『第五十六章 女神の顕現』
フュリア王国に突如として謎の光が発生し、空を不気味な色で覆いかぶさり、異界との境界線を創り出す。
上空に神々の住まう世界『天界』が広がっていた。
「何だ何だ?」
街の人達が突然の光景に驚いていた。
「何事だこれは⁉」
街中をエリック先生率いる国王軍が走ってきた。
エリック先生は街の人達に状況を聞くと、
「突然現れた、か。各隊、直ちに市民の避難誘導を!得体の知れない状況だ!気を抜くなよ!」
「「はい‼」」
市民の避難を兵士に任せ、エリック先生は王宮へ急いだ。
「・・・ん?人間共が離れていくぞ?んだよ、根性なしだなぁ?一人くらい立ち向かってくれなきゃ面白くねぇぜ!」
「黙れ死神。貴様の汚い声をレーネ様に聞かせるな。」
「あぁ?テメェいつから俺に偉そうな口を聞くようになった?殺すぞ?」
「黙れと言っている。」
アムルとガミウが今にも武器を取って殺し合いそうなところをレーネが止めた。
「ほらほら、喧嘩はお仕事を終わらせてからにしなさい。仲間割れなんてみっともないわよ?」
「も、申し訳ありません!」
「ケッ!」
三人はゆっくりと降下していき、王宮の一番高い塔の上に降り立った。
「んじゃ、どこから始める?」
「折角三人いるんだし、それぞれ分かれて殺していきましょ。あ、でも魂は回収してくれる?セレスに研究材料としてお土産にしたいのよ。この子がお世話になったし。」
アムルは申し訳なさそうに額兜を下げて顔を隠した。
「俺は強敵以外に興味はねぇが、まぁ了解だ。」
ガミウは鎌を振り回した。
「それに魂の回収は死神の専門だ!」
アムルも剣を手に取る。
「では、参る!」
二人が飛び出そうとした瞬間、
「あ、でもちょっと待って!」
突然レーネに呼び止められズルッとこける。
「開戦として三人でこの街から蹂躙していきましょう?別れるのはその後でもいいし。」
とレーネは提案するがガミウだけは賛成しなかった。
「悪いが俺は遠慮するぜ。単独行動の方が性に合ってるんでな。」
「貴様っ、レーネ様の指示を無視するのか!」
「指示じゃなくて提案な?そもそも俺はレーネの姉さんの下についたわけじゃねぇ。これはあくまで手を組んでいるだけだ。そっちの命令を聞く筋合いはないんでね。」
そう言い残し、ガミウは塔を降りていった。
「あの死神め・・・!」
「いいのよアムル。彼の好きにやらせなさい。それじゃこっちは二人で街を焼き払うとしましょう。」
「・・・ハッ。」
一方、急いで牧場に戻るルナは父とガルーダに伝えるべく丘を走っていた。
「早く、二人を連れて非難しないと!これは、明らかにおかしい!」
大急ぎで丘を走っていると突然後ろが爆発し、ルナは爆風に煽られ転倒する。
「きゃっ!」
爆発した地面は斬撃が切り込まれたように避けていた。
「おいおい、子供一人でこんなとこうろついてちゃ危ないぜ?」
声のする方を見上げると鎌を持った細身の青年に空中から見下ろされていた。
「俺みたいな危ねぇ奴に目付けられるからよぉ?」
不気味にヘラヘラと笑う死神、ガミウにルナは震えていた。
「し、死神・・・⁉」
「ほう、よくわかったな。まぁこんなナリしてりゃぁ当然か・・・。」
ガミウから放たれるおぞましい気配にルナは腰を起こせないでいた。
「何で、死神なんかがここに⁉」
「・・・俺達は増えすぎた要らない人間共を皆殺しにするために下界へ降りてきたんだよ。」
とんでもないことを聞いてしまったルナ。
「何で・・・そんなことを私に教えるの?」
恐怖で顔が青ざめているルナに死神が首を傾けて笑う。
「教えても問題ねぇからな。だってお前、ここで死ぬし。」
「え・・・。」
ガミウが鎌をルナに振り下ろした瞬間、
「ピィィィィ‼」
ルナの後ろからガルーダが颯爽と飛んできてガミウを押しのけた。
「ガルちゃん⁉」
ガルーダはルナを守るように前に立つ。
「・・・お前もテイマーかよ。アイツを思い出すぜ・・・。」
すると次はルナのお父さんの声が聞こえてきた。
「おーい、ルナ!大丈夫か⁉」
「お父さ・・・!」
次の瞬間、突然ガミウが目の前を通り過ぎ、ルナのお父さんを鎌で切り裂いたのだ。
「・・・え?」
バタリと倒れるルナのお父さん。
「お、お父さーーーん‼」
ルナが駆け寄ろうとするがガルーダに止められる。
「そんな、嫌だ!お父さん!」
泣いて叫ぶルナに死神が口を割る。
「死んじゃいねぇさ。魂を刈り取っただけだ。」
鎌の近くに水色の人魂がふわふわ飛んでいた。
よく見るとルナのお父さんの身体には血どころか傷も一切ついていなかった。
「だが、人間としては確かに死んだな。」
魂はガミウの鎌に収納されていった。
「さて、次は女、お前の番だ。」
鎌をルナに向けて言った。
ガルーダが彼女を守るように抱きしめるが当のルナはあまりの出来事についていけず放心状態に陥ってしまった。
それでも死神の鎌は容赦なく振り下ろされる。
だが寸前にガルーダが攻撃を避け、ルナを抱えて街の方へ飛んで行った。
