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『第六十章 進化』

杖を操り、死神のガミウを地上へ叩き落したリーシャ。

そこにラルが飛んできて彼女の肩に止まる。

「ん?そのチビ・・・覚えがあるな・・・?あぁ!あの時俺を吹っ飛ばしたチビ竜じゃねぇか!となるとお前は・・・。」

ガミウはリーシャに視線を移す。

「そうです。私がこの子の主人です。」

リーシャは真っ直ぐガミウを見た。

(やはりいの一番に気絶した私の事は覚えていませんでしたか・・・。でも。)

杖を振り回し戦闘態勢に入る。

(その欠如はこちらにとって都合がいい!)

ガミウはタクマ達と戦っており、彼らの力は大体把握されているだろう。

だが気絶して眼中から外れていたリーシャに対してはまだ力を知られている可能性が低い。

不意を突くにはリーシャが一番適任だった。

(相手は魂を刈り取る死神。あの鎌に注意しつつ・・・!)

気が付くと鎌はリーシャの目の前にまで迫っていた。

「っ‼」

咄嗟に身体を反りかわした。

「チッ、避けやがったか。」

音がしなかった。

目の前に来るまで地面を蹴る音も風の揺れも感じられなかった。

「ラル!」

「クァー!」

ラルのブレスで怯ませ距離を取る。

「エア・ショット‼」

すかさず風の弾を打ち出しガミウに当てる。

「魔術師か。しかもその杖、相当強い魔力を帯びてやがる。」

スターミスリルに従魔結石と言ったレア中のレア素材を使っているため、蓄積される魔力の純度が凄まじいのだ。

そのおかげでリーシャの放つ魔法も威力が上がっていた。

「それを使いこなせる辺り・・・お前、強いな?」

ガミウの見る目が変わった。

その視線にリーシャは一瞬ビビる。

「・・・ラル、一緒に戦ってくれる?」

「クゥ!」

「ありがとう。行くよ!」

リーシャの合図で一斉に掛かった。

ガミウが鎌を振り下ろしリーシャが杖を槍にし、鎌と杖の先端部分がぴったり合わさる状態で止まる。

「やるじゃねぇか!」

「それはどうも!」

ガミウの鎌さばきを杖を槍のように振り回して相殺し続ける。

「フレイム・ピラー‼」

足元から炎の柱が立ちガミウを包む。

だが炎の柱はいとも簡単に切り崩される。

「死神にはぬるいぜ!こんな炎!」

だがその一瞬で視界が途切れ、リーシャはそのわずかな隙を狙ってガミウの目の前まで迫った。

「はぁっ‼」

至近距離から杖を振り回しガミウの鎌をからめとって押さえた。

「この程度・・・!」

「クッ!」

「あ?」

リーシャの頭の上にラルが飛び乗り、ガミウの顔面に小さなラッシュを繰り出す。

「クククククククッ‼」

溜まらずガミウは顔を押さえる。

その隙にリーシャは低く蹴り込み転倒させた。

倒れたガミウの上を取り杖で殴り掛かる。

首を動かしかわし続け、倒れた状態から大きく蹴りを入れた。

蹴られたリーシャはそのまま蹴飛ばされガミウが起き上がる。

「やってくれたじゃねぇか!」

切り掛かるガミウを杖で押し止める。

すると目の前で身体を大きく反り息を吸い込んだ。

「っ⁉まさか⁉」

「死術・怨狂深淵(おんきょうしんえん)‼」

リーシャを苦しませたあの音響が目の前で繰り出される。

当然かわすことも出来ず、至近距離からまともに受けてしまった。

「――――っ⁉」

声も発せずその場に膝をついてしまったリーシャ。

「怨狂深淵は今まで狩ってきた魂の怨念を束にして相手に浴びせる術。ただの人間にはかなりの毒になるし、精神が壊れるのも時間の問題だな。」

呼吸が荒くなり目の焦点が乱れる。

(ヤバい、ヤバい、ヤバい・・・!いろんな声が聞こえてくる!とんでもない邪の感情が・・・!おかしくなる、おかしくなりそうで自分自身を失いそう・・・‼)

負の感情などが容赦なくリーシャを襲う。

少しでも気を抜くと精神がやられそうなくらいに。

(もう、ダメ・・・!)

