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『第八章 もう一人のテイマー』

剣が使えなくなった今、タクマは道なき道を歩んでいた。

「タクマ、本当にこの先に集落があるのか?人間が進むにはちと厳しいぞ、この森は。」

「何かしら秘密の通路があるんだろ?冒険者がひっきりなしに来てたらキリがないだろうからな。」

昨晩出店鍛冶屋のドワーフのおじさんはタクマの剣を作ってもらうため故郷のドワーフの里の場所を教えてくれた。

里は山奥の洞窟内にあるというので人眼にはつきづらいらしい。

「しかしあの娘、あれほどお主と同行したがってたが何故来なかった?」

今回アルセラの同席はなかった。

というのも部下たちがようやく仕事が行えるまで回復したので近衛騎士団としての活動が再開したのだ。よって隊長であるアルセラはそちらの仕事を優先しなければならなかったので今回はタクマとバハムートだけである。

「部下の人たちがようやく回復したから騎士団の仕事が再開したんだって。」

アルセラもドワーフの里にすごく行きたがっていたので帰りにお土産でも買っていくことにした。

「と、雑談してるうちに着いたぞ!」

森を抜けると巨大な岩壁が出現しそのふもとに大きな鉄の扉があった。

扉の前にはドワーフが二人、門番のようだ。

「そこの小僧、止まれ!」

一人の門番が話しかけてきた。

「ここに人間がくるのは珍しいが何用で来た。」

「街に来てた武器屋さんの紹介で新しい剣を作ってもらいたくて来た旅人です。」

タクマはバッグから筒状に丸められた手紙を渡した。

門番はそれを受け取り自分たちの店であることを確認しバッチ型の許可証を渡した。

「確かに我らの店の家紋だ。ほれ、許可証だ。付けていればある程度はサービスを受けられるぞ。」

「ありがとうございます。行くぞバハムート!」

森に隠れてたバハムートがのっしりと出てきた。

門番二人は一瞬固まったがすぐに理解してくれたのか何も言わずに見送ってくれた。

(・・・またあの人が送り込んだか。)


