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『第五十五章 故郷の危機』

天界。

王宮の一室では異色の組み合わせの二人が水晶を覗き見ていた。

「あらあら?そろそろ準備が終わりそうね。へぇ、別の教団が生き残った教団を利用して完成させたんだ。」

女神レーネが手をパチパチ叩いた。

その横で巨大な鎌を持って座っている死神ガミウもソワソワとしていた。

「キヒヒヒ!顕現でなら力がそのままで下界へ行けるんだったよな?俺の本気に奴らがどれほどついて来れるか楽しみだぜ!」

二人は顕現の儀式をまだかまだかと楽しみにしていた。

すると兵士の一人が部屋のドアをノックしレーネを呼んだ。

「レーネ様!あの方の治療が終わりました。セレス様がお呼びです。」

「今行くわ。」

レーネは席を立ちセレスの元に向かった。

「やっほー、セレス!」

気さくな挨拶で部屋に入ってきた。

「ノックぐらいしてくださいよ。」

中性な見た目の天使が呆れて言った。

「それより彼女の治療が終わったって?」

「えぇ、ただ前回の戦闘での魔力消費が酷過ぎて以前のように戦えるかは不明ですね・・・。」

「ふ~ん?」

レーネはしばらく考え込むとクスクスと笑った。

「だったら、この子に名前を付けてあげればいいんじゃない?」

「名前、ですか。確かにこの方は名をお持ちではありませんでしたね。」

基本天使は名を持ち合わせていない。

名を持つ者は神の位に当てられた者だけ。

そして名を与えられた天使はより高位の存在へと変化するのだ。

「この子は私の臣下だし、私が名付けても問題ないわよね?」

「彼女は貴女の臣下です。創造神様も許してくださるでしょう。」

セレスが装置を動かしクリスタルが粉々に砕ける。

そして中に入っていた裸の天使が目を覚ます。

「・・・レーネ様、ご期待に応えられず申し訳ありません。」

「気にしないでいいわよ。でも今度からあまり相手を見下しすぎないようにね?」

「承知しました。」

「そこでそこで、貴女に名前を与えようと思うんだけど?」

「っ‼一介の天使である私に名を⁉ありがたき幸せっ!」

鎧を装着し、レーネの前に膝を降ろす。

「汝に名を与える。これからはアムルと名乗りなさい。」

天使の翼が広がり二枚から四枚へとなった。

「名を授かりこのアムル、改めて女神レーネ様に忠誠を誓います。」

レーネと新たに名を貰ったアムルはレーネの自室に戻ってきた。

「おい姉さん。向こうの準備が出来たみたいだぜ?」

ガミウが水晶を指して言った。

「・・・死神、何故貴様がレーネ様といる。」

「姉さんと目的が一致してな。手を組んだんだよ。何ならお前はずっと寝ててもいいんだぜ?」

「お前ではない。私にはレーネ様より授かったアムルと言う名がある。」

「名前を貰ったのか・・・。」

少しバチバチしている二人を他所にレーネは水晶を見てニヤついた。

「フフフッ!さぁ行きましょ、二人とも。この古い世界を、創造神様の望む新世界に作り変えるの!」

レーネの声は部屋の外まで聞こえ、その声を二人の神が偶然耳にした。

「・・・アルル、聞こえた?」

「聞こえた聞こえた。レーネの奴、顕現をして下界に降りようとしている。」

その二人は以前タクマと戦った双子神、ネーネとアルルだった。

だがネーネの方はタクマとの戦闘で大きく負傷しており、体中に包帯を巻いていた。

「あの時、降臨じゃなくて顕現だったらあんな奴に負ける事なんてなかったのに・・・!」

「ネーネ、ネーネ。顕現は無制限に下界に留まれる。それを利用してアイツら見つけて今度こそ殺そうよ!」

タクマにやられた屈辱が残っている二人。

ネーネはアルルの提案に同意し、レーネの顕現を利用して自分たちも下界へ顕現をしようと考えた。

「・・・タクマ、奴だけは・・・!」

「絶対僕たちが殺す、殺す!」


 三人の神と天使と死神。

それらの存在に目を付けられたタクマは仲間と共に故郷であるフュリア王国に向かっていた。

「ま、まさかドラゴンに乗る日が来ることになるなんて・・・!」

再会したパーティリーダーのレオがウィンロスの背にしがみ付いていた。

現在タクマ達はバハムート達の背に乗ってフュリア王国に向かって飛んでいる。

「けどアンタらも物好きやな。関係も義理もないのについてくるなんてよ。」

「関係なくねぇよ!あそこまで知っておいて見て見ぬふりするなんてできるわけないだろ!俺達も冒険者だ!それに助けられた恩もある!嫌と言われても俺達は手を貸すぞ!」

仲間のルシアとセイゾウが揃って頷いた。

「・・・・。」

「タクマさん?」

「ん?あ、悪い。少し気を張りつめすぎてた。」

「いえ、気が張りつめるのも仕方ありません。大切な故郷が危険に晒されているんですから・・・。」

するとラルがタクマの前にデーンと座った。

「ほら、ラルも励ましてくれてます。」

(励まし?俺にはただデカい態度でふんぞり返っているようにしか見えねぇんだが・・・。)

だがおかげで張りつめていた気が少し和らいだ。

「何も心配いらないわよ主様!私達は前よりも強くなっているんだから!あのいけ好かない女神が出てこようとも私達がぶっ飛ばしてやるんだから!」

リーシャの後ろからひょっこり顔を出して意気込むリヴ。

「それに主様、一度双子の神を倒してるじゃない。」

「あの時は暴走してたからノーカンだろ。あれは俺であって俺じゃない。制御できない力じゃ意味がないんだよ。」

タクマは自身に宿す黒い力を否定した。

いくら神に特攻した力と言えど暴走してしまっては仲間をも傷つけてしまう可能性があるため絶対に使わないように決めたのだ。

「もう、仲間を傷つけたくないんだ・・・!」

タクマの決意の表情にリーシャ達は息を飲んだ。

「バハムート、あとどれくらいで着きそうだ?」

「このペースだとあと二時間だ。」

現在地は大陸を挟む海の上。

バハムート達の飛行速度ならすぐに着きそうだ。

「急ぐぞ!」

二頭のドラゴンは海の空を切って飛んで行った。


 同時刻、タクマの故郷フュリア王国は変わらない平和な日々が続いていた。

「お父さーん!ちょっと買い出しに行ってくるね!」

「おう!気を付けろよ!」

タクマの幼馴染み、ルナが牧場から街に降りてきた。

「え~と、小麦粉と野菜と、それから・・・。」

「あら?ルナちゃん!」

声を掛けたのはタクマの担任だったマリア先生だった。

相変わらずおさげと丸眼鏡が特徴的な人だ。

「マリア先生!お久しぶりです!」

学園を卒業して以来会っていなかったので手を取り合って喜び合った。

立ち話も何なので近くのレストランに立ち寄った。

「元気そうね。」

「はい、ガルーダのガルちゃんが来てくれてから作業効率も上がって売り上げも上がっているんです。」

ガルちゃんとはルナの従魔である。

そこから二人は卒業試験の従魔召喚の話題で盛り上がった。

「それでね、その子の従魔を躾けてあげてね!」

「フフフッ、・・・ルナちゃん?」

「・・・・・。」

元気よく話していたルナが突然静かになった。

「・・・今思えば、あの従魔召喚は忘れられない思い出になりましたね・・・。」

卒業試験で幼馴染みのタクマが伝説のドラゴンを召喚したことは一生忘れられに思い出となった。

「えぇ、本当にびっくりしたわ。」

ドラゴンの召喚、横暴貴族との決闘、そして旅立ち、タクマの異業の数々で彼に関しての話題が止まらなかった。

「・・・タクマ君は、元気にしているかな?」

「アイツが落ち込むなんてありえませんよ。いつも魔術に直進な奴なんですから。」

その言葉で二人は思わず笑ってしまった。

「そういえば最近の報道を知ってる?」

マリア先生が話題を変える。

「最近って、なんか変なローブ着た集団の事?」

ここ最近になって国のあちこちで黒いローブを着た集団が少数目撃されているのだ。

学園の講師兼国の騎士団長、エリック先生が兵士を連れて周囲の警戒を呼び掛けていた。

「目撃されてるのはどれも暗い夜の時間帯だからルナちゃんも気を付けてね?」

「はい、分かりました。先生もお気をつけて。」

二人は分かれ、ルナは買い出しを済ませ帰路につく。

牧場に差し掛かった道の途中ルナは歩みを止め空を見上げた。

「・・・タクマ。いつ帰ってくるのかな・・・。」


 その頃、フュリア王国内の森の中にて例の集団が一部集まっていた。

中心にいるのはあのダークエルフの女だった。

「儀式の準備は?」

「問題ありません。術式に必要な魔石の設置、全て完了しています。」

「よし。ではこれより合流した左翼の連中と共に各自配置に着け!顕現の儀を開始する!」

一斉に散乱していく教団は国を囲うように設置された巨大な紫の魔石の前にそれぞれ集まる。

(残りの団員が来なかったのが疑問だが儀式を優先しろとの達しだ。このまま始める!)

「慈悲深き神よ!選ばれし我らに、どうか神の恩恵を‼」

「「神の恩恵を‼」」

この合言葉が呪文となり、魔石に一斉に魔力を流し入れる。

魔石は次々と紫色の光を放ち始め魔力が溜まっていく。

そして、

「顕現せよ!我らが神よ‼」

「「我らが神よ‼」」

その言葉が木霊した瞬間、魔石から紫色の光が空の一点に集まるかのように放出される。

フュリア王国中心の上空で光が合わさり不気味な空模様に変わっていった。

「これで・・・!どん底の人生から救われる・・・!」

ダークエルフの女が歓喜していると異常な事態が発生した。

魔石に流し続けている魔力が止まらないのだ。

「な、何だ⁉魔力注入が止まらない⁉」

止めようとしても壁に手が埋まったかのようにビクとも動かせなかった。

次第に魔石の周りにいた教団たちが生命の源である魔力を根こそぎ吸い取られ、バタバタと倒れていく。

「リー・・・、ダー・・・・。」

隣の教団も倒れ始めた。

「まずい!このままでは‼」

どんなに足掻いても腕が動かせず魔力が奪われ続ける。

「嫌だ・・・!死にたくない!まだ、私は何も成しえてないのに・・・‼」

心からの叫びも空しく、ダークエルフの女も息を引き取った。


 「ん?何⁉」

買い出しの帰り道、ルナは牧場付近の丘で異様な空模様と尋常でない魔力反応を感じ取った。

「何、この空・・・!気味が悪い・・・。」

不気味な色の空を眺めていると一か所に集まる紫の光から超巨大な白い円が現れる。

円の中は見たことのない世界が広がっていた。

天界である。

「何・・・、あれ・・・?」

その世界から三つの人影が降りてきた。

「おぉ~!小さい国でも人間はうじゃうじゃいるんだな!」

大きな鎌に黒いフードを被った青年、死神のガミウ。

「今度こそ、レーネ様のご期待に応える!」

白い鎧に身を包んだ天騎士、アムル。

「さぁ、創造神様の新世界に不要な人間を片付けていきましょう。」

そして、四枚の大きな翼に頭部の天使の輪が輝く一際大きな存在の女神、レーネ。

万全の力を有した神の存在がフュリア王国に顕現されたのだった。


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