『第六章 初めての交流』
青い空、広い大地、そして深い樹海。
「いやなんで?」
いざ、旅に出たはいいがタクマはさっそく問題を抱えていた。
樹海で迷子である。
「旅に出てさっそく迷子とか・・・、情けなくて泣けてくるぜ・・・。」
よよよと地面に這いつくばるタクマ。
「・・・フッ。」
「そこ‼笑うな‼」
鼻で笑ったのはタクマの従魔、超天竜バハムート。
この世の竜種すべての頂点、竜王の称号を持つ最強竜である。
「マジでどうしよう。こんな樹海で迷子じゃ命がいくつあっても足りないぞ・・・。」
「ならば上空から辺りを把握すればよいではないか?」
「あ、そうか!バハムートお前飛べるじゃないか!空を飛べば樹海なんてすぐに脱出できるだろ⁉」
「阿呆、これほど木々が生い茂っている場所では翼など広げられぬわ。」
「んんん・・・、じゃどうすれば・・・。」
腕を組み深く考え込むが何一つ打開策が思いつかない。
「ではこうすればよかろう。」
そういうとバハムートは前足でタクマをガシッと掴んだ。
「あの~、バハムートさん?一体何を?」
バハムートはニヤリと笑い、
「お主を天高く舞い上げる。そうすれば周辺の様子を見れるだろう。なに、着地の心配はいらん。我が受け止めてやるからな。」
「いや待て待て!そういう問題じゃ、俺人間・・・!」
「行ってこい‼」
「ぬあぁぁぁぁぁ‼」
タクマが言い終える間もなくバハムートは容赦なく上空目掛けて放り投げた。
木々の隙間を通り抜けてタクマは樹海の上空に到達した。
「ヤバいヤバい!この高さじゃ死ぬって‼」
慌てふためくが上空ではどうすることもできない。
落下に差し掛かったその時、タクマの目に何かが移った。
(あれは・・・⁉)
がさがさと木々の間を落ちバハムートに尻尾でキャッチされた。
「どうだ?何か見えたか?」
「お前・・・、あとで覚えてろよ・・・?」
タクマはぐったりとしていたがすぐに起き上がって、
「じゃなくて!バハムート、すぐに行くぞ‼」
「ん?何か見えたのか?」
「人が魔獣に襲われているんだ‼」
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どうしてこうなった。
「ぐあぁぁぁ‼」
仲間が次々と倒されていく。
私はどこで間違えたのか。
「隊長‼撤退の指示を‼これ以上は隊員が持ちません‼」
わからない。
どのような行動が最善なのか。
焦って、混乱して、何も思いつかない。
でも、一つだけ確かなことは、我々はハメられた。
数時間前のギルドにて、一人の女性が呼び出られた。
「緊急連絡の報告を受け、まいりました。アンクセラム近衛騎士団、四番隊隊長アルセラ・シフェリーヌスと申します。」
アルセラ・シフェリーヌス。
アンクセラム国の近衛騎士団で四つある隊の四番目の隊長を務める長い銀髪と鋭い目つきが特徴の女騎士である。
「こちらの連絡に答え、お越しいただきありがとうございます。ギルドマスターのドモスです。」
髭の中年男性が名乗り返す。
二人は向かい合わせでソファに座り、相談し始める。
「ロア・リザードが近辺に出没⁉」
「えぇ、ここ数日前から付近の樹海で目撃されたAランクの魔物です。我々ではとても手が出せずお手上げ状態なんです。」
(確かに、このまま放置していたらこの町にも被害が起きる可能性もある。そうなれば我ら騎士団の名折れだ。)
アルセラは立ち上がり剣を取った。
「わかりました。ロア・リザードの討伐。承りましょう!」
「ありがとうございます‼」
ギルドマスターは深々と頭を下げた。
アルセラは早速討伐へ向かい部屋を出て行った。
その時ギルドマスターがニヤリと不気味な笑みを浮かべていたことをアルセラは知らなかった。
そして現在、ロア・リザード討伐に赴いたアルセラ率いる四番隊は危機に瀕していた。
「た、隊長!助け・・・、ぎゃあぁぁ‼」
次々と隊員がやられていく。
アルセラも応戦するが相手の魔物に手も足も出ないでいた。
(この樹海に出るのはロア・リザードではなったのか⁉こいつは、ワンランク上のSランク、デス・リザードではないか‼)
その身体は死を連想させる黒色に鎧のように頑丈な鱗、前足に鋭い刃が生えた巨大なトカゲのような魔獣、デス・リザード。
