『第七十二章 決死の白少女』
バハムートとクロスの拳がぶつかり風圧が放たれる。
「グルァァァ‼」
「オオォォォ‼」
ドラゴンとドラゴンの殴り合いは衝撃で周りの岩を砕く程だった。
互いのブレスが炸裂し爆発を起こす。
その弾みで二頭は距離を離れた。
(力を押さえているとはいえ、やはりこやつはかなりの手練れ。面白い!)
バハムートは翼を大きく広げると黄金に輝きだした。
そして翼の光が口部に集まっていく。
「この一撃で決着だ!」
クロスも折れた角が輝きだし、口部に魔力が集まっていった。
そして二頭のブレスが同時に放たれる。
バハムートの『竜光砲』。
クロスの『デス・フレア・ブレス』のパワー勝負となる。
互いに凄まじい威力でぶつかり押し合う勝負。
だがバハムートは竜王。
普段押さえている力をほんの少し開放しているため、バハムートのブレスが押していく。
「オォォォォォォ‼」
最終的にはバハムートが押しきり、クロスに直撃した。
大爆発を起こしクロスが吹っ飛ぶ。
起き上がろうとするが前に立たずむバハムートの圧倒的な風格に立ち向かう力も残っておらず、ガクッと力尽きたのだった。
一方、メルティナを探しに辺りをうろつくリーシャとイフルは前方で身体から煙を出すロキとウィンロスが降りてきている所を目撃する。
「あれは、勝負がついたのかしら?」
「行きましょう!ウィンロスに上空からメルティナを探してもらうようお願いしてみましょう!」
二人は急いで着地ポイントへ走って行った。
剣と長刀が正面衝突する。
重苦しい衝撃波を何度も放つその戦いは未だに続いていた。
「居合・竜炎斬!」
「ぐっ!」
竜化で強化したタクマの一撃がネクトを押し始める。
「竜化・・・、そんな戦法があるなんてな。」
竜化は魔力のないタクマだからこそ成せる業。
その点に関してはタクマが優勢だ。
だが、
「強化ができるのはお前だけじゃないぞ!」
長刀を天に掲げる。
すると長刀が形を変え始める。
どうやら魔力で無理やり形を変えていたらしく、徐々に真の姿があらわになっていく。
「『魔槍解放・オメガ』!」
長刀が赤く巨大な槍に変形した。
先端が特に大きく、まるでハンマーのようにも見える。
「武器が変身⁉」
驚くタクマ。
「正確には力の解放だ。強力すぎる故、普段は押さえているが短時間の解放だったら俺でも扱える。」
ネクトは槍をタクマに振り下ろす。
避けるタクマだが地面に激突した槍の威力が桁外れにデカく、たった一振りで巨大なクレーターが出来てしまった。
「マジかよ・・・。」
とてつもない威力に驚愕していると、
「やっぱオメガは使いづらいな。俺にはこっちが性に合ってるな。」
ネクトがそう言うと槍はまた形を変え、今度は緑色の細長い槍へと変わった。
「また別の形・・・、あいつの武器も奇妙だな。」
炎の翼で空を羽ばたいていると突然ネクトが槍をこちらに投げてきた。
「うぉっ⁉」
反り返って避けたタクマだが身体を起こすと同時に目の前にネクトが現れる。
「うわぁっ⁉」
二度びっくりしたタクマは咄嗟に距離を取る。
その咄嗟に判断が功を制しネクトの追撃をたまたまかわせた。
槍がネクトの手に飛び戻ってくる。
「今のを避けるか。直感のレベルが高いな、お前。」
槍の力なのか、ネクトも宙に浮いている。
「変な攻め方しやがって。けどこっちだって負けてられねぇ!」
そのまま空中戦と化した。
強化した二人の戦いは先ほどよりも激しく。
武器同士がぶつかる度に火花が散る。
「居合・鬼炎!」
「我流・突貫!」
二人の技が相殺し合い、両者地面に叩きつけられる。
そしてお互いに強化状態が切れる。
「ハァ、ハァ・・・。」
「ハァ・・・ハァ・・・。」
互いに体力の限界が近い。
恐らく次の一手で決着がつくだろう。
