『第六十三章 レーネとの決着』
レーネによって生み出されたオートマタが次々と稼働を停止させていく。
「と、止まった・・・?」
進行を食い止めていたレオとセイゾウ、そしてアンクセラムの近衛騎士団が呆然とする。
レオが剣でオートマタをつつくが完全に機能停止していた。
「何だか分かんねぇけど、終わったーーー‼」
レオと騎士団が歓声を上げた。
広場に無数の魂が浮かび上がる。
ガミウが鎌に閉じ込めていた人たちの魂だ。
「こんなに沢山・・・。」
「死神の鎌は魂の回収ボックスでもあるのよ。私のも含めてね。」
共に戦ってくれた死神の少女、エトナ。
彼女は何だかどもるような声で話す。
「・・・アンタがくれた薬、アレのおかげで呪いが解けた。ありがと・・・。」
「え?今なんと?」
「な、何でもないわよ!」
「クゥ~?」
戦いが終わるといつの間にかラルが元の小竜に戻っていた。
もう念話も聞こえない。
(ラルの、覇王進化という力は一体何だったんでしょう?後でバハムートさんに聞いた方が良さそうかな?)
宙に浮いていた魂はそれぞれどこかへ向かって飛んで行った。
「自分の肉体へ帰るのね・・・。」
そう言いながらエトナもその場から離れようとする。
「あ、待ってください!」
「何?」
「えっと、助けて下さり、ありがとうございました!」
律義にお辞儀をするリーシャ。
「・・・言っとくけど、私が人間嫌いだってことを忘れないで。今回助けたのは気まぐれよ。」
「それでも助けていただいたのは事実です。ありがとうございました!」
「・・・むしろ助けてもらったのはこっちなのに・・・。」
「え?」
「何でもない。貴女とはもう会う事もないでしょう。・・・じゃぁね。」
そういいエトナは屋根の上へジャンプした。
去り際にボソッとつぶやく。
「あの方をよろしく・・・。」
そうしてエトナは姿を消したのだった。
「行っちゃった・・・。」
「クゥ・・・。」
しばらく呆然としていたリーシャはハッと我に返る。
「そうだ!メルティナさんの所に戻らなきゃ!あの子一人で待たせてるんだった!」
「クゥ~!」
二人は急いで避難所へ走って行った。
その近くの物陰で人影が動いたことにリーシャ達は気づかなかった。
街の地面がモコッと盛り上がったと思ったら中からウィンロスが這い出てきた。
「ふへぇ~、やっと出られた。勢いあまって地中にめり込んで生き埋めとかシャレにならんで・・・。」
身体を振るって土埃を落としタクマ達の気配を感じながら合流しに向かった。
地下遺跡では身体が光の粒子となって消滅する巨大な鎧と二人の双子神。
「アルル・・・、負けちゃったね・・・。」
「ネーネ・・・、僕、悔しいよ・・・。」
身体の半分が消えてなくなっているアルルが悔し泣きをした。
「ネーネを傷つけた人間を、ネーネの仇を討ちたかったのに・・・!」
「アルル・・・。」
ネーネは優しく微笑んだ。
「アイツを殺したかったのは同じ気持ちだけど、僕はずっと側にいるよ。だから、仇を取る必要はないよ。」
「ネーネ・・・。」
ネーネはフウッと息をつく。
「アルル、よく考えたら、僕達のしてきたことって・・・間違ってたのかな?」
「え?」
「新しい創造神様の命で合成獣を作って、素材として人間も渡されて。あの時は僕達の物作りの才能を評価してしてくれて嬉しかったからいろいろやってたけど・・・。心のどこかでこれは間違ってるって思ってたのかもしれない・・・。」
「・・・ネーネもなの?」
「もしかして、アルルも?」
「うん。今の創造神様は僕らを評価してくれてた。けど、どこか冷たい感じがした。ちょっと怖いってさえ思えた。でも・・・前の創造神様は、凄く暖かかった。どんなに失敗しても優しくしてくれて、叱ってくれて、どんな時でも僕達を大切にしてくれた。」
その時、二人は気づいた。
前の創造神様がどれだけ暖かく、母のように見守ってくれてたのかを。
「・・・アルル、僕達、とんでもない悪い子だったね。」
「グスッ、うん。僕達は今の創造神様にいいように利用されてただけだったんだ。前の創造神様は本当に僕達を大切にしてくれた・・・!」
自身の後悔と過ちに涙が止まらない。
どんなに悔やんでも、あの暖かかった時間は戻ってこない。
「ねぇアルル。」
「何?ネーネ?」
ネーネはそっとアルルと手を繋いだ。
「生まれ変わっても・・・、兄弟でいようね。そしてもし叶うなら、創造神様、お母様にごめんなさいって、しようね。」
「・・・うん!ずっと一緒、一緒にごめんなさいってしよう・・・!」
「「約束・・・。」」