本来は国が総力を挙げてやっと一体倒せるレベルの相手だが今は少数の小隊のみ。
まさに雲泥の差である。
(報告書が間違っていたのか?いや、リザードが現れたと報告されたのは二週間も前だ。その間に奴に関して調べることもできたはず。冒険者ギルドならなおさら。それにわざわざ近衛騎士団を要請するほどだ。何故あえて訓練兵の多い四番隊指名なのだ?まさかとは思うが私たちはハメられたのか⁉)
一瞬の間に整理しても状況は変わらない。
デス・リザードは容赦なく隊に襲ってくる。
「くっ!これ以上部下を傷付けさせるものか‼」
アルセラは剣を構え、デス・リザードへ挑む。
が、相手はSランクの魔獣、人一人では適うはずもなくアルセラは強烈な打撃を食らい後方の木にたたきつけられた。
「隊長‼」
隊員の声も空しくアルセラの意識が薄れていく。
(くそ、今ので数本折ったか・・・。ダメだ、ここで気を失ったら部下が皆やられてしまう・・・。動け、私の身体・・・‼)
必死に身体を起こそうとするがビクともしない。
それでもなおデス・リザードは迫ってくる。
(もはやここまでか・・・せめて部下を逃がしておけばよかったな・・・。)
悔いを残しすべてを諦めかけた。
だがその時樹海の奥から巨大な影が現れ眩い光がデス・リザードに直撃した。
アルセラはその時目に映った人影に運命を感じたのだった。
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草木を駆け抜け、二人は標的を捉える。
「バハムート‼蹴散らせ‼」
「相分かった‼」
バハムートの口部に強烈な魔力が溜まり、デス・リザード目掛けて放つ!
ブレスは直撃し、デス・リザードは勢いよく吹っ飛んだ。
「バハムート!そいつの相手を頼む!」
「うむ!」
そう言いタクマはバハムートの背から飛び降りアルセラの下へ向かった。
「大丈夫ですか⁉」
「き、君は?」
衰弱している彼女を見てタクマはバッグから旅立つ前にバハムートと作ったポーションを取り出した。
「回復ポーションです。傷が治ります。」
「いや・・・私より、部下たちを・・・。」
辺りを見渡すと大勢の騎士が倒れていた。
タクマは急いで駆け寄りポーションを振りかけた。
すると騎士たちの致命的な傷はみるみる塞がり完治した。
(旅の保険として作っといたけど、正解だったな。)
ポーションの効果に感心したが今はそれどころではない。
デス・リザードが木々をなぎ倒しながら戻ってきたのだ。
「タクマ!そっちに行ったぞ!」
後ろからバハムートも追っている。
「あぁ、任せろ!」
タクマは腰に付けた剣を掴み居合の構えをとる。
「居合・一閃‼」
間合いに入った瞬間目にも止まらぬ速度で直進し、気づけばデス・リザードの後ろに立っていた。
そしてタクマが剣を鞘に納めるとデス・リザードは真っ二つに分かれた。
「ふう、こんなもんかな?」
その始終を見ていたアルセラは息をのんで半分に切られたデス・リザードを見る。
(え、Sランクの魔獣を一撃⁉近衛騎士団が束になっても勝つのが難しい相手を⁉この少年は一体⁉)
驚くアルセラの下に再び向ったタクマはポーションを差し出す。
「貴方も相当怪我をしています。これを飲んでください。」
「わ、私の部下たちは?」
「大丈夫です。全員回復させました。命に別状はありません。」
「そ、そうか。ではありがたく・・・。」
アルセラは受け取ったポーションを飲む。
すると外傷はみるみる消えていく。
(な、何だこのポーションは⁉傷が塞がるどころか骨折まで治っただと⁉)
「よかった。無事に治りましたn・・・。」
タクマは完治したアルセラに突然肩を掴まれた。
「ななな、何なんだ君は⁉デス・リザードを一撃で撃破しただけでなくこんな上質なポーションまで!君は一体何ものなんだ⁉」
ぐわんぐわんと揺らされながら質問するアルセラにタクマは何とか答える。
「い、いえ俺はただの旅人ですが?」
「は?旅人?」
目をぱちくりさせるアルセラ。
その横にバハムートが割って入ってきた。
「ハハハ、我らの作ったポーションがさっそく役にたったか。」
「きゃぁぁぁぁ⁉」
バハムートを見たアルセラは悲鳴を上げながら後ろに下がっていった。
「ななな、何故こんなところにドラゴンが⁉」