「クゥーーー‼」

ラルの放つ光がリーシャを包む。

すると次第に呼吸が落ち着き目の焦点も合ってきた。

「浄化魔法?光属性の最高位である魔法を何でお前みたいなチビが使える!」

「そんなの・・・決まっています・・・!」

意識の戻ったリーシャは杖を立てて立ち上がる。

「ラルは・・・私のパートナーなんですから‼」

立ち上がったリーシャから強い気迫と同時に魔力量が大幅に上昇するのを感じた。

(何だあれは⁉あのガキのどこにあんな魔力が⁉)

リーシャから溢れる魔力が杖の従魔結石に集まり強い翡翠色の光を放つ。

「従魔結石が・・・⁉」

するとラルも光始めた。

その時、リーシャはあることを思い出す。

従魔結石は従魔の力を引き出せると。

二人は顔を見合わせて強く頷いた。

「行くよ!ラル!」

「クゥ!」

リーシャは従魔結石を掲げると更に光が強まった。

そしてラルは光の球体に包まれる。

覇王進化(はおうしんか)‼』

球体がバリンと割れ、中から両腕と両肩にキャノン砲を装着した四メートルぐらいの大きな白いドラゴンが現れた。

『ガンズ・ド・ラル‼』

武装を身に纏うドラゴンが大地に立つ。

「ラ、ラルーーー⁉」

突然大きくなったラルを見てリーシャは驚いた。

「何これ⁉覇王進化って何⁉」

パニック状態の彼女の頭に声が響いた。

(リーシャ、話はあと!今はあの死神に集中しよう!)

聞いた覚えのない声が頭に響く。

リーシャはふと進化したラルを見た。

「い、今のって・・・ラル?」

(そうだよ!進化したおかげか念話が出来るようになったみたい!)

可愛い少女のような声で答えるラル。

いろんな事が起こりすぎて戸惑ったがラルの言う通り、今はガミウに集中する。

ガミウは突然進化したラルに驚いて呆然としていたがハッと我に返り頭をブルブル振った。

「何だよそれ!従魔が進化するなんて聞いたことないぞ⁉」

「私もよくわかりませんけど、でもこれで戦えます!」

互いに武器を構え衝突する。

二人が激しくぶつかり合う中、ラルの援護射撃でリーシャが優勢な流れになっていく。

「こいつ!」

鎌の斬撃を飛ばすもリーシャに当たる寸前でラルが腕のキャノン砲で受け止めすぐさまもう片方のキャノン砲で発砲する。

ガミウは弾を切り裂き距離を詰めてくる。

「テメェは邪魔なんだよぉ‼」

前に立つラルに切りかかるもラルのキャノン砲は彼の鎌を通さなかった。

「な⁉俺の鎌が通らねぇだと⁉」

(ボクの銃は柔黒曜石を使ってるからね!)

(ラル・・・貴女の声は私以外に聞こえてないよ。てか一人称ボクなんだ。)

なんてことも思いつつ二人でガミウを押していく。

「くそが!調子に乗んじゃねぇぞ!」

後ろに飛ぶガミウは鎌を回す。

「俺を本気にさせたことに感謝するぜ!」

そしてその鎌を掲げ上げた。

「『死術・怨霊貪我(おんりょうたんが)』‼」

鎌から無数の怨霊が飛び出してきた。

「怖―――――っ⁉」

(リーシャ!ボクの後ろに!)

ラルが銃でリーシャを庇いながらもう片腕と両肩のキャノン砲で次々と怨霊を打ち落としていく。

だが数が多くキリがない。

対応しきれずリーシャが怨霊に連れ去られてしまった。

「きゃぁぁぁぁぁ⁉」

(リーシャ‼)

ラルが怨霊を打ち落とそうとしたがリーシャにも当たってしまう恐れがあり手が出せなかった。

「ラル‼ラルーーーー‼」

完全にパニックに陥っているリーシャ。

だがその時、一筋の斬撃がリーシャを捕らえた怨霊を切り裂いた。

「わぁぁぁぁぁ⁉」

落下するリーシャをラルはくわえてキャッチした。

上を見ると黒いフードを被った人物が浮いていた。

そしてその人物に怨霊が一斉に襲い掛かる。

「危ない!」

リーシャが叫ぶと、

「『死術・木霊食(こだまぐ)らい』‼」

目で追えない程の鎌さばきが怨霊を粉々に切り裂いた。

ガミウと同じ、大きな鎌を持っている。

そしてゆっくりと地上に降りてきた。

「・・・チッ、こんなとこで出くわすとはな・・・。」

人物はフードを取るとショートヘアーの黒髪の少女が顔を出した。

「久しぶりじゃねぇか。エトナ。」

「十年ぶりね。ガミウ・・・。」

二人の死神は顔見知りらしい。

(リーシャ。大丈夫だった?)