そうして双子神は光の粒となってその姿を消したのだった。
「・・・どうしよう。」
アムルとの決着がつき人間の姿で床に伏せているリヴ。
極限状態が切れて疲労MAX。
一歩も動けないでいた。
「うぅ、水魔法で身体洗いたいのに・・・全く動けないよう~。」
リヴの倒れている少し先では腹部位の鎧がもの凄くへこんでいるアムルが倒れている。
完全に気を失っておりもう戦えないだろう。
「幸いアイツは完全に気絶してるわね。こんな無防備な状態で来られたらそれこそおしまいだもの。」
そう思っていると突然人の気配を感じ取った。
しかも神と同等の気配だ。
(嘘⁉こんな時に‼)
リヴは必死に身体を起こそうとするもやはり動けない。
そして後方から人影が迫ってくるのが見えた。
「まずい!今来られたら!」
しかし、人影はリヴを通り越しアムルを抱え上げたのだ。
「え?」
その人影は面影もなくなった死神のガミウだった。
「ハァ・・・ハァ・・・、憶えてろよ・・・!」
ガミウは気絶したアムルを連れて天界へと逃げていった。
それを見ていたリヴはガクッと脱力する。
「嘘でしょ~?アイツ等が逃げたってことはまた来るじゃない!もう勘弁して・・・!」
泣きそうな声で文句を言うリヴだった。
見事、レーネの天使の輪を切ったタクマ。
バハムートと共に極限状態が切れて戦う力が残ってない中、二人の視線の先には輪を砕かれ、身体が光の粒となって消滅しかけてるレーネが倒れていた。
「・・・まさか本当にやってのけるとはね・・・。」
「・・・・・。」
「何を黙っているの?貴方は神を倒したのよ?もっと誇ったらどうなの?」
「誇って何の得になる。」
タクマはレーネを見下ろす。
「お前らは神の地位を利用してたくさんの人を傷つけた。神だから許されても俺達は許さない。間違った行いをしていたら容赦なく倒してやる。」
戦える力は残っていなくても鋭い目つきは健在だ。
「フフフ、普通は神を倒そうなんて考えないわよ。でも、貴方達はそれが出来ちゃったのよね。」
フッと笑うレーネの隣にタクマが腰を降ろした。
「結局お前らは何がしたかったんだ?アンクセラムとフュリア王国を壊滅させようとしやがって。」
少し黙るレーネだがゆっくりと口を開いた。
「・・・そうね。どうせもう死んじゃうし、ちょっと無駄話に付き合ってもらおうかしら。」
レーネはタクマにいろいろ話した。
最初は自分の自慢話で聞き流してたが中盤から話を聞くようになった。
「今の創造神が前創造神を貶めて創造神の座を奪ったってことか。」
「おかげで天界じゃ『新生創造神派』と『旧創造神派』の二つの勢力に別れちゃってちょっとした戦争状態だけどね。ちなみに私は『新生創造神派』よ?」
「言われなくてもそれは分かる。」
だが天界の現状を知れたのは大きかった。
「でもそんな事俺に教えて良いのか?」
「もう死ぬんだもの。最後は勝者である君に少しでも何か上げなきゃね。」
この女神の事は正直嫌いだがどこか憎めきれなかった。
「あーあ、悪い事はするもんじゃないわね。」
「お前、分かっててやってたのか?」
「さぁ、どうかしら?あ、でもこれだけは本心。」
「?」
「あの金髪の女の子に、怖い思いさせてごめんねって伝えてほしい。」
その時のレーネは何の後ろめたさもない優しい表情で頼んできた。
「・・・分かった。伝えとく。」
するとレーネの身体が透き通ってきた。
「そろそろお別れね。最期に貴方とお話しできて楽しかったわ。もう会う事は無いでしょうけど。」
「こっちも願い下げだ。お前の顔なんて二度と見たくねぇよ。」
だが、二人は笑っていた。
お互いに何か吹っ切れたようにスッキリした顔だ。
「じゃあね・・・。」
そう言い残したレーネは光の粒となってタクマの前から消えたのだった。
「・・・最後までいけ好かない女神だ・・・。」
タクマとバハムートはレーネだった光の粒が天に昇って行くのを見届けた。
「・・・終わったな。」
「あぁ。」
二人は力尽きたようにその場に倒れた。
「もう一歩も動けねぇや。」
「従魔結石は従魔の力を引き出せるとは聞いていたが、これほどとはな。眠気が凄まじい。」
「・・・なぁバハムート。」
「何だ?」
「ありがとな。俺の相棒になってくれて。」
「何を今更。・・・我も、お主が相棒で良かったぞ。タクマ・・・。」
そして二人は意識が飛ぶように深い眠りについたのだった。
外伝作品
世界最強のドラゴンテイマー外伝 キング・オブ・メモリア
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