『第六十四章 謎の女性』
フュリア王国と天界を繋いでいた光の輪はいつの間にか消えており、元の空に戻っていた。
そして、神の襲来から国を守ったタクマを探しにアルセラやロイル含むアンクセラムの近衛騎士団が動いていた。
瓦礫の街となった王都の後始末をしながら逃げ遅れた人がいないか探索し、そしてアルセラが気を失って倒れていたタクマとバハムートを見つけた。
「タクマ‼」
急いで駆け寄り生死を確認する。
「・・・寝ているだけ?」
アルセラは安心して息をつく。
「ホント、君は常に規格外だな・・・。無事でよかった・・・。」
寝ているタクマの頭を撫でた。
その後、疲労で動けないであったが元気いっぱいなリヴとボロボロの状態で歩いていたウィンロスも無事見つけることが出来た。
彼らを避難所へ連れて行くと先に戻っていたリーシャとメルティナが号泣してタクマに飛びついた。
気を失っていても二人に抱きしめられて苦しそうな顔をしていたタクマだった。
そしてその後、魂を狩られた人たちも次々に目を覚まし、ルナも無事生き返った父と再会できた。
失った物もあったが誰一人、命を落とした者はいなかった。
そうして、神の襲撃騒動は無事終わりを迎えたのだった。
それから数週間後、大分街の復興が進んだフュリア王国は元の活気に満ち溢れていた。
国王も城に戻ったが特に驚いたのが、アムルに倒されたと思っていたエリック先生がほとんど無傷で帰ってきたことだ。
あの時、瓦礫の下敷きになったエリック先生だが自慢の筋肉で瓦礫を押し上げちょっとした空間を作りそこで生き永らえていたとの事。
本人は高らかに笑い国王は心配を返してくれと言わんばかりに頭を抱えたという。
復興の目途が立ち、アンクセラム近衛騎士団も自国へ帰って行った。
共に戦ったAランクパーティ『深紅の炎』とアルセラも一緒に。
「アルセラさん、どうしても一緒に来られないんですか?」
帰り際にリーシャがアルセラに声を掛けた。
「あぁ、こんな早い再会になるとは思わなかったからな。まだ私の準備が出来てないんだ。だから、タクマにはまだ顔を合わせられない。」
「そう、ですか・・・。アルセラさん!待ってます!どれだけかかっても、私達はずっと待ってますからね!」
「あぁ、今度会う時は、その時は是非旅の仲間に加えてくれ!」
約束をしたアルセラは馬を走らせ騎士団と共に帰って行った。
そして、女神を倒した本人、タクマとその仲間たちはルナの牧場のお世話になっていた。
牧場の一角を借りてそこで休んでいた。
「それにしても、今度は旦那まで目ぇ覚まさんで。」
テントを張り中でタクマが寝ており、外でバハムートも眠っている。
「主様たちがどんな感じだったか知らないけど、あの力、結構身体に堪えたものね。全身筋肉痛で痛いわ。」
ウィンロスとリヴは極限状態が切れても意識を失う事はなかった。
恐らくタクマとバハムートだけは全力を出し過ぎての結果なのだろう。
「はぁーっ!」
大きなため息をついて仰向けになるウィンロス。
そして腹がぐぅぅぅっと鳴る。
「・・・腹減ったで。」
「そういえばそろそろお昼を貰いに行ったリーシャ達が戻ってくる頃だと思うんだけど?」
噂をすればリーシャとメルティナ、そいてルナが沢山のバケットを持って戻ってきた。
「お待たせしましたー!」
「待ってました!」
ウィンロスがガバッと起き上がる。
シートを敷いて料理を並べると、
「チーズばっか!」
ほとんどがチーズ料理だった。
「どうしてこんなにチーズ料理が多いの?」
「バハムートさん、ここの牧場のチーズが大好物なんですって。だからチーズの香りを漂わせれば目を覚ますのではないかと。」
案外といい手かもしれない。
食事を楽しみながらバハムートの鼻下にチーズを漂させる。
するとピクピクと鼻を動かした。
「オホホ、なんかおもれぇ!」
ウィンロスは完全に面白がってる横で一緒に食べてたルナが女子三人に話しかけてきた。
「ねぇ、一応聞きたいんだけど、三人はタクマとどういう関係?」
突然の質問に女子たちは食が止まる。
「関係⁉わ、私は頼りになる男性の方だと思ってますけど?命も救ってくださいましたし。」
「私はただただ惚れ込んだだけよ?あの時助けてくれた主様ったらホントかっこよかったんだから!」
「あ、私は優しいお兄ちゃんだと思ってます・・・!」
三人の話を聞いたルナはリヴを一番強く見た。
(要注意はあの青い子ね。)
そんな中、ウィンロスはまだバハムートで遊んでいた。
ニヤニヤしながらチーズの香りをこれでもかと漂わせている。
すると、
「えぇーーい‼鬱陶しい‼」
ひっくり返るウィンロスに怒鳴るバハムート。
ようやく目を覚ましたようだ。
「バハムートさん!」
「さっきから誘惑しよって!おかげで目が覚めたではないか!」
「おはようさん・・・。」
目覚めるな否やチーズ料理にかぶりつくバハムート。
「うむ!目覚めのチーズは格別だ!」
「見てるだけで胃もたれしそうやで・・・。」
バハムートは目覚めたがタクマがまだだった。
昼食が終わってもテントの中で眠っている。
「バハムート、タクマは?」
ルナが心配そうな顔で聞いてくる。
「従魔結石の力による極限解放の反動で眠りが深いだけだ。我は無理やり起こされただけだが。」
するとリーシャがこう言い始めた。
「よし!タクマさんが起きた時のために美味しい料理を作っておきましょう!」
「私もやる!」
「ほら、ウィンロスも手伝いなさい!」
「何でオレも⁉」
「味見役よ。ほら行くわよ!」
「オレ今満腹状態なんやけどーーー⁉」
尻尾を掴まれ、ウィンロスはずるずると女子三人組に連れてかれた。
「元気な奴らだ。」
その間、ルナはバハムートにタクマの旅の話を聞いて時間を潰すことにした。
「・・・・・また変な所に来たな・・・。」
タクマは何もない真っ白な空間にいた。
「状況からして闇に飲まれてた時と似たようなもんかな?」
「ご名答、ここは君の精神世界。そしてこの白い空間は私の部屋みたいなものさ。」
突然声がした方を振り向くとそこには長い黒髪の女性が立っていた。
身長はタクマより少し高くかなり大人びた女性だ。
タクマは彼女に見覚えがあった。
「アンタは・・・あの時闇から引き上げてくれた。」
「立ち話もなんだ。座って話そうじゃないか。」
女性がパチンと指を鳴らすといつの間にか二人は椅子に座っており、目の前のテーブルに紅茶が置かれていた。
「で?アンタは誰なんだ?」
女性は紅茶をすすり、答える。
「私はシーナ。世界初のドラゴンテイマーさ。」




