『第五十四章 予感』
タクマは再会したAランク冒険者パーティ、レオ、ルシア、セイゾウの三人に今まで自分たちが戦ってきた教団の事を話した。
話を聞いた三人は驚愕した。
「ま、まさか・・・そんなとんでもない連中だったのか・・・!」
「しかも、皆さんがあのアンクセラム王国を悪魔と天使から救った方達だったなんて・・・!」
「お、御見それした・・・!」
案の定な反応をする三人。
だが驚かれている場合ではない。
そんな『新生創造神の左翼』が動き出したという事はおそらくあの女神も一枚噛んでいるだろう。
だが一つ分からないことがあった。
「奴らは何故大陸を渡ったんだ?」
別大陸のエルドラ大陸にいた『左翼』がわざわざ大陸を横断する理由が分からなかったのだ。
(向こうに何かあるのか?いずれにせよ、奴らの事だ。とんでもないことを企ててるに違いない!)
当然放っておくことは出来ず、タクマはレオに強く言う。
「レオ!その依頼、俺達にも手伝わせろ!」
「え?お、俺は別に構わないですけど?依頼契約にも他の冒険者と手を組んでも良いと書いてあったし・・・。」
突然前のめりになるタクマに押されつい敬語で話してしまうレオ。
「どうしたんやタクマ?そんな必死になることか?」
「す、すまん・・・。少し取り乱した。でも、何だか嫌な予感がするんだよ・・・。」
「お主の予感は結構当たるからな。」
教団の調査依頼を共に受けることにしたタクマ達はお世話になったヴェンとガンジに街を発つことを伝えた。
「・・・そうか、行っちまうのか。」
「君たちは旅人だものね。」
「短い間だったけど世話になったな。」
「何を言うか!むしろ世話になったのは儂等の方だ!お前らのおかげで魔導列車も完成したし、感謝しかねぇよ!」
「ハハハッ!そういうことだ。もしまたこの街に寄ることがあったら是非顔を出しに来てくれ。俺達はいつでも君たちを歓迎するよ。」
「・・・あぁ、ありがとう!」
ヴェンとタクマはガシッと握手を交わした。
「よし、皆行くぞ!」
「フンッ!」
「おうよ!」
「「「はい!」」」
「クゥー!」
一同はレオ達『深紅の炎』と共にトレンストを出発したのだった。
辺境の森、その中に古びた遺跡の内部で巨大な怪しい魔石を囲むように集まる教団。
『新生創造神の左翼』だ。
「クククッ!この魔石の調整が終われば我らもあの地へ赴ける!さぁ、最後の祈りを捧げましょう!」
リーダー各の男が声を上げ集まった信教者達が一斉に祈り始める。
不気味な呪文を何度も繰り返し次第に魔石が紫色におぞましく輝いていく。
「もう少し、もう少しだ!我々が神の恩恵を授かる時まで!」
気分が高揚したリーダー各の男が叫んでいると突然後ろから爆発音がした。
遺跡内は揺れパラパラと砂埃が落ちてくる。
「な、何だ⁉」
すると後ろの壁が爆発し、バハムートが現れ咆哮する。
「ド、ドラゴンだーーーー⁉」
「何故ドラゴンがここに⁉」
パニック状態に陥った信教者達にバハムートの足元から走ってきたタクマ達が一斉に切りかかった。
「一人も逃がすな!とっ捕まえて情報を聞き出す!」
「分かった!やるぞ、セイゾウ!」
「承知!」
次々と信教者達を切り伏せていく三人。
「くそっ!何なんだこいつら⁉」
「とにかく逃げろ!」
教者達は一斉に出口に向かって走るが突然氷が現れ出口を塞いだ。
「な、何だこれ⁉」
バハムートの足元でリヴが氷魔法で奴らの退路を塞いだのだ。
「一人も逃がすなって指示だものね。」
「くそ!退けぇ女ぁぁぁ‼」
無謀にもリヴに斧で襲い掛かる教者をバハムートが前足で弾き飛ばした。
「我がいる目の前で襲い掛かるとは、あまりにも愚かだな。」
「私達も行きましょう!」
リーシャとルシアも参戦し信教者をどんどんなぎ倒していく。
「何をしている!たかが子供相手に!魔導士部隊、構え!」
リーダー各の男の指示で一列に並ぶ魔導士部隊が一斉に紫色の魔法陣を展開する。
「撃てーーーー‼」
魔法陣から紫色の霧状のものが噴射される。
(毒霧か!)
するとバハムートの背後からウィンロスが飛び出した。
「吹き飛ばされないようにしとき!ウィング・サイクロン‼」
ウィンロスの起こした暴風で毒霧が魔導士部隊の方へ跳ね返される。
「きゃぁぁぁぁ‼」
暴風でリーシャとリヴのスカートがめくれそうになる。
「おぉ・・・!」
「こら見るなスケベ‼」
レオをど突くルシア。
「ぐあぁぁぁぁ‼」
そして自分たちの出した毒霧で倒れる魔導士部隊。
「ぐっ、何だと⁉」
リーダー各の男は口元を隠し毒霧をやり過ごした。
「よし、霧払い完了!後は頼むで!」
毒霧が晴れると同時にタクマがリーダー各の男に一気に攻め入る。
「このガキ・・・!」
反撃しようとするがタクマの方が一手早かった。
「居合・竜炎斬‼」
「ぐあぁぁぁぁ‼」
みねうちでリーダー各の男を気絶させた。
「やはり彼の剣技は素晴らしい!あっぱれだ・・・!」
セイゾウはタクマの太刀筋に喚起していた。
「従魔もとんでもないってのに、アイツも大分とんでもないな。」
あらかた信教者を倒した一同は全員をロープで縛り上げ、リーダー各の男に尋問を掛ける。
「お前等の調べはついている!目的を言え!」
「ぐふっ!誰が言うか!」
中々口を割らない男にタクマは別の手段に出る。
「仕方ない。少々手荒だがお前の記憶を見させてもらうぞ!」
バハムートの『鑑定』と『記憶閲覧』のスキルをコピーし、男の記憶を無理やり覗き見る。
「や、やめろ!」
「クッ!」
ラルが男の腹に正拳突きを決め再び気絶させる。
「ナイス、ラル。」
他の皆にも見れるように記憶を開示する。
概要はこうだった。
右翼と左翼、二つの教団者が神の恩恵を受けるため神を下界へ顕現させることを目的としていた。
一つ疑問に思ったことはその神、レーネが一度下界へ現れていたことだ。
その点を踏まえて記憶を更に除くとどうやら降臨と顕現はまったくの別物らしく、降臨は自力で下界へ降りられるが神としての権能が弱く、そして長く留まることが出来ないらしい。
だが儀式を通して降りる顕現だと神の権能はそのままで半永久的に下界へ留まることが出来るという話だった。
「神の顕現⁉そんな事が本当に出来るのか・・・⁉」
開示された記憶を共に見ていたレオが驚く。
「実際私達はその神に出くわしてて目も付けられちゃってるのよ。」
実際に女神と遭遇したリヴが言う。
タクマは記憶の続きを見た。
奴らはその神の顕現をある場所で実行しようと大陸を渡っていたようだ。
「それで教団の連中はこの大陸から離れて行ったのだな。して、その実行される場所とはどこだ?」
閲覧を続けるとその場所が判明する。
「・・・っ⁉」
タクマは異様に焦った表情になった。
「どうしたんや、タクマ?」
「タクマさん?」
その場所を見たバハムートも同じ表情をする。
「っ⁉お、おい!この場所は・・・⁉」
開示には小さな国と見知った牧場が映し出されていた。
「フュリア王国・・・!俺の故郷だ・・・‼」




