『第七十一章 竜対竜』
タクマ達からメルティナを連れ去ったもう一人のドラゴンテイマー、ネクト。
彼の後ろには角折れした黒いドラゴンともう一体、機械仕掛けの魔械竜が後ろに立っている。
そしてタクマの背後にバハムート達が合流してきた。
「・・・メルティナはどこだ?」
鋭い目つきでネクトに問うタクマ。
「俺に勝ったら居場所を教えてやる。」
「メルティナの無事が先だ!」
タクマの気迫で一瞬風が舞う。
「はぁ、一先ず無事だ。傷一つ負わせていない。そこは安心しろ。」
ネクトが指を鳴らすと魔械竜から長刀が射出され、ネクトの手に収まり、刃先をタクマに向ける。
「俺はお前と戦わなくちゃならない。そのためにあの女を攫った。俺と戦えタクマ!勝てたら女は返してやる!」
ネクトからは決意を感じる。
理由はどうあれメルティナの無事を聞かされたタクマはゆっくりと前に出て、剣を抜いた。
「タクマさん?」
「リーシャ。イフルと下がってろ・・・。あいつからは、何か真意を求めてる感じがする。メルティナを攫ったことは許せないが、俺はその決意に答えなきゃいけない。そんな気がする。だから・・・、俺は戦う!」
タクマ、そしてバハムート、ウィンロス、竜化したリヴが前に出る。
相手側もネクト、黒いドラゴンのクロス、そして魔械竜のロキ。
双方が睨み合う中、岩柱の上へ跳躍するイフルとリーシャ。
「タクマさん・・・。」
二人が心配そうに見守る中、岩柱の上から小石が転げ落ち、音が鳴る。
その音を合図に双方が一斉に掴みかかったのだった。
「ハァァァァァ‼」
「オォォォォォ‼」
タクマとネクト。
バハムート、リヴとクロス。
ウィンロスとロキがそれぞれぶつかり合った。
「うわぁ⁉」
ドラゴン同士がぶつかる衝撃は凄まじく、強い風圧と重い空気の揺れが辺りに響き渡る。
同じ翼竜型のウィンロスとロキはそのまま上空へ。
翼のないクロスは地形を利用して場を離れバハムートとリヴを誘い込む。
そして、
「居合・鬼炎‼」
「っ‼」
激しい金属音が鳴り響くタクマとネクトの戦い。
二人の実力は互角と言っていい程だった。
(これほどの手練れが今まで公にされずに生きてこられたこと、素直に驚くな。)
ネクトの実力に驚いていると、
「『我流・汪滝』‼」
長刀を大きく振りかぶり薙ぎ払うとまるで大波に煽られるような重い重圧がタクマを襲う。
「うぉっ⁉」
押し飛ばされたタクマは岩柱に叩きつけられる。
そこに長刀を華麗に持ち替え突き刺すように攻め入るネクト。
タクマも寸前でかわし、カウンターをお見舞いする。
「居合・水刃爆‼」
水の爆発が互いの距離を取らせる。
「複数属性を操るとは聞いていたが、本当だったみたいだな。」
低い姿勢で言うネクトにタクマは居合の構えを取る。
(あの大きい長刀を流れるように且つ無駄のない動き。それを操るほうも大概だと思うがな。)
「居合・一閃‼」
僅かな隙に一気に攻め入る。
「我流・刃巖‼」
ネクトも長刀を地面にたたき割り、砕かれた岩の破片をまき散らす。
流石に一閃の速度では岩に直撃してしまうため、タクマの攻撃が失速してしまう。
ネクトはその隙を突き、タクマに強力な一撃をお見舞いする。
「我流・突貫‼」
咄嗟に剣でガードするもその強力な突きはタクマを遠くまで突き飛ばした。
「タクマさん!」
二人の戦いを見ていたリーシャが今にも飛び出しそうな状態だ。
しかしイフルに肩を掴まれ止められる。
「イフルさん・・・。」
「これは彼等の戦いよ。邪魔をしてはいけない。」
イフルもリーシャと同じ気持ちだった。
だがこの戦いはよそ者が手を出してはいけないと直感が物語っているため、手出しができない。
「でもこれは返ってチャンスかもしれないわ。」
「チャンス?」
「相手の注意が完全にタクマ達に向いている。視覚から外れている私達なら今の内にメルティナを探せるかもしれない。」
その言葉を聞いてリーシャはハッとする。
二人は物音を立てずにその場から離れていったのだった。
一方、バハムートとリヴ、クロスの戦闘は正面からの真っ向勝負だった。
