『第七十七章 聖天新教会』
ワールド騎士団、大団長ウィークス・シフェリーヌス。
彼がアルセラの兄と知ったタクマ達は唖然としていた。
「アルセラの嬢ちゃん兄貴おったんかいな。しかも超有名な団体のトップって・・・。」
「今度会ったら問い詰めよう。」
リヴの言葉に反応するかのようにアンクセラムで仕事をしているアルセラはくしゃみをしたのだった。
「改めて、母国と妹を救ってくれた事、感謝する。」
「いや、俺の方こそ故郷を守ってくれたからお互い様だ。」
ウィークスも加えて話を進める一同。
タクマ達が東街セクレトに向かう事を改めて話しているとウィークスが一つの提案を出した。
「では西街レーロードには我らワールド騎士団が向かうとしましょう。」
「え!しかし、着いたばかりでお疲れでしょう?何もそこまでしていただかなくても・・・。」
「姫様、我らは世界を守る騎士団です。旅で疲れていては騎士団の名が怠ります。ご心配には及びませんのでお気になさらず。」
イケメンスマイルで王女に言うウィークス。
まだ歳半ばのオリヴェイラには刺激が強く、パタリと倒れてしまった。
「団長、貴方のスマイルは女性を殺しますね。」
「言ってる場合か!」
オリヴェイラを椅子に座らせ、タクマとウィークスで話を進める。
「西街レーロードは我々が行き、東街セクレトへは君達が向かうでよろしいかね?」
「あぁ、それで行こう。俺達は一旦戻ってネクトたちに伝えてから出発する。」
「了解した。我らも準備が出来次第レーロードに向かおう。では、お互いエルフ族の救出を!健闘を祈ります!」
「こっちこそ祈ってるぜ。」
そうしてウィークスとネオンは先に退室していった。
「さて、俺達もエルフの大森林に戻るぞ。」
タクマ達も城を後にし、エルフの大森林に戻ってきた。
「ほ~ん、それで俺のとこに来たと?」
イフルの自宅で武器の手入れをして待っていたネクトに先ほどの話を説明した。
「という訳で一緒に行くぞ!」
「何でテメェについていく必要がある?俺達は俺達で動くからお前等で行け。」
タクマに支持されるのが嫌なのか同行を拒否された。
「タクマが言うからアカンとちゃう?」
「かもしれませんね・・・。」
ウィンロスとリーシャが耳打ちをしているとメルティナがネクトの手を取った。
「お願い!ネクトの力が必要なの!だから、一緒に来て?」
無垢な眼差しで見つめるメルティナにネクトは、
「・・・・・分かったよ。」
少し悔しそうな顔で立ち上がる。
メルティナはネクトにバレないようこちらにVサインを見せたのだった。
「・・・やるわね、あの子・・・。」
「だんだん侮れなくなってきた気がしてきたぜ・・・。」
そしてタクマ達は東。
ウィークス率いるワールド騎士団は西へと出発した。
タクマサイドではネクトと彼の従魔二頭も同行していた。
「言っとくが俺はお前の指示に従う気は一切ないからな?あくまでこいつの頼みだってことを理解しろ。」
「はいはい。」
ネクトはメルティナに任せて一同は東街セクレトへ向かっていた。
「しかし、エルフを捕らえて何する気や?希少な存在と言うのは分かるけど、そこまで執着する理由が分からへんねん。」
「お前等魔獣からしたら分からないかもしれないが、エルフは人間にとって都合のいい玩具なんだよ。私利私欲は勿論、長命だから男のエルフは重労働を強いられ、女のエルフはその美貌故、忌み物にされる。それが腐った人間の価値観だ。」
ネクトの冷徹な言葉に眼光が鋭くなる女性陣。
「ふざけてるわね・・・。そんな連中に無理やり売り飛ばされ、売ったやつは金儲けをしてるってわけね。」
「人を物のように、許せません・・・。」
「うん・・・。」
三人の少女から怒りのオーラがビシビシ伝わってきた。
「リヴとリーシャの嬢ちゃんはともかく、メルティナの嬢ちゃんまでもかいな。こりゃ相当ヤバい事になりそうやで?」
「忌み物と聞いては世の女も黙ってはおらんだろう。」
そして、バハムートとウィンロスは女性陣の恐ろしさを思い知らされるのだがそれはもう少し後のお話。
女性陣から放たれる張りつめた空気の中、一同は目的地の東街セクレトに到着した。
まる三日かかった。
「二度とお前の作る料理なんか食わねぇ・・・!」
昨夜、当番制でネクトの料理を食べたのだが、彼の作った物は非常に・・・不味かった。
