『第八十二章 憤怒の合体』
五つ首のドラゴンと融合した元凶のローヴェルト。
人間をやめた彼は容赦なくタクマ達に襲い掛かる。
「消し炭となれ!」
五つの頭から同時にブレスが放たれる。
かわしたり相殺したりと凌ぎ切るがいかんせん数が多く、捌き切るのも精一杯だ。
「あーもうウザったい!まとめてぶっ飛ばしてやりたいわあの頭‼」
イライラが増して言葉がどんどん悪くなるリヴ。
このままじゃ彼女のイメージが危うい。
「とにかく左右の首四つを同時に狙うぞ!皆行けるか?」
「大丈夫です!」
(ボクも!)
「やってやるわ!」
四人は一斉に飛び掛かる。
「何をやっても無駄です!」
飛び掛かる四人を叩き落そうと頭をけしかけるローヴェルト。
それぞれがそれぞれの技で受け流し首も付け根に狙いを定める。
「居合・水刃爆‼」
「ライト版、『死滅の光神』‼」
(マグナ・バレッツ‼)
「海裂刃‼」
四人の技が炸裂し、真ん中を残した全てを首を破壊した。
「無駄だと言っています!この程度のダメージなどすぐに再生・・・!」
「ゼログラビティ‼」
リヴの重力魔法が破壊した首の断面に掛かり、無理やり再生を止めた。
「なっ⁉再生できない⁉」
「今よ!」
「はい!」
リーシャの従魔結石が強い光を放つ。
彼女の背後に両肩両腕のキャノン砲を軸に口に魔力を溜め始めるラル。
「狙うは中央の首に位置する核!」
ラルのチャージが最高潮に達する。
「『アルビオン』‼」
強力なエネルギー砲が轟音と共に放たれる。
ローヴェルトは無理やり身体を動かし『アルビオン』をかわそうとした。
だが完全には避けきれず核を欠けさせることに成功したのだった。
核が半分砕かれたローヴェルトは血を吐いて苦しむ。
「ガハッ⁉お、おのれ!悪人風情が・・・!」
確実に動きが鈍っている。
畳みかけるなら今しかない。
「トドメだ!居合・月神速‼」
神速のスピードで核目掛けて切りかかるタクマ。
剣先が核に触れようとした時、
「終わらせてなるものかーーー‼」
「ヴォォォォォォォ‼」
凄まじい咆哮と共に全身から強い圧を放出し、タクマを弾き飛ばしてしまった。
「うお⁉」
弾かれたタクマはそのまま地面に落とされる。
「くそ!あと少しだったのに!」
だが攻撃は効いている。
弱々しく佇む五つ首のドラゴン。
(このままではまずい!急いで代わりになる核を取り込まなくては!)
するとローヴェルトはあることを思いつき、ニヤリと笑った。
そして五つ首と後ろに振り替えり後方へと移動していった。
「どこ行く気?」
「あの方角は、まさか⁉」
少し離れた所で断罪聖女は目を覚ました。
「・・・ここは?」
「目が覚めたか?」
側で座っているネクトとロキ。
「すみません、私は一体何を?」
「お前はローヴェルトに全ての感情を奪われたんだよ。それで魔法のタガが外れて全力で暴れてたって訳だ。」
説明される聖女だがキョトンとした表情だった。
何一つ変わらない表情。
もう彼女の中には感情と言うものが一切残っていない。
「程よく利用され、心も奪われて、お前は何のために聖女になった?」
「苦しむ人々を助けるためです。そのために感情が必要ないと言うのなら、私はそれに従います。」
ネクトは長刀を強く握りしめた。
「それでお前が苦しんでたら、意味ねぇだろ・・・!」
ネクトは立ち上がり聖女に詰めた。
「いいか!自分が犠牲になる正義など、無意味だ!自分が苦しめば人が救われる?んなわけあるか!そんなことして助けてもらった奴はどう思う?自分のせいでお前が苦しんでたらどう思う?結局救われてねぇんだよ!」
ネクトの圧の掛かった言葉にも聖女は顔色一つ変えない。
それでもネクトは物申す。
「そんなことされた奴は心底嫌だろうな。人の心を犠牲にして自分は救われるなんて嫌だろうな。だから今度は俺がお前に嫌な事させてやる!」
ネクトは聖女の腕を取って立ち上がらせた。
「お前に感情を戻させる!そうすれば今までお前がしてきたことがどれだけ人を苦しめていたのか思い知らせてやる!せいぜい心が潰されないようにしとくんだな。」
鋭い目つきで言うネクト。
「・・・そうですか。確かに心が無くては聖女は務まりませんよね。分かりました。その提案を飲みましょう。こちらこそよろしくお願いします。」
そう言い握手の手を差し出すがやはり心がこもっていない。
だがネクトの決意は固い。
「ふん!覚悟しとけよ?」
ネクトも握手しようと手を差し伸べた、その時だった。
「ヴォォォォォォォ‼」
背後から五つ首のドラゴンが迫ってきたのだ。
