表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/287

『第七十四章 密の内戦』

エリエント王国。

王都ではオリヴェイラ主催による避難訓練が行われていた。

「こんな時期に避難訓練なんて珍しいな?」

「何でも魔獣の活動が活発になったとか・・・。」

魔獣の活発、勿論これは真っ赤なデマである。

国の最高戦力との戦闘は大規模に成り得る可能性があるため、万が一を考えて住民には魔獣の活発と称し、王都から離れてもらうことにした。

オリヴェイラ直属の部下が住民を王都の外れにある避難所に誘導している間、タクマとネクト、そして暗殺者のアサシンが無人となった王都の中を疾走していた。

「こちらです。」

アサシンに案内されるまま建物の中に入る。

「こんな物置に何があるってんだ?」

ネクトが言うとアサシンは床を軽く叩く。すると床板が開き、階段が現れたのだ。

「隠し通路か!」

「この通路は城の地下倉庫に繋がっています。しかし、この通路は王子直属の暗殺者も扱っております故、向こうも警戒してると思ってください。」

「それでも行くしかねぇ。行くぞ!」

三人は通路に飛び込んでいった。


 一方、リーシャサイドは最高権力者のいる法廷の館の前に来ていた。

「あの館にエリエント最高権力者のドルロイテ様がいらっしゃると思います。あの方は常に動きたがらない性格なので居るのは確実かと。」

「なるほどです。」

侍女の案内で館前の物陰までこれたリーシャとリヴ。

ウィンロスは存在感がデカすぎるため遠くで待機中、いざとなったらすっ飛んでいくと言っていた。

「私は中に入ることは出来ませんのでお二人だけで潜入してもらう事になってしまいますが・・・。」

「大丈夫よ、私もリーシャもかなり強いんだから!」

ドラゴンの彼女が言うと説得力がある。

「では、私はエルフの大森林に戻りますね。」

「お一人で大丈夫ですか?」

「はい、バハムート様から『空間異動』の魔石を貰いましたから。」

侍女はバハムートが持たせた一回限りの『空間異動』の魔石を使い、先にエルフの大森林に戻って行った。

「よし、行きましょうリヴさん!」

「オッケー!」

手順通り、面会の申請をして館に入る。

住民は避難訓練で全員都外へと出ているが職員は数名残っているようだ。

リーシャ達はたまたま訪れた客として更に奥のお手洗いに入る。

「確か侍女さんが言っていたのは・・・。」

お手洗いの天井を探るとカパッと扉が開いた。

「あった!このダクトを通ればいけます!」

「なんかすごい事してるわね、私達・・・。」

そんなことも思いながら先へと進む二人だった。


 石レンガの隠し扉がゆっくり開くと城の地下倉庫に出た。

「見張りはいません。出てきても大丈夫です。」

アサシンに続き、タクマとネクトも出てくる。

「随分埃っぽいな。」

「王宮でもあまり使われない倉庫ですから。」

途中ネズミが出てきて驚くタクマ達、階段を上り城の訓練場に出た。

「ここだと見つかりやすい。早く室内に行くぞ!」

「お、おう。」

ネクトに言われ、三人は急いで城の中に入ろうとしたその時、

「でやぁぁぁぁぁ‼」

「っ⁉」

頭上から大きな人影が剣を振り下ろして落ちてきたのだ。

三人は後ろに飛んでかわす。

「ガハハハッ!やっぱりきやがったな!ネクト!」

土煙から出てきたのは巨大な大剣を持つ大男だった。

「騎士団長・・・!」

アサシンの言葉からしてこの男は騎士団のトップのようだ。

「王子からネクトが裏切って刃を向けるかもしれないと言っていたが本当だったとはな。」

「ハン!そっちの王子こそ。最初っから俺を信用せず道具としか見ていなかったくせによ。」

背中の長刀を手に取り前に出る。

「おい、こいつは俺が相手する。すぐに追いつくから早々に王子を仕留めるなよ?」

「善処するぜ。」

団長の相手をネクトに任せ、タクマとアサシンは城の中へ走って行った。

「聞いてた話じゃお前は誰ともつるまないはずだったが。どういう風の吹き回しだ?」

「目的が一致しているだけだ。アイツとはいずれ決着をつける気でいるからな。」

二人の強者のぶつかり合いが城に響き渡ったのだった。


 「大丈夫だろうか?あの少年・・・。」

廊下を走るアサシンとタクマ。

「心配ねぇよ。アイツは俺と互角に戦える。テイマーであるが一人でも十分すぎるくらいの強さだ。」

一度戦ったタクマはネクトの実力を信じ、今は王子の部屋へ向かう。

そして一つの扉の前にやってきた。

「ここだ。ここが王子の部屋だ。」

「入るぞ。」

ドアを押し開けカーテンが閉まった暗い部屋に入るが、誰もいなかった。

「いない。ということは玉座か?」

「っ⁉危ない!」

咄嗟にアサシンを庇うタクマ。

すると天井の暗闇からナイフが三本振ってきて床に突き刺さった。

「そこか!」

タクマが炎の斬撃を飛ばし一瞬明かりが灯る。

斬撃が当たる寸前人影が飛び出しタクマ達の前に降り立つ。

「クーデターを起こすとは・・・。失望したぞ、アサシン。」

「っ!先生・・・!」

現れたのは男性の暗殺者。恐らく王子の密偵の一人だろう。

しかし、

(先生と来たか・・・。)

