仕事終わり?じゃぁ遊びに行こうよ!」
「離して、ミレオン・・・。」
無理やり押し剥がすジームルエにミレオンはぷぅっと頬を膨らませる。
「も~、相変わらずドライなんだから!」
「そもそも仕事終わりじゃないから。むしろこれから仕事なの。」
「そんなのさぼっちゃえばいいじゃん!」
「ミレオンと一緒にしないで。」
二人は幼馴染らしく、性格が正反対ながらも何かとうまく噛み合う二人だ。
「・・・なんだかジームルエ、前よりも表情が変わらなくなっちゃったね。」
昔はよく笑ったジームルエだが、七天神になってからあまり笑わなくなったという。
「戦いの神だからよく戦場に赴くし、そのせいで笑い方を忘れちゃったかもしれない。でも仕事には問題ない。」
「あるよ!笑えなかったら楽しい事が出来ないじゃん!ジームルエはそれでいいの?」
ミレオンが言うがジームルエは頷く。
「うん。私がいることで皆の、創造神様の役に立ててるのなら笑えなくてもいい。笑えなくても、私は私だから。」
「・・・そっか。君がそこまで言うならこれ以上何も言わないよ。」
「ありがとう。ミレオン。」
「・・・あ、じゃぁさ!今度二人でピクニック行こう!」
「別にいいけど、それでも私は多分笑えないと思うよ?」
「だったらさ!私がジームルエの分まで笑うよ!」
「え?」
ミレオンはジームルエの手を掴んで言った。
「笑えないなら私がジームルエの分まで笑う!そしたら皆ハッピー。ね!」
笑顔で言うミレオンにジームルエは少し嬉しい気持ちになった。
一方、ジエトを探しに下界のとある洞窟に降臨するエルエナ。
「うわ何ここ⁉じめじめしてて汚い!」
魔法陣が設置されてた場所は狭い空間で湿気でじめじめしていた。
嫌悪しながら先を進むと少し整備された空間に出た。
横には大きな穴が開いており、不気味な風の音が響いている。
「薄気味悪い場所。一度帰ろうかしら?」
エルエナは引き返そうとすると反対側の方からローブを羽織った老人が現れた。
「おや?貴女様はジエト様のお知合いですか?」
フードも被っているため顔はよく見えないが何かと不気味な雰囲気を漂わせていた。
「うわびっくりした!まぁ私はジエトと同じ七天神だけど・・・?」
「何と!七天神様がわざわざこの地へ!申し訳ありません!直ちに歓迎の準備を・・・!」
「待って待って!そんなことしなくていいから!私はジエトを探しに来ただけよ!ねぇ貴方、ジエトがどこにいるか知らない?」
老人に問うエルエナにジエトは今席を外し外出しているという事だった。
完全に入れ違いとなったエルエナは今日は諦め、天界へと帰って行った。
「・・・危ない危ない。流石に他の七天神様にアレを知られてはいけないとジエト様に言われてましたからね。さて、もう少しエルフを仕入れるとしますか。」
老人は再び暗闇へと消えていった。
「ん?何か七天神の誰かが下界に来た気がしたんだが、気のせいか。」
岩場に来ていたジエト。
そして彼の後ろには、巨大な黒いドラゴンが立っていたのだった。
巨神山岳の上空にやってきたタクマ達。
見渡す限り標高の高い山が幾つも隣り合わせになっており凄い景色だった。
「歩いていける場所じゃねぇなこりゃ。」
「教会の連中は恐らく転移の魔法陣か何かで移動しておるのかもしれんな。」
一同は相手に気づかれぬよう山の麓に降り、そこから登山することにした。
流石山岳と言われるだけあって足場の高低差が激しい。
高くて登れない部分はバハムート達の巨体によじ登って進んでいった。
そしてたどり着いたのは山岳の間にある滅んだ街だった。
「ここがオリヴェイラ達の言っていた街か・・・。」
「完全に廃墟だな。」
ネクトが脆くなった石垣を蹴飛ばす。
「念のため『認識疎外』を強めにかける。付近にはいる故何かあれば呼べ。」
「分かった。」
バハムートは自身とウィンロスに『認識疎外』をかけ姿を消した。
一同は廃墟を歩いていると、
「わっ⁉」
リーシャがこけてしまった。
この辺りはゴツゴツした道なりなので結構痛そうだ。
「いたた・・・。」
「大丈夫か?」
タクマがスッと手を出してくれた。
「あ、ありがとう・・・ございます・・・。」
手を取り立ち上がらせる。
「・・・。」
「・・・。」
「あの、手、放して?」
「はっ!すみません⁉」
我に返ったリーシャがバッと手を退ける。
「この辺りは段差が激しいから足元に気を付けろよ?」
そう言い再び歩き出す。
リーシャはタクマに握られた手をじっと見つめる。
「タクマさんの手、凄く暖かかったです・・・。」
「主様は炎の技をよく使うからじゃない?それとも何?私の恋敵になったのかしら?」
「そ、そんなんじゃありません‼」
横目でニヤニヤするリヴに抵抗するリーシャ。
彼女らの様子を見てたリルアナはふとネクトを見ると、
「あー。(棒)」
わざとらしくその場に転んだ。
「私も転んじゃった。ネクト、手貸してー?(棒)」
「何なんだよお前・・・。」
あからさま過ぎて逆に怖いと思ったネクトだった。
廃墟をいろいろ探索しているタクマ達。
今の所この地を隠れ家にしている聖天新教会の気配はしないが。
「バハムート。お前からも感じ取れないか?」
念話で声を掛けるも向こうも気配を感じ取れないとの事。
バハムートでさえ感じ取れない程の隠蔽魔法を使っているのか?
