『第六十八章 エルフを探せ』
訪れたエリエント王国の友国、エルフの大森林より緊急の伝達が届いた。
何でも別の国から密猟者がやってきてエルフの子供たちをさらわれてしまったとのこと。
この事態を重く見た王女は友人?のタクマに依頼をお願いしてきた。
攫われたエルフを探し出して救出してほしいとの事だ。
国同士の良好関係にも関わるので報酬も見合った対価を払うと王女から言い渡された。
一国の王女が頭を下げてまでのお願いを断るわけにもいかず、タクマ達はその依頼を引き受けた。
王女は泣いて喜び条約の証明書を持たせてくれた。
そして現在、タクマ達は巨大な大木がいくつも並ぶも木々の隙間が広い森林地帯にやってきていた。
差し込む太陽光が葉を通し、薄緑色の空間が広がっていてとても美しかった。
「わーお。すっげぇ心地がええで・・・。」
ウィンロスが穏やかな表情で言う。
「空気がとても清んでいます!」
「この地帯はエルフの領地らしく、あまり人の手を加えていない自然の宝庫って言われてるらしいぞ?」
森の精霊であるエルフ、その大森林。
自然とうまく調和したとても心地のいい場所だ。
「さてと。姫さんから貰った地図によると・・・、このまま真っ直ぐ行けばエルフの街があるらしい。早いとこ行って攫われたエルフを探そう!」
一同は壮大な巨木の間を歩いていると地面に違和感を覚えた。
足跡だ。
しかも車輪を引いたような跡も残っている。
「恐らくこれであろうな。」
「あぁ。これを辿れば!」
一同は馬車の跡を沿って歩いていく。
すると、
「・・・ん?」
リヴが何かを感じ取った。
「血の匂いがする・・・!」
「‼」
タクマとリーシャが先に駆け出した。
全速力で森を駆けると少し広い場所で馬車を守るように男たちが立っており、そして見覚えのあるフードの人物が戦っている場面に出くわした。
「リーシャ!」
「はい!」
リーシャは杖を投げつけ、魔術で操作する。
「な、何だ⁉」
「ぐわぁ⁉」
縦横無尽に飛び回る杖が次々と密猟者をなぎ倒していく。
タクマはフードの人物の前に立ち、戦っていた男を振り払う。
「あ、貴方は?」
「話は後だ!俺が奴を止める。その隙に仕留めろ!」
フードの人物は黙って頷き、タクマが男に迫りうまく翻弄、隙をつき男を抑え込めた。
「このガキ・・・!」
「今だ!」
合図とともにフードの人物が剣を突き立て一気に迫る。
「ハァーーー‼」
剣は男の胸元に刺さり、息を絶えた。
「か、頭がやられた!」
「逃げろーーー‼」
残った密猟者たちは尻尾を巻いて逃げていった。
「ま、待て!」
フードの人物が後を追おうとするがタクマに引き留められた。
「大丈夫だ。」
すると森の奥から逃げた密猟者の断末魔が聞こえた。
しばらくすると奥からバハムート達が合流してきた。
「残党なら始末してきたぞ。」
「サンキュ。」
檻をこじ開け、エルフの子供たちを救出する。
「ふぅ、これで姫さんの依頼は完了かな?」
「・・・そうでしょうか?」
リーシャは考え込んでいた。
「王女様の耳に入るほどの事件なのに、攫われたエルフの人数が割に合わない気がするんです。」
「確かに捕まってた子たちは少なかったけど・・・。まだ終わってないってことか?」
「おそらくそうかと・・・。」
するとそこに子供たちの相手をしていたフードの人物が話しかけてきた。
「助力してくれた事、感謝するわ。」
「いいっていいって。俺達は王女の頼みで来ただけだからな。」
「そう、オリヴェイラ様が・・・。」
フードの人物から少し警戒心が和らいだ気がした。
「ん~、なぁあんさん。どっかで会ったことあらへん?」
「ウィンロス?」
ウィンロスが翼を組んで首を傾げていた。