食べ物なのかと疑うレベルだ。
「んだよ。俺の作る料理に文句があんのか?」
「「ありまくりだ‼」」
タクマとウィンロスが同時にツッコんだ。
「そんな話は後でいい。早く街に入って情報を集めるぞ。」
「待て待て。お前らがそのまま入ったら街中大騒ぎだろうが。」
ネクトが止める。
「心配いらへんで?ほれ、オレと旦那の角にスカーフが付いとるやろ?これのおかげでオレ等は街中にいてもあまり騒ぎにならへんのや。」
「・・・そういえば、ネクトさんの従魔、クロスさんとロキさんにはスカーフが付いてませんね?」
確かに二頭には従魔の証になる物が一切付いていなかった。
「俺は冒険者じゃないからな。冒険者ならそう言った物が支給されるみたいだが俺達は陰浪者。影で生きてきた流れ者だ。当然そんな物は持っていねぇよ。」
しかしこのままにしておくこともできない。
どうにか出来ないかネクトに聞いてみると、
「クロス、ロキ。」
二頭は頷くとネクトの持つ長刀から二つの魔法陣が現れる。
するとクロスとロキは互いに光出し、指輪へと変貌したのだ。
「えぇーーー⁉指輪になっちゃいましたよ⁉」
驚くリーシャにネクトは説明する。
「俺の武器は槍から長刀に姿を変えているだろう?その魔法を応用してクロスとロキを指輪に変化させるんだ。こうして身につけておけば人目につかずこいつ等を連れていける。」
ドヤるネクト。
タクマはバハムートとウィンロスを見る。
「いや無理だからな?リヴの人化ですら希少なのにましてや道具に化けるなど・・・。」
「一生かけても出来へんわ!」
流石の二人でも無理なようだ。
結局、バハムートとウィンロスは安全な従魔だと強調させ、何とか街に入ることができた。
東街セクレトは大河を挟んだ街並みで中央に新築のような大きな教会が目立つように建っていた。
(教会・・・。ネオン達が言っていた聖天新教会かもしれないな。)
バハムートには自身とウィンロスに『認識疎外』のスキルをかけさせ、ドラゴンのオーラを押さえてもらう。
「これで我とウィンロスで騒ぎになることはないぞ。」
「よし、早速エルフを探すぞ。何かわかったら念話で寄こしてくれ。」
ネクトは念話を持っていないのでリーシャが作ったスマホもどきを渡した。
タクマとウィンロス。
リヴとバハムート。
リーシャとメルティナ。
そしてネクト単独でそれぞれで情報集めに向かった。
情報集めに励むタクマ達。
街の人々に聞いて回ったがそれと言った情報は得られずにいた。
「う~ん・・・、中々エルフの情報が得られないな。」
「エルフの奴隷密売は秘密裏に行われてるんやろ?表に出る情報じゃないし、街の人間が知ってるって事はないんちゃうか?」
「表に出ない、か。・・・ちょっと見るとこ変えてみるか。ウィンロス!行くぞ!」
「タクマタクマ!この肉買っとくれ!」
いい匂いの肉を売ってる出店の前でウィンロスがおねだりしており、店員は目の前のドラゴンにビビっていた。
「お前なぁ・・・。」
人気の少ない裏路地にやってきたタクマと肉を咥えるウィンロス。
肉を貰ったウィンロスはご機嫌の様子だ。
「・・・ん?」
「どした?」
タクマは先の方から何やら騒がしい気配を感じ取った。
「人が集まってる?この先は確か大通りだったと思うが?行ってみるか。」
裏路地を抜けると大通りでは大勢の人達が集まっていた。
「何やこれ?祭りか?」
すると大通りの向こうから豪華な馬車が複数の白いローブの人達と共にやってきた。
パレードのようだ。
「あの装い・・・、教会関係組織か?」
するとバハムートから念話が届いた。
「タクマ。今我らは大通りでパレードを見ているのだが。」
「俺達も今見てるところだ。」
「なら話が早い。パレードに出てるあの集団は『聖天新教会』の者で間違いない。奴らがエルフを密売している情報はまだ確定していないが、目を付けといて損はない。頃合いを見て接触して見てくれ。」
「そっちはどうなんだ?」
「我らは今の所有力な情報はない。引き続き情報収集をする。娘たちも同様だ。」
「分かった。頃合いを見て聖天新教会も調べてみる。他の皆にも伝えてくれ。」
「分かった。」
念話を切り、パレードに目を戻す。その時だった。
「きゃぁぁぁ!」
「⁉」
パレードの騒ぎに紛れて女性の荷物がひったくりに奪われてしまったようだ。