「うん。ありがとうラル。」

ゆっくり降ろされたリーシャはエトナの方を向く。

「あ、あの・・・!」

「失せなさい、人間・・・。」

急な辛辣な言葉にリーシャはびっくりする。

「え?えっと・・・。」

「この男は私が相手しなくちゃいけないの。貴女は邪魔だからどっか行ってくれる?」

冷徹な言葉にリーシャはたじろぐが、

「いえ、私も戦います。どなたかは知りませんが、私は戦いを途中で放棄するつもりはありません。」

杖を振り回して構えた。

「・・・勝手にしなさい。ただし、私の足は引っ張らないでよ?」

突然現れた死神の少女と共闘することになった。

「面白れぇ。全員まとめて相手してやるぜ!」

猛スピードで迫るガミウ。

「舐めるな!」

エトナも彼に負けないスピードで動き回りガミウとぶつかる。

そこにリーシャもかわりばんこで戦いどんどん追い詰める。

「死術・怨霊貪我(おんりょうたんが)‼」

再び鎌から複数の怨霊が放たれる。

「死術・木霊食(こだまぐ)らい‼」

そしてエトナの鎌で怨霊を捌きまくる。

「さっきと同じ手。少しは学んだらどうなの?」

「勿論学んださ。まんまと罠にハマってよ。」

ドクンと強い心音と共にエトナは膝をついて苦しみだした。

「な、何をした・・・⁉」

「怨霊に神格を蝕む呪いを施しただけだ。俺達死神も神に分類されてるからな。その呪いは効くぜ?」

胸を押さえもだえ苦しむエトナ。

(アイツがこんな呪いを扱えるなんて有り得ない・・・!新生創造神派についてからアイツもおかしくなってるのか?・・・いや、アイツは元からおかしな奴だったわね・・・。)

エトナは軋む身体を無理やり起こし立ち上がった。

「おいおい、無理に動くと神格が持たねぇぞ?」

「知ったこっちゃないわ・・・!創造神様を裏切ったアンタを一発ぶん殴らなきゃ私の気が済まないのよ!」

苦しそうな状態のまま、鎌を構え戦闘態勢に入る。

「キヒヒヒ!面白れぇ!出来損ないだったお前が俺に一泡吹かせられるか試してやるよ‼」

そう言いながらガミウはエトナに迫る。

その時、目の前で爆発が起きた。

「あ?」

横を見るとラルの銃口から煙が出ていた。

「グルァァァ‼」

咆哮を上げガミウを攻撃する。

「チッ、まぁいい。出来損ないは後だ、まずはあっちから始末してやる!」

ラルの銃弾を避けつつ接近し、鎌を銃が激しくぶつかり合った。

その隙に苦しむエトナの元にリーシャが駆け寄る。

「呪いを受けたんですよね?でしたら浄化魔法で・・・!」

「触るな!」

リーシャの手を振り払うエトナ。

「人間の情けなど受けない・・・!こんな呪い、自分で解除できる!」

平気を装っているがやせ我慢だろう。

彼女の顔色も悪かった。

「・・・人間、嫌いなんですか?」

ついリーシャはそう質問してしまう。

だがエトナはしばらく黙るも答えてくれた。

「・・・えぇ、嫌いよ。自分勝手で愚か。欲望を満たすためならどんな非道な事も平気で行う。そんな人間ばかりで反吐が出るわ・・・!」

確かに世の中、そんな人種の方が善人よりも少し多いだろう。

そして彼女もリヴ同様、人間の悪い部分しか見れていなかった。

「確かに貴女達神様から見れば、人間は愚かで酷い生き物なのかもしれない。でも、世界はそんな酷い人ばかりではありません。自分で言うのも何ですが、私は困ってる人が居たら絶対に助けます!そして人は誰しも思いやりの心を持っています!人は変われる。信じ合う心があれば、誰だって変われます!だから、そんな人たちの頑張りをどうか見守っててほしいんです!」

綺麗ごとかもしれないがリーシャは強い意志を持っていた。

「・・・口では何とでも言えるわ。」

「はい!何とでも言えます!だからこそ言ったことに責任を持つのも人間の強みだと私は思いますよ!」

フンと腰に手を当てて言い張るリーシャ。

エトナはそんな彼女を見てフッと笑いを零した。

「アンタみたいな人間は初めて見たかも・・・。」

「あ、でも呪いは何とか助力させてください!お節介かもしれませんがこれをどうぞ!」

リーシャは異空庫から一本の瓶を取り出しエトナの側に置いた。

「人間嫌いは否定しません。要らなかったらその場に捨てても構いませんので!では、失礼します!」

そう言い残しリーシャはラルとガミウの戦場へ走って行った。

エトナは置かれた瓶を見る。

「・・・馬鹿じゃないの。死神を助けようとするなんて・・・。」


 「オラオラどうしたぁ!デケェのは図体だけかぁ⁉」

大振りの鎌さばきに押されるラル。

隙が無さ過ぎて銃を撃つ暇がないくらいだ。

(くっ!キッツイ!)

そしてガミウの会心の一撃が炸裂し、ラルは押し倒されてしまった。

その上に乗っかって見下ろすガミウ。

「テメェみてぇな雑魚はいつでも狩れるが厄介なのは確かだ。ここで殺しといても損にはならねぇわな。んじゃ、あばよ!」

振り下ろされる鎌がラルに突き刺さろうとした直前、

「不意打ちホームラン‼」

バットのように杖を降り、ガミウをぶっ飛ばした。

「へぶぉあ⁉」

地面を何度もバウンドし遠くの瓦礫にぶつかった。

「大丈夫ラル⁉」

(危なかった・・・。ありがとうリーシャ。)

遠くの瓦礫からガミウが飛び起きる。

「テメェ・・・!不意打ちしやがって!」

起き上がるラルと杖を槍の形状に変形させるリーシャ。

「さぁ、最終ラウンドです!」


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