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『第五十七章 絶望に灯る光』

神の襲撃を受けたフュリア王国。

穏やかだった日常が一変、人々の悲鳴が飛び交う地獄と化してしまった。

所々に火が燃え移り、かつての王国の姿が見る影もなくなった。

そんな王国の上空を飛んでいるルナとガルーダ。

ルナは死神によって殺された父の事で放心状態のままだ。

「ピィ・・・。」

ガルーダが心配そうにルナを見る。

「・・・お父さん・・・。」

すると前方に誰かがいることに気が付いた。

事の元凶である女神レーネだった。

レーネはこれまで集めた住民の魂をまとめて魔法陣の中へと収納している最中のようだ。

ルナは容姿と気配でレーネが神であることにすぐに気づいた。

「もしかして・・・あの人がこの事態を?」

勘の鋭いルナ。

レーネも近づいてくるルナとガルーダに気が付く。

「あら?そっちの方角は確かガミウが飛んで行ったと思ったけど・・・。あの子が人間を逃がすなんて珍しいわね。」

神々しい見た目ではあるがその奥底からにじみ出る邪の気配がする。

本当に彼女が女神かどうかも怪しい程に。

「・・・貴女、女神様なんだよね?どうしてこんなことするの⁉」

正気に戻ったルナがレーネに問い詰める。

「あの大柄な人間にも言ったけど、貴女達人間は増えすぎたのよ。そのせいで世界のバランスが崩れ始めてるの。まぁ創造神様は争いの溢れる新世界を望まれておられるけど、世界を作り変える前に要らない人間を始末しようって話にもなってね。女神である私自ら手を下そうと思ったの。その方が早いし。」

