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『第七十三章 動き出す竜たち』

タクマ達がエルフの大森林で騒いでいる頃。

「ウルノード様、密偵の者がお戻りになられました。」

「通せ。」

タクマとネクトの決着を先に知るため、密偵を付けさせたウルノードはその密偵から報告を受ける。

しかし、彼の求めていた結果は得られなかった。

「馬鹿者が!」

「ひっ!」

物を投げつけられ、密偵の男は怯える。

「おっと、失礼。つい感情的になってしまった。」

怒りを沈め謝罪する。

「しかし転移か。そんな高等魔法まで使えるとは、ますます我が手中に収めたい。・・・で?彼らの行き先は特定できたのか?」

再び愚物を見る目で問うウルノード。

「は、はい!現在総力を挙げて捜索中でございます!王子の依頼なものなので今一度王子の前に現れると思われますが、全力で行方を探させていただきます!」

「当然だ。どんな手を使っても構わん。必ず見つけ出せ!」

「ハハッ!」

密偵の男と側使いも退室させ、一人窓の外を見る。

「・・・恐らくネクトはもう私の元には戻ってこないだろう。まぁいい。始から奴は信用していない。薄汚い陰浪者など、()使()()()()()()()()()()()()()()()。」

悪どい笑みを浮かべネクトを切り捨てるウルノード。

その部屋の屋根裏から一人の影が音も立てずにその場を後にした。


 エルフの大森林。

イフルの自宅で一先ずの休息を取っているタクマ達一同。

もう一人のドラゴンテイマー、ネクトはタクマからの魔術質問の雨を浴びせられグッタリしていた。

「え?ネクトがあそこまで疲弊しているのは初めて見たって?」

「グルル・・・。」

ウィンロスとロキはすっかり打ち解けていた。

昨日の敵は今日の友という言葉がしっくり来ている。

「ん~~~・・・。」

「タクマさん?ずっと地図とにらめっこしてますけど、どうしたんですか?」

難しい顔で地図を見ていたタクマ。

「あぁリーシャか。ちょっとイフルから聞いた事を思い出してな。」

再会した当初、タクマ達は現在エルフが大量に捕縛され、残り三か所に連れていかれたのではないかとイフルと話し合っていた。

ウルノード王子の件もそうだがまだオリヴェイラから請け負ったエルフの救出の依頼は完遂していない。

エルフの件も考えなくてはいけなかった。

「三か所と言ってもどれもかなり遠いんだよな。行ってすぐには戻れなさそうだな。」

「エルフの救出もいいがまずあの王子を何とかしなければ捜索に力を入れられないぞ?」

やっと本調子になったネクトが言った。

「そうだな。まず王子の件を片付けなくちゃ。」

すると外が急に慌ただしく騒ぎ声が聞こえてきた。

「何だ?」

「外が騒がしいわね?」

しばらくすると買い出しに行っていたイフルが大慌てで戻ってきた。

「タクマ!すぐ来てくれ!」

イフルに引っ張られながら広場に来ると、野次馬の中心に高貴な馬車が立ち止まっていた。

「あの馬車は!」

タクマに気づいたのか、馬車から侍女と共に王女のオリヴェイラが降りてきた。

「タクマ様!やっぱりエルフの大森林にいたのですね!」

どうやらオリヴェイラはタクマ達を探していたみたいだ。

しかし一国の王女が直々に赴くということは何かあったのかもしれない。

王女たちの訪問を村長に伝え、そのまま丁重にイフルの自宅に招いた。

自宅で待機していたネクトも突然現れた王女に一瞬びっくりした。

「私がこの街に訪れた理由は他でもありません。兄、ウルノードに関してのお話です。」

出されたお茶をすすり、真っ直ぐタクマを見る。

「ここ最近、私の密偵に兄の動向を探ってもらってました。そしてつい先日、兄の思惑を得ることが出来たんです。」

「・・・あの王子は何を企んでいたんだ?」

ネクトからある程度は聞いていたが彼にも話していない事はあるだろう。

タクマは真意を問う。

そして王女から聞かされる王子の真実。

それは余りにも残酷な内容だった。

「・・・あの盗賊の襲撃が王子の仕向けた罠だったなんて・・・。」

兄が妹を始末させるために仕向けた盗賊の襲撃を思い返し、リーシャは複雑な気持ちになって俯いていた。

「実の家族を手にかけようとするなんて、正気とは思えないわ。」

リヴも引いていた。

オリヴェイラもその事実を知ったばかりだったため、少し元気がなかった。

無理もない。

実の兄に殺されそうになったのだから。

「それにしてもたかが肩書のためにそこまで悪行に手を染めるとは。愚かを通り越して呆れてくる・・・。」

流石のバハムートもため息をついた。

「王とは民を導く者だ。力も当然必要だが一番大切なのは道徳心だ。話を聞く限りその男からは人を想う心が一切見えない。ハッキリ言って王の資格は皆無だ。」

(マジもんの王が言うと説得力がちげぇ。)

