『第七十九章 陰の衝突』
教会の見学を終え、ネクトと合流したタクマはバハムート達の待つ宿に戻ってきた。
そしてネクトがようやく掴んだ情報と言うのは、
「大きく分けて三つ。一つは捕まったエルフの居場所。二つ、その件に関わってる連中。そして三つ、売られたエルフの行方だ。」
その内二つは既にタクマが調べを付けた事だ。
残りの一つはネクトから直接聞かせてもらう。
「お前も既に掴んでいたか。」
「あぁ、エルフは教会の地下に捕まってるので間違いない。そして関わってる連中は聖天新教会のトップの爺さんたちと一人の聖職者だ。」
「あのジジィ共か。」
ウィンロスも思い出す。
「けどオレと別れた後よくそこまでの情報ゲットできたな?何かやったん?」
「実は・・・。」
タクマは偶然断罪聖女の部屋に迷う込み、彼女にもてなされながら先ほどの情報を教えてもらったとの事。
聖女自身は詳しい事情を知っていなかった事も話した。
「あの恐ろしい聖女に会ったんかいな!」
「恐ろしい?」
断罪聖女を知らないリーシャ達にウィンロスはふざけ半分に説明する。
話を聞いたリーシャとメルティナは互いに抱き合いながら震えていた。
「初対面のタクマに何の躊躇もせずもてなす行動もある意味恐ろしいが・・・。」
「聖女の話はもういいだろ。問題はその教会のトップが絡んでるって事だ。」
そう、表では民に絶対的な信頼を得ている聖天新教会。
乗り込むにしても正面から出てはこちらがお尋ね者になってしまう。
どうにか奴らの悪事を暴いて表に出さねば。
「だが三つ目の売られたエルフの行方も気に掛かる。その辺の詳細は掴めていないのか?」
バハムートがネクトに問う。
「あぁ、その奥までは流石に掴めなかった。これ以上の詮索は向こうが持ってる資料などが必要かもな。」
「とにかく、居場所は分かった。まずはエルフを救出するぞ!」
全員が頷いた。
その日の夜。
四つの影が教会の敷地内に侵入する。
「リヴ。どうだ?」
「クンクン、大丈夫。近くに人間はいないわ。」
「行きましょう!」
タクマ、リーシャ、リヴ、ネクトの四人が先に夜の教会内に潜入。
リヴの嗅覚を頼りに人気を避けながら奥へと進む。
「この下!地下から人間と違う匂いがする!」
「地下か。何があるか分からない。気を付けろ。」
三人は頷き、地下へ続く階段を降りていく。
すると薄暗い牢屋を見つけた。
牢屋の中には女性と少女のエルフが捕らえられている。
「ビンゴ!」
「あ、貴方達は・・・?」
「オリヴェイラから救助を頼まれた冒険者だ。味方と認識してくれ。」
リヴが牢屋の鍵を握りつぶし、エルフを連れ出す。
「おじ様、お願い!」
「任せよ。」
念話でバハムートに合図を送りエルフ達の足元に『空間異動』の魔法陣が展開する。
「あの・・・!」
「ん?」
エルフの女性がタクマに語り掛けた。
「どうかお願いします!神龍の復活だけは阻止してください!」
「⁉」
するとそこへ誰かがやってきた。
断罪の間にいた五人の老人、教会の最高神官だった。
「な!貴様等何者じゃ⁉」
その直後にエルフ達はバハムートの元へ転移し、すかさずタクマとネクトが武器で地面を叩き煙幕を発たせる。
その隙にタクマ達は部屋を脱出した。
(今トップとやり合う気はないからな!)
煙幕が晴れると既に四人は居らず、最高神官は慌てて彼らを探し出す。
「探せ!トップシークレットを見られた!我ら聖天新教会の古堅に関わる!生きて返すな!」
五人の老人たちも大慌てで部屋を飛び出した。
(生きて返すな。教会の人間が使う言葉じゃないですね・・・。)
老人の大声が聞こえていたリーシャは軽く呆れていた。
「・・・・・。」
「どうしたの?主様?」
「いや、何でもない。」
タクマはエルフの女性が別れ際に言った事が気になっていた。
『どうかお願いします!神龍の復活を阻止してください!』
(神龍の復活・・・、一体どういう事だ?)
何はともあれ、エルフ全員助け出した。
後は売られたエルフの売り先の証拠が欲しい所だ。
「クンクン、インクと紙の匂い!この部屋!」
リヴの指した部屋に飛び込みリーシャの防壁魔法で扉を封じた。
「これでしばらくは見つからないはずです。」
「よし、さっさと情報貰ってずらかるぞ!」
四人は部屋にある書類や本などを漁り有力な物がないか探す。
「これも違う。これも違う。お菓子のレシート、めっちゃいらねぇ!」
そうして探しているとネクトが一枚の書類を見つけた。
「あった!エルフの売買契約書だ!」
目当ての書類の束をリーシャの異空庫に放り込みすぐに脱出する。
窓から庭園に降りたその時、
「ん?」
彼等目掛けて棘の付いた鉄の板が降ってきたのだ。
「危ねぇ!」
タクマはリーシャを抱え四人は寸前で避ける。
目線を上げるとそこには彼女がいた。
「断罪聖女・・・!」
「あの人が・・・!」
そして聖女の隣には聖職者もいた。
「我が教会に忍び込むとは、いただけませんね。教会は神聖な場所です。その聖域に無断で入った貴方方はもはや裁きの対象となりました。お覚悟をお願いします。」
聖職者がそう言うと断罪聖女が手を掲げ、二つの巨大な虎ばさみが現れた。
「悪人の魂に幸あれ。」
虎ばさみがタクマ達に放たれる。
「リーシャ!」
「うわっ⁉」
タクマはリーシャを投げ捨て剣で虎ばさみを受け止めた。
もう一つの虎ばさみもネクトが長刀で難なくあしらう。
「往生際の悪い。聖女様、悪人に情けはいりません。必ず裁きの鉄槌を。」
「はい。」
今度はシャックル型の幻影が放たれる。
「『死の分裂機』。」
瞬間移動しタクマを捕らえるように現れる。
「居合・流倫華翔‼」
危険を感じとり咄嗟に炎の花びらを勢いよく放ち、シャックルを崩壊させた。
「危ねぇ!串刺しになるところだった。」
「しぶといですねぇ。では聖女様。次の一手を・・・。」
そう言いかけた時、細長い槍が聖職者に投げつけられる。
聖職者は避け、槍が地面に突き刺さった。
「さっきから、聖女に指示してばかり。いい加減黙れってんだ。」
槍を引き抜き、前に立つネクト。
「陰浪者、ですか・・・。」
そこに横槍を入れるように鉄球の幻影がネクトに投げられる。
「魔槍解放・アルファ!」
槍は青色のオーラを放つ盾の付いた槍へ変形し、鉄球を受け止めた。
「断罪聖女・・・。裁きを執行する少女か。」
鉄球の幻影を消し飛ばし聖女に向き直るネクト。
「理解できないな。」
「?」
「聞けばお前、処刑で人の命を奪うために自分の感情を捨てたと言ってたようだな。・・・それが理解できない。他人のために自分を犠牲にするのか?」
ネクトの疑問をぶつけられた聖女は、
「後悔はありません。私が悪人を捌くことで民の安寧が約束されるのです。民が安心して過ごせるのなら、皆幸せです。」
「・・・・・。」
聖女は複数の拷問器具の幻影を投影、一斉にネクトに放たれるもネクトは全ての器具を避け聖女の目の前に迫った。
「だが、お前自身は何も幸せじゃなさそうだな。」
「!」
急接近で目の前に現れるネクトに聖女は彼の足元に巨大な半球型の球体を出す。割れた左右の半球体の内部は鉄の棘で密集していた。
「『黒処女』!」
球体が閉じ、ネクトは鉄の棘だらけの中に閉じ込められてしまった。
「ネクトさん!」
リーシャが叫ぶ。
「ハハハッ!陰浪者に相応しい最期でしたね。」
聖職者が笑っているとタクマが切りかかった。
「おっと、不意打ちとは感心しないな。少年よ。」
「黙れ・・・!悪人だの陰浪者などネクトを馬鹿にしやがって!アイツがいつ何をした?ただ生きてきただけの奴に何故そこまで言われなきゃいけない!」
「愚門ですね。陰浪者は全て表の世界で悪事を行った者の総称だ。彼も陰浪者なら悪人に等しい。何を当たり前な事を・・・。」
「俺をそこらのクズと一緒にするな・・・!」
突然球体にヒビが入り、力強く弾け飛んだ。
「⁉」
聖女と聖職者は驚く。
球体があった場所から機械仕掛けの竜、魔械竜のロキがネクトを守るように現れたのだから。
「ロキ!」
閉じ込められる直前、指輪からロキを解放し彼の鉄の身体で棘を全て防いだようだ。
ネクトは無傷だった。
「な、何だあの魔獣は⁉」
「そういや言ってなかったな。俺達はテイマーだ!」
炎の剣で聖職者に切りかかるタクマ。
聖職者も後ずさりをする。
「ドラゴンのテイマーだと⁉馬鹿な!国を救ったという噂は本当だったのか⁉」
聖職者はタクマが噂のドラゴンテイマーだという事に今更気づいたらしい。
「気付くのが少し遅かったな!」
身を低くし、居合の構えをとる。
「居合・一閃!」
一瞬の斬撃が聖職者に直撃したのだった。
聖女の罠から逃れたネクト。
しかし、ドラゴンのロキが出てきたにも関わらず聖女の表情は一切変わらなかった。
(ロキが出てきても顔色一つ変えない。感情が無いのは本当のようだな。)
「俺にはこいつがいる。それでもまだ戦うつもりか?」
「勿論です。それが私の、断罪聖女としての義務ですから。」
器具の幻影が容赦なくネクトたちに降りかかる。
ロキと共に避けながら聖女と距離を詰める。
ネクトが目の前に差し掛かった時一際大きな二枚の壁が左右に現れ、ネクトを挟む。
だがネクトは寸前で加速し壁を避け聖女の背後に回る。
聖女がネクトに注意が引かれていると、
「ロキ!」
正面からのロキの接近に反応が遅れた。
ロキは至近距離で目から強烈なフラッシュを放つ。
「うっ⁉」
眩しさのあまり目をつむる聖女。
その隙をつき、ロキの口から鎖が飛び出し聖女を拘束した。
(何の魔術もないただの鎖・・・。この程度なら私の器具で・・・。)
ハサミ型の器具の幻影を出し鎖を切ろうとする。
しかしロキの鎖には切れるどころか傷一つつかなかった。
「っ!どうして?」
無表情のまま不思議そうにする聖女にネクトが種明かしをする。
「お前の幻影、この世界のモノにしか効果がないみたいだな。」