「リルアナ。本当にここに教会の連中が隠れ家にしてるのか?」
「それは間違いないわ。」
だが現状これといった痕跡も見つけられていない。
ただただ時間が過ぎていった。
時刻は夕暮れ。
一日中探し回ってクタクタのタクマ達。
「おかしいな。こんなに探しても見つからないものなのか?」
リルアナの言う事は嘘でないことは分かってはいるが、完全に暗中模索状態だった。
「もう日が暮れる。一旦離れて野営の準備をするか?」
「そうだな。明日は魔法やスキルを使ってもう一度探し回ってみるか。」
一同は撤収しようとしたその時、リヴが何かの匂いを嗅ぎつけた。
「ん?ちょっと待って!」
「どした?リヴ?」
「何か匂う。これは・・・加齢臭!」
全員がズッコケた。
しかし加齢臭とは人の匂いだ。
つまり、
「ようやく尻尾を掴めたな。」
リヴに案内してもらい先を進むと前方に老人と若者の二人の影を見つけた。
タクマ達は岩陰に身を潜め、『空振動』で会話に耳を立てる。
「馬鹿者!残留消しの魔法は常に発動させろと言っていただろう!」
「す、すいません・・・!」
ローブを羽織った若い男に老人が怒鳴り散らしていた。
どうやら若い男のミスのおかげで尻尾を掴めたみたいだ。
男が魔法を発動させると確かに匂いや気配が途切れた。
「全く、今のミスが今後の計画に響いたら責任を取ってもらいますからね?」
「そ、それだけはご勘弁を!」
何やら慌てる若い男。
「それが嫌であったら二度と過ちを犯すな!」
既に行ってる事が過ってるのに何言ってるんだか。
『認識疎外』を強めにかけながら二人を尾行していると見つけづらい位置に洞窟の入口があった。
二人はその洞窟に入っていく。
「恐らくあそこだな。どうする?」
「決まってる。ここのエルフを解放すればこの案件は無事解決する。神も関わってる以上急いだほうがいい。」
「どうしてそんなに急ぐのよ?」
「・・・嫌な予感がするんだよ。」
タクマ達も洞窟に潜入する。
洞窟内には明らかに人工的な階段が彫られている。
「ビンゴね。」
「この下に教会の人達とエルフがいるんですね。」
「行くぞ。」
六人は奥へ奥へと進む。
洞窟内はかなり入り組んでいて気を抜くと迷いそうなレベルだ。
「帰り道分かるか?」
「今はリヴさんの氷を目印に置いていってますけど・・・。」
「それじゃ氷が解けて分からなくなるわ。他の方法はないの?」
リルアナが言うとタクマが答えた。
「じゃぁバハムートの『鑑定』とウィンロスの『空振動』を合わせてみるか。」
「・・・え?」
ネクトとリルアナの目が点になる。
タクマは二つのスキルをコピーし、新たなスキルへと変化させる。
「『エコーロケーション』!」
特殊な音波が発せられ広い洞窟内のあちこちに跳ね返る。
その音波を感じ取って構造や人の気配を感知した。
「奥の広い空洞には祭壇のように作られていて教会の連中が集まってるな。下の方には牢屋みたいな部屋がある。格子に魔術をかけてるのか知らねぇが人の気配は察知できない。」
詳しい内部構造をペラペラ告げるタクマにネクトたちは言葉を失っていた。
「こいつ・・・、新しくスキルを作りやがった・・・!」
「スキルを組み合わせるなんて普通有り得ない・・・。」
「ふふん!これが私達の主様よ!」
リヴは主人が褒められてドヤ顔だ。
「流石ですね。タクマさん。」
リーシャが声を掛ける。
だが何だかタクマの様子がおかしかった。
振り向きもせずただ立っている。
「タクマさん?どうしt・・・。」
彼に触れるとバタリと倒れてしまった。
「タクマさん⁉」
「おい⁉」
「主様⁉」
タクマは硬直した表情のまま倒れてしまい、リーシャが必死に呼び掛けるのだった。