「おーい!そっちにはいかない方がいいぜ!俺よりの化け物がいるんだからよ・・・!」
フュリア王国の王都では既に数か所、火の手が回っており煙が立っている。
「ふぁ~、ちまちまやるのはめんどくさいわね。大きな魔法で一気に消し飛ばしたいのに・・・。」
「それでは魂を回収できません。私は別にそれでも構いませんが、セレス様に怒られても良いのであればどうぞ消し飛ばしてください。」
「えぇ~、それは嫌!あの子怒ると怖いんだもん!」
「でしたら地道に始末していってください。」
地上では避難する人々で溢れかえっており、後方からじわじわとレーネの火球に焼き殺されていた。
「早くこちらへ!」
「慌てないでください!危険です!」
「無理を言うな!後ろから殺されて行ってるんだぞ⁉」
兵士は必死に避難を呼びかけているが既にパニックに陥っている住民たちには聞く耳を持ってくれなかった。
「くっ!やっぱり、あの時のせいで国王軍の信用が落ちているのが原因か・・・!」
そう。
以前王国軍は秘密裏にタクマの従魔、バハムートを無理やり囲もうと手を汚してしまっている。
横暴な貴族の少年にそそのかされたとはいえ、行動を起こしてしまっている時点で国王軍の信用はだだ落ちしてしまっていたのだ。
今は何とか信頼を取り戻してはいるが完全には信用されていなかったのだ。
「くそ!あいつ等があんなことしなければ!」
「過去の事を悔やんでも仕方がない!今は民のため出来ることを全力でやるんだ!」
「・・・そうだな!行くぞ!」
兵士たちは必死に避難活動を続けた。
「ん~、魂の量はどう?」
「まだ全然です。こんな量ではセレス様も喜れませんよ。」
「もうアムルったら厳しいわね。」
そんなことを話していると地上からレーネ達に向かって声が聞こえた。
「貴様ら!何をしている!」
声の主は大剣を持ったエリック先生だった。
「見ればわかる!貴様ら神の存在だろう!何故神が我らの命を奪う!罪を犯したわけでも平和を害したわけでもない我らを!何故理不尽に命を奪うのだ!」
「・・・あの人間、レーネ様にあのような言葉使いを!」
「はい、ストップ。すぐ手を出そうとするのは貴女の悪い癖よ?自重しなさい。」
「は、はい。申し訳ありません。」
レーネはエリック先生の前までゆっくりと降下した。
「貴方の言いたいことは分かるわ。でもね、これは必要な事なのよ?」
エリック先生は鋭い目つきでレーネを睨む。
「必要な事だと?何の罪もない人達が殺されるのをか・・・!」
「何の罪もないなんておこがましい。いい?人間は増えすぎたのよ?一方的に増えて食料や自然の伐採、それらの速度が異常すぎて世界のバランスが崩れ始めているのよ。挙句の果てに下らない見栄で戦争を起こしての環境破壊。つまり貴方達人間の罪は、この世に生まれてきたことなのよ?」
理不尽な回答にエリック先生は怒りが抑えられないでいた。
的を得ているとはいえだからって無関係な人々が殺されるのは違う。
「そうか。どうやら相手が神であろうと倒さなくてはいけないようだ・・・。」
丸太のように太い腕に欠陥が浮き出るほど力を入れ大剣を構えるエリック先生。
「女神である私に剣を向けるなんて。よっぽど度胸があるのね。」
すると上空からアムルが猛スピードで降りてきてレーネの前に立つ。
「レーネ様。この不敬者の相手は私にお任せを。レーネ様は引き続き魂の回収をお願いします。」
「は~い♪それじゃ後はよろしくね。アムル。」
そう言うとレーネは再び上昇しどこかへ飛び去って行った。
「・・・人間、女神レーネ様に吐いた無礼の数々、万死に値するぞ!」
「では、貴様を倒してもう一度あの女神に何度でも無礼を働こうではないか!」
「っ‼」
天騎士と軍団長、二人の剣士の戦いが始まったのだった。
王都から大分離れた森の中、一人の男性が馬を走らせ、フュリア王国の王都に向かっていた。
「急げ、急げ!間に合わなければ私も神の恩恵を受けることが出来ない!」
その男は隣のアンクセラム王国の大臣の一人、リードだった。
門兵の目を掻い潜り城を抜け出し、馬を走らせてフュリア王国に向かっていたのだ。
何を隠そう、彼も『新生創造神の右翼』の団員の一人だ。
作戦の一環で大臣にまで上り詰めていた彼は作戦が決行されているのを知り、神の恩恵を受けるため急いでいたのだ。
「抜け駆けするとは、あのダークエルフめ!次に会ったら覚悟しておけ!」
すると突然走らせていた馬の足元に何かがぶつかり、リード共々転倒した。
「ぐあぁぁぁぁ⁉」
馬はすぐ立ち上がってどこかに走り去っていったが落ちた衝撃で足を骨折してしまったリードは身動きが取れないでいた。
「な、何が起こ・・・!」
言いかけの途中で後ろから剣の甲で強く叩かれ気を失った。
「・・・マジな話だったよ。リード大臣が敵のスパイだったなんて。ロイル先輩とアルセラちゃんにはマジ感謝だわ。」
いかついデザインの剣を持った一人の騎士が森の中で佇んでいたのだった。