「言われてみれば・・・見覚えがあるような、ないような?」
リヴも同様首を傾げていると、バハムートが思い出す。
「思い出した。お主カリブル街で愚かな冒険者パーティとおった怪しいフードの者ではないか!」
そう、以前港町のカリブル街の依頼でいざこざのあったパーティがおり、そのメンバーにフードの人物がいたのだ。
一騒動の後、そのフードの人物はいつの間にか姿を消していたが。
「あーーー‼そういえばいました!」
メルティナは当然何も知らないので頭の上に?が沢山出てくる。
「覚えていたのね。」
フードを取ると長い薄緑色の髪に尖った耳。
「アンタ、エルフだったのか・・・!」
「えぇ、私はイフル。この近くにあるエルフの街は私の故郷なの。」
同時刻、エリエント王国の王宮の一室にて。
「全く。オリヴェイラを始末するために薄汚い盗賊まで雇ったってのに。よりによってあの男と出くわすとはな。」
窓の外をワイングラスを回しながらつぶやく第一王子、ウルノード。
「まぁいい。おかげで探す手間は省けた。後は彼を手中に収めるため、何か弱みを握れれば・・・。」
ウルノード王子は対面した際、側に少女たちがいたことを思い出した。
(彼女たちの中から一人捕らえればあわよくば・・・。)
ウルノード王子はニヤリと笑う。
「早速に君に頼みたい仕事ができたよ。」
振り返った先にはソファに座る一人の男とその後ろにいる二つの大きな影が首を上げた。
「・・・ようやっと出番か。」
助け出したエルフの子供たちを街に連れていくため、タクマ達は同行していた。
「じゃぁ貴女は囚われたエルフを探すためにあちこち旅をしていたのね。で、その途中で私達とカリブル街で出くわした。」
「えぇ。」
再会したフードの人物改め、エルフ族のイフルから話を聞いていた。
「そのおかげでこの国付近でエルフ狩りが起こってるって情報を得たのよ。」
「なるほど。」
ちなみに子供たちはウィンロスのモフモフが大人気で全員がウィンロスに群がっていた。
「なしてオレやねん・・・。」
「モフモフの性ですね。」
「・・・なぁイフル。一つ聞きたいんだが?」
「何?」
「どうしてお前はあのクズな冒険者のパーティにいたんだ?奴らのクズっぷりはお前も反感を買う可能性もあったのに。」
疑問に思ったタクマが質問した。
するとイフルの答えはこうだ。
「別に深い意味はなかったわ。ただどこでもいいからパーティに入って身分が欲しかったのよ。エルフはとても希少な存在だから捕らえて私利私欲のために利用される。だから身分を持っておけば万が一エルフだってバレても所属がはっきりしてれば簡単に手出しができないってこと。まぁあのパーティは最悪のハズレだったけど。」
「だろうな。」
二人はそのパーティにた戦士職の男と魔女装備の女を思い返していた。
そうこうしている内に一同は目的地のエルフの街に到着した。
「ちょっと待ってて。村長に話をつけにいってくるから。」
イフルと子供たちは先に街に入って行った。
街と言ってもそこは大樹に囲まれた自然とうまく調和した里だった。
エルフの里と言ってもいいくらいだ。
石造りの建物は一切なく、大樹を切り抜いた住宅だったり木々の間をつり橋で繋いだ一つの文化が広がっていた。
「人間の街とは大違いね。」
「オレここ好きかも♪」
入口で待ってるとはいえ、あちこちからエルフたちがこちらを見ていた。
「やけに視線を感じるな。何故だ?」
「百パーお前等だろ。」
しばらく入口で待っているとイフルが戻ってきた。
「村長に許可を貰ってきた。さぁ、エルフの街へようこそ!」
街に入れたタクマ達はそのままイフルの自宅に招かれた。
イフルの自宅は巨木を繰り抜いた一軒家で枝分かれの所に大きなテラスもある。
そこならバハムート達も乗れそうだ。
「なかなか良い物件に住んでんな。」
「これでも最安値の家なんだけどね。」
するとリーシャがふと気になったことを話した。
「あの、ここに来る途中、周りのエルフの人達からちょっと強めの視線を向けられていたんですが・・・?」
しばらく俯くイフルが説明しだした。
「・・・実はね、この街、つい先日人間に襲われたばかりなの。」
「っ⁉」
リーシャ達は驚く。
タクマとバハムートだけは冷静な反応を見せた。
「なるほど。この街のエルフは人間不信か。そりゃぁ忌み嫌いな視線を浴びせるわけだ。」
「子供たちを助けてくれ恩人なのに、不快にさせたのなら謝る・・・。でも私は君達はあの人間たちとは違うって分かって!だから・・・!」
「はいストップ!」
感情的になりそうなイフルをリヴが止めた。
「招いてくれたのは嬉しいけど、私達はそこまで長居するつもりはないわよ?」
「そうだな。攫われたエルフは助けたし、今日中にでもエリエント王国に戻って姫さんに報告しなきゃな。」
するとイフルからとんでもない事実を告げられた。
「すまないけど・・・攫われたのはあの子達だけじゃないんだ・・・。まだ他にも連れてかれたエルフがいるんだ。」
タクマ達は目を丸くしていた。
思ってた以上に深刻な問題のようだ。
「マジか・・・。」
「こりゃベリーハードなクエストのようやな。」
「と、とりあえず今日は私の家で休んでいってくれ!あまり多く作れないが私の手料理を振舞おう!」
「マジか!やったぜ!」
「お主はホントブレんな・・・。」
「私手伝います!」
「あ、私も!」
リーシャとメルティナはイフルと共に料理を手伝ったのだった。
翌日、エルフの大森林の中で大きな影がうごめいている。
「グル・・・!」
「見つけたか。」
その側に一人の男が立っていた。
「神を倒したドラゴンテイマー、か。どんな奴か楽しみだ。」
イフルの自宅の巨木、その枝の上にウィンロスが乗っかっており朝日を浴びていた。
「えぇ朝やで・・・。」
「天に召されそうな顔をしているぞ?」
「縁起悪っ⁉」
ウィンロスのツッコみを他所に今後の方針を立てているタクマ達。
「ここと、ここと、ここがまだ調査していない個所だ。」
地図をテーブルいっぱいに広げ、イフルが個所を指していく。
「三か所か。どこも距離が離れているし、まぁまぁ多いな。」
「これでも絞った方なんだけどな・・・。だが恐らくこの三か所で最後になりそうなんだ。ここの他にエルフの情報はなかったから。」
「なるほど。」
するとタクマは三か所の内、一か所が気になっていた。
「ここの巨神山岳って所は確か、高低差の激しい山脈に囲まれた場所だと思うんだけど、こんなところにエルフが捕まってるのか?」
標高も高く、とても人が住んでいるようには思えなかった。
「確か昔は人が住んでいたらしいけど、突然環境が変わって住めなくなってしまったって聞いたことがあるわ。五十年経ってるけど今も集落の後が残ってるみたいだし。」
環境が変わって五十年。
タクマはその言葉に引っかかった。
(五十年前に環境が突然変わった?確かガンジのおっさんとウィンロスが環境が突然変わって一時期困ってたって話してたな。しかも同じ五十年前・・・。何か引っかかるな。)
偶然とは到底思えない。
タクマが深く考え込んでいると、
「・・・むっ‼」
「「っ‼」」
バハムートを始め、イフルとメルティナ以外は強大な何かの気配に気が付いた。
「何かが近づいてきているよ!主様!」
「タクマさん、これは・・・。」
イフルとメルティナは何事かとオロオロしている。
「タクマも感じ取ったか?」
「あぁ、この気配・・・、ドラゴンだ!」