「これで・・・!」
「終わりだ・・・!」
互いに攻撃態勢に入る。
「『居合・炎輪』‼」
「『我流・雷牙』‼」
タクマの炎の車輪、ネクトの雷の槍。
二人の渾身の一撃が放たれたその時、
「二人ともやめてーーー‼」
なんと技に軌道上に突然メルティナが現れたのだ。
「メルティナ⁉」
「アイツ・・・⁉」
「メルティナさん!逃げてーーー‼」
遠くからリーシャ達が走ってくるが間に合わない。
二人の技がメルティナに直撃しようとした直前、上空からバハムートとクロスが颯爽と現れ互いの主の技を受け止めた。
大きな爆発が起こり、煙に包まれる。
「っ!メルティナ!」
煙を掃い駆け寄るタクマとネクト。
そして煙が晴れると、メルティナを魔法壁で包み、己の肉体で技を受け止めたバハムートとクロスが現れる。
「バハムート・・・!」
「クロス・・・。」
バハムートはともかくクロスもあの一撃を受けても平然と立っている。
凄まじい耐久力だ。
「メルティナさん!」
遅れてリーシャ達が合流する。
幸いメルティナは怪我の一つもしていなかった。
「ふぅ~・・・。」
ため息をつくバハムート。
「・・・すまない、バハムート。」
「気にするな。だがもう少し周りを見てくれ。」
ネクトもクロスに歩み寄る。
「・・・負けたのか?クロス。」
「クルル・・・。」
頷くクロスにネクトもふぅっと息をつく。
槍が長刀の形状に戻り、背中に仕舞う。
ネクトはリーシャ達に怒られているメルティナに歩み寄る。
全員が近づくネクトに警戒した。
タクマも立ちはだかるように前に立つ。
「・・・何故邪魔したんだ?」
前に立つタクマに目もくれずメルティナに話しかける。
「だって・・・、貴方は悪い人じゃないから。タクマ達と、戦ってほしくなかった・・・。」
メルティナの言葉にタクマ達はどういう事なのかと聞いた。
「・・・じゃぁ、お前は生きる目的を見つけるために俺と戦いたかったってことなのか?」
ネクトはそっぽを向く。
本人に聞いても埒が明かないのでメルティナに分かっている事だけを聞いた。
ウルノード王子が野望のために裏で手引きをしている事を。
「やはりあの王子、我らを取り込む気でいたか。薄々気づいてはいたが確信に変わったな。」
「せやけど旦那。相手は一国の王子やで?下手に手ぇ出したらアカンことになるかもしれへん。」
「てかやっぱり貴族は何かと突っかかって来るわね!いっそ貴族ごとぶっ飛ばしちゃえばいいじゃない!」
「おい血の気が過ぎるがな。そんなことしたらこっちがお尋ね者やで。」
「あぁもう!私達はただ旅を楽しみたいだけなのに!貴族はホント自分勝手なんだから!あ、オリヴェイラとメーレンは別ね。」
今まであった貴族の中でまともだったのはウルノード王子の妹のオリヴェイラとカリブル街付近の領主一家、メーレンとシュヴァロフ家の人達だけだった。
「ところでメルティナ。お前今までどこにいたんだ?」
「ムグ?」
ポーションを飲みながら振り向くメルティナ。
「その話はオレからするわ。メルティナの嬢ちゃん、実はそこの魔械竜の中に居ったわ。」
「・・・はい?」
タクマとバハムートは目が点になる。
「いや、魔械竜から突然煙が出たと思ったら腹からメルティナの嬢ちゃん出てきてそらビックリしたで。」
丁度その場に居合わせたリーシャ達も頷く。
「ロキ、お前腹ん中のスイッチいじられたのか・・・。」
ロキはそっぽを向いた。
「で、ネクト、だったか?他の皆は決着がついたみたいだが俺達はまだだ。どうする?まだ続けるか?」
ローブの中で剣を握るタクマにネクトの答えは、
「・・・今はいい。どうせ戦ってもそいつにまた止められるのがオチだ。」
メルティナを見て言うネクト。