翼がない分、バハムート達が有利に思えるがクロスも二頭を相手にしていても尚、互角の戦いをしていたのだ。
「私達二体を相手にしているのに全然押しきれない⁉」
「こやつ、常に周りを見て状況を的確に判断している。とてつもない動体視力だ。」
飛べない不利を広い視野とパワーで補っているクロス。
一筋縄じゃいかない相手だ。
「我に合わせろ、リヴ!」
「オッケー!」
バハムートが攻め込み、リヴが援護に回る。
「フンッ‼」
空中からけしかけ、取っ組み合うバハムートとクロス。
そこにすかさずリヴが氷魔法で援護射撃。
クロスは離れ氷魔法を避けるもバハムートが更にパンチで畳みかける。
繰り出した拳はクロスの胴体に直撃し、後方へ飛ばされる。
しかし、バハムートの拳を受けてもクロスは倒れることはなく、その場に立っている。
それどころか余裕な表情だ。
「嘘でしょ⁉おじ様のパンチ食らって立っていられるなんて⁉」
(これでもほんの少し本気で殴ったつもりだったが、やはり相当戦闘慣れしているな。この黒竜は・・・。)
バハムートはとある一頭の黒竜を思い出す。
(・・・あやつを思い出すな。)
するとクロスの口部に魔力が集まっていくのを感じ取った。
「おじ様!ブレスが来るわ!」
リヴの声にハッと我に返るバハムート。
クロスからレーザー状のブレスが放たれ一直線にバハムートに迫るがギリギリの所で避けた。
そしてブレスは岩柱を真っ二つに切断してしまった。
断面は傷一つなく、綺麗に光を反射していた。
「・・・・・、おじ様!アレだけは絶対避けてね‼」
冷汗ダラダラのリヴが叫ぶ。
確かにアレを受けたら五体満足とはいかない可能性があるだろう。
「迂闊に近づけんな・・・!」
もう一方、ウィンロスと魔械竜ロキの戦いは。
「うぉぉぉぉぉ⁉」
タクマ達と少し離れた荒野でウィンロスが大地を爆走していた。
後ろからは口から機関銃を出してウィンロスに撃ち続けるロキが追いかけていた。
「何なんアイツ⁉口からえげつねぇもん出してるがな⁉」
ガトリングの次は背中からミサイルを二本発射しウィンロスの後ろで爆発する。
「おわぁぁぁ⁉」
ズシャーッと滑り込むウィンロス。
そこにロキが翼のジェットで加速し蹴り込んでくる。
間一髪かわし、カウンターでウィンロスも蹴りをお見舞いする。
「キックはあんさんの専売特許じゃねぇ!」
鋭い蹴りがロキの顔面に炸裂し、吹っ飛ぶ。
「どうや!」
ガッツポーズを決める。
だが一瞬の喜びも束の間、翼のジェットで浮かび上がるロキが瓦礫から出てきた。
「・・・マジかよ。」
そのまま加速してきたロキは目にも止まらぬ速度でウィンロスの首元を掴み、バハムート達のいる場所近くまで押し返された。
「っ!なめたらアカンでカラクリトカゲ!」
首根っこを掴まれながらもウィンロスは足でロキを拘束し180度身体を回転させ、ロキの拘束から逃れた。
二頭の勢いはそのまま岩柱に激突した。
遠くから立ちこめる土煙を見るネクト。
「フッ、向こうでも相当ハイレベルな戦闘を行っているようだな。」
瓦礫を退かしてタクマが立ちあがる。
「人間にしちゃタフだな。」
「俺の事を知っているなら俺の戦闘スタイルも聞き及んでいるんじゃないのか?」
そう、タクマは激突する寸前にバハムートの耐久力を自身にコピーしていたのだ。
そのおかげで軽症で済んだ。
「確か従魔の力を自分に宿すんだったか?聞いた事ねぇ戦法だな。」
「俺にとっちゃお前の方がいろいろ不思議なんだがな。あんな見た事ねぇドラゴンを二頭連れていながら全く話題なんかも聞いたことないんだから。」
互いの奇妙な在り方に関心し合うテイマーの二人。
「・・・そもそもお前は何でメルティナを連れ去ったんだ?俺と戦いたかったなら直接言ってくれればいいものを。こんな悪どいことまでしやがって。」
タクマの質問に口ごもるネクト。
答えるのに躊躇している様子だった。
(何か、別の意図が絡んでいるみたいだな?けど・・・。)
タクマは剣を構え直す。
(アイツはこの戦いで何かを見つけようとしている。メルティナの事は許せないが、今は全力で戦ってやる!)