内心ウィンロスがそう思っているとネクトも話に入ってきた。

「着目する点はもう一つ、アンタはエルフだけでなく国内に住む他種族とも深い繋がりを持っているんだろう?」

「えっと・・・失礼ですが、どなたですか?」

そういえば同じ城を出入りしていたとはいえオリヴェイラとネクトは初対面だ。

「ネクトだ。お前の兄貴に雇われていたドラゴンテイマーだ。」

オリヴェイラと侍女は驚きの表情を見せる。

「貴方が例の陰浪者、ですか?」

「こうして顔を合わせるのは初めてだな。ま、よろしく。」

話を戻し、ネクトの指摘した着目点について話し合う。

オリヴェイラはエルフだけでなく他にも他種族との交流を持っていた。

特に尽力を注いでいるのはエルフ族。

しかし、最近になってエルフ族が次々と行方をくらましているのが現状だ。

そして王子の側にいたネクトから更に重い事実を突きつけられる。

「ここ最近のエルフ失踪事件。その指導者が、ウルノードだ。」

「っ‼」

オリヴェイラの密偵でも得られなかった事実。

それをネクトの口から直接言い渡され、更に絶望するオリヴェイラ。

「それは、本当なのか?エルフの失踪に、ウルノード王子が指導していると?」

イフルも青ざめた表情で言う。

「ロキ。」

ロキの腹が開くと引き出しのような物が出てきた。

「お前の身体どうなっとんねん・・・。」

ロキの引き出しから一枚の紙を取り出しオリヴェイラに渡す。

「っ!これは⁉」

「エリエント王国政治上層部の書類だ。ウルノードも一枚噛んでいたからこっそり持ってきた。」

「オリヴェイラ様。その用紙にはなんと?」

オリヴェイラはわなわなと書類に目を通す。

「上層部の騎士団長、最高政治権力者、教会の神父まで、国のトップがエルフや他種族を奴隷として他国へ密売している・・・!」

とんでもない事実の押収。

そしてその項目の中に更に更にとんでもない名前が載っていた。

「そんな・・・『聖天新教会』まで⁉」

聖天新教会とは、ワールド騎士団と同じく、その場に留まらず世界を渡って活動するとても大きな教会組織だ。

三十年前に出来た新しい組織らしく、正に聖を司る教団と世界に知られているのだが、オリヴェイラの持つ書類にエルフの密売に加担している証拠が載っていたのだった。

「えらく頑丈そうな金庫に仕舞われていたからよほど知られたくない事だったと思うんだが?」

「はい、これは聖天新教会や兄さまにとって命を賭しても知られたくない事実なんでしょう・・・。」

オリヴェイラは疲れきった顔をしていた。

度重なる知りたくない事実に当てられ続けていたため、流石に休ませなくては。

「姫様、少しお休みになってください。後は私とアサシンが続けますので。」

「えぇ、悪いけど頼むわ・・・。」

オリヴェイラはイフルと共に寝室へ入っていった。

「『聖天新教会』・・・。神が関わってそうな組織だな・・・。」

神を祀った教団に一度関わっているタクマ達は聖天新教会の事がどうしても気になっていた。

「しかも三十年前に出来た新しい組織みたいですし、可能性は高いと思います。」

リーシャも同意見のようだ。

「王子にエルフの救出、国のトップ集団、そして聖天新教会。問題が山のように溢れて来るな、まったく。」

流石のタクマもうんざり気味だった。

「だったらほっとけばいいじゃねぇか。必ずしもお前が関わる事じゃないと思うが?」

ネクトの言葉に意を反するタクマ。

「ここまで聞いといてほっとけるか!それにエルフの救出は王女から請け負った俺達の依頼だ。手を引く気なんてさらさらない!」

他のメンツも同じ意見だ。

「皆様のお心、深く感謝します。」

休んでいるオリヴェイラの代わりに侍女が話を続ける。

そして、

「まずは国のトップと王子を止めるぞ!そうすればエルフの事件も片付きやすくなる。」

「でも相手はこの国の最高戦力と権力者、一筋縄ではいきませんよ?」

リーシャの指摘にタクマはニヤリと笑う。

「そこでだ。それぞれ得意分野の攻め方で王国を差し押さえる。その後は姫さんの方でうまくまとめてくれれば、王子とトップ、この二つの問題は解決する。」

侍女が頷く。

「その後は連れ去られたエルフの救出。イフルと話して残り三か所にそれぞれ向かう。だがこの話は後だ。まずは王子とトップを止めるぞ!」

「うむ!」

「おうよ!腕が鳴るで!」

「アンタの場合は翼でしょうが。」

ネクトも椅子から立ち上がる。

「奴とはけじめをつける。王子の相手は俺がする!」

「反対はしないが俺とバハムートも行くぞ?腐っても王子だ。護衛は相当強者の可能性が高い。」

「勝手にしろ。」

「リーシャとリヴ、ウィンロスは権力者と対峙してくれ。」

「どうしてですか?」

「リーシャは俺達の中で一番政治関連に詳しいからだ。リヴとウィンロスはいざという時の護衛だ。」

確かに一番頭の切れるリーシャならば権力者に太刀打ちできるかもしれない。

リーシャ達は納得して首を縦に振る。

「では、その作戦で・・・!」

いよいよタクマ達の反撃が始める。


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