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『第五十三章 仲間の暖かみ』

「母さん・・・‼」

バッと手を伸ばすタクマ。

すると手にムニュッと柔らかい感触がした。

よく見ると汗を拭こうとしてくれていたリーシャの小さな胸にタクマの手が触れている。

「あ。」

「~~~~っ‼」

バコーン‼と小屋から何かをぶっ叩く鈍い音が鳴り響いた。

「っ⁉」

「何や⁉」

「ケホッケホッ‼」

びっくりして飲んでいたジュースでむせるメルティナ。

バハムートとウィンロスが小屋を覗くと、壁際で涙目でうずくまっているリーシャと顔面に彼女の杖がめり込んで倒れているタクマがいた。

「何をしておるんだお主等は・・・。」

「なんちゅー目覚め方しとんねんタクマ・・・。」

二頭は呆れた様子で見ていた。


 タクマが目覚めたことはリヴにも伝わり一目散にタクマに飛びついた。

初めて見せるリヴの泣き顔。

相当心配してくれていたみたいだ。

「・・・・・。」

「ごめんて、リーシャ・・・。」

プク~ッと頬を膨らませてそっぽを向いているリーシャ。

「身体に異常はないんか?」

「あぁ、もう大丈夫だ。・・・なぁ、あの双子の神はあの後どうなったんだ?」

どうやらタクマは黒い竜化の時の事を覚えていないみたいだ。

暴走したタクマと戦ったバハムートが全て説明した。

「・・・そんな事が、すまないバハムート。」

「気にするな。」

だがそれだけではタクマの気が収まらない。

バハムートに刃を向けただけでなく、リーシャにまで剣を向けてしまった事にタクマは自分の不甲斐なさがどうしても許せなかった。

「くそっ‼」

溜まらず自分の顔を殴り付けた。

「主様⁉」

「やめい!自分を罵ったところでどうにもならんがな!」

ウィンロスに怒られタクマは怒りを鎮める。

ゆっくりと立ち上がり、まだ壁際で拗ねているリーシャの後ろに膝を落とした。

「リーシャ・・・。」

「・・・・・。」

リーシャはチラッとタクマの方を向いた。

「・・・ごめん‼」

なんとタクマはリーシャに土下座をしたのだった。

「っ⁉」

一同は初めて見せるタクマの土下座に困惑を隠せないでいた。

「タ、タクマさん⁉やめてください!胸を触られた事はもういいですから!」

「そっちじゃない!リーシャを守るとラシェルと約束したのに、逆に俺がお前を危険な目に遭わせちまった!だから・・・本当にごめん!」

床に頭を深くつけるタクマにリーシャはそっと顔を上げさせた。

「あれはタクマさんの意志じゃないってこと、皆知ってますから。ラシェルも、あの子ならきっとわかってくれます。」

優しい笑顔でタクマに許しの言葉をかける。

「せやせや!オレは直接見たわけじゃねぇけどあんなのがタクマじゃないってこと知っとるがな。」

「主様はもっと優しいオーラ放ってるもん!」

「うむ。皆の言う通りお主はお主だ。もしまたあのような事になったら我らが何度でも止めよう。お主は我らの主なのだからな。」

「わ、私もタクマさんはとても優しい人だってわかってるから!」

「クゥ~ッ!」

皆タクマの事を信頼してくれていた。

彼らの暖かい心にタクマは思わず涙を流した。

そしてそんな彼をリーシャは優しく抱きしめる。

「貴方は一人ではありません。仲間が、私達がついてますから・・・。」

タクマは昔、優しく抱きしめてくれた育ての母親であるセナの温もりを思い出した。

『ほら、こうすれば怖い事なんてなくなるでしょ?大丈夫、君は一人じゃないから・・・。』

途端にタクマは心の奥底にしまっていた感情が溢れ出したのか、リーシャの腕の中で子供のように泣き崩れたのだった。


 その日の夜、月明かりが差し込む箱庭で一人月を眺めるバハムート。

「なんや旦那、眠らへんのか?」

「ウィンロスか・・・。」

歩いてきたウィンロスはバハムートの隣に腰を降ろした。

「皆は眠ったのか?」