「ゴクッ!・・・タクマもネクトも悪い人じゃない。私を攫ったのもあの王子の命令だし、彼らは優しくしてくれたもん!特にクロスが!」
ウィンロスはクロスに振り向く。
「お前、子供好きなんか。」
クロスが「子供好きで何が悪い。」と言わんばかりの目で語ってくる。
「まぁいい。俺はメルティナが無事ならこれ以上お前と争う理由もない。けど決着がつかずなのは歯切れが悪い。いずれ再戦しよう。」
「・・・まぁ目的を見つけるのは今に始まったことじゃない。一先ず停戦だ。」
「戦うならメルティナの許可を取ってからね。」
リヴが話を閉めるとバハムートが次の問題を洗い直した。
「では一先ず落ち着いたという事で次はお主の雇い主であるあの王子を何とかするぞ。」
タクマを引き入れるためにメルティナを連れ去るよう指示した張本人、ウルノード王子の事について話し合おうとした時、ずっと空気だったエルフのイフルがようやく割って出た。
「ちょっと待って!」
「何だエルフ?」
イフルは口元に人差し指を立てる。
「視線を感じる。何者かに見られているわ!」
小声で言うイフルの言う通り、『感知』のスキルをコピーしてみると遠くから人の反応をわずかだが感じ取れた。
「本当だ。もしかして、俺達の戦いをずっと見てたのか?」
「その可能性が高いな。ネクトとやら。お主は何か知っているか?」
バハムートが問う。
「恐らく王子の密偵だろう。俺をここに行かせるよう指示したのも奴の命令だ。確定でいい。」
今王子について話をしたら向こうに筒抜けだ。
そこでイフルが出した提案は。
「一度エルフの大森林に戻ろう。あそこはオリヴェイラ様の管轄だから王子の使者は入れないわ。」
「よし。それで行こう。バハムート!」
「うむ。皆、我から離れるな。」
バハムートは『空間異動』スキルを発動させ、全員がエルフの大森林へと転移していった。
その光景を見ていた王子の使者が驚いた表情で立ち上がる。
「き、消えた、だと⁉」
うまく密偵からのがれることに成功した一同はエルフの大森林にあるイフルの自宅に集まっていた。
と言っても流石に巨体なドラゴンが四頭もいるため、屋上の大きなテラスで集まって話し合いをすることになった。
「俺は今から王子の契約から脱する。」
「あ、そう。」
そう宣言するネクト。
正直彼が味方になってくれればかなり心強かった。
「奴の元にいても生きる目的が見つかるとは思えんからな。」
「正しい判断だ。我もわずかしか王子と相まみえていないがアレは人を導ける器ではないと確信している。」
バハムートから密かに断定される王子。
しかし同情は湧かなかった。
ネクトを利用し、メルティナを連れ去ってまでタクマを手中に収め、王位を欲しがるような男だ。
民の事を一切考えていない事がまる分かりだ。
「王位を継がせるならオリヴェイラ様が適任だと私は思う。あの方は民だけではなくエルフ族にも人望が厚い。あの方が王位についてくださるなら誰も反対はしない。」
「じゃぁ姫さんを王にするためにオレ等がサポートすればええんやな?」
「だったら王子を直接ぶっ飛ばせば万事解決・・・!」
「ならんわ!」
相変わらずのリヴにツッコむウィンロスだった。
そんな話を一通り済ませた後、タクマはネクトの前に立つ。
「何だ?」
「ちょっとさ・・・、武器、見せてくれね?」
「・・・は?」
予想の斜め上の質問に困惑するネクト。
「普段は長刀なのに本来の姿が槍とか興味深すぎるだろ!どんな魔術で構成してんだ?もっと見せてくれ!」
「おい!こいつ止めろ!気味悪い!」
流石のネクトもタクマの圧に押さ気味だ。
「そうだった・・・。タクマは屈指の魔術マニアであったわ・・・。」
「「「初耳⁉」」」
タクマの魔術好きを知っていたバハムートは頭を抱えて呆れており、タクマの知らない一面を知り驚く一同だった。