相手はアサシンの教師のようだ。

これはアサシンにとっては荷が重いかもしれない。

「失望したのはこちらです。王子がオリヴェイラ様を手にかけ、支援していたエルフ族を誘拐し密売・・・。先生は仕えた主が悪行に走っていながら何故止めなかったのです!王子の行っていることは非人道的なのに!」

忍ぶ者が完全に感情的になっている。

「愚門だな。我らは主に仕える影だ。主が何をしようと我らは任務に従うのみ。」

刀を構える暗殺者にアサシンは唇を噛みしめる。

「それでは、ただの道具じゃないですか・・・!主が間違った道に進んでいるのに!それを正さないで何が従者だ!私達は道具ではない!一人の人間だ!」

刀を手に取り暗殺者に切りかかる。

二人は互いに刀を押さえ合う。

「タクマ殿!ここは私にお任せを!貴方は早く王子の元へ!」

「・・・分かった。無茶すんなよ!」

二人の横を通り過ぎようと走る。

「行かせん!」

暗殺者がタクマにクナイを投げつつけようとするがアサシンに阻まれる。

「行かせないのは貴方です!先生!」

その隙にタクマは部屋を出て玉座を目指す。

「思ってた以上に重い案件だなこりゃ。」


 ダクトの金網が思いっきり蹴飛ばされ、リーシャが降りてきた。

「だ、誰だ君は⁉」

部屋にいたのはエリエント王国最高権力者ドルロイテ。

「初めまして。Bランク冒険者のリーシャと申します。」

丁寧に挨拶をする。

だがドルロイテは変な所から出てきたリーシャに警戒していた。

「わ、私に何か用かね?お嬢さん?」

「少しお話がありまして。エルフの密売について詳しくお聞きしてもよろしいですか?」

鋭い目つきの笑顔で言うリーシャにただ者ではないと感付いたドルロイテはたじろぐ。

「何故、そのことを知っている・・・?」

「有名ですよ?王女と深い関わりのある方達の中では。」

王女にエルフの密売がバレたドルロイテは更にたじろいだ。

(まさか王女にバレるとは・・・。王子め、根回しは完璧ではなかったのか⁉)

「安心してください。私はただ話をしたいだけです。」

「話ね・・・。」

ドルロイテはこっそり机の裏にあるスイッチを押した。

するとリーシャの足元の床が突然開き、リーシャは穴に落ちてしまった。

「ハハハッ!私に楯突く愚かな冒険者め!私はこの国の最高権力者!私が何をしようと私が許すのだ!ハハハハハ!」

態度が急変したドルロイテが高らかに笑っていると、穴からラルに引っ張られてリーシャが戻ってきた。

「・・・ハ?」

リーシャはニヤリと笑って録音の魔石を取り出して見せた。

「証言、頂きました♡」

「そ、それを渡せ!」

大慌てで魔石を奪おうとするがリーシャの『エア・ショット』であっけなく吹っ飛ばされ、気を失った。

「権力者と言えど、身体を鍛えないといけませんね。」

気絶したドルロイテを他所に部屋の書類などを漁るリーシャ。

そこにリヴから念話が届く。

「リーシャ!あったよ!これなら完全な証拠になる!」

「ありがとうリヴさん!もう少し証拠になりそうな物があったら異空庫に仕舞ってください。私もしばらくしたら合流地点に向かいますから。」

「オッケー!」

念話を切り再び資料を漁っていると、とある書物を見つけた。

タイトルは・・・、

「『神龍伝説』?」


 城の玉座の扉が開き、タクマが入ってくる。

「やぁ、待っていたよ。」

玉座に座っていたのは騒動の元凶、ウルノード王子。

始からタクマ達が来ることは想定済みで余裕の表情をしていた。

「会って早々だけど、私の配下に加わる気はないかい?」

「こんな状況でそんなこと言える神経が理解できないな。そして答えは否だ!お前みたいな胡散臭い奴の元なんかに就く気もない!」

王子を睨むタクマ。

だがウルノードは、

「やれやれ、ネクトもそっちに寝返っちゃったし、ホント陰浪者は汚れた心の持ち主だね。」

呆れた顔でウルノードが言うと突然斬撃が飛んできて寸前で首をずらしてかわした。

「アイツを馬鹿にするな。お前なんかよりアイツの方がよっぽどまともだ。」

剣を王子に突き立てて言うタクマ。

「これでも僕は王子なんだけどな。剣を向けるってことは僕の敵ってことでいいんだよね?」

彼の見せる歪な圧。

だがタクマは怯まなかった。

「端からそのつもりだ!お前を王子とは見ない!」

「・・・そうか。残念だ。」

ウルノードがパチンと指を鳴らすと、奥の部屋から修道服を着た女性が出てきた。

(シスター?)

「ウルノード様、本当によろしいんですか?」

不安そうなシスターが王子を見て言う。

「構わない。彼とはもう敵対関係になってしまった。だから・・・、殺していいよ。」

突然おぞましい笑顔でとんでもないことを言うウルノードに一瞬恐怖を感じた。

(何なんだ?奴の変わりようは?)

不審な違和感を感じていると、シスターの女性が不本意そうな表情で魔法陣を展開しだす。

「『聖なる光よ。正義に仇成す邪を滅せよ』!」

詠唱を唱え、タクマの頭上に光の魔法陣が出現する。

そして魔法陣から光の光線が真下に撃ちだされタクマに直撃した。

その地響きは城中に響き渡る。

((・・・始まったか!))

それぞれで戦闘をしているネクトとアサシンにもタクマの戦闘開始に気が付く。

「よそ見とは!」

「いけないな!」

二人も一筋縄じゃいかない相手に気を引き締めて挑むのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