人混みをかき分けて逃げる男。
「街が大きい分物騒だな。ウィンロス!」
「あいよ。」
タクマは剣を持ち、ウィンロスが羽ばたこうとしたその時、
「拘束!」
聖天新教会の信者の一人が魔法を放ち、光の縄で男を捕らえたのだ。
「うわ⁉何だこれ⁉」
男は光の縄に縛られ倒れる。
そこに魔法を放った信者が男の前に立つ。
「窃盗は立派な悪事です。我々がこの場に居合わせたのが運の尽き。我が教会で裁判を行いますのでご同行いただきます。」
そう言って他の信者が男を連れて行ったのだった。
「さぁ、奥様。これからもう少し周りに注意してくださいね?」
「あ、ありがとうございます‼」
頭を下げる女性に信者は手を振ってパレードに戻って行った。
「・・・・・。」
「表向きはしっかりしているみたいやな。」
「みたいだな。それにしても連れていかれた男がどうなるのか気になるな。」
「悪人の末路を見たいのか?趣味悪いで?」
「ちげぇよ。何か引っかかるんだよ。こう、直感が。」
「直感は大事やで?ほんなら情報収集がてら行ってみるか。」
二人はパレードが終わったころを見計らって中央に建つ教会にアポを取った。
「見学でしたら構いませんが、何せ聖なる場所でもあるので最低限の正装をしていただかなくては入ることは出来ませんが?」
「正装か。あの、従魔もいるんですが、こいつも連れてっても大丈夫ですか?」
ウィンロスを指すタクマ。
「魔獣でも常識を持った方でしたら問題ありません。ただこの方ですと羽毛が凄いことになりそうなのでお越しいただく前に一度お風呂に入れてあげてください。そうしたら来ていただいて大丈夫です。」
笑顔でシスターがそう言ってくれた。
「・・・オレ洗われるの?」
顔が青ざめるウィンロスだが教会に入るためにはそれしかない。
今まで入浴を嫌っていたウィンロスには観念してもらうしかなかった。
その日の夜。
宿屋にて集まる一同。
自分たちの得た情報を交換していた。
「こっちは点でダメ。エルフに関わる情報も全く掴めなかったわ。」
首を横に振るリヴ。
リーシャ達も同じのようだ。
「俺はもう少しで何かが掴めそうな所までいってる。明日中には有益な情報を持ってこれるぞ。」
ネクトはもう少しで尻尾を掴めそうとの事だ。
そしてタクマ達の番。
「教会に潜入⁉いきなりすぎでしょ!まだ十分な情報もないのに!」
リヴに狭まれるがその情報を得るための潜入だ。
予定を変えるつもりもない。
「そのために正装が必要なんだ。そこでお前に頼みがある。」
「ん?」
タクマはネクトに言う。
「俺の武器の特性を利用するのか?」
「そ、クロスとロキを指輪にしたみたいに俺の服を正装に見立ててほしいんだよ。頼むわ!」
手を合わせて頼み込むタクマ。
ネクトは渋い顔で考え込んでいた。
「・・・だったら、見返りを要求するぞ?」
「見返り?」
ネクトは席を立ち長刀をタクマに向けた。
「この騒動が終わったら、もう一度俺と戦え!しっかりと決着をつけてやる!」
メルティナに割り込まれ、勝負がお預けになっているため、ネクトは再び決闘を申し込んできた。
当然、その戦いを止めたメルティナはあまりいい顔はしなかったがネクトからは強い決意を感じるため何も言わなかった。
「・・・分かった。この件が片付いたら決着を付けよう。」
「忘れるなよ?」
ネクトの協力も得た。
後は、
「ん?何やタクマ?オレを見て・・・。」
ニヤリとタクマは笑う。
「シスターに言われただろ?入る時は正装と、お前をしっかり洗ってから来てくれと・・・。」
その言葉を聞いた女性陣の目がキランと光る。
「いや、オレ清潔魔法持っとるからそれで・・・。」
「こいつらがそれを許すと思うか?」
ニヤニヤしながら女性陣を指す。
いつの間にかブラシやシャンプーなどの道具を手に持っていた。
「バハムート。逃がすなよ?」
「うむ。」
「旦那まで⁉」
「さぁウィンロスさん。貴方のふわふわな羽毛を更にふわふわにしてあげますね。」
「ちょうどいい機会だわ。少し獣臭かったし徹底的に洗ってあげる。」
「ふわふわ、もふもふ・・・!」
じりじりとウィンロスに迫る三人。
後ろはバハムートに完全に閉ざされ逃げ場がなかった。
「観念して洗われろ。ウィンロス。」
「イヤァァァァァァ‼」