何の悪びれもなく言うレーネ。

「・・・アンタは女神なんかじゃない。新世界を作るため増えすぎた要らない人間を殺すの?そんな事のせいでお父さんは殺されたの?ふざけないで‼」

ルナの目から涙がにじみ出る。

ただ頑張って生きてきただけなのに要らない存在と言われ殺される。

そんな理不尽な理由に悔しくて許せないでいた。

「残念だけど貴女も始末の対象なのよ。恨むならこの世に生まれた自分自身を恨みなさい。」

レーネは手をかざすと腕輪から無数の光の鎖が現れ、ルナとガルーダに襲い掛かった。

「ガルちゃん!」

ガルーダは鎖を避けその場から離れる。

「私は彼のようには逃がさないわよ?」

今度は両腕から光の鎖が一斉に放たれる。

無数の鎖は二人を追いこむかのように進路を塞いでいき、気づいた時には既に鎖のかごの中だった。

「『隔離の鎖』!」

レーネが鎖を引くと檻は急速に圧縮され二人を球体の檻に閉じ込めてしまった。

「うわぁ‼」」

当然飛び続けることは出来ず、そのまま地上へ落下してしまう。

地面に激突した鎖の檻は半壊した王都の中に落ちた。

「へ~、中々主人想いな従魔じゃない。」

自信を身代わりにして落下の衝撃からルナを守ったガルーダ。

そしてゆっくり降りてきたレーネが檻の前にやってきてルナをジーッと見つめる。

「貴女、結構逞しそうね。」

「だったら何よ・・・。」

「フフフ!」

レーネは檻を魔法で浮かせ、共に上空へ連れて行った。

「な、何⁉」

「貴女達にはこの国の行く末を見届けてほしいのよ。」

王都を一望できる高度に連れてこられ、レーネにそう言われる。

「何でそんなこと・・・⁉」

「女神の気・ま・ぐ・れ♪」

そう言うと指をパチンと鳴らした。

すると上空に白い魔法陣が無数展開されると陣から次々と何かが落とされていった。

地上に落ちたそれは剣のように鋭い手足の細い鎧のような自動人形、オートマタだった。

魔術で動く人形兵士が街のいたるところに排出され、王都を埋め尽くしていった。

「さぁ!人間共を蹂躙しなさい!」

レーネの号令でオートマタは各地に散って行った。

「やめて!街の人達を殺さないで!」

叫ぶルナだがレーネがルナの顎を上げる。

「言葉には気を付けなさい?その気になればいつでも殺せるってこと忘れないで?今は私の気まぐれで生かしているだけ。お分かり?」

少し怒りの籠った笑顔でルナを黙らせた。

「貴女も見てなさい。この国が本当に要らない存在だったことを。」


 崩れた瓦礫の街中を大きな鎌を持って歩くガミウ。

「あ?オートマタ?姉さんの奴、本気でこの国を潰すつもりか。まぁこの国がどうなろうと俺の知ったこっちゃねぇけどな。さて、どこかに強そうな奴はいねぇかな?」

強者を探して辺りをキョロキョロしてると天界と繋がった上空から二つの神の気配が降りてきたことに気づいた。

「ん?神の誰かが降りてきた?誰だか知らねぇが邪魔さえしてこなきゃ放っておけばいいか。」

再び歩みを進めて街の奥へと入って行った。


 「アルル、着いたよ。」

「うん。上手くいった上手くいった!」

レーネの顕現を利用して双子神のネーネとアルルも下界へ再び降りてきた。

そのまま双子神はレーネに気づかれぬよう早急に地上に降りた。

「・・・ん?」

「どうしたの?ネーネ?」

ネーネが何かに気づき、地面に手を付ける。

「この下、空洞がある!」

アルルも手を当てると地面の奥底から微かに風の流れを感じた。

「ホントだホントだ。ネーネ、この空洞かなり広いみたいだしアレの準備が出来るんじゃない?」

「確かに!早速始めよう!」

二人は魔法で地面を掘り進めて潜っていく。

すると何やら遺跡跡のような建造物の地下空洞に出た。

「「魔法陣、展開!」」

床に超巨大な魔方陣が展開され、中心に魔力で何かが編こんでいき形を徐々に作っていった。


 一方で地上では天騎士アムルとエリック先生の戦闘に決着がつこうとしていた。

「ハァ・・・ハァ・・・。」

「ただの人間にしては粘った方だな。だがそれが貴様の限界だ。変化した私の足元にも及ばん。」

血だらけで横たわるエリック先生。

名を授かり変化したアムルは数倍強くなっており全く歯が立たなかった。

「だが最後まで戦った貴様の意を称え、苦しみなく葬ってやろう。」

アムルは剣を高く振りかぶる。

「ハッ、俺を倒したところで無意味だぞ。いずれ貴様達は人間の恐ろしさを知ることになるだろう・・・。」

「・・・それが貴様の最期の言葉だな。」

剣を地面にたたきつけ斬撃が地面を伝りエリック先生の周辺を爆発させた。

そして収まるころにはエリック先生がいた場所は瓦礫の山と化したのだった。

「まずは一人・・・。」

アムルは上空へ飛翔し辺りを確認する。

街はレーネの呼び出したオートマタで溢れかえっており逃げ遅れた人々に襲い掛かっていた。

「この様子ならこの国が落ちるのもそう時間は掛からないだろう。」

エリック先生が倒された瞬間は上空で檻に捕まっているルナからも見えた。

「そんな・・・エリック先生・・・⁉」

「どうやらあの大男はこの国の希望だったみたいだけど残念ね。まぁでもしょうがないか。相手はあの子だもの。所詮、人間が天使に適うはずないわ。」

隣でクスクスと笑うレーネ。

大きな障害も消え、後はアムルとガミウ、そしてオートマタの軍勢がフュリア王国を落とすだけとなった。レーネはルナの様子を見るとルナはガクリと肩を落とし絶望の表情そしていた。

「あら?意外と折れるのが早いわね?もう少し抵抗してくれても良かったんだけど、つまらない人間ね。」

期待外れのため息をついた。

するとレーネは遠くから複数の人間の気配がこちらに迫ってくるのを感じ取った。

「・・・ん?何かしら?」

崩落した外壁の向こうの森から何かが迫ってくる。

目を凝らすとそれは、あの軍隊だった。

「全軍‼国内に取り残された住民の救出及び謎の勢力を討伐せよ‼突撃―――‼」

「「うおおぉぉぉぉぉ‼」」

馬に乗って現れたのは隣のアンクセラム王国の近衛騎士団だ。

軍隊の先頭では二番隊隊長のロイルが指揮を取っている。

「ロイル隊長!」

後ろで四番隊隊長のアルセラが合流する。

「アルセラ!お前は唯一天使との戦闘経験がある!恐らくあのオートマタを指揮している奴がいるはずだ!お前はそいつを頼む!」

「了解!」

アルセラは一人離脱し王都の中央へ向かった。

(フュリア王国。この国はタクマの故郷だ!彼には我が国を救ってくれた大恩がある!その恩、この時を持って返そう!)

