『第八十五章 束の間の休息』
エルフの救出に成功し、次なる目的地、巨神山岳へと方針が決まったタクマ達。
ここまで立て続けに動き回っていたため、ウィークスの計らいで拠点に建てた水浴び場を貸し切りにしてくれた。
「ここ最近気を張りっぱなしだったものね。流石に疲れたわ。」
「だな。ウィークスも疲れを癒せと少し強引気味だったしお言葉に甘えますか。」
一同は設けられた水浴び場にやってくるが、そこは水が溜められた桶が数個置いてあるだけの場所だった。
「まぁ、仮拠点だもんな。流石に風呂はないか。」
チラッと女性陣を見ると明らかにテンションが駄々下がってる。
リルアナは感情がないためかテンションが下がってるのどうかも分からない。
しかしこのままでは女性陣が可哀そうだ。
タクマはバハムートにある提案を耳打ちすると二人は頷く。
「よかろう。せっかくの機会だ。心行くまで休める場を設けようではないか。」
「よし!じゃぁ皆!少し離れてくれ!」
何をするのか分からないネクトたちだが言われた通り二人から離れる。
「やるぞ!バハムート!」
「うむ!」
タクマは剣を取り、バハムートのスキル『クリエイト』をコピーした。
「よっ!」
「ふん!」
バハムートは地面を叩きつけ、タクマは剣を突き刺した。
すると地面の土が二人の意のままに動き、徐々に形造っていく。
そして、
「完成!」
立派な浴場が完成したのだった。
「なんだお前らの能力・・・。」
唖然とするネクトを後ろに女性陣が目を輝かせていた。
「はぁ~!気持ちいい!」
リーシャ達は広い湯舟に浸かり戦いの疲れを癒す。
「こんな浴場まであっという間に作られるなんて、タクマ様は凄いですね。」
「敬語は不要よ、リルアナ。自分らしくいなさいな。」
「・・・えぇ、ありがとう。」
少しでも感情が戻ればと思い堅苦しい雰囲気を出させないようにしたリヴ達。
「・・・それにしても、アンタ。十四歳にしては随分発育がいいわね。リーシャとは大違い。」
「どういう意味ですか⁉」
二つ歳の差があるが確かにリルアナは完璧な程の肉体美だった。
「聖女だから健康管理も徹底してたんでしょうか?」
「いえ、特にこれと言ったような事はしてないけど。」
「素でそれ?アンタ全世界の女性を敵に回しそうね・・・。」
リヴは自分の胸を触って何かを確認している。
「・・・リヴさん。魔法で付け足すのは反則ですよ?」
図星を突かれたリヴだった。
そこに顔半分を湯につけたメルティナがリーシャの側にやってきた。
「メルティナさん?どうしました?」
「・・・一人寂しかったから、何となく。」
まだ根に持っているようだ。
リーシャはメルティナを優しく抱きしめたのだった。
「クゥ~・・・。」
ラルは仰向けで浮いておりプカプカと湯舟を漂っていた。
ふとリーシャはリルアナのある所に目を移す。
「私とメルティナさんはずっと仲間ですよ~。」
「?」
一人背徳感に浸っていると背後から謎の影がリーシャに忍び寄り、勢いよく彼女の胸に掴みかかった。
「隙ありーーー!」
「きゃぁぁぁぁ⁉」
リヴが背後から忍び寄っていたのだ。
「私と違ってアンタは成長するんだからこんなお胸もいつかデカくなるのよ!戒めか!私に対する戒めか!」
「ちょっと!やめてくださいーーー‼」
仕切りの向こうで女性陣達の声が聞こえてくる。
「向こうは随分賑やかだな。」
男湯の方はほとんどがドラゴンなため、一部湯舟を深い堀にしてそこにバハムートとクロスが肩まで浸かっていた。
ちなみにウィンロスは風呂ギライなので浸かっておらず、ロキは機械なため錆びるという理由で湯気で身体を温めていた。
「ストレスの発散にはいいだろう。特にリヴが。」
「あの青い奴か。確かに遠くにいてもアイツのイライラした叫びは聞こえていたな。」
タクマとネクトも疲れを癒していた。
「にしてもこの仕切りちっさいな。オレ達の身長じゃ全然無意味やで?」
「こっち見んな!」
くるっと振り返るウィンロスに怒鳴るリヴだった。
「・・・タクマ。この場で少し話をしておきたいのだが、いいか?」
「構わねぇ。何だ?」
バハムートは救出したエルフの女性から聞いた話を伝えた。
「神龍の事は既に聞き及んだか?」
「別れ際に。でもイマイチ理解が出来てないんだ。名前からして神に関わりがあるドラゴンだと思うんだけど・・・。」
「その読みは当たりだ。伝承でのみらしいが、その神龍は神々の住まう天界を出身に持つ龍。神と同格の存在だ。我も話には聞いていた程度だが実在していたとは驚いた。」
伝説の竜王が何言ってやがる。と思うタクマだった。
「そして神と深い関わりもあるとも判明した。」
バハムートが言うには神龍は全てで五体存在するらしく、世界の均衡を支える柱の役割を担っているという。
しかし五十年前、生態系などが変化したと同時に神龍の存在も消えたらしい。
「五十年前・・・。ウィンロスとガンジのおっさんが言っていた異常事態と完全に重なってる。もう偶然てレベルじゃなくなったな。」
「とりあえず我らが聞いた話はこの辺り。後は本人たちに聞いた方がいいだろう。」
「あぁ、分かった。」
すると女風呂から竜化したリヴがにゅっと顔を出した。
「ねぇウィンロス。せっかくお風呂に入ってるからついでにアンタを洗ってもいいかしら?」
「・・・・・何て?」
ウィンロスが見たことない表情をしている。
「前回洗った後のアンタ、すっごくもふもふしてたから今夜はアンタに包まって寝たいなって皆と話しててね。・・・ニヒ!」
「ニヒ!じゃねぇよ!アレで最後ちゃうんか⁉」
「なわけないでしょ。リーシャ達は完全に味をしめてるわ。アンタ人間の裸体には興味ないみたいだし、大人しくこっちに来なさい!」
ぐわっとウィンロスを捕まえるリヴ。
「いやーーー‼食われるーーー‼」
そのままウィンロスは女湯の方へと引きずり込まれていった。
傍から見たら結構ショッキングな絵面だ。
女湯からは女性陣の声と悲鳴を上げるウィンロスの断末魔が聞こえてくる。
「・・・子供が見たらトラウマ級の絵面だったぞ。」
「だな・・・。」
流石のネクトも顔を青くしていた。
そして更に顔を青くして震えているのはロキだった。
湯浴びも済、ホカホカの状態でウィークスの待つ中央テントにやってきたウィンロス以外の男性陣。
「あれ?緑のドラゴンは?」
ネオンが問う。
「女子たちにもふもふにされて一緒に寝てる。」
「何⁉あの美少女達と⁉なんて羨ましい奴‼」
男と言ってもドラゴンなので別にどうという事はないと思うが。
騒ぐネオンを無視しタクマ達は明日の予定を話し合いその晩は解散とした。
「なぁ、俺も一緒に寝ちゃダメ?」
去り際にネオンがそう言ってくるが当然答えはノー。
「知り合いとはいえ流石にな。」
「つかお前は女共といたいだけだろ?下心丸出し。」
「うぐ!ダメもとだったけどやっぱりか。すまん。忘れてくれ。」
タクマ達と離れるがやはり肩を落としてすごすごと戻っていくネオンだった。
少し大きめのテントに戻ってきたタクマはテントの中を覗くと、ウィンロスの羽毛に埋もれて幸せそうに眠る女性陣がいた。
ウィンロスもあんなに嫌がってたくせに爆睡だ。
「ブフッ、仰向けで寝るなよウィンロス。」
焚火を囲うように座る男性陣。
クロスとロキも解放されて男五人で集まる。
「アイツ等は?」
「爆睡。疲れが溜まってたのか羽毛が気持ち良すぎるのか知らねぇけど。」
タクマも焚火の前に腰を降ろした。
「・・・結構大きな案件になってきたな。」
「あぁ、神が関わっているとはいえここまで大規模になるとは思っても見なった。」
王女を助けた事から始まったエルフの救出が各地を彷徨う事件になるとは当時は考えられなかった。
「まぁそのおかげでお前らに会えたのもあるがな。」
「ん?」
ネクトはコーヒーを飲みながらこちらを向いた。
「ところでネクト。お前ずっと探していた生きる目的が見つかったみたいだが、俺との決着はどうするんだ?」
ネクトはタクマと戦う事で生きる目的を見つけようとしていたが、リルアナを助けたことで彼女の感情を取り戻すという新たな目的を見つけた。
「・・・当然決着は付けるさ。だが今はそれどころじゃなくなってるのが現状だ。だから今はそっちに集中しようぜ。」
「・・・分かった。」
ネクトはそれ以上語らなかった。
翌朝。
これまでの戦いの疲れを癒した一同がウィークスたちのいる中央テントに向かっているとテントの前に誰かがいた。
「あれは、助け出したエルフの女性?」
タクマとバハムートに神龍の事を教えたエルフの女性がテント前にいたのだ。
「あ!」
女性はタクマを見つけるとこちらに走り寄ってきた。
「あ、あの!貴方に話したいことが!」
「分かった分かった!とりあえず落ち着け!」
勢い迫る女性を何とかなだめて一同はテントに入る。
既にウィークスとネオンが待っていた。
「改めまして、我らエルフを助けていただき感謝します。この御恩は一生忘れません。」
礼儀よく頭を下げお礼を言うエルフの女性。
「あ、申し遅れました!私はフランと申します!」
「俺はタクマだ。エリエントの王女、オリヴェイラに頼まれ攫われたエルフの救出をしている冒険者だ。後ろのドラゴン三体は俺の従魔だ。よろしくな。」
自己紹介も済、一同は彼女の話に耳を傾けた。
「それで?話ってのは?」
「はい。神龍の事でより詳しい情報をお伝えしたく。」
彼女の話はこうだ。
その神龍はエルフが信仰している存在で大昔から代々言い伝えられているらしい。
しかし数十年前に神龍は自身の力を制御できなくなり、危険を悟った神龍は自らを巨神山岳奥底に封印したという。
「神龍が自らの力を制御できなくなった?神龍はその名の通り神に近い竜種。そんな存在が自らを制御できなくなるなどありえん話だ。」
神と言われるほどの力を持っているのなら当然その力を制御出来て当たり前のはず。
しかし彼女の話は真実だった。
「なぁタクマ。これも五十年前の環境の大変化と関係があるんとちゃうか?」
「かもしれねぇな・・・。」
エルフのフランは話を続ける。
「神龍もそうですが、何より気掛かりなのが『従神様が神龍を手中に収められる日は近い』と言うあの司祭達が話していたのを聞きました。」
「従神、だと?」
タクマは眉を顰めた。
「それにこうも言っていました。『大分エルフが集まった。神龍の復活までもう少し』だと。」
神龍にエルフ、聖天新教会、そして巨神山岳。
廃墟のある巨神山岳に連れていかれたエルフ。
そしてそこには神龍がいる可能性もある。
タクマは何やら嫌な予感がした。
「尚更行かなきゃいけなくなったな。巨神山岳に。」
「あぁ。」
それにタクマは従神と言う単語も気がかりだった。
「行くぞ皆!巨神山岳に!」
全員が頷きテントを後にする。
「タクマ!我らも準備が出来次第すぐに後を追う!山岳には何かある。気を付けろ。」
ウィークスに言われ頷くタクマもテントを後にし、キャンプ地を出発した。
バハムートの背に乗るタクマ達。
ネクトとリルアナはロキの背中に乗って巨神山岳に向かっていた。
そして女性陣はウィンロスの背に乗っていた。
「もふもふ~!」
「またこれかよ・・・。」
流石のウィンロスもうんざりしていた。
「昨日からもふられっぱなしだからな・・・。」
タクマも苦笑いしている。
「・・・なぁリルアナ。そんな密着する必要はないぞ?」
リルアナはネクトの背中に抱き着いていた。
「高い所、怖い。」
感情がないため無表情だが怖がってるのは本当のようだ。
しばらく空の旅をしていると前方に大きな山岳地帯が見えてきた。
「見えたぞ。巨神山岳だ。」