そのまま二人に襲い掛かり土煙が舞う。
ネクトは寸前でロキに引っ張ってもらったおかげで無事だったが、聖女は中央の首に捕まってしまい、そのまま食べられてしまった。
その光景を見たネクトは自身の何かがプツンと切れる音がした。
「フヒヒヒ!まさに格好の餌!感情を取り除いたことで余計な灰汁もない!純粋な魔力の塊だ!ハハハハハ‼」
聖女を取り込んだことで再生するどころか更に強化されるローヴェルト。
切断された首は瞬く間に元に戻り、更に鱗が黒く強靭な物へと変化したのだ。
後から追いついたタクマ達もその変貌ぶりに驚きを隠せないでいた。
「アイツ、今聖女を食って・・・⁉」
「・・・許せない‼」
リーシャも怒りが頂点に達した時、更にその怒りを上回る憤怒を感じ取った。
視線を移すと五つ首の前に佇むネクトとロキがいた。
「ネクト?」
彼からはとてつもないオーラがにじみ出ている。
「おい・・・、クソ聖者。テメェが今何したか分かってんのか?」
「何?」
ローヴェルトもネクトの方を向く。
「今俺はアイツに大事な話をしていた最中だったんだよ。アイツの感情を取り戻して後悔させるという約束をしようとしていた時に・・・!」
「感情を取り戻す?フハハハハ!何を言うかと思えば。そんな無駄なことして何になると言う?聖女はもう心のないただの人形。ただ私の命令通りに動き、悪人に裁きを与え続ければいいのです!おっと、彼女は今私が食べてしまったんでした。フ、フハハハハハ‼」
タクマ達も怒りがこみ上げる。
が、それ以上近づこうとはしなかった。
いや、出来なかったのだ。
何故なら、彼等よりもさらに強い憤怒がタクマ達を寄せ付けなかったのだから。
「そうか・・・。じゃぁお前は、徹底的にぶっ殺す‼」
恐ろしい程の剣幕で長刀から槍に変わった武器を構える。
すると槍の先端が開き、中から翡翠色の魔石が姿を現した。
「あれは!」
「従魔結石‼」
ネクトは指輪を外し空へ投げる。
そして指輪に魔力が集中し、黒竜のクロスが解き放たれた。
「グォォォォォ‼」
咆哮と共にクロスとロキ、二頭のドラゴンが揃う。
「俺達の力、見せてやるよ‼」
ネクトの従魔結石が強い光を放つ。
するとロキの身体が幾つものパーツに別れ始めた。
そしてパーツはクロスの各部位に次々と装着されていく。
背中にはジェットの付いたロキの翼。
胴体には鋼鉄の武装、右腕にはロキの顔が付き口からガトリング砲が飛び出す。
そして頭部に仮面が施されクロスの折れたクリスタルの角が再生していく。
その姿は完全武装したドラゴンとなりネクトの背後に降り立つ。
「武装竜・ネガクロス‼」
「グォォォォォ‼」
なんと、クロスとロキが合体したのだった。
「合体したーーー⁉」
当然タクマ達も驚いた。
ローヴェルトも同じ反応だ。
「ドラゴンが合体だと⁉そんな物、聞いたことないぞ⁉」
「知らずして当然、異世界から来たロキしか持っていない特別な力だからな!」
そして互いのドラゴンが立ちはだかる。
「行け、ネガクロス‼」
「グォォ‼」
ネガクロスの翼からエネルギーが放出され、空へ飛び立つ。
迫る五つ首をかわし、背後へと回る。
そして右腕のガトリング砲を浴びせる。
「小賢しい‼」
首の一つがネガクロスに迫る。
が、旋回してかわしそのまま首に爪で斬撃を与えた。
「ガァァァァァ‼」
切られた首が苦しむ。
すぐに再生するはずが回復せずそのまま傷は残っていた。
「さ、再生しないだと⁉何故だ⁉」
「ネガクロスは世界の理から外れた、言わば外来種だ。理に属していないからどんな概念もネガクロスの前には通用しない。アイツの付けた傷はお前の再生力に干渉されない!」
難しい事を言うネクト。
要するにネガクロスには世のルールが一切通用しないという事。
完全なチート存在だ。
正直彼らと戦っていた時にネガクロスが現れていたらと思うとゾッとするタクマ達だった。
「理に干渉されないだと⁉そんな事ありえん!あり得るはずがないのだ‼」
ローヴェルトはネガクロスに襲い掛かる。
だが、
「グオォォォォォ‼」
咆哮と共に魔力を纏って突進し、五つ首をなぎ倒す。
その瞬間、ラルが五つ首の内部から微かな魔力反応を感じ取った。
(リーシャ!アイツの中から人の魔力を感じるよ!きっと食べられた女の子だ!)
「本当⁉」
(うん、凄く弱ってるけどまだ生きてる!)
だったらやることは一つ!
「ネクト!」
「あぁ、聞こえてた!」
取り込まれた聖女奪還へ向けてドラゴンたちの猛攻が炸裂する。