フュリア王国がタクマの故郷と知っていたアルセラは隣のフュリア王国で何者かの襲撃があったと報告を受けた時、今こそ彼に恩を返す時ではないかと上層部にもう申告した。上層部もタクマには国を救ってくれた恩があるためその申し出を承諾。

英雄の国を守るため、勢力を総動員してくれたのだ。

アルセラは燃える瓦礫の街の中を馬を走らせ疾走していく。その時、アルセラは覚えのある気配を感じ取りその場に向かう。そして、二人は再び相まみえた。

「・・・また会ったな。」

大聖堂の上から殺意の眼差しで見下ろすのはかつての戦闘で敗北した因縁の敵。

天騎士アムルだった。

アルセラは馬を降り歩み寄る。

「愚かだな。一度救われた命をもう捨てにやってくるとは・・・。」

「捨てるつもりなど微塵もない。私は彼が大切にしてきた物を守るために、お前に再び剣を向けるのだ。」

互いに剣を握りしめ、睨み合う。

「ならばその守るべき物ごと、今度こそ貴様の命をもらい受ける!」

アムルは大聖堂から飛び掛かりアルセラと剣がぶつかり合う。

そのまま流れるように戦闘が繰り広げられ剣の音が聖堂前に響き渡る。


 その光景を上空から見ていたレーネは少し引きつった表情をしていた。

駆けつけたアンクセラム王国の近衛騎士団が住民の救出と同時に各地でオートマタとの戦闘が繰り広げられていた。

「面白くないわね・・・。何故隣の国から応援が駆けつけるのかしら?もう!面白くない!」

予想外の事態に不機嫌になるレーネの所にガミウが合流してきた。

「何かすげぇことになってるな。姉さん?」

ガミウを見たルナはビクッと恐怖した。

「あ?こいつさっきのガキか・・・。」

「貴方が逃がしたから私が捕まえといたわ。でも殺すのはまだなしよ?この子には魂まで絶望してもらいたいからね。」

「ふ~ん?まぁいいけどよ。」

ガミウはルナとガルーダの入った檻を覗き込む。

「無様だな。俺から逃げたくせにもう捕まったのか。ケケケッ、無様だなぁ本当によ!」

檻を蹴り更にルナに恐怖を植え付ける。

「ヒッ⁉」

「いいねいいねぇその顔!魂がそそられるぜ!」

「あんまりいじめて心を折らせないでよ?絶望させるのは私なんだから。」

それでもガミウはルナをいじめ続ける。

「お前は何にも出来ねぇただの弱虫だ。守られてばっかで自分はただ逃げることしか出来ねぇ弱者。そんなんだからテメェの親も俺程度に殺されるんだよぉ?」

「やめて・・・もう、やめて・・・!」

ルナは頭を抱え涙目になって震える。

ガルーダも終始威嚇し続ける。

「ケヒャヒャヒャ!弱者無能愚か者何一つ取り柄のねぇただただ無意味な人間がお前なんだよう‼」

「やめてぇぇぇぇぇっ‼」

ルナの魂の叫びが木霊したその時、空から一筋の光がガミウに直撃する。

「あ?」

その光は楕円状の翡翠色の魔石が付いた杖だった。

杖はガミウを捕らえそのまま地上へ落ちていった。

「ガミウ⁉」

すると今度は聞き覚えのある声が上から聞こえた。

「よう、俺の幼馴染に随分な事してくれたじゃねぇか・・・。」

驚いたレーネは声のする方を向くと檻の上には彼が立っていた。

「あ、貴方は・・・⁉」

「タクマ‼」

ルナたちの窮地に駆けつけたタクマがレーネを見下ろしていたのだった。


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