「フゥ~ッ・・・。」
深く深呼吸し、タクマは火の竜化となる。
「それがお前の全力か。来い!ドラゴンテイマー!」
「それは、お前もだろ!」
激しくぶつかり合うタクマとネクト。
息を突かせぬ攻防が辺りに繰り広げられた。
暗い暗闇の中、一人うずくまるメルティナがいた。
意識が曖昧の状態でいると遠くから何かがぶつかり合う音が聞こえてきた。
「・・・誰か、いるの?」
手探りで音がする方へ手を伸ばすと、突然光が差し込む。
メルティナがゆっくり目を開けると目の前には何かと戦っているウィンロスの姿が見えた。
「・・・お兄さん!」
意識が戻ったメルティナはネクトと最後に話した時を思い出した。
「そうだ!私はあの時・・・!」
数時間前、ウルノード王子の命令で連れてこられたメルティナはネクトと少し話をしていた。
子供が好きなクロスの膝の上に座って。
「じゃぁネクトさんは生きる目的が欲しくてあの王子様に仕えたの?」
「正確には雇われの身だが、まぁいい。生まれてからずっと貧しいスラム街で暮らしていた。といっても正に底辺の巣窟と言っても過言ではない。暴力、強盗、殺害、それらが起こらない日など一度たりともなかった。そんな生活から抜け出したくて街を出たはいいが当時俺は何も持たないひ弱なガキだった。」
悔しそうな表情で歯を食いしばった。
その後、街を出て何とか生き永らえながらさまよっていたら偶然怪我をした黒いドラゴンと出会ったという。
そのドラゴンがクロスである。
「クロスも俺と同様、生まれ育った環境に嫌気が刺して強敵と戦いながら生きていたみたいだが、最後に戦った相手が恐ろしく強かったみたいで死ぬ寸前の状態だったらしい。」
その後ネクトはクロスを助け、同じ境遇にあった理解者同士としてパートナーになったという。
「ロキと出会ったのはその後だ。・・・でも、ずっと光の差し込まない陰で生きてきた俺は何のために生きているのか分からなくなった。不安の限界に達した俺は生きる目的を見つけるため、表の世界に出た。そして今に至るって訳だ。」
ネクトの話を聞いたメルティナは彼等が悪い人達とは到底思えなかった。
自分を連れ去ったのもあの王子の命令だろう。
メルティナは王子の目的も聞いてみた。
そして王子は自分への王位継承をより確実なものにするため、強力な力を持ったタクマを手中に収めようとしていることを知った。
「タクマを、欲望の道具にしようとしているの?」
「客観的に見ればそうなるな。」
メルティナは確信した。
ネクトたちは決して悪い人達ではないと。
しかし、タクマ達は自分を連れ戻すため彼らと戦ってしまうだろう。
二人の争いが見たくないメルティナはネクトに抗議するが、
「悪いがそれは出来ない約束だ。俺はアイツと戦わなくちゃいけない。そうしたら、俺の生きる目的が見つかるかもしれないんだ。」
「でも、タクマは貴方がいい人だって分かってない。バハムートおじさんもいるし、ひょっとしたら怪我じゃ済まないかも!」
メルティナは必死に説得しようとする。
「お願い!考え直して!戦わなくて済む方法があるかもしれない!」
「・・・ロキ。」
ロキの口から水色の靄が吐き出され、メルティナに降りかかると彼女はパタリと眠ってしまった。
「・・・君の気持は嬉しいよ。でも、これは俺の決意なんだ。」
そしてウルノード王子からタクマ達が帰ってきたことを知り、メルティナをロキの体内に匿い、森の奥にある岩場へと向かったのだった。
そのことを思い出したメルティナはロキの体内で何とか脱出できないかといろいろ探っていた。
「この子はカラクリでできた魔械竜。どこかに外に出るスイッチがあるはず!」
しかし外ではロキとウィンロスが交戦中。
体内の揺れは凄まじくうまく身動きが取れない。
それでも何とか手探りで探っていると出口付近でレバーを見つけた。
位置からしてこれが開閉スイッチだろう。
「きっとこれだ!」
メルティナはレバーに手を掛け、力いっぱい引っ張る。
「ふっん~~~~~‼」
ガコン!とレバーは下げられ煙が噴き出し、ロキの動きが突然鈍くなった。
「うぉっ⁉何や⁉」
身体から煙を吹き出すロキに驚くウィンロスだった。