驚くのも無理はない。
この辺りの地域にはドラゴンはほとんど生息しておらず目撃例もないに等しい。
「あー、大丈夫ですよ。こいつ俺の従魔なんで。」
「従魔?災害級の魔獣であるドラゴンが従魔だと?」
「我をそこらの小者と一緒にするな。」
ジト目でアルセラを睨む。
このままじゃ彼女の気が持ちそうにないのでタクマは話を変えた。
「あの、実は俺たちこの樹海で迷ってまして。近くに街とかないですか?」
「あ、あぁそれならこの近くに隣国の境に位置する国門街がある。我らはその街から来たのだ。」
「隣国の境?この辺りは国境に近いのか?」
タクマは手持ちの地図を広げる。
どうやらフュリア領土と隣のアンクセラム領土の国境近くまで来ていたようだ。
「なんだ、お主の国の領土意外と小さいな。」
「うるせ!小さい分治安が良好なんだよ。」
小笑いするバハムートにツッコむタクマ。
二人の様子を見たアルセラは少し緊張がほぐれた。
バハムートが危険なドラゴンではないと理解したようだ。
「君には命を救われた。心より感謝する。」
姿勢を正し礼を申し上げる。
「たまたま通りかかっただけですよ。」
「その、助けてもらった身ではあるが・・・部下たちを街に・・・。」
申し訳なさそうに部下たちを見るアルセラ。
「いいですよ。俺も街に行きたいですし彼らも連れていきます。」
彼女は明るい表情になり頭を下げた。
「重ね重ね感謝する。」
さて、アルセラの部下たちを連れていくにもいかんせん人数が多い。
チラッとバハムートを見るが「乗せんぞ?」と言わんばかりの引きつった表情だった。
仕方ないので周りの木を切りせっせと加工し急ごしらえの荷車を作った。
「よし、こんなもんか。」
「いやいや待て⁉今何をした⁉急に木を切ったと思ったらあっという間に荷車に⁉」
「あぁ、バハムートのスキル『クリエイト』を使ったんですよ。こいつチート級にいろんなスキル持ってるんで。」
「彼のスキル?でもさっき君が作って・・・?」
「えっと俺、従魔の力をコピーして一時的に自分の能力にできるんで。」
さりげない顔でタクマは説明した。
「ハ、ハハハ・・・驚きを通り越してもう笑うしかない・・・。」
顔面蒼白のまま腰を抜かしたアルセラだった。
アルセラ率いる近衛騎士団と遭遇して数十分、タクマ達はようやく樹海から抜け出せた。
「ふぉぉぉ!日の光だぁ‼」
タクマは両手をめいっぱい広げて伸びをする。
窮屈な樹海からの日が差す草原は爽快だった。
後ろからバハムートが不機嫌な表情で兵士を乗せた荷車を牽いてついてきた。
まるで馬車のようだ。
「・・・何故我がこんなことを・・・。」
流石にこの人数を人間二人で運ぶのは骨が折れる。
よって巨体であるバハムートに頼むしかなかった。
そして道なりを進み街を目指す道中、アルセラが話しかけてきた。
「そういえば自己紹介がまだだったな。私はアルセラ・シフェリーヌス。アンクセラム近衛騎士団四番隊隊長を務めている。」
「騎士団の隊長なんですか!あ、俺はタクマです。そしてこっちが従魔のバハムート。しがない旅人です。」
お互い自己紹介も済んだところで現状について話し合う。
「我々はギルドの指名依頼でAランクのロア・リザードの討伐をしにきたのだが・・・。」
「ロア・リザードではなくデス・リザードだったと?」
アルセラは途端に表情を曇らせる。
「あぁ、あまり考えたくはないのだが、ギルドが我らをハメたのではないかと思ってしまって・・・。」
確かに冒険者ギルドなら魔獣の危険度もしっかり把握してから依頼を出すはずだ。
情報が誤謬することはそうそうない。
これから旅を続ける以上、収入源として冒険者ギルドに登録する必要がある。
だがそのような問題が起きているとなると放っておくこともできない。
(あまり大きな問題ではないことを祈るが俺らが安心して旅を続けるためだ。よし!)
「アルセラさん!」
「何だ?タクマ殿?」
「この件、俺たちに任せてもらえますか?」
首をかしげるアルセラだったがタクマにはある秘策があった。
同時制作作品はこちら。
『無人鉄機の進撃車 次元を駆ける復讐者』
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