『第六十六章 激震』
お待たせしました。投稿を再開します。
完成次第順次投稿してまいりますのでよろしくお願いします。
タクマ達が旅に出る少し前、神々の住まう天界では激震が走っていた。
王宮では天騎士たちがバタバタと走り回っていた。
「急げ!創造神様の招集だ!」
大急ぎで創造神の玉座に集まる天騎士たち。
玉座の間には既に神達も数名集まっていた。
「創造神様、全神と使徒、玉座の間に集結いたしました。」
側近の可愛らしい大人の女性天使が分厚い本を持って言う。
そして玉座に座っているのは全ての元凶、前任の創造神を貶めて座を奪い全ての権力を得た神。
八枚の翼を有し眼鏡をかけた白髪の男だった。
「よく集まってくれた。」
男は席を立ち前へ出る。
そして集まった神と天使たちは一斉に跪いた。
「さて、皆を集めたのは他でもない。先の報告で女神レーネと双子神ネーネとアルルが一人の人間の手によって倒された。」
創造神から出た言葉に神と天使たちはざわつきだす。
「レーネ様と双子神が倒された⁉」
「しかも人間に⁉」
ざわつく天騎士たち。
「彼女たちが消えてしまったのは実に悲しいが、彼女たちが残した功績を無駄にはしない。それが仲間である我らのすべき使命だ!彼女たちのために、私は新世界の創造を果たす!」
創造神の演説に天騎士たちは歓声を上げる。
だがその反面、至極冷静な神達。
「しかし、たかが人間ごときにあのレーネが?」
知的な雰囲気の男性、レスト。
「双子のあの子たちも消えちゃったんだ~。可愛くてお気に入りだったのに、残念。」
妙に色気のある水色髪の女性、エルエナ。
「その人間、強そう。興味、ある。」
長髪で片目を隠した幼児体型の少女、ジームルエ。
「それにしても、再びアムルが重傷で僕の所に来たと思ったら、あのガミウまで深手を負って戻って来るとは・・・。一体何が起きたと言うんだ?」
難しい顔で考え込む中性的な見た目の子供の容姿をした神、セレス。
「ふん!部下共々情けない。やはり頼れるのは洗脳した道具に限るな。」
そして天界で唯一、テイマーの力を持った灰色長髪の男性神、ジエト。
彼らは神の地位を持ち創造神の次に権力と実力を持つ幹部、七天神だ。
以前はレーネと双子神も入れて七天神と呼ばれていたが、彼女たちが消え二つ空席となっている。
そして謁見を終え、七天神も退室しようとすると側近の女性天使が呼び止めた。
「あ、七天神の方々はお残りください!創造神様から皆様にお伝えしたいことがあるそうです!」
七天神は一斉に振り返る。
「創造神様直々に⁉」
他の天騎士たちが全員退室終えると七天神は創造神の前に再び跪いた。
「君たちを呼び止めたのはこれからの事を話し合うためだ。だがその前に、しばし私の自慢話に付き合ってくれ。」
創造神はそう言うと自分の偉業を話始める。
「私は今の世界に不満を抱いている。何の変哲もないただただ平和な世界。だがあまりにも平和すぎて刺激が足りないと私は踏んだ。だから私が刺激溢れる戦乱の世を作ることにした。その前段階として五十年前、下界の生態系を上書きしてみた。実験は大成功だ。その結果をもとに世界を作り変える天界具を開発した。しかし、そこで問題が起きた。私の計画に気づいた女神がいた。」
それがタクマの育ての母、セレンティアナだった。
セレンティアナはその計画に気づくと当時の創造神にそのことを報告、そして天界具の一つを持ち出し、下界へ逃げたのだ。
そしてセレンティアナはセナと名を変え、下界で暮らしている内にタクマと出会った。
「セレンティアナを見つけ出すのに四十年の月日を費やしたがようやく始末出来た。しかし奴が持ち出した天界具を見つけることは出来なかった。」
「創造神様でも見つけられなかったのですか?」
「当時、私はまだ創造神ではなかったからね。天界具に強力な隠蔽もかけられていた。だがそれだけではない。セレンティアナの義理の息子、その少年が現れた。彼からはとてつもない何かを感じたよ。あれは、化け物だ。」
そこまで説明した創造神に七天神達は察した。
「つまり、その少年を探し出せばよろしいのですか?」