「おうさ。リーシャの嬢ちゃんとリヴはタクマにベッタリで寝とるわ。ついでにメルティナの嬢ちゃんとチビも。」

「そうか。」

二頭はしばらく箱庭内から月を眺めているとウィンロスが口を割った。

「・・・しっかし、あの大人びていたタクマもあんな子供みたいに泣きじゃくるんやなぁ。」

そう言いながら翼の中から酒を一本取り出す。

「我も長い事タクマと共に過ごしてきたが、あのように感情を表にしたのは初めてだ。」

「マジでか?一番付き合いの長い旦那でもか?」

「うむ。それとウィンロス。我にも一本くれ。」

「はいよ。」

もう一本翼から取り出す。

一体何本仕込んでいるのやら。

バハムートは酒を飲みながら話を続ける。

「・・・よくよく考えたら、我らはタクマの事をそこまで知っている訳ではなかったな。」

「それを言うなら旦那だって隠し事あるやろ?悪魔蹴散らした時言えねぇみたいなこと言うとったくせに。」

「ぐ、確かに・・・。」

痛いところを突かれぐうの音も出せなかった。

「オレはそんな隠し事持ってへんけど、何かを抱えた奴の心の重さってのはちょっと分かる気もするで・・・。」

「うむ。だが生き物は何かを抱えなければ生きていけない時もある。我や、タクマのようにな。」

そう言い酒を一口流し込む。

「タクマについていろいろ気になるところはあるけど・・・アイツが前に旦那に言うっとったみたいに、そういう話は本人が話せるときに聞くのが一番やな。」

「そうだな。気長に待つのみよ。」

そうしてしばらく月を眺めながら飲み会を楽しんだ二頭だった。

「そうだ。あの事については翌日問うてみても良いだろう。」

「何や、あの事って?」

「タクマが我を召喚した時の話だ。」


 翌日、完全復活したタクマは心配をかけたリーシャ達と工房の人達に挨拶をし、トレンストの冒険者ギルドに赴き依頼をこなしていった。

そして現在、街の外へ出て魔獣の討伐の依頼を終えた所だ。

「ふ~っ、大分調子が戻ってきたな。」

手をグッパグッパと動かして言った。

「タクマさん!あそこの草原でお昼にしましょう!」

丘のある広い草原で一同は昼食を楽しむ。

すると頃合いを見てバハムートがタクマの例の質問を振りかけた。

「タクマ、お主に少々聞きたいことがあるのだが・・・。」

「ん?」

バハムートは自身の召喚時の疑問点を問いただしてきた。

その質問にタクマとウィンロス以外のメンバーは驚く。

「確かに、それはおかしいわ・・・!」

「はい、タクマさんの魔力は皆無に等しいのに・・・本当なんですか?バハムートさん。」

「うむ、実体験をした我が言うのだ。間違いない。」

確かに今まで気にも留めなかった。

あの時、バハムートは強い魔力に引かれて召喚に応じた。

そのはずが実際のタクマには魔力が皆無だった。

では召喚時に発したその魔力は一体どこへ行ったのか?

またどこからその魔力が現れたのか?

疑問が疑問を呼んだ。

「昨晩旦那からちょこっと聞いただけやけど・・・実際何でやろな?」

全員がタクマを見る。

「いや、俺に求められても・・・俺自身もよくわかってないんだから・・・。」

するとタクマはあることを思い出した。

「ん?待てよ・・・?もしかしたら・・・⁉」

「何だ?何か思い当たる節があるのか?」

「あぁ、実は・・・。」

タクマは暴走している間の出来事を皆に話した。

暗い影に飲み込まれたこと。

そこから助け出してくれた女性の事を。

「何者なんや、女?」

「でもその女は主様の中にいるってことなの?」

「そのへんは分かんねぇ。だが魔力のない俺がバハムートを召喚できたのはその女性が関係しているんじゃないかと俺は思ってる。バハムートはどう思う?」

バハムートにも意見を聞こうとしたがその女性の外見を聞いたバハムートは難しい表情をして考え込んでいた。

「バハムート?」

「ん?あぁ、すまん。何だ?」

「どうした、お前?」

「・・・いや、何でもない。」

再び少しだんまりするバハムート。

(まさかとは思ったが・・・いや、ありえんか・・・。)