 さて、無事に入国できたタクマだがドワーフの里には数えきれないほどの鍛冶屋がある。

誰が凄腕の鍛冶師か見当がついていないのでとりあえず街の人々に聞いて回った。

だが目ぼしい情報へ得られずにいる。

その日の夜宿にて、

「だめだ。なかなか見つからねぇ!」

バタッとベットに取れこむタクマ。

一日かけ腕のいい職人を探したが進展はなし。

「鍛冶師はたくさんいるんだけどバハムートに耐えきれる剣を作れる人じゃないとダメなんだよな・・・。」

しばらくベットの上でゴロゴロしながら考える。

そして出た結論は・・・、

「よし!飯食いに行くか!」

というわけで街のレストランへやってきた。

「考えても埒が明かない。行動を起こすにはまず腹ごしらえだ!」

「この店は我も入れるのか?」

「看板に従魔OKて書いてあるぞ。ドアもデカいし。」

二人は早速店内へ入った。

夕食時であってお客さんも多い。

お客はドワーフが大半だが中には冒険者の姿もあった。

里の位置を知っている冒険者もいるようだ。

「にしても広い店内だな・・・。余裕でバハムートくつろげるじゃん!」

「大型の従魔にも対応している。雰囲気も良いなかなかの店だな。」

店は洞窟を掘り返してできた空間構造になっており天井を高くしても頑丈な造りだ。

「とりあえず何頼む?」

「では我はチーズハンバーグとやらを・・・。」

タクマがメニュー表を広げた瞬間、後ろからガラスの割れる音が響いた。

「おい‼どこ見てほっつき歩いているんだ‼」

ゴツイ身体の冒険者が怒鳴り散らしたのは床に転んでいるローブを羽織った少女だった。

フードをかぶっていて顔は見えないが、様子を見る限り少女の持った水入りのコップがぶつかった表紙に冒険者の衣服にかかってしまったようだ。

「ご、ごめんなさい!少し考え事をしてて・・・!」

「謝れば俺のこの服が乾くとでも思ってんのか、あぁ⁉」

怖くて震えてる少女に容赦なく怒鳴り散らす冒険者。

彼らのパーティも止めようとせずただ様子を見るだけで周りの客はオロオロとしている。

この光景は見ていてあまり気分の良いものではない。

耐えきれずタクマがテーブルから立ち上がり間に割って入った。

「たかが衣服ごときで少女を泣かすのはどうかと思うが?」

「あぁ?何だテメェ、邪魔すんじゃねぇ‼」

タクマの登場で店内はざわつき始める。

「関係ねぇ奴は引っ込んでろ‼」

ゴツイ冒険者が拳を振り下ろす。

咄嗟に鞘ごと剣を取り拳を受け止める。

店内は一瞬の静けさに包まれた。

「お、俺の拳を・・・⁉」

「フッ、この程度・・・鞘を抜くまでもねぇ!」

華麗に剣を持ち替えゴツイ冒険者の頭部に思いっきりたたきつけ、冒険者は泡を吹き倒れた。

「テメェなんかなまくら刀で十分だ‼」

ゴツイ冒険者のパーティは居づらくなったのか倒れた仲間を引きずりながら店を出て行った。

タクマは少女の方へ向き直り手を取った。

「ほら、大丈夫か?」

「あ、ありがとうございます・・・。」

少女はペコペコと頭を下げながらお礼を言う。

「あ、あの!何かお礼をさせてください‼」

「別に見返りが欲しくて助けたんじゃないんだけどな・・・。」

「お願いします!」

深々と頭を下げてお願いされては断りずらい・・・。

せっかくなので彼女の厚意を受け取ることにした。

「じゃぁ一緒に食事でもいいか?」

ちょっぴり照れながら言うと

「はい!わかりました!」

元気よく返事をもらった。

という訳でテーブルに連れて行くとバハムートの姿が見えなかった。

「あれ?あいつどこ行った?」

「お連れの方がいるんですか?」

「あぁ俺の従魔だ。バハムート!どこだ?」

「ここにおるぞ?」

突然バハムートの姿がパッと現れた。

「うお⁉どうなってんだ⁉」

「『認識阻害』というスキルだ。お主がスキルの範囲外に出て我が見えなくなってしまったからかけ直したのだ。」

説明を聞く限り騒ぎにならないよう自身の存在感を押さえるスキルをかけていたようだ。

特定の人物以外にはバハムートの存在感が人波に感じるという。

(道理で町中を歩いてても騒ぎにならない訳だ。)

「あの、この方があなたの従魔ですか?」

「⁉」

バハムートを見ても驚くどころかむしろ冷静な少女。

一瞬こっちが驚いたが認識阻害がかかっていたので驚かなかったかもしれない。

(実際の姿見たら怖がっちゃうかもしれないし返ってよかったか。)

席に座り直しメニューを注文するタクマ。

待つ間に互いに自己紹介をした。

「そういやまだ名乗ってなかったな。俺はタクマだ。バハムートと一緒に旅をしていて冒険者もやっている。」

「タクマさんと仰るんですね。」

少女はそう言いながら被っていたフードをめくった。

「改めまして助けていただきありがとうございます。私リーシャと言います。」

フードを取った少女は十二歳くらいで床まで伸びた青白いふわふわの髪にエメラルドグリーンの瞳、何とも可愛らしい容姿だった。

「・・・人形みたいだ・・・。」

「え?」

「おっと失礼!」

つい見惚れてしまい咄嗟に目をそらすタクマ。

心なしか顔も赤くなっている。

(・・・お主。)

(何だよその目は‼俺はロリコンじゃないからな‼)

念話で会話する二人は置いとき注文したメニューが届いた。

「お待たせしました~!」

ドカドカとテーブルの上に料理が並ぶ。

「何はともあれまずは食おうぜ!」

「は、はい!いただきます!」

食事を楽しみながらタクマはリーシャにこの街に来た経緯を話た。

「腕のいい鍛冶師ですか?」

「あぁ、並みの剣じゃダメなんだ。こいつの魔力に耐えられる強度が欲しいんだ。」

隣で次々と料理を平らげるバハムートをリーシャがじっと見つめる。

「ん?何だ娘?」

「いえ、失礼を承知で申しますがそこまで魔力が高く感じないので。」

「・・・タクマ。認識阻害をお主同様に指定してもよいか?」

「・・・そういうことか・・・リーシャ、気をしっかり持てよ?」

タクマがうなずくとバハムートはリーシャにも自身の正体を認識できるよう調整した。

途端押さえていた竜の存在感がリーシャに降りかかる。

「ひっ⁉」

リーシャは耐えきれず椅子から転げ落ちる。

そこにタクマはそっと手を取った。

「落ち着いて深呼吸して。」

言われた通りに深く息を吸い気持ちを落ち着かせる。

「・・・もう大丈夫です。」

「ふむ、娘には少々刺激が強かったか?」

「当たり前だろ。お前ドラゴンなんだから。」

手を引き立ち上らせるとリーシャはタクマの左腕についているリングに気づく。

「⁉タクマさん!その腕輪は・・・!」

「ん?あぁこれか。偉い人からもらった従魔結石だ。結構貴重みたいだけど・・・。」

タクマの従魔結石を見たリーシャは何やら目の色を変えていたがタクマはそのことには気づいていなかった。


 「ありがとうございました。タクマさん。」

「こちらこそ、楽しい食事だったよ。」

食事を終えリーシャと別れたタクマ。

宿に戻り一息つくとバハムートと念話で話し合っていた。

(で?鍛冶師の宛はついたのか?)

「まぁな、レストランのオーナーが知り合いらしくてその鍛冶師の工房を教えてもらったよ。」

窓の外を向くと辺りはすっかり暗くなっている。

ドワーフの里は洞窟内に広がる都市だが昼間は街の街灯で明るいが夜は外灯がほとんどになるので昼夜の区別がしっかりある。

「洞窟の中とは思えないな・・・。世界にはまだまだ知らないことがあるんだな。」

そんなことを思っている内にタクマはふと眠りについた。

「・・・眠ったか。主にとっては何もかもが初めてで新鮮。昔の我と同じ気持ちか。」

バハムートも厩舎で体を休める。すると何やら妙な気配を感じた。

(ん?何だこの気配は?)


 深夜の宿。

寝静まる部屋にそよ風がふく。

窓が開きレースのカーテンが揺らめく部屋に小さな影が現れた。

ベッドの上ではスヤスヤと寝ているタクマが。

「ごめんなさい・・・。」

そういうと小さな影はサッと窓から飛び出し暗闇に姿を消した。


 翌日、バハムートが大きなあくびをして目覚めると何やら部屋が騒がしかった。

「ない!ない!無い‼」

「騒がしいぞ。どうした?」

「ないんだよ!国王様にもらった従魔結石が‼」

「なに⁉」

「寝る前に枕元に置いてあったのに・・・。」

「・・・ん?そういえば眠りにつく直前妙な気配を感じたな?もしや・・・。」

「そいつだろ!絶対‼」

ビシィッとバハムートに指さすタクマ。

どうやら昨晩のうちに何者かがタクマの部屋に侵入し従魔結石を盗んでいったようだ。

「バハムート!犯人を捜すスキルとか持ってないか?」

「ならば『追跡』のスキルをコピーしろ。『鑑定』と合わせて使えば痕跡を辿れる!」

言われた通りに『追跡』のスキルをコピーし『鑑定』と合わせて発動すると床から緑色の足跡が浮かび上がった。

「これか!犯人の足跡!」

「跡を辿るぞ!」

宿を飛び出し、足跡を辿る二人。

「・・・何かこの足跡、やけに小さくないか?」

駆けながらタクマは言う。足跡の大きさはタクマの足より一回り小さかった。

「まるで子供のような・・・。」

「そういえば我の感じた気配もやけに小柄であったな。」

小柄なドワーフでも足のサイズはここまで小さくない。

かといって子供が二階の窓から入るのは不可能と言っていい。

おそらく犯人は魔法を使える人物だろう。

「子供、小柄、魔法使い、そして従魔結石・・・、‼もしかして⁉」

「あぁ我も同じ答えに至った。人一倍に従魔結石に興味を持った人間がいたな。」

「・・・リーシャ‼」

昨晩レストランで出会った少女リーシャ。

今までの情報を推理するとほぼ彼女に当てはまる。

「でも何であんないい子そうなリーシャが?」

「確証がなかったから伏せていたがお主に伝えておくか・・・。我があの娘を見た時に思ったことを。」

「思ったこと?」

タクマはバハムートの顔を見る。

「あの娘・・・、お主と同じテイマーだ。」


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