「いや、その少年の存在は確認済みだ。君達にしてもらいたいことは・・・、彼の監視と排除だ。」
「監視・・・。」
「排除?」
「何を隠そう、レーネと双子神を葬ったのはその少年なのだから。」
「「「っ⁉」」」
七天神は驚きの表情を見せた。
「彼は我ら神をも倒せる力を持っている。始末の対象ではあるが迂闊に手を出せない。そこでまず監視をしてもらい、好機を見て排除に当たる。その役割を君達七天神に任せたい。」
七天神は再び跪いた。
「「「我ら七天神にお任せあれ‼」」」
七天神が退室した後、創造神はふうっと息をつく。
「人間一人の排除など、創造神様の手に掛かれば造作もないのでは?何故七天神にお任せしたのです?」
側近の女性天使が問う。
「彼は特別なんだ、ミルル。レーネと双子神、二つの神を一度に葬られたんだ。下手に手を出せばどんな返しが来るか分からない。それに彼はドラゴンを三頭も連れたテイマー。ましてやその内の一頭は竜王ときた。まずは様子見と言ったところだよ。」
「流石創造神様!慎重かつ冷静なお方!」
創造神はニヤリと笑みを浮かべた。
「憎きセレンティアナの息子、タクマ。いずれ君とは世界を賭けた戦争となるだろう。その時は私、新生創造神『ラウエル』自ら相手となろう。フフフ、フハハハハハ‼」
創造神ラウエルの高らかな笑い声が王宮内に響き渡ったのだった。
その様子を窓から覗いていた白いハトが飛び立っていったのは誰も気づかなかった。
場所は変わり、創造神ラウエルが納める天街から遠く離れた天界に広がる樹海。
その更に奥地に小さな神殿があった。
先ほど王宮から飛び立った白いハトが神殿の隙間から中に入り、地下へと続く階段を降りていく。
そして階段を抜けると大地を通り越して日の光が降り注ぐ地下街に出た。
外からはただの地面にしか見えないが中からは外の様子が見える不思議な構造になった空間だった。
白いハトはそのまま真ん中にある大きな建物の中へと入って行き、そして一人の少年の腕に止まる。
「良く戻ってきた。」
少年は鳩の足に取り付けられた魔石を取り外す。
「録画は問題ないな。ご苦労だった。」
そう言い鳩を飛ばした。
「さて、有益な情報を得られたかどうか・・・。」
激震が走ったのは天界だけではなかった。
東に位置する大きな王国、エリエント王国。
王宮の一室にて、大きな会議が執り行われていた。
「・・・以上が、隣のフュリア王国で起きた報告です。」
僧侶服を着たおじいさんが書類の束を持って言う。
部屋には長いテーブルを囲むように位の高い人達が集まっていた。
「・・・信じられん。神を倒すなど・・・。」
大臣の男がわなわなと震えている。
「報告によると、その神を倒した奴ってのは人間でドラゴンを三頭も連れたテイマーの冒険者って話だろ?ドラゴンを連れているだけでもありえないのにそんな奴存在するのか?」
騎士団長の大男が言った。
「ですが神が討伐されたのは事実です。皆さま、こちらをご覧ください。」
シスターの若い女性が一輪の白い花を持ち出した。
「それは?」
「我が協会に古くから祀られている神の存在を印す神花です。七枚の花びらが一人一人の神の存在を表す神聖な花です。」
「ん?見た所花びらは五枚しかないが?」
「はい、本来なら七枚の花びらがあったのですが・・・、つい先日、二枚の花びらが枯れ落ちたのです。これが意味することを、皆様ならお分かりいただけますね?」
全員が唖然とする。
「・・・いかがいたします?ウルノード王子・・・。」
長いテーブルの先端で先ほどから話を聞いていたエリエント王国の第一王子、ウルノード。
彼はしばらくだんまりしていると口を開いた。
「神を倒したテイマーか・・・。フフフッ、面白い!是非とも、我が軍門に引き入れたいですねぇ。」
不吉な笑みを浮かべたのだった。
同時刻。
辺境の森でとある団体が進軍しており、先頭を率いていた白馬の騎士が立ち止まる。
「・・・冷たい風。何か大きな事が起こりそうだな。」
それはワールド騎士団の団長であり、アルセラの兄であるウィークスだった。
「団長?どうされたんですか?」
「何でもない。さぁ、早いとこエリエント王国に向かうぞ。恐らくネオンが先に着いてるはずだ。」
軍隊は再び進軍した。
「うらっしゃぁぁぁぁ‼」
「ふん‼」
ウィンロスの蹴りをごり押しで押し返し地面に叩きつけた。
「へぶっ⁉」
大地が揺れた。
遠くで座っていたタクマ達が一瞬浮き上がる。
「攻撃が単調だぞウィンロス。それではあっさり対応されてしまう。もっと奇襲を身につけよ。」
「にしたって、もうちょい加減してや・・・。」
バハムートに思いっきり叩きつけられピクピクしているウィンロスだった。
タクマ達はフュリア王国から旅立って数日。
広い野原で休息をしていた。
今度は王国の反対の方向へ旅に出た。
「はぁ~。のどかね~。」
リヴが野原の上で仰向けで寝そべる。
「とてもつい先日、命を懸けた戦いをしたとは思えませんね・・・。」
「何言ってるのよリーシャ。あんな事があったからこそ、より一層平和を感じられるんじゃない。ほら、メルティナもおじ様の側で日向ぼっこしてるし。」
一方、バハムートとの模擬戦闘でコテンパンにされたウィンロスはタクマに相談を持ち掛けていた。
「なぁ、どうしたら旦那に一本取れると思う?」
「知るかよ。つかそもそも何で俺に聞くの?」
「そらだってタクマは旦那と過ごした時間が一番長いからやで!」
正面からごり押しで負けたのがよほど悔しかったのか、圧が凄かった。
「負けっぱなしは嫌やねん!アドバイスくれや!」
「分かった分かった!」
結局根負けし、タクマはウィンロスと真剣に相談することになった。
翌日、一同は森の中を歩いているとどこからか悲鳴が聞こえた。
「きゃぁぁぁぁぁ‼」
「何だ⁉」
一早く動いたタクマは声のする方へ走り出す。
すると高貴な馬車が盗賊に襲われている現場に遭遇した。
(よくあるパターンだな。・・・盗賊の数はざっと十二人程。俺とあと一人いれば対処できる。)
考えている内に護衛の騎士がどんどんやられていく。
「さぁて、後はこの中にいる女だけだ!」
馬車の中では侍女ともう一人の女性が震えていた。
盗賊が斧を振り上げ馬車の扉を壊そうとすると、肩をポンポン叩かれた。
「失礼♪」
「あ?」
振り返ると同時に盗賊は切り裂かれた。
「な、何だこいつ⁉どこから⁉」
「はい今度はこっち。」
いつの間にか背後に回ったタクマにどんどん切られていく盗賊たち。
「動くな!」
順調に切り失せていたタクマがピタッと止まる。
盗賊の一人が女性兵士を人質に取っていたのだ。
「それ以上動いたらこの女の首を切るぞ!」
タクマはゴミを見るような目で盗賊を睨む。
「わ、私の事はいい・・・!構わず、切れ・・・!」
女性兵士が言うがタクマは剣を鞘に納めた。
「へへっ!理解がよくて助かるぜ・・・!おい!今のうちに馬車を開けろ!」
生き残った盗賊が馬車に向かうと、馬車が宙に浮いたのだ。
よく見ると前足で馬車を持ち上げるバハムートが立っていた。
「ド、ドラゴン⁉」
「何でこんなところに⁉」
すると続くように空からウィンロスと竜化したリヴが辺りを囲むように現れる。
突然現れたドラゴン三頭に盗賊たちは震え切っていた。
「な、何でドラゴンが・・・⁉」
「俺の仲間だ。冥土の土産に覚えとけ。」
バハムート達に注意が引いていた盗賊を背後から切り飛ばし、人質を助けた。
「やれ!リヴ!」
リヴの口部から冷たい冷気が発せられ、盗賊たちは全員氷漬けにされた。
「バハムート!馬車に人が乗ってる!ゆっくり降ろしてくれ!」
「うむ。」
ゆっくり馬車を降ろすバハムート。
「さて、大丈・・・、」
「姫様‼」
助けた女性兵士がタクマをかき分け一目散に馬車に駆け寄る。
「・・・姫様?」
「姫様!ご無事ですか⁉」
すると馬車から少女の声がした。
「えぇ、大丈夫よ。・・・ミルバ、外に出して。」
ミルバと呼ばれた女性兵士は馬車を開けると、高貴な身なりの女性が降りてきた。
「うわっ!綺麗・・・!」
いつの間にか合流していたリーシャがつい言葉を漏らす。
高貴な女性は礼儀正しくスカートを持ちお辞儀する。
「この度、助けていただき、ありがとうございます。私、エリエント王国第二王女、オリヴェイラ・エリエントと申します。」