 結局この話は保留にしてタクマ達はトレンストのギルドに戻ってきた。

すると入口手前で誰かに声を掛けられた。

「あれ?アンタ達、もしかして・・・!」

声を掛けてきたのは深紅色の鎧を着た少年と僧侶の少女、侍の青年の三人の冒険者パーティだった。

「あ!お前らオレの上でキラキラ吐き出した奴等!」

ウィンロスがギョッと驚く。

以前リーシャの従魔結石を得るためにダンジョンに潜った時、ボス部屋で苦戦していたところを助けたAランク冒険者のパーティだった。

バハムートとメルティナは面識がないので「誰?」と首を傾げていた。

「あの時のパーティか!こんなところで会うなんて。」

「やっぱり!」

三人はタクマの前に立つとそろって頭を下げた。

「あの時助けてくれて本当にありがとう!今も冒険者を続けられてるのはアンタ達のおかげだ!」

「お、おう・・・。」

立ち話も何なのでバハムート達も入れる酒場に寄ることにした。

「改めて礼を言わせてくれ。俺はレオ、『深紅の炎』のリーダーだ。そしてこっちが僧侶のルシアでもう一人がセイゾウだ。」

二人はお辞儀をする。

「タクマだ。後ろのデカいのが従魔のバハムートとウィンロス。そしてこいつはリヴだ。」

「私はリーシャと申します。この子はラルです。」

「メ、メルティナ・・・です。」

メルティナだけは人見知りなのか、リーシャの後ろに隠れていた。

お互いに自己紹介も済、会話を始める。

「レオさんの腕、義手にしたんですね。」

「あぁ、ようやくこいつの扱いにも慣れてきたところなんだ。」

レオはダンジョンボスに食われた左腕部分の義手を見せた。

「あの、本当にありがとうございました!皆さんのおかげで私達は冒険者を続けられてます!」

ルシアが再びお礼を言う。

「ふふん!主様が階層を壊していかなかったら貴方達今頃ここにいなかったものね!」

「ドヤるな。」

リヴの額にデコピンをお見舞い。

「いや、そちらの少女の言う通りでござる。この御恩、一生忘れぬ所存!」

セイゾウも頭を再び下げる。

(リアル侍・・・?)

リーシャはそう思った。

「それにしても、ドラゴンを二頭も使役していたなんて・・・。もしかしてアンタ、Sランクなのか?」

レオがバハムート達を見て興味本位でタクマに聞く。

「いや、お前らより一つ下、Bランクだ。」

「Bランク⁉え、もしかして・・・俺達の後輩・・・?」

「経歴的にはそうかもな。」

明らかに自分たちより強そうなタクマにレオは複雑な気持ちになった。

「あ、ついでに言うとこいつ、リヴもドラゴンだから。」

「え?」

リヴがあの海の帝王・リヴァイアサンであることを話すと『深紅の炎』の三人は顔面蒼白になったのだった。


 さて、話を戻しレオ達がトレンストにやってきた理由を聞いてみた。

「俺達はある教団の調査を依頼されてこの街に来たんだよ。」

教団。

その言葉を聞いたタクマ達は険しい表情になる。

「・・・教団?」

「あぁ、ここ最近この辺りで怪しいローブを着た集団が多数目撃されているんだ。一部のギルドでは先日別大陸のアンクセラム王国の壊滅に加担していた信教団とそっくりな連中だと言っていたんだ。」

間違いない。

トレンストに来る途中、魔石から記憶を覗き見た『新生創造神の左翼』だ。

とうとう奴らに動きが見え始めてきた。

「レオ、その話を詳しく聞かせてくれ。」

「お?おう。」

レオが受けた依頼の話によるとその教団は一つの方向へ移動していたらしい。

調査を進めた結果その教団は次々と船に乗り、隣の大陸へ渡って行ったという。

「隣の大陸って・・・。」

「俺達が来た大陸だ。」

まだアンクセラム王国の滅亡を企てているのか?

いや、それはありえないだろう。

それを指示していた女神レーネからもう国の滅亡は諦めると直接聞いていたからだ。

嘘をついていたわけでもなかったため、おそらく別の目的が奴らにあるのだろう。

「・・・レオ、その教団について幾つか分かっていることがある。俺からも話そう。」

タクマはレオ達にその教団の関わりを全て話したのだった。


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