『第八十三章 信じる者』
「来い!ウィンロス!」
巨大な魔法陣を展開し、ウィンロスを召喚する。
「よっしゃ出番か?うぉっ⁉何やあのヒュドラみたいな奴⁉」
タクマ達はウィンロスに事情を説明する。
「そういうことか。ほな任せとき!」
タクマはウィンロスの背に飛び乗り飛翔する。
そして五つ首と戦うネガクロスと合流した。
「え!クロス⁉何かメカメカしくなっとる⁉」
「驚いてばかりだなお前・・・。」
説明を後回しにして五つ首と一体となったローヴェルトに向き直る。
「ドラゴンを召喚したか。そんな芸当も出来るとは。」
「あれって見学した時見た聖職者っていうじいさんだったよな?何かバケモンと一体化しとるし若返ってへん?」
面倒になったタクマは説明を諦めた。
すると五つ首を伝ってネクトが駆け上がり、振り向きざまに技を繰りだし爆発を起こす。
そのままネガクロスの肩に着地した。
「おい。アイツ、聖女がいるのはどのあたりだ?」
タクマはラルに念話で詳しい位置を教えてもらう。
「真ん中の首、その中心の腹辺りのようだ。」
「真ん中の首の腹辺り・・・あそこか!」
位置からして核がある辺りだ。
「行くぞ!ネガクロス!」
「ヴォォォ‼」
息をつかせる間もなくネクトとネガクロスは五つ首に突っ込む。
「あのバカ・・・!俺達も行くぞ!」
「はいな!」
「オッケー!」
ウィンロスとリヴも後に続いた。
「私達はサポートに徹しよう!」
(うん!)
リーシャ達は地上から援護をする。
ネガクロスは五つ首の頭を翻弄しつつタクマ達が注意を引かせる。
死角からの攻撃はラルの射撃で防ぎ、ネクトたちをサポートする。
「己!悪人風情が鬱陶しい真似を!」
苛立ちが増したローヴェルトは怒りに任せ無尽蔵にブレスをまき散らす。
庭園の草木には反射の魔術がかけられており更に無軌道にブレスが襲い掛かる。
「あぶね!」
なかなか近づけないタクマ達と違い、ネガクロスは理に干渉されないためブレスを物ともせず真っ直ぐ五つ首の核目掛けて急降下していく。
「無理やり突っ込むつもりですか!ラル!」
(『マグナ』‼)
ラルの両肩両腕からそれぞれ一発ずつ魔弾を発射し五つ首の腹に直撃する。
わずかだが外壁に亀裂が入った。
「突っ込めーーー‼」
ラルの付けた亀裂目掛けて突進、右腕のガトリング砲を突き立てる。
そしてそのまま五つ首の腹はガラスが割れるかのように砕け内部に侵入することが出来た。
無数の膜みたいなものであちこちに張り巡らされており、その中心に膜に巻き付かれて気を失っている断罪聖女を発見した。
「いた!おい!無事か?」
ネガクロスから飛び出し聖女に近づくと突然膜が伸びてきてネクトとネガクロスに巻き付いたのだ。
「な⁉」
「グゥゥ⁉」
完全に動きを封じられてしまった。
「思い通りにはさせませんよ・・・!」
外ではローヴェルトが体内に意識を集中させている。
「ネクトの邪魔はさせねぇ!」
「ウィング・サイクロン‼」
「ストリーム・ブラスト‼」
ウィンロスとリヴ、そしてラルが少しでも注意を引こうと攻撃を続ける。
「おのれ、おのれおのれおのれーーー‼」
ついにキレたローヴェルトは力任せに暴れ始めた。
「いい加減消え去るがいい!悪人風情がーーー‼」
キレさせることによって完全に注意を引くことが出来た。
「そっちは任せるぞ!ネクト!」
「おい起きろ!いつまで寝ていやがる!」
絡みついた膜を引き剥がそうとしながら聖女に言い聞かせるネクト。
すると聖女はゆっくりと目を開けた。
「・・・もう、放っておいてください・・・。」
苦しそうに顔を上げる聖女。
膜が絡みついた顔を見せた。
「私は・・・世の人々のために、感情を失ってまで、教会を信じてここまでついてきました。しかし・・・その信じていた教会、聖職者様にまで、このような扱い・・・。所詮私は、教会の程のいい道具だったのですね・・・。」
完全に生きる気力を無くし死ぬことを望んでいた。
信じていた者にまで裏切られ、ただの道具のように扱われる始末。
彼女の生きる目的の全てがガラスのように崩れ去ったのだ。
「もう、私が生きている意味なんてありません。どうか、私を殺してください。貴方の手で、私を終わらせてください・・・。」
無情の笑みを浮かべて言う聖女。
「・・・本気で言ってんのか?」
ネクトは槍を強く握りしめ膜を振りほどく。
「信じていた奴らに裏切られたから死にたい?終わりたい?馬鹿言ってんじゃねぇ!俺なんか何十回、何百回と裏切られてきた!お前のたった一回の裏切りなんて訳ねぇ!それに、俺は言ったよな?感情を戻させてお前が今までしてきたとがどれだけ人を苦しめていたのか思い知らせてやるってな!忘れたとは言わせねぇぞ・・・!」
ネクトは聖女に近づく。
と同時にまた膜がネクトを阻むように迫る。
「どれだけ死にたがろうが生かしてやる。生かして生かして生かし続けて、お前を心底絶望させてやる!だから、お前をここから連れ出す!」
迫りくる膜を薙ぎ払いながら聖女に手を伸ばす。
だが近づくにつれて次第に膜の勢いが増し、ネクトの絡みつく。
ギリギリと音を立てつつも手を伸ばし続けるネクト。
「例え嫌でも、俺がお前の感情を戻させてやる!だから・・・俺の手を掴め聖女!」
しかし、聖女は俯き続ける。
「無駄です。私に感情はもう存在しません。どんなに手を尽くしても、全て無駄に終わるのが関の山です。もういいんです。私を殺してください。貴方にしか頼めない事なんです・・・。お願いします。」
「断る。何度も言わせるな!お前には一度絶望を味合わせる必要がある。いいから俺の手を掴め!」
頑なに拒否するネクトに聖女はたまらす歯を食いしばり叫び出した。
「なんで、何で貴方はそんなに私に構うんですか‼赤の他人である私にそこまで構う理由が分かりません!そんなに私に感情を取り戻させたいんですか⁉そんなに私を絶望させたいんですか⁉」
感情のないはずの聖女は次第に涙を流し始める。
「なんで、なんでそこまで・・・。もう分からない・・・。信じていた人たちに裏切られただけでなく、貴方みたいな意味不明な陰浪者に散々な言われよう・・・。もう何もかも信じられない・・・。私は、私は一体何を信じて生きていけばいいと言うんですか⁉」
「だったら、自分を信じろ‼」
ネクトは泣き叫ぶ聖女に劣らずの声量で言い返す。
「もう誰も信じれないと言うんなら自分を信じればいいだろ!自分自身まで信じなかったら何が残る‼何も残らねぇだろ‼お前がどんだけわめこうが知ったこっちゃねぇんだよ‼」
怒鳴るネクトに当てられ声を出せずにいる聖女。
「だがな、今はここから出るために俺の手を掴め!お前は絶対に死なせない!今だけは俺を信じろ‼」
そう叫びながら必死に手を伸ばす彼に、聖女は手を伸ばした。
あれだけ死にたがっていたはずのに、何故かネクトの言葉を聞いて無意識に感じたのだ。
この人は絶対に自分を裏切らない。
自分を正しく導いてくれる人だと。
そうして聖女はネクトの手をゆっくりと掴むのだった。
応戦していたローヴェルトの五つ首のドラゴンは突然苦しみだした。
「ぐぅ⁉うぉぉぉぉ⁉」
「何だ?」
「何や?」
タクマ達が何事かと驚いていると穴が開いた腹から光が溢れ出てきた。
「ま、まさか⁉」
そして光を突き破るようにネクトと衰弱した聖女を抱えたネガクロスが飛び出してきたのだった。
「ネクト!」
「聖女さんも無事です!」
核を断罪聖女の魔力で補っていた五つ首は急激に力を失い始めた。
「ば、馬鹿な⁉こんなことが・・・⁉」
全員が地面に降り立ちローヴェルトに向き直った。
「さぁ、今までやってくれた分、倍にして返してやるぜ!」
後ろ盾が無くなったローヴェルトにもう恐れるのもはない。
「行くぜ皆‼」
「「「おう‼」」」
そして一斉に五つ首に攻撃を仕掛けた。
タクマの斬撃、ウィンロスの風の刃、リヴの水と氷魔法、リーシャの魔術と槍術、ラルの砲撃、ネクトの魔槍解放した槍、ネガクロスの圧倒的パワー。
それぞれが五つ首にダメージを与えていき、力を失ったローヴェルト相手に無双状態だった。
「そんな!この私が、この私がこのような奴等にーー‼」
一斉に掛かるタクマ達を振り払い逃げようとするローヴェルトにネガクロスが五つ首の尻尾を掴み止めた。
「逃がさねぇよ。ネガクロス‼」
「グオォォォォォ‼」
ネガクロスの超パワーが五つ首の巨体を軽々持ち上げぶん回した。
「今だ!来い!バハムート‼」
剣を地面に突き刺し魔法陣からバハムートを喚び出した。
「オオオォォォォ‼」
バハムートの咆哮を合図にネガクロスは五つ首を上空へ投げ飛ばした。
「ヒ、ヒィィィ!」
ローヴェルトもバハムートの存在に気が付き顔を青くする。
バハムートの口に超高出力の炎が集まっていく。
「バハムート‼いけぇぇぇ‼」
「『超天炎王砲』‼」
とてつもない威力の炎のブレスが真上に放たれる。
「ぎゃぁぁぁぁ‼馬鹿なぁ!この私が!神に選ばれたこの私が負けるなんてーーーー‼」
ローヴェルトと五つ首のドラゴンは獄炎の業火に焼かれ灰も残らず燃え尽きたのだった。
夜明けが近い空。
反射魔法のおかげで傷一つ残らない教会の庭園で集まるドラゴンたち。
「お主、クロスとロキが融合した姿なのか?」
バハムートもネガクロスに驚いていた。
「俺の奥の手の一つだ。合体できるのは知ってる中ではこいつ等しかいないぜ?」
「何よ・・・めちゃめちゃカッコいいじゃない・・・。」
人型に戻ったリヴが羨ましそうに見ていた。
「それを言うならお前。」
「はい?私ですか?」
ネクトはリーシャを指した。
「お前のドラゴンも進化って言う珍しい力を持ってるじゃないか。」
戦闘が終わったラルはまたいつの間にか小竜に戻っていた。
「オレ等も知らんかったで。後で説明してくれな?」
「そうですね。後にお話しします。」
さて、教会のトップを倒し一人残された断罪聖女。
彼女は依然感情を失ったままだ。
生気のない瞳でその場に座り込んでいる。
ネクトが彼女に歩み寄り声を掛ける。
「いつまでうなだれている気だ?」
「・・・私には、貴方が理解できません。貴方の命を奪おうとした。なのに貴方は私を助けようとした。教えてください。貴方にとって、私は何なんですか?」
迷う聖女にネクトは言い放った。
「・・・生きる目的だな。」
「!」
タクマ達はネクトがずっと探し求めていた自身の生きる目的が見つかったことに驚いた。
「どういうことですか?ネクトさん。」
「こいつは自分の心を犠牲にしてまで民衆を救おうとしていた。だが犠牲を払ってまで民衆を救う事に意味はあるか?」
「人によってはあるんじゃないでしょうか?」
「だが俺がこの街で調べた結果、民衆は聖女が自分を犠牲にしていることを心底心配していた。例えお前が民を救っても、救われた者には極度の心配が残るんだよ。民を心配させてお前はそれでいいのか?」
ネクトの言葉に聖女はゆっくりと答える。
「・・・良くない。民を救うために聖女になったのに、逆に心配をさせて不安にさせているのなら・・・私は聖女になった意味がない。」
聖女は顔を上げてネクトを見た。
「私は、感情を取り戻したい。聖女じゃなくなってもいい。聖女じゃなくても人は救える。貴方のように。」
彼女は手を伸ばした。
「私を、貴方の旅に連れてってくれますか?」
ネクトはフッと笑い手を取り立ち上がらせた。
「あぁ、お前の感情を取り戻して絶望させる。それが俺の生きる目的だ。」
「なんちゅー理由やねん。」
たまらずウィンロスがツッコみを入れた。
「ふふ、楽しみにしてます。」
感情のない聖女も少し笑ったのだった。
「それと、お前や聖女ではありません。リルアナ。それが私の名前です。」
「そうか。よろしくな、リルアナ。」
こうして教会との決着はついた。
かに思えたがまだ終わっていなかった。
「え?聖天新教会はここだけじゃない?」
「はい。聖天新教会は幾つもの拠点が存在しています。ここから近い所ですと、巨神山岳に教会の隠れ拠点があるはずです。」
巨神山岳。
かつて栄えた街の残骸が残る廃墟がある標高地帯と聞いていたが。
何故そこに教会がたむろっているのだろう。
タクマは訝しんだのだった。
「あの、全員集まったみたいですけど・・・メルティナさんは?」
「「「あ。」」」
その頃、宿のベットにて毛布に包まり一人寂しく留守番をさせられているメルティナだった